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深空の泡  作者: 星名
深空の泡
12/59

12


翌日、黎と青嵐は掃除道具を持って地竜と共に祠に向かった。地竜は昨日の元気はどこへやら、ぐったりと黎の肩でだれている。

「しゃきっとしろよ、神様」

 青嵐が煽ると、地竜はねめつけるように青嵐を見て言った。

「今日から、俺の食事はお前が担当しろよ。いいか……絶対にだ」

 黎は残念そうに肩を落とした。

「気に入ってもらえると思ったんだけどな、炒飯」

「あんな黒々として毒々しいものは、炒飯とは言わねえよ!」

 一人と一匹は、昨晩の惨劇を思い出してぞっとする。二人の前に歓迎パーティーだねと言われて出てきたのは、炭を煮詰めたようにどろどろとし、異臭を放った何かだった。上に小花を散らしてあるのがまた何とも言えない。

「いいか、お前は料理修業は後だ。まずは御龍氏として大成する。それからだ! お前にはお前の長所がある。それを伸ばせ」

 地竜は力を振り絞って力説する。黎はわかったよと渋々頷いた。

 祠に着くと、地竜は近くの木に飛び移った。二人の目線よりも若干高い。昨日よりも元気はないが、やはり高いところがいいらしい。

「ところで、今日は酒持って来たんだろうな」

「持ってきたよ」

 黎が水を払った杯に酒を注ぐと、

「やっとありつけるぜ、俺の命の源!」

と叫ぶが早いか跳躍し、頭から突っ込んだ。そしてそのまま、うまそうにがぶがぶ飲み始める。その姿はただの酒好きのミミズだ。

「人に掃除させといて……」

 青嵐は地竜を睨む。しかし地竜は知らん顔で、おかわりと叫んだ。黎は言われたとおりに二杯目を注ぐ。

「お前、蔵の全部持ってきたのか?」

 青嵐が呆れ顔で言うと、黎は頬をかいた。

「まったく……とっとと終わらせるぞ」

 酔いどれミミズにかまっていられない、と青嵐は作業に移る。小物をどかして洗い、中に入り込んだ葉を掻き出すと、中から一つ、石が出てきた。中央のくりぬかれた、丸くてつやつやした石だ。落ち葉が張り付いているところを払うと、その下に何か紙が貼りついている。もうぼろぼろでみすぼらしい。青嵐は紙を拭うように拭いた。

「おい地竜、これ何だ?」

 屋根を拭いていた黎も寄ってくる。

「あ?」

 地竜はすっかり出来上がっていた。目はうつろで頭が揺れている。その体が、小刻みに震え出した。

「おい、大丈夫か?」

 青嵐が声をかける。その間にも、地竜の体は不自然にうごめき、むくむくと大きくなり始めた。

「ああー力が湧いてくるぜえ。おい酒もっとよこせ!」

 本人はいたってのん気に言う。先ほどは大きくて持てなかった瓶に、器用にしっぽを巻き付けて飲み始めた。

「おい、お前それ酒のせいか? でかくなってるぞ!」

「バカじゃねえの? 酒飲んだくらいででかくならねえよー」

「なってるから言ってんだよ!」

 口論を続ける間にも地竜は大きくなり、二人の倍ほどにもなってきた。

「ねえ、もしかしてこれのせい? 地竜! これ何?」

 黎が青嵐の持っていた丸い石を掲げる。

「んー、それはなー俺の元の力を半分封印してもらったやつだー。符が貼ってあるだろー。慎重に扱えよお」

 地竜の声は徐々に野太く、聞き取りにくくなっていく。体は木の枝にあたってめきめきと折り始めた。

「そういう重要なことは早く言えよ!」

 青嵐の声に、いつものような憎まれ口の返事はない。代わりに、虚ろだった目が、ぎらりと鋭く光ってこちらを向いた。その冷たい目つきに、青嵐は嫌なものを感じる。とっさに黎の腕をつかんで横に飛ぶ。ボゴ、と大きな音が、二人の元いた場所から鈍く響いた。振り返ると、地竜の頭突きを受けて地面がえぐれている。黎が小さく悲鳴を上げた。

「くそっ、酔い覚ませば戻るか?」

「どうするの?」

「離れてろよ」

 青嵐は掃除用に汲んでいた水の桶を掴むと、木に登った。頭に向かって勢いよくかける。しかし、地竜は頭を払ったのみだった。

「効いてない……地竜! 聞こえる? 地竜!」

 黎が呼びかけるが、理性的な反応はない。地竜はのたうち回るように木を、草を折りながら暴れている。

「どうしたら……」

黎を見ると、横の弦月魚が目に入る。弦月魚は、ぽつぽつとした光の玉を纏っていた。楓の弦月魚がそうしていたように。隣を見ると、自分の弦月魚も同じように光っていた。

『地竜様、助けてあげて』

 微かな声が聞こえてくる。

「誰だ」

青嵐は辺りを見回す。答えはなく、姿もない。しかし、声はなおも語りかけてくる。

『この山の命は、地竜様が自分の力を使って育ててきたの』

『だからあんなにちいちゃくなっちゃったのよ』

『地竜様、自分で力を操れるように御龍氏様と修行してたの』

声は口々に語りかける。

『助けてあげて』

『助けてあげて』

 地竜はなおも周囲に体を打ち付けている。

「このままじゃ、怪我しちゃう」

 黎は唇をかむ。

「ねえ」

 考えに考えて、声を上げた。

「地竜とは、同調できないのかな」

「地竜と?」

「弦月魚とできるなら、地竜ともできないかな。で、起こすの」

青嵐は眉根を寄せる。が、他にいい方法も思いつかない。

「やってみるか。修業は、どうやってたんだ?」

 どこにいるともわからない声に、青嵐は問う。

『御龍氏様が、弦月魚でぱーっと』

『ぱーっとやってたよ』

「ぱーっとって……。でも、弦月魚を通して働きかけることはできるんだな」

 黎は強く頷く。青嵐は意を決して縄を手にすると、素早く幾重にも地竜に巻き付けた。そしてその先を、どっしりとした木に巻きつけ、きつく結んだ。バランスを欠いて、地竜の体が木に倒れかかる。木は大きく揺れて葉を落とした。

「やるしかないね」

『手伝うわ』

『そうするわ』

 黎は水球を引き寄せる。楓がしたように、額をつけ、息を大きく吐いた。

(地竜、聞こえる?)


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