第4話 母帰る
痛みから復活した俺はリコに抗議していた。
まぁ抗議といっても言葉が通じないのでリコがやってたように尻尾でパタパタ叩く程度だが。
今回ばかりはリコも悪いと思ったようで甘んじて俺の抗議を受け入れている。
両手で鼻を押さえ耳をペタッとした姿は言葉が通じなくてもごめんなさいという気持ちに溢れていた。
うっ!可愛い!!
しかし簡単に赦していいものか・・・兄として厳しく注意すべきでは?
前世では一人っ子だった俺はこういうシチュエーションに憧れをもっていた。何かこう高揚するよね?するでしょ?
俺が葛藤しているとリコが甘えるように鼻を押し付けてきた。
くぅ 涙目で上目遣いとか・・・ゆ、赦します・・・
抵抗は無駄でした!
赦したことを態度で示さないと伝わらないので、ちょっと恥ずかしいけど頬をグリグリっと擦り付ける。
こうすれば伝わるって感覚でわかるのよね。
リコも嬉しそうに頭を擦り付け返すとぴょんぴょんと跳び跳ね始めた。ご機嫌に尻尾も揺れる。
はっ!癒しの天使が降臨なされた!
稲妻の如き天恵(言いすぎ)を得た俺は一緒になって跳び跳ねながら癒しの一時を満喫するのであった。
時刻は夕暮れ時、俺の完全敗北と言う形で仲直りした俺たちは一緒に入口に向かっていた。
放置した狼がどうなったか見ておかないとね。
俺たちが崩れた土砂を登って外に顔を出すと狼が翠の獣にシバかれていた。
うん、初めて見たけどあれが母さんだろう。ちょっと甘いお乳の匂いがする。
大きさは狼の半分くらいだけど俺たちと比べると4倍はありそうだ。
母さんは既にグロッキーな狼を例の模様が重なった尻尾でバシバシ叩きまくってる。
あれの痛さは身を以て知ってる。体の芯までくるガチなやつだ。
狼は叩かれる度にピクッとするだけでほとんど反応がない状態になっていた。
そろそろやめてあげて?
俺たち無事だし戦意喪失状態の相手に母親が容赦なく折檻する姿はちょっと引いちゃうよ?
俺が止めに入ろうとすると横から翠の獣2号が飛び出していった。得意の頭突きを狼の鼻にぶちかます!
「ギャイン!・・・クゥン・・・」
あっ!とどめ刺しちゃった!!
完全に失神した狼を尻目に母娘が感動の再開を果たしていた。母さんはよくやったとばかりにリコを撫で回している。
う~ん、野性動物の世界に慈悲とか容赦とか言うのはないのかも知れんね。
激しいボディランゲージを繰り返す母娘に近付きながら自身の常識を見直す。
既に俺も野性動物の一員である以上、余計な常識が命を失う原因になるかも知れない。カーバンクルは決して強い生き物じゃないようだしね。
俺が母さんのもとに着くとリコが母さんのお腹に鼻を押し付けてお乳を催促していた。
母さんが仕方ないといった感じでその場に横たわるとリコは早速お乳を吸いだした。
母さんがこちらに視線を向ける。お前も早くおいでと言っているのだろう。
でも待って? いくら赤ちゃんになってるといってもばっちり記憶がある俺にとってはハードルが高過ぎる!
視線はおっぱいに釘付けでも中々踏み出せない俺であった。
母は強し。
ちなみにカーバンクルはこの森の中で上位に位置する獣です。
主人公たちが襲われたのはまだ赤ちゃんだからで、狼たちがさっさと立ち去ったのは本来の力関係に依るところが大きいです。