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深空の泡  作者: 星名
深空の泡
35/59

35

優しくも強いまなざしが、こちらを見つめている。

 ああ、龍だ。

 青嵐は悟った。そう悟った瞬間に、その姿は歪む。目や口がひしゃげて、恐ろしい化け物のような姿と化す。そして牙を剥いて襲いかかってきた。青嵐はあっと息をのむ。しかし化け物は青嵐ではなく、立ちはだかるように現れた人影を飲み込む。そうして煙のように掻き消えた。青嵐はそれに手を伸ばす。


 ――未だ君子来たらず


どこかから声が聞こえる。

 掠れたような声だ。

 悲しみを隠すような。

心が、罪悪感に苛まれるような。


 ――ただ落花を数える


ぼたり、と花が足元に落ちる。一つ、二つ……。それを皮切りに、どこからともなくぼたぼたと、足元を埋め尽くす。際限なく増える落花は、もう数えようがない。足元が、膝が、埋め尽くされた花に沈んでいく。両腕はもがくが、むなしくもうずもれて、息がつまりそうになる。

 龍の歌だろうか。いや。

 もっと、近く―― 


 ぺち、べち、ばちん


 痛みに驚いて、青嵐は起きる。息が荒い。随分とうなされていたようだ。それを隠すように、天井を、目の前の顔を確認して、青嵐は睨んだ。

「またお前か」

「起きないからだよ!」

 黎は顔を背けた。青嵐は寝ぼけ眼をこする。黎は身支度を済ませ、いつでも出立できる格好をしている。

「ねえ、今はやめたら?」

 ためらいつつも、黎は忠告する。

「何を」

「昼間も夜中もきみ、抜け出してくでしょ。楓さんが、見かけたって言ってたよ。何してるのか知らないけど、今はしっかり体を休めて水球を作れるようにならないと」

 珍しく強く、黎は言う。思わず、今度は青嵐が顔を背けた。

のんびりした見た目とは裏腹に、黎は周りをよく見ていた。良いことも、悪いことも。そしてそれを見守る、分別もあった。知りながら、わけを聞かない。それに助けられてきた。けれどさすがに、限界だったのだろう。ごまかしはきくまい。青嵐は口をつぐんだ。

黎は、これ以上は話にならないと思ったのか、肩を落とした。

「今日は下界だって。ちゃんと顔洗って、支度してきなよ」

 青嵐は生返事をする。頭が重い。黎の言っていることはもっともで、胸が痛い。

 自分は、ここに何をしに来たのだろう。

 出ていく黎が、眩しく見える。

 御龍氏になりたい理由も理想的で、龍を信じ、務めを果たそうとしている。

 自分は。


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