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異世界ペットライフ ~癒しと恐怖の獣~  作者: 狐の嫁入り
第3章 王立魔法学園エルサディーン
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第17話 トトの力

 放課後の訓練場。


 サッカーコート3面程の広さを持つ訓練場には自主訓練する生徒の姿がちらほらと見えた。各種訓練設備のほか、大会と同じ大きさの演武台が6つ設置されており模擬戦を行っている生徒もいる。そんな演武台のひとつにトトたちはいた。明日の模擬戦に備えてヨハンナたちと訓練をするためだ。


『模擬戦のルールってどうなってる?』


『そうだね~どちらかが負けを認めるか場外に出れば負けなの。後は無抵抗の相手に故意に怪我をさせるとか、登録武器以外の使用禁止かな?』


『なるほど。能力の使用制限とかはないのか?空を飛ぶタイプなんかだと場外負けのルールは厳しいだろ?』


『場外負けの対象になるのは召喚師だけだよ~。後は周囲に被害が及ぶような能力は控えるように言われてるくらいかな?』


 トトたちが脳内会話をしているとリヤカーに大きな亀を乗せたヨハンナが訓練場に現れた。土大亀のピニーは歩かせると非常に遅いのでいつもリヤカー移動なのだ。


「ゴメン。待たせちゃった?」


「大したことないよ~。トトに模擬戦のルールを教えてたところだったの」


「そうなんだ。ちゃんと伝わってるのかな?」


 ヨハンナはネネの肩に乗ってこちらを見つめているトトを見た。ピンと立った耳がこちらの会話に反応してピコピコ動いている。


「大丈夫だよ~。トトは賢いからね!」


「ホントにトトが好きなのね。まぁいいわ。早速訓練を始めましょ」


 ヨハンナは土大亀のピニーを地面に下ろすと演武台の中央に向かって行った。


「まずトトにどんなことが出来るのか見せて貰おうよ。訓練はそれからかな?」


 ヨハンナの言葉を肯定するように足元にいるピニーも首を伸ばしてこちらの様子を窺っているようだ。


『そう言えばトトってどんなこと出来るの?』


 既に定位置と化している右肩に乗ったトトの方を向くと左手で耳の裏を撫でながらネネが聞いた。


『そうだな。自分でも完全に把握してるわけじゃないけど、簡単に言えば対象の力の向きを変えたり、力の大きさを変えたり出来る能力かな?この2つじゃ説明出来ないことも出来るからまだ仮定だけど』


 説明を聞いてネネは首を傾げた。


 力の向きや大きさを変えるって普通じゃないの?剣でどこを切るかとか、どのくらい力を込めるかなんて誰でもやってることだよね?

 でもわざわざトトが言ってるって事はそう言う意味じゃないんだろうな~


 暫し考えたネネだがサッパリわからず率直に聞いてみる。


『うんと・・・結局何が出来るの?』


『・・・石、投げて見てくれ』


 半眼になったトトから目を逸らしたネネはその辺にあった石を拾い上げるとポイっと投げた。

 急に屈まれたせいで落ちそうになったトトは肩からヒラリと地面に飛び降りるとネネが投げた石にサイパを行使する。


『今の対象は石な。そして石に働いている慣性力の向きを変えると浮き上がったりする。そして重力を弱めて慣性力を強くするとどんどん加速するんだ。こんな風にな!』


 サイパを受けた石は地面に落ちる寸前、弾むように向きを変えると今度は上昇しつつグングン速度を上げて周囲を飛び回り始めた。


「ちょっと、これをトトがやってるの?!」


 ヨハンナは驚きながらネネに問いかけた。石は既に目で追うのが困難な速度に達している。トトがムエジニの手を逸らしたと言うネネの言葉を疑っていた訳ではなかったが、多少の贔屓目があると思っていたのだ。

