第2話 狼の襲撃
何かの物音で昼寝から覚めた俺は隣で寝ているカーバンクルを見てやはり現実だったかと改めて思った。
まぁ8割方現実だと思ってたけどね。
それにしても固有名詞がないと不便だな。妹(遊んでる最中に女の子と判明)はリコと命名しよう。俺はトトだ。思い付きなので特に意味はない。
さて名前(仮)も決まった事だし安眠を妨害した原因を調べるか。
俺の安眠を妨害したであろう音が巣穴の入口付近で今も続いている。
親が帰って来たのかな?俺的に初顔合わせだからちょっと緊張するぞ。
こそこそと入口が見えるところまで移動した俺は衝撃的な光景を目にした。
入口がデカイ顔で塞がってる!
慌てて隠れるがあまり意味がない。絶対匂いでばれてるよ・・・
衝撃映像から立ち直った俺は再度入口に目を向けた。
何度見ても入口全部が口に見える程デカイぞ!
サイズ感がヒドイがあれは犬か狼だろう。何しろ顔だけでこっちの体くらいの大きさだ。
今まで比較対象がなくてわからなかったが、カーバンクルがリスかウサギくらいの大きさだったとすれば辻褄は合う。
転生早々に絶体絶命のピンチだ!
とりあえず寝ている場合じゃない。俺はリコを起こしに寝床へ向かった。
俯せで寝ているリコの背中をツンツンと高速でつつくがリコは一向に目を覚まさない。俺の妹は随分と胆が太いな!
俺がつつく度にムズがる姿は大変可愛らしいが今はそれどころじゃない。
仕方ない。これはやりたくなかったが・・・誰にともなくにやけた口許を隠すと、俺はリコを仰向けに転がしてお腹をくすぐった。
フフフ これには耐えられまい!
俺は柔らかいお腹や足の付け根をくすぐり捲った!
この状況で悪戯とか俺も結構図太いが、ついそうさせる我が妹の可愛いさが悪いのである!
体をヒクつかせて暫く無駄な抵抗をしていたリコだったがついに耐えきれず目を開けた。
勝ったな!
大人げない満足感を得ながら目覚めたリコに入口の状況を伝えようとして俺は固まってしまった。
言葉が通じないのにどうすりゃいいの?
俺が困ってる間に不意に起き上がったリコは目を三角にして襲い掛かってきた!
「みゃみゃ~!」
「みぎゅっ?!」
リコは起き上がり様俺の鼻に頭突きを咬ましてきた。鼻を押さえて悶絶する俺を冷たい目で見下ろすと尻尾でパタパタと叩いてくる。
ぐはっ・・・羽目外しちゃったけどリコを守ろうとしたのに・・・
リコは目の前が真っ暗になって身動きの取れない俺を暫く折檻していたが、物音に気付いたのか小首を傾げると俺を放置して入口に向かって行く。やはり音が気になったのだろう。
しかしこの扱いには断固抗議だ!兄としての威厳にも関わる!
涙目で鼻を押さえながら後を追うと物凄い勢いでリコが横を駆け抜けていった。
あれ~? 流石に酷くない?何を見たか知ってるけどちょっとは兄の心配しようよ?
まぁ野性動物だし本能に忠実なのは致し方ない・・・のかなぁ・・・
兄妹の関係についてはひとまず置いといて入口の顔についてだ。
どうやって対処すればいいんだろう?親が居れば何かしかの対処法を教えてくれたかも知れないが今は不在だ。
そもそもあの狼が1匹とは限らない。前世の記憶通りなら狼は群れで狩りをする動物だし。
さらに厄介なのはあれが猟犬で人間が背後にいた場合だ。
煙で燻られたら抵抗できないし、巣穴を掘り返されたり道具を使われたらどうしようもないだろう。この場合は詰みだ。覚悟だけはしておこう。
今は狼の群れがいるという前提で案をいくつか挙げてみる。
1.戦う。
2.逃げる。
3.様子を見る。
何かゲームの選択肢みたいだけど現状ではこれくらいしか選択肢が思い付かない。
1.戦うは論外。確実に死んじゃう。
2.逃げるってどこに? いや、まだ奥の方がどうなってるかわからないから保留。
3.様子を見る・・・有効だろうか?
時間を稼げば親が助けに来る可能性はあるけど、狼の群れに勝てるかは疑問だ。
俺が悩んでる少しの間に時間切れになった。
入口付近の壁にヒビが入ったかと思うと一気に崩れ始め、俺を守っていた壁が瞬く間に崩れ去ったのだ。
壁が崩れたことで無防備になった俺にチャンスとばかりに突進してきた狼の口が迫る。
鋭い歯が並ぶ口の奥はブラックホールのように俺の全てを飲み込もうとしていた。
○どんの国の金色毛鞠みて泣きました。自分と重なり合うところが多くて。故郷に帰ろうかな~