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異世界ペットライフ ~癒しと恐怖の獣~  作者: 狐の嫁入り
第3章 王立魔法学園エルサディーン
19/34

第19話 大番狂わせ

更新が遅くなりました。

2話に分けようか迷いましたが、切りが良いところまで突っ走ってます。

 昼食を終えた生徒たちは、実技授業のため着替えを済ませると、訓練場に向かって歩いていた。

 校舎の外に出ると乾季特有の埃っぽい風が周囲を舞い、独特の匂いが鼻をつく。

 ネネもまた簡易な革鎧を身に付け、歩きながらトトと模擬戦の戦い方について話し合っていた。

 昇降口から訓練場までは凡そ1キロメートル。現代日本では考えられない敷地面積だが、戦闘訓練をすると考えればそれでも校舎に近いと言えるだろう。

 ちなみにトトのキズは代謝促進の甲斐あって完全に癒え、後ろめたさを感じていたヨハンナを安堵させた。そのヨハンナはピニーを乗せるリヤカーを取りに行っており、後で合流することになっている。


『前にも話した通り俺自身の攻撃は軽い。精々人間くらいの大きさまでなら有効打を与えられけど、それ以上になるとほぼダメージを与えられないと思う』


『トトの能力、サイパだっけ?それを使っても駄目なの?』


『ああ、防御手段としては役立つけど、攻撃となると難があるよ。何か専用の道具がいるな』


『道具ね~。いまいちピンとこないな。昨日は凄いスピードで石を飛ばしてたのに』


『言っただろ?俺の能力は力の向きや大きさを変えるものだって。動いて無いものにいくら力を使っても動かす事は出来ないんだ。まぁ重力を強くしたり弱くしたりすれば、重さは変えられるけど』


『じゃあ私が剣を投げたら、トトの武器になるってこと?』


『そうだな。武器にはなると思う。だけどあまり使いたくない。切り札のひとつとしてとっておきたいし、斬撃を避けるような相手に当てようとすれば、かなり速度を上げる必要がある。そうなれば相手を殺しかねない』


 そんな風にトトとネネが念話で話し合いをしていると、実技教官のハイダル・アリエフが声をかけてきた。


「ネネ。そのカーバンクルが新しい相棒か?」


「そうです。名前はトトと言います」


 ネネは笑顔でトトを紹介する。トトも前足をシュタッと上げて挨拶した。

 ハイダルはトトの仕草に頬を緩めるが、すぐ真顔に戻りネネに向き直る。


「そうか・・・今日はムエジニとの模擬戦だったな?色々と聞こえて来てはいるが、無理に受ける必要はないぞ。仮に棄権したとしても悪いようにはせん」


 ハイダルはやんわりと棄権を奨めた。

 ムエジニのパイロンは妖かしの中でも大型に分類される妖かしである。全高180センチメートル、全長3.5メートル、体重は実に1トンに及ぶ。

 対するトトは、全高15センチメートル、全長35センチメートル、体重は3キログラムくらいだろうか?

