花の君の回想
春の訪れを感じる穏やかな日、僕は桜の木の前に立っていた。
その存在は重ねた年月を物語っている。首が辛くなるほど高く、倒れることを知らないような体だった。さらにそんなことを忘れさせるかのごとく咲く花はただ綺麗だと思わせる。僕の中に残るこの感動はきっと素晴らしいものだったと確信できる。
だけど、僕は知っている。この感動がいつの日かどこかに消え去るように、この花もいつか散っていくことを。
どんなに美しい花もいつかは散る。そんな当たり前を僕たちは普段忘れている。いや気づかないようにしているのだろう。
だからこそ、失ってから気づかされる。
花はとても儚く、そして脆い、だからこそ美しいのだと。
風は静かに僕の頬をなでる。まるで慰めるように。小鳥は朗らかに囀る。まるであやすかのように。
目を閉じる。
脳裏に映る花の笑顔を僕はまだ覚えている。幸せを覚えている。
その花はもう散ってしまった。
散り様を美しいよは思わない。あるのはどこまでも深い悲しみだけ。
目を開ける。ピンクに輝く花は僕の目を奪う。いつの日か君がそうしたように。
突然風が吹く。花びらは空を舞う。やはり綺麗ではないなと僕は思う。
手を差し出すと、その一枚は静かにのる。そこが居場所であるかのように。
僕はそれを大切に抱えると、木に背を向けた。
もし次があるなら、今度こそは離さない。
僕はそう思った。




