表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

第1話 俺はニート、だけどヒーロー

ふと思いつきで書きました。

もしニートの立岡孝さんがいましたら申し訳ございませんでした。


この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

「もうお外に出たくないんだお!!」

中年太りの体型の男が暗い部屋の中で高らかに宣言する。


「絶対に働かないんだおおおおおお!!!」

確定事項と働かない宣言もする。


この男、よわい四十三にして無職、童貞、ビール腹の中年だ。

彼と同じ年代の者は既に就職して働き生計を立て結婚して子供がいる。

されど彼、立岡孝たておかたかしは働かず親のすねを齧って生活している。

そんな彼に彼のパトロンの母親がドアの外から声を掛けてくる。


「J( 'ー`)し タカシ……辛い事があって働かないのは分かるけどお外には出た方がいいよ……日に当たらないと身体を悪くしちゃうからね」

「カーチャン……」

ドアの外で心配そうに息子の心配をする母親。タカシにとって肉親の母だけがこの家の唯一の味方で唯一の家族なのだ。


「J( 'ー`)し タカシはお父さんに似て感情豊かだったから色々と世の中では生きづらいのかもしれない……だからお父さんが亡くなった時も……ごめんね。ついタカシと話しているとあの人の事を思い出しちゃって」

「……カーチャン」

ドアの外から鼻をすする音が聞こえる。

母は度々父の事を思い出しては涙を流すのだがそれは俺も同じこと。

父は家の大黒柱で厳格でそれでいて愚直と言える人だった。

曲がったことは嫌い。間違ってると思ったら正す。父は正義の味方の警察の職に就いていた。

そんな人だったから警察は父にとっての天職だったのかもしれない。

だけど警察に危険は付きものだ。

ある日のあの事件で父はこの世から去った……いつも思う。父が警察官でなければ、父があの日非番だったら。と変えられない過去に悲観するが過去は変えられない。


「話が長くなっちゃったね……ご飯此処に置いておくから冷めないうちに食べてね」

しんみりした流れを切り作ったばかりの夕飯を開かないドアの横に置く。

実の息子と顔を見て話したのはいつが最後だったか……確か二週間前の夜中にトイレに立った時に偶然冷蔵庫を漁っていた息子を泥棒と勘違いして殴ってしまい口論になったのが新しい記憶だ。


「J( 'ー`)し あの時のタカシの怒った顔はお父さんにそっくりだったわ……」

息子のタカシに厳格だった父の面影を感じ呟く。


「……トーチャンにそっくり? 止めてくれよ。俺はトーチャンみたいに厳格でもないしカッコよくも無い……」

ドアの前で呟いた母の呟きに呟き返す様に小さな声で自分を否定した。


俺が引きこもりになったのは確かにトーチャンの死がきっかけだ。だけど引きこもりになった理由ではない。

俺が引きこもりになったのは自分と他人の違い、ズレに悩まされていて心の中で逃げたいという感情がわだかまっていてそれがトーチャンの死で爆発したからだ。

トーチャンの死を理由にして引きこもっている俺は真っ直ぐなトーチャンとは違い卑怯で弱虫の曲がった人間だ。

母が俺とトーチャンを重ねて見ている目が怖くていつも情けなくなる。

俺はトーチャンとは違うんだ……


「J( 'ー`)し タカシ……アンタは立派だよ」

そんな葛藤と闘うタカシを母が知らない訳が無い。

母は暗い部屋の中で独り戦う息子に励ます様に声援を送る。


「J( 'ー`)し アンタは確かに引きこもりでごく潰しで無職だけどちゃんと私と父さんの息子なのよ。貴方には他の人にはない素晴らしい力があるの。アンタは大器晩成型なのよ」

「……」

母の言葉から背を向けて聞いていたタカシは眼に涙をためて暗い部屋の中で佇む。


「J( 'ー`)し ごめんね。話が間延びして」

「いや……いいんだ」

母の自分を肯定する言葉に涙して床に涙が零れる。

暗い部屋の中で流れ落ちた一滴の涙がパソコンの画面から出る光で反射して落ちていくのがタカシには見えていた。




「カーチャン、ちょっと俺そこのコンビニに行ってくるお」

「J( 'ー`)し タ、タカシ! どうしたの!?」

突然部屋から出た引きこもりの息子を見て口に手を当てて驚く母。

息子の姿をしっかりと見たのは何時ぶりだろうか、腹はだらしなく出て無精ひげを生やしとても成人した立派な男性とは程遠かったが母の眼には自分の脚でしっかりと大地を踏みしめる息子の勇猛果敢な姿が映っていた。


