第3話 俺はニート、だけど特訓
「おい、起きろ」
浅い眠りの中、男の声が俺の頭を揺する。
「なんだお~」
「なんだじゃない。着いたぞ」
男の声に反応し眼を開き、車の前に建っている建物が目に入る。
「ここって……」
目の前にした建物の外観を見て言葉が詰まる。
その建物は全体的に白塗りの鉄筋コンクリート建築の五階建てで築十五年は経っていると見える。
そして建物の前の広い砂利の敷き詰められた敷地にゴールポストが対をなす様に二つ置かれ、その他にもブランコ、鉄棒などの遊具があった。
それは義務教育を受けた者なら必ず通る場所……
「中学校だお!?」
派手でない塗装の建築物を前にして瞬時に答えが出る。
「違う、小学校だ。よく見ろ。遊具があるだろ」
タカシの答えは少しハズレて答えは小学校だった。
「え~と。何で小学校なんだお? 教員をやるのかお?」
「バカか。お前はこの小学校に入学するんだよ」
「ファ!? ど、どういう事? 教えてクレメンス」
小学校に連れてこられた意味を理解できず困惑し、尋ねるがミスターKは口を開かず先に小学校の校門を通り校庭へと歩いてく。
「待ってお~」
先を行くミスターKを生まれたての雛鳥の様にビール腹を揺らしながら付いていきながら校門を通り脇道に在る花壇、ビオトープを目で捕らえ、本当にここが小学校であると思わされた。
「昇降口だお……」
校庭に入り小学校の一階部分の暗い入口に入ると少し湿った空気が漂ってきた。
どうも忠実に小学校を再現しているようで校舎に入るために下駄箱で靴を脱いで上履きに履き替える。
「懐かしいんだお!」
古き昔の記憶を思い出し毎日通った小学校を思い出して懐かしむ。
鉄筋コンクリートの少しヒヤッとした冷たさが壁に染みついているがそれもまた懐かしかった。
「こい、マダオ」
「マダオ? 誰だお? 俺の名前はタカシだお」
「まるでダメな奴、略してマダオだ。お前に名前は無い」
お前からマダオと呼び、廊下で懐かしむタカシの先を行くミスターKは上の階へと階段を上っていく。
「まんま小学校の階段なんだお」
校舎に続いて昇降口、階段と純粋だったあの頃の自分が蘇る。
朝早く起きて朝食を摂り学校に行って勉強、帰りの会が終わったらすぐさま家にサッカーボールを取りに帰って友達と遊んだ記憶。
世の大人が誰でも持っている記憶だがその記憶は自分の中で二割増しで輝いて保存されていた。
「ミスターK、特訓って何をするんだお?」
階段を上る途中自分の体重で足に過度な負荷がかかり遅いペースで階段を上るタカシはこの小学校からは連想できない”特訓”の内容を尋ねた。
「特訓……それはな」
ミスターKは遅れたタカシに振り向きながら”特訓”について応える。
「マダオ、お前にはこれからここで一ヶ月の更生プログラムを受けてもらう。これが特訓だ」
「こ、更生プログラム!? もしかしてハロワに行くのかお!?」
しかも一ヶ月。それまで2ちゃんは? アニメは? どうするんだお!?
更生プログラムと聞き自分の心配をするタカシ。
小学校で一カ月住み込みで何をするんだお?
先まで懐かしんでいた鉄筋コンクリートの小学校は脱出不可能の更生刑務所と変わった。
「はは、はははっは」
これからの一カ月を想像して力なく笑うタカシ。
カーチャン……タカシはカーチャンの飯が食べたいんだお……
廊下の窓の外で光る星は明るく輝いているが視界がぼやけてハッキリと認識できなかった。
「これは……涙? 俺、泣いているのかお?」
頬に伝う感覚で手を頬にあてると手が濡れていた。
「マダオ。早く来い」
刑務官の呼びかけが暗い廊下の先から飛んでくる。
星の光と月の光で照らされた暗い廊下はタカシの苦難の運命を暗示しているように見えた。