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異世界ペットライフ ~癒しと恐怖の獣~  作者: 狐の嫁入り
第1章 目覚めたら小動物
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第9話 W召喚

 山頂から吹き下ろす風に誘われトトは目を覚ました。


 盛夏と言っても朝夕は涼しく、渓谷のただ中という立地条件も相まってとても過ごし易い。

 ザァザァと流れる清流は耳に心地好い刺激与え、二度寝すれば嘸かし気持ち良いだろう。


 トトは眠気覚ましに顔を洗うため川原に向かった。

 前世の記憶にある朝風呂が恋しいが、彼の力をもってしても大量のお湯を準備することは難しい。トトは頭を振ると短い前足を川につけバシャバシャと顔を洗った。


 稜線から顔を出した太陽が徐々に光の領域を広げ、渓谷の底にも光を届ける。


 今日も日常という名の大切な一日が始まった。





 俺は欠伸を噛み殺しながら吊るしてある虹鱒を確認して廻る。

 案の定大量に余った虹鱒を使って燻製作りに挑戦しているところだ。


 母さんやリコがいくら食いしん坊だとしても食べられる量には当然限界がある。

 虹鱒は一匹が約700~1000グラムくらいある大物ばかりだった。

 俺たちの中で一番体が大きい母さんでも体重は精々5キロといったところ。その大きさが想像できるだろう。

 体重50キロの人間に例えれば、1匹食べると7~10キロに相当する魚を食べたことになる。

 まぁあり得ないよね。


 それでも母さんは2匹、リコに至っては3匹半も食べた。どこに入っているのか疑問に思うほどの食べっぷりである。俺?俺はリコが残した半分だけで十分ですよ。


 未だに起きる気配のない2匹の姿を思い出す。リコなど完全に体型が変わっていた。


 あんなにお腹をパンパンにして・・・兄さんはお腹を壊さないか心配だよ。


 前世を含めても燻製など作ったことがない俺はうろ覚えの知識を使って虹鱒の加工に励んでいた。

 流石に食べた数の倍以上を捨てるのは忍びない。


「(トト~!ちょっと来てちょうだい。リコが大変なの!)」


 焦りを含んだ母さんの声に俺は燻製作りの手を止めた。


 まさかリコの身に何かあったのか?!


 火を使うため川原で作業していた俺は慌てて借宿(巨石が重なって出来た隙間)に急ぐ。


「(母さん!リコがどうし、た、の・・・?)」


 借宿に着いた俺が見たものはお尻を押さえて痛そうにするリコと巨大なう○こだった。


 マーソウナリマスヨネ・・・


 俺は気を取り直してサッサとう○こを片付ける。


 おそらく切れ痔だろうお尻については母さんに手当てをお願いした。いくら兄妹とは言え俺がやるのはかなり気まずいしね。


 リコにはこれに懲りて是非“腹八分”と言う言葉を覚えて貰いたいものだ。


 あんなことがあったのでてっきり朝食は要らないだろうと思ったがそんなことはなく、リコはきっちり燻製モドキを食べた。流石に量は控えめだったが。





 さて燻製作りを再開しよう。今朝食べたのはちょっと薫りが付いただけで全く満足のいく出来ではなかった。水分も多めで燻製というより暫く放置された刺身みたいな食感である。


 俺は気合いを入れた。やるからには薫り付けに使うチップにもこだわりたい。俺は川原で集めた数種類の枝を細かく折ると、熱した石の上に置いて薫りを比べてみた。


 う~ん、どれもただ焦げ臭いだけだな・・・風味としては全然足りてない。こっちは時間が掛かりそうだし後回しにするか。


 母さんたちは木の実を集めに山へ向かった。この渓谷は切り立った崖と巨石が並ぶ風光明媚なところだけど、簡単に登れるようななだらかな部分もある。

 俺は山に行く母さんたちに良い匂いがする木があったら皮か枝を持って帰ってくれるように頼んでいた。そちらの成果に期待しよう。


 次に着手したのは水分調整だ。燻す時間も重要だけど、素材の大きさや厚みも重要な要素だと思う。


 俺は素材の大きさや厚みを変えたサンプルを作りそれぞれ試食してみる。大半は今一つだったけど、そのうちのひとつは成功だった。


 美味しい!


 塩焼きと違って旨味が凝縮され噛めば噛むほど味が染み出してくる。絶妙な水加減で食感も申し分ない。


 俺は成功例と同じ大きさ、厚みの切り身を量産しながらリコの笑顔を思い浮かべた。きっと喜んでくれるだろう。


 俺が切り身を吊るしていると突然母さんの悲痛な叫び響いてきた。


「(いや~!消えて!!なんで消えないの!!)」


 俺は切り身を放り出し全力で声が聞こえた方に走る。今の声には切迫した心情が在りありと篭っていた。巨石を飛び越え森に入り込んだ俺が目にしたのは、太陽光とは異なる光。


 リコが真っ赤な光に囲まれている!


 その赤い光はねばつくような禍々しい輝きを発し、まるで壁でもあるかのように母さんの突進を阻んでいた。


 リコは顔を苦痛に歪め何か叫んでいるようだが赤い光に遮られこちらには声が届かない。


 母さんは体当たりを続けながらサイパを使って必死に赤い光を消そうとしていた。俺もすぐにサイパを使う。


 召喚かも知れない。こんな可能性を考えなかったわけじゃないが、確信もなく情報が少な過ぎて先送りしていた。そのツケが回ってきたのだ。


 俺は赤い光の解析を試みる。おそらくサイパの影響を受けて術の効果が遅れているに違いない。

 もし召喚術ならこんなに時間が掛かるのは不自然だった。母さんの叫び声が聞こえてから随分経つが未だ状況は変わっていない。


 術に影響があるなら無効化も不可能じゃないはずだ!


「(リコ!リコ!!なんで?!なんでなの?)」

 母さんの目に涙が浮かぶ。


 くそっ!諦めるもんか!


 必死に解析した甲斐あって最初は赤い光にしか感じられていなかったものが、鎖のようにリコに纏わり付いているのがわかった。

 鎖の回りにはサイパとは異なる模様、おそらく文字が規則的に並び、鎖を制御しているようだ。


 これを壊せば・・・


 そこに新たな光が生じる。

 今度の光は真っ白でトトの足下に複雑な模様が浮かび上がった。


「(なんだ、と?!)」


 真っ白な光は赤い光と違ってあっという間にトトを転移させた。ミコが衝撃的な光景に息を飲む。

 驚愕でサイパの制御が弛んだ瞬間リコもまた赤い光の中に消えた。


「(ああああああああああ・・・・・・)」


 2匹の子を同時に失ったミコの慟哭が、韻々と渓谷に響いていった。

こんな展開になりました。このままじゃミコに刺されそうです!


次回から暫く召喚主の視点に変わる予定です。


漸くのヒロイン登場。

出来るだけ早く投稿出来るように頑張ります。

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