 体重差で考えれば、実に330倍以上の開きがあった。いくら妖かしの力が体重に比例しないとは言え、これほど体重差があっては耐久力に大きく影響する筈だ。

 普通なら考えるまでもなく棄権すべきだろう。


「お気遣いありがとうございます。でも模擬戦は受けるつもりです」


「本気か?確かに召喚師は戦闘力を求められがちだが、それだけが役目ではない。お前の能力なら引き手数多だろう」


「でも、私は自分の力で召喚師になりたいんです。このまま先生方のお力添えで召喚師になれたとしても、周囲は私を召喚師と認めないでしょう?」


「・・・そこまで考えているならこれ以上は言うまい。だが無理だけはするなよ」


 ハイダルは最後にネネの肩を叩くと訓練場の方へ去っていった。


「ネネ~!」


 ハイダル教官を見送っていたネネに、ガラガラとリヤカーを引いたヨハンナが追い付いて来る。


「速く行こう!アイツらをギャフンと言わせてやろうじゃない!」


「うん。かなり緊張してるけど、精一杯頑張るよ!」


『・・・ふんっ』


 ネネは笑顔でヨハンナを迎えてくれたが、トトにはそっぽを向かれる。ちょっと落ち込んでしまうヨハンナ。トトは案外根に持つタイプなのだった。



 二人が訓練場に着くと、召喚術科以外の生徒も退学の噂を聞き付けて、観戦に来ているようだった。

 ただの実技授業で観客席が半分近く埋まるのは異例である。


「静かにしろ!これより実技授業を始める。今日は事前に組合せを決めていた通り模擬戦を行う。ルール説明は要らんな?体調不良などで棄権するものは名乗り出るように」


 ハイダル教官が棄権について言及すると、生徒たちが一斉にネネに視線を向ける。いつもなら俯いてしまうネネだったが、今日は毅然と顎を上げ真っ直ぐに教官を見つめていた。


「ふむ、準備はいいな?では模擬戦を始める!まずは・・・」


 ハイダル教官が生徒の名を呼ぶと1試合目が始まった。ネネの順番は4試合目で本日のとりである。


「はぁ~、緊張するよ~」


「大丈夫だって。昨日の動きなら十分勝てるよ!ほら、トトなんて欠伸してるじゃない」


 ネネがトトに顔を向けると丁度欠伸を終えるところだった。


『トト~、大丈夫かな?』


『まぁ大丈夫じゃないか?』


 わざとのんびりしたトトの返事に、ネネは小さく笑って頬擦りした。



 模擬戦は特に波乱なく進み、ヨハンナが順当に勝利を納めた後、ついにネネの順番が回って来た。観客たちも今日一番の盛り上がりをみせる。


「ネネ。頑張ってね!」


「ネネはともかく、トトに怪我させちゃ駄目よ!」


 観客から野次が飛び交う中、ヨハンナとアティフェに見送られ、ネネは演武台に向かう。


「逃げずに良く来たな。その根性だけは褒めてやろう。そのカーバンクルはそこそこ戦えるらしいが、格の違いを教えてやる」


 パイロンを従えたムエジニは、ネネを見下ろすと口の端を上げニヤリと嘲笑った。昨日の自主練もリサーチ済みらしい。


「負けない・・・」


 ネネはムエジニの嘲笑に耐え、両手の刺突剣を握りしめる。一方トトはパイロンをぼけ~っと見上げていた。


『デカイな・・・』


 ネネの肩に乗った状態で、尚も見上げなければならないパイロンに思わず呟く。


 パイロンの見た目は長い毛の生えた牛だ。頭の両脇からは太く捻れた角が前方へ突き出ている。草食動物―――異世界の牛が草食かわからないが―――とは思えぬ凶悪な面構えで、トトなどひと呑みにしてしまいそうだった。


『トトは初めて見るんだったね。パイロンは突進で相手を吹き飛ばす戦法を得意としているの。風を操る力があって凄い速さで動くから、避けるのも難しいんだよ』


『あの巨体で動きが速いのか・・・無茶苦茶だな』


 前世で言えばマイクロバスほどもある巨体が、高速で向かってくるようなものだ。当たればひとたまりも無い。


『それに風を纏っているから攻撃がぶれるし、あの長毛が斬撃を弾いて防御も固いの。悔しいけど強敵だよ。ムエジニ自身も学園上位の実力者だしね』


 ネネの言葉にムエジニを見ると右手にハンマー、左手に半身が隠れるほどの大楯を持っていた。見るからに防御とカウンターを意識した装備をしている。


『俺たちは打撃力が低い分、手数で勝負するタイプだ。防御タイプとは相性が悪い。何とか短期決戦に持ち込まないと厳しいな』


『じゃあ、これ使う?』


 ネネは剣を掲げて見せた。


『いや、それは止めとこう。まあ何とかしてみせるさ』


 トトは迷わずネネの提案を却下した。大会前に披露したくないと言うのもあるが、ミコに声を届けるため、消耗を抑えたいのが本音だ。

 如何にトトでも1000キロメートルを超える距離に声を届けるのは、全力を振り絞る必要があった。出来るだけ余力を残したい。


『わかった。じゃあパイロンは任せるね。私は予定通りムエジニを押さえるから』


『了解。俺が合流するまで無理するなよ?』


『トトもね』


 トトとネネが頷き合うと、丁度ハイダル教官から呼び出しが掛かった。



 ―――ネネ視点―――


 ハイダル教官に呼ばれ私は演武台に上った。階段を一歩上がる度に心臓が高鳴るけど、逆に頭は醒め試合に集中していく。

 演武台に上った私とムエジニは、間を15メートルほど空けて向かい合った。


 大丈夫、リラックス出来てる。これもトトのお陰かな?