「行ってきます……」

「J( 'ー`)し タカシ……行っていらっしゃい」

敵地に召集された兵士を見送るかのように玄関前まで息子を見送り手を振る母の姿は恥ずかしかったがそれと同じく嬉しかった。

「プリンでも買って帰ろうかな……カーチャンの分も含めて」


照れながら徒歩五分のコンビニに足を運ぶタカシ。

その足取りは自分に自信を持ち前を歩く立派な大人だった――


息子が家を出て静かになった玄関で母は飾ってある写真に写る男に話しかけていた。

「お父さん、あの子がやっと外に出ました。今まで悩んで悩んで苦しんでもがいて迷っていたようだけど何か決心したみたい……お父さんの能力は引き継がなかったみたいだけどあの子は確かにお父さんの子です」

昔の母、父、息子の三人が写った家族写真に目を細め笑っている筋骨隆々の男を見て微笑みかける。

中央に座る子供は筋骨隆々の男と瓜二つの笑いを母に向けていた――


「意外と簡単に外に出られるんだな、楽勝すぎて草生えますよ」

独り暗い道を歩きながら呟く。

闇は俺の味方だ……闇が俺に力をくれる……

外に出て調子に乗ったタカシはシュバッっとポーズを決める。


「この眼は闇がよく見える……」

決まった。誰もいない道の真ん中で確信する。


「見える……見えるぞ……闇の中に在るコンビニが」

ポーズを解き二車線の車道を挟んで目の前にあるコンビニを目視で捉える。

信号は無く今、車は通っていない。


今の内に渡ろう、そう思い小走りで道路を渡ろうとした時小さな女の子が独りで左右確認を行わず渡ろうとしていた。


「――ッ! 危ないお!」

左から迫りくるヘッドライト。それは車が迫っている事を意味していた。


「危ないおおおおおおおおお!!」

咄嗟、知らぬ間に俺は飛び出していた。

そしてヘッドライトの逆光に目を細め強い衝撃が腹に響く。


ドゥっ!

腹に来た衝撃はプロのボクサーが助走をつけて繰り出した腰の入ったストレートに匹敵する程の衝撃でタカシをノックダウンさせる。


「おっおっおっおっ」

肺に空気を取り込もうとリズミカルな呼吸が始まる。

しかし次第に意識は薄れタカシの意識は強制シャットダウンされた。




「……――シ! タカシ! 大丈夫かい!?」

「ん……カーチャン」

意識が覚醒し目を覚ますとそこにいたのはカーチャンだった。

カーチャンは眼に涙を浮かべ喜んでいる。


「J( 'ー`)し ああ、タカシ。良かった、良かったよ……」

ベットのフチを掴み頭をベットに押し付けて声を殺す母は肩を震わせながら息子の生還を喜んだ。

「ごめん……カーチャン」

泣いて喜ぶ母に申し訳ないと目を反らしながら謝るタカシ。

しかし肩を震わせ泣いていた母はそんなタカシに衝撃の告白をする。


「J( 'ー`)し タカシ、よく聞いてね。実はアナタのお父さんはヒーローだったの……」

「……? トーチャンは警察だったからヒーローなのは当たり前でしょ?」

正直何を言うかと思えばそんな事か、てっきり”ママな、HIPHOPで食っていこうと思うんだ”と言い出すのかと思った。


しかし母の表情は至って真面目だ。

「J( 'ー`)し 本当なのよあんたのお父さんは超能力を持っていてその力で市民の平和を守っていたのよ」

と信じられないSFの様な話をしてくる。

どう聞いても夢物語だ。


いや、これは夢なんだ。なるほど把握。


母の頓珍漢とんちんかんな話に付いていけず眠りに入ろうとするが次の言葉に耳を傾ける。


「J( 'ー`)し だけどあの日、タカシには辛い記憶だけど聞いて。あの日お父さんはいつものようにパトロールに出ていたの。いつものパトロール、だけどあの日は違った。あの日はあの日だったのよ」

あの日はあの日だったと言うが分からない。女の子の日ですかな?

詳細求む。


「J( 'ー`)し そう、あの日は只のパトロールで終わらなかった……お父さんは襲撃を受けたのよ。魔人のね」

「魔人?」

とうとう話が飛躍した。トーチャンの死の原因は魔人の襲来によるもの? 馬鹿げてる、いい加減にしてくれ。


「J( 'ー`)し そしてお父さんはあの日を境に消息を絶ったわ……私とあんたを残して。そして今日確信したわ。あんたはお父さんの能力を受け継いでいる」

「能力……?」

母の顔を見やる。やはり母の顔は嘘をついているとは思えなかった。


「一応聞いとくけど何の能力?」

パイロキネシス? サイコメトリー? 様々な能力を予想するが母の口からでた能力はどれにも当てはまらなかった。


「J( 'ー`)し タカシ、あんたの能力はお父さんと同じマッスルマッスラーよ」

「マッスルマッスラー?」

マッスルという単語を聞いて布団に隠れているビール腹を確認するが全然マッスルじゃない。


夜中の静かな病院はサイレンの音がうるさく響き渡りこれから起こる事に警鐘を鳴らしているかのようだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