「人間じゃなくてもいい?」
「人間じゃなくてもいい?」
「は?」
「『猫の手も借りたい』ってことは人間じゃなくてもいいんでしょう?」
「……あのなぁ、それくらい忙しいっていう例えだ。」
「人間じゃなきゃこの仕事は出来ない。」
1匹の小さなネズミと1人の人間が話している。
「そうなの?じゃあなんで紛らわしいその例えを募集のポスターに書いたの?」
「……」
人間はネズミの相手をするのが面倒になったのか
体の向きを変え仕事に戻ってしまった。
「人間って不思議だなぁ。」
ネズミはそう言うと店を出て行った。
名前がない真っ白なハツカネズミ。
誰かに名前をつけてもらうのが夢。
なにか仕事をすることになれば呼ぶ名前が必要になるだろうと考え
仕事を探しているが、どこも小さなネズミに仕事を与えようなんて所はない。
七夕の短冊に願いを書いたこともある。
サンタクロースに手紙を書いたこともある。
でも、まだ名前は無い。
「名前が欲しいなぁ……。」
今日はあきらめて巣穴へと帰ることにした。
家族はいないからひとりぼっち。
今名前があったとしても呼んでくれる者は家にはいない。
だから仕事を探すのだ。
上司でいい。どんなにきつい仕事でもいい。
名前を呼ばれる事に憧れている。
名前があるって幸せだな。うらやましいな。
明日こそ名前を手に入れるんだ。
そう思いながら毎晩眠りにつくのであった。