 今も肩に乗る温かさと重みが、私に勇気を与えてくれる。

 私は刺突剣を両手に構え、中央に立つハイダル教官の合図を静かに待った。



 ―――ハイダル視点―――


 ムエジニとネネの中ほどに立った私は、ネネを止めるべきか未だ迷っていた。私の見立てでは2人の実力は伯仲している。短時間で隙を見出だせばネネが、持久戦に持ち込めばムエジニが勝つだろう。


 だがそれは妖かしを抜きにした場合だ。2人の妖かしには比較するのも馬鹿馬鹿しいくらいの体格差があった。もし早々にトトが離脱と言う事になれば、ネネの敗北は確定的だろう。そもそも私にはトトが善戦するイメージさえ全く浮かばない。


 しかし、演武台に登ったネネは静かに剣を構えている。棄権するという意思表示がない以上、教官として止めるわけにもいかない。

 仕方ないな。ネネは不服かもしれないが、いざと言う時は試合を中断してでも止めよう。

 私はそう決意し開始の合図を出した。


「始め!」



 ―――ムエジニ視点―――


 俺は始めの合図と共に楯を数回叩いてパイロンに突撃の指示を出した。あのカーバンクルが何らかの能力を有しているのは間違いない。しかし、これまで何人もの相手を退けて来たパイロンの突撃だ。吹けば飛ぶようなカーバンクルが無事に済む筈がない。


 俺は念のため後ろに下がると、ネネとの距離を広げて様子をみる事にした。カーバンクルはともかく、ネネは侮れない相手だ。接近を許すのを避けるに越したことはない。



 ―――トト視点―――


 パイロンは開始の合図と共にこっちに突っ込んできた。


『想定通りか』


 俺は即座にサイパを行使して突進方向をずらそうと試みる。


『どんな感じ?何とかなりそう?』


『何かに力が分散されて上手く方向をずらせないな。力押しすればいけそうだが・・・ま、何とかなるだろ』


『じゃあパイロンは任せるね!』


『任された』


 俺はネネの肩から飛び降りるとパイロンに向かって行く。


 ゴゴッゴゴッ


 パイロンが重々しい音を立てて迫って来た。確かに速い。本職の闘牛士だって自身の10倍はある牛を前にすれば、裸足で逃げ出すだろう。もしかすると車に轢かれそうになった猫は、こんな恐怖を味わっているのかも知れない。


 お~怖い。やっぱ迫力が違うな!予定通りまずは低重力攻撃から行くかね。


 俺がサイパを行使しようとすると、目前に迫っていたパイロンが急に方向を変えた。二手に別れた俺たちに対し、ネネを追うことにしたようだ。


 おいおい。つれないぜ可愛い子ちゃん!俺を無視すっと後悔するぞ?


 俺は低重力化に加え右側だけ地面に伝わる力を小さくした。パイロンにとってはたまったもんじゃないだろう。突然月面を走らされた挙げ句、片側だけ水中にあるような状態だからな。


 案の定、パイロンは自らの突進力で盛大にバランスを崩した。突進の勢いのまま派手に横倒しになり、ネネの脇を通り過ぎて行く。


 ズン、ザザザー


『ほれみろ。早速後悔しただろ?』


 俺は悠々とパイロンに近づくと、とある仕掛けを実行した。



 ―――観客視点―――


 パイロンの転倒。予想外の事態に野次や声援を送っていた声が一瞬静まる。

 ハイダル教官を含め、この光景を目にした生徒たちは唖然と言葉を失った。

 衝撃から立ち直った殆どの生徒は、パイロンが方向転換時にバランスを崩し、自爆したと思ったようだ。

 だが、一部の生徒は目を眇めてカーバンクルを見詰めた。ネネがパイロンの転倒に戸惑う事なく、寧ろ当然であるかのようにムエジニに向かったからだ。


「「「まさかな(ね)」」」


 一部の生徒たちに疑念を与えつつ試合は続く。



 ―――ネネ視点―――


 私はパイロンが倒れ込むのを横目に、ムエジニとの距離を一気に詰めた。予想外の出来事に唖然としているムエジニの隙を突いて、刺突剣の間合いに捉える。


 トトがやってくれたみたいね。私も良いとこ見せなきゃ


 間合いを詰めた勢いそのままに、楯の無い左側へ回り込む。今のムエジニはパイロンに気をとられてガードが下がってる。


 ムエジニは強敵・・・でも!


 私は僅かに楯から覗いた喉元に右の突きを放つ。だが尖端が喉元に届く寸前。ムエジニが楯を巧みに操って上に受け流した。


 嫌いな人だけど、やっぱり強い・・・一筋縄ではいかないね


 右手を引き戻しながら、ガードが上がって疎かになった足元に、左手の刺突剣を突き出す。


 でもこっちフェイント。上手く引っ掛かって!