 ネネを見るとトトに向かってジェスチャーを交えながら何か聞いている。


「やっぱりトトがやってるみたい。こんなのは簡単なことなんだって」


「凄いじゃない!石を自在に操る力なんて。上手く使えばファーティマに勝つのは無理でもムエジニになら勝てるかも知れないよ!」


「ちょっと待って。え~と、石を操るんじゃなくて、どんなものでもある程度操れるみたい。でも生き物は動きが複雑だから操るのが難しいらしいよ」


 ヨハンナはそれを聞いて戦慄した。どの程度操れるかわからないが、武器による攻撃や体術などを殆ど無効化出来る可能性があるのだ。


「練習用の矢をトトに射ってみても良い?」


「ちょっと待っててね」


 ネネはトトの前にしゃがみこむ。


『ヨハンナが矢を射ってみても良いかって言ってるんだけど大丈夫?』


『矢か。射られたことはないけど問題ないと思うぞ』


 チラリとヨハンナに目を向けたトトは弓矢を確認するとOKを出す。視認出来ないようなものだと困るがヨハンナの持つ弓は然程弓力が強いものには見えなかった。


「射っても良いって」


「ネネとトトって本当に会話してるみたいね。それじゃ射ってみるからネネは離れてて」


「わかった!」『トト頑張って!』


 トトは何も答えずただ尻尾を立てて見せる。それを見たネネは3メートルくらい離れてトトを見守った。

 準備が整ったのを見てヨハンナはネネに頷くと堂にいった構えから鋭く矢を放つ。


 中々良い構えだな。それに狙いが正確だ。


 トトは放たれた矢の軌道を冷静に捉えていた。最小限にサイパを行使して矢の軌道を逸らす。


 トス


 軽い音を立てて矢がトトの後ろに刺さる。ヨハンナは目を見開くと矢継ぎ早に矢を放った。しかし全ての矢が軌道を逸らされトトにかすりもしない。


「凄いね。カーバンクルにこんな力があったなんて・・・」


「ふふふ、トトは凄いでしょ~!でもいっぱい矢を射ち始めるからびっくりしたよ」


「ゴメン、ゴメン。じゃあ次はコンビでやってみようか」


「わかった」『トト。次は一緒にやるよ~』


 ネネは自分の装備を麻袋から取り出しながらトトに声をかけた。


『了解。それにしても意外だな。ネネは刺突剣の二刀流なのか?』


 トトは先端が尖った短めの剣を2本取り出すネネを見て驚く。


『今までは相棒が戦闘向きじゃなかったから私が前衛だったの。だから自然とね』


 剣の先端に布を巻き付けながらネネが答えた。


『そうなのか。それだと俺とは相性が悪いかもな。ネネも素早さと手数で戦うタイプなんだろう?俺はどう戦えば良い?』


『トトの好きなようにやってみて。私が合わせるから』


『良いのか?俺は補助も出来るぞ?』


『良いの。元々召喚師は妖かしに合わせて戦うものなんだよ~』


 ネネの言う通り普通は妖かしと作戦を練る事など出来ないため、妖かしに合わせて戦いつつ、戦況を見て予め決めた符丁で指示を出す。それが召喚師の戦い方だった。


 見詰め合って何かしているトトとネネを見てヨハンナは不思議に思う。昨日喚んだばかりのトトに符丁を教える暇はなかった筈だ。である以上、連携は望めず出たとこ勝負で戦うしかない。それともこの短時間で連携が教えられるのだろうか?


 暫く様子を見ていたヨハンナは頃合いをみて声をかけた。


「そろそろ良いかな?」


「うん、いつでも良いよ!」


 自信満々のネネに謎が深まるヨハンナだった。


 演武台の中央付近でネネとヨハンナは5メートルくらいの間隔を空け向かい合う。

 いつものネネなら妖かしを背後に庇うように前で刺突剣を構えているのだが今はトトが前に出ていた。


「それじゃ行くよ!」


 ヨハンナの合図と共にトトの周囲を土壁が囲む。すかさずトトは高く飛び上がって土壁を乗り換えようとするが狙い澄ました矢がトトに迫った。


 流石に連携が取れているな!


 トトは矢をサイパで逸らすと慣性の方向と重力を操作した立体軌道でヨハンナに襲いかかった。予想外のトトの動きに着地点に放っていた矢が虚しく通りすぎる。


 今度はこっちの番だ!


 トトはフェイントを織り交ぜながら軽快なステップでヨハンナの目を眩ませると、一瞬の隙を突いて後方に回り込む。間髪入れず跳躍すると頭上の死角から前足の一撃を放つ。もちろん手加減した一撃だ。だがピニーが作り出した土壁がその一撃を阻んだ。接近されたら土壁で防御するように教えられているのだろう。


 流石に簡単にはいかないか。でも俺だけに集中してて良いのかな