 上がっていた楯を演武台に叩きつける勢いで下げるムエジニ。左手の突きは見事に楯で弾かれる。


 予想通り・・・これで、決める!


 楯を下に誘導した私は、がら空きになった右肩に向かって本命の突き放った。


 ギン


 しかし、私の突きはハンマーの柄によって阻まれた。楯が間に合わないと判断したムエジニが、振る動作を省略し、致命的な突きを逸らしたのだ。


 もう!流石と言ったところね、行けると思ったのに・・・トトにばかり頼りたくないけど、何か切っ掛けがないと崩せそうにないか・・・


 ここまで僅か一呼吸。一連の動作を終えた私は、仕切り直すため間合いを離そうとした。



 ―――ムエジニ視点―――


 パイロンが横倒しになると言う予想外の出来事に、俺はネネの接近を許してしまった。パイロンの様子を窺おうと、つい下げてしまった大楯の隙間を縫って、喉元に切っ先が迫る。


 くっ、何時もはのろまの癖に!


 俺はギリギリのタイミングで切っ先を楯の上面で弾き、突きを逸らすことに成功した。背中にどっと汗が流れるが安心は出来ない。


 すぐ次の突きがくるぞ


 大楯で視界が遮られた俺は、勘に従って勢いよく楯を下げた。案の定、楯を持った左手に衝撃を感じる。だが首筋に悪寒が走った。


 くそっ、軽い!こいつはフェイントだ!!


 楯を下げたことで確保された視界に、ネネの刺突剣が映る。既に初動は済み突き出す寸前だった。

 俺は咄嗟にハンマーの柄を振り上げる。ハンマーを振っていては間に合わん!


 ギィン


 俺の期待通りごつい鉄球が付いた柄はネネの突きを弾いてくれた。ネネの顔に驚きが浮かぶ。


 何とか凌いだか。


 ネネの動きを注視していると、僅かに体重を後ろにかけている。おそらくは一度仕切り直そうと言うのだろう。だがそうはさせん。


「しゃあああ」


 俺はは雄叫びと共にシールドチャージを敢行した。低い体勢で大部分を楯に隠した突進は、中々避け難い上に当たればただでは済まない。

 俺はネネが下がる速度を上回る勢いで楯を突き出す。


「くっ」


 ネネの短い悲鳴が聞こえた。


 間合いを広げようと飛び下がる途中だったネネはこれを避けられまい。

 半ば勝利を確信した俺だったが、今度はネネに驚かされる番だった。


 空中のネネは敢えて刺突剣を俺の楯に突き立てると、それを基点に大きく飛び諏佐る。


 まるで軽業師だな!


 驚きも一瞬、俺はすかさず次手を打った。ネネの着地点を狙って楯の裏からハンマーを凪ぎ払う。

 凪ぎ払いは攻撃範囲が広い。如何にネネが身軽と言えど、今度こそ逃げ切れない筈だ。


 だが、俺の予想は再び外れることになった。


 ネネは爪先だけで地を蹴ると踊るようにターンし、凪ぎ払いの範囲をするりと抜け出してしまう。


 間合いの離れた俺たちの攻防は、振り出しに戻ることになった。



 ―――ネネ視点―――


 っく、今のは危なかった~


 恐ろしい音を立てて眼前をハンマーが通り過ぎる。私は嫌な汗が出るのを感じつつ刺突剣を構え直した。


 ムエジニを注視しながら、私は冷静に自分の状態を探る。


 大分息が上がっちゃったか。今の攻防で決められなかったのは痛い。トトが言うように短時間で勝負をつけないと負けちゃう・・・トト・・・


 これまで負け続けた記憶が去来し、私の心に不安が広がって行った。



 ―――ハイダル視点―――


 ここまでの戦い振りからネネとムエジニの技量は、私の見立て通りほぼ互角と言えよう。しかし、動きが大きい分ネネの消耗の方が激しい。このまま押し切れなければネネの敗北は必至だ。後は妖かし同士の決着次第だが・・・


 私が起き上がろうともがくパイロンに目を向けた時、それは起こった。



 ―――ムエジニ視点―――


「(俺の○を聞け~!)」


 ネネを攻めあぐねていた俺は、カーバンクルの甲高い鳴き声を聞いて、反射的にパイロンが倒れ込んだ方向に目を向ける。いや、向けてしまった。


「やったか?!」


 だが、そこには俺の予想を裏切る光景が広がっていた。


 起き上がろうと藻掻いていたパイロンが、カーバンクルの鳴き声を期にビクッと体を痙攣させ、再び倒れ込んだのだ。

 しかも今度はピクリとも動かない。


 なんだと?俺のパイロンがカーバンクル如きに?


 俺はネネと向き合っていた事も忘れ、パイロンの方へ一歩踏み出す。


 いったい何がどうなっている?パイロンは無事か?


 勝利を確信していただけに一変した状況に対応できず、俺は完全に我を忘れていた。



 ―――トト視点―――


 俺は準備を整え叫び声を上げた。因みにだが台詞に意味はない。念のため。


 俺の目論見通り、パイロンはビクッと痙攣し気絶したようだ。俺が何したか?別に大した事はしてないさ。前世にあった非殺傷兵器。スタングレネードの原理を応用しただけだ。


 スタングレネードは激しい光と大音量で人間の思考を奪ったり、気絶させたりする兵器である。

 今回は日頃母さんと交信するため鍛え上げていた“声の道”をパイロンの耳奥に繋ぎ、直接大音量を叩き込んだのさ。


 ククク、外身が硬い奴は中身を攻めろってね!


 俺は腹黒く笑いながらムエジニの背後に移動する。


 フェ~フェッフェッ、呆然としてる男の背後に廻るなんざ、か~んたんなものだよ。パイロンを殺ったようにね!(パイロンは死んでないが)


 俺は某国民的アニメの台詞をパクリながら、ムエジニに気付かれず背後に周り込んだ。



 ―――ネネ視点―――


 トトがやってくれたみたいね


 ムエジニは私の事など忘れたかのように、完全にパイロンに気をとられていた。無意識に下げられた楯のお陰で、上半身が隙だらけになる。


「せいやぁ~っ!!」


 私は日頃の鬱憤を込めた突きをムエジニの右肩に放った。ムエジニも寸前で気付いたようだけど、私の突きは防御を掻い潜って右肩に痛打を与える。


「ぐあ!クソが!」


 ガン、ガラン、ガラン


 握力を失ったムエジニの右手からハンマーがこぼれ落ちる。


「まだだ!まだ負けちゃいねぇ!」


 未だ戦意を失わないムエジニが楯を握りしめて立ち上がったところにトトの念話が響く。


『突撃、膝裏ほうも~ん!!』


 トトはムエジニの背後から膝裏に体当たりを敢行した。完璧な不意打ちにムエジニが膝から崩れ落ちる。


「馬鹿な?!これほどの連携、出来る筈がない!」


 完全に体勢を崩したムエジニは走り去るトトを見送るしかなかった。


 流石トトね!確かに普通の召喚師と妖かしじゃ、指示無しでこんな連携出来ないよ。


 私はすっと刺突剣をムエジニの首に添えて迫る。


「降参して」


「イカサマだ!イカサマに決まってる!俺がネネに負けるなど・・・」


 ムエジニが何か叫んでいたけど、ハイダル教官がすぐに止めてくれた。


「黙れ!勝者、ネネ!」


 静まり返った訓練場にハイダル教官の勝利宣言が響く。ネネは突き付けていた剣を引くと一歩下がって礼をする。


 その瞬間、観戦していた生徒たちの歓声が爆発した。その中には満面の笑みを浮かべたヨハンナやトトを心配していたアティフェの姿もある。こうなっては流石のムエジニも抗議を続けることは出来ない。ネネに突かれた右肩を押さえてこちらを睨み付けると倒れたままのパイロンの元へ向かう。

 ハイダルもトトをみて何か言いかけるが結局パイロンが心配だったのかムエジニを追ってパイロンの元に向かった。


『勝った?私・・・勝ったの?』


 静かに涙を流すネネを見てトトも祝福の言葉を贈る。


『おめでとう、ネネ!でも俺たちの伝説はこれからだぜ!次の目標は大会での優勝だ!』


 ネネはトトを抱き上げると頬を寄せる。


『そうだね~。出来たら良いな』


「おめでとう、ネネ!」


「ちょっと私にもトトを抱かせてちょうだい!」


 トトとネネは手を振るヨハンナやアティフェのもとに歓びを噛み締めつつ歩いて行った。


 この日、学園中に“ムエジニ破れる”の報が駆け巡る。ある者はカーバンクルだけに運が味方したと言った。またある者はムエジニが油断しただけだと言った。そして極少数の者はあのカーバンクルがパイロンを倒したのだと言った。


 何れにしてもネネの評価はここから大きく変わって行くことになるのである。

ネネさん公式に初勝利です。

今回はトトよりネネの活躍が目立ったかも


次回は早めに更新出来るといいなぁ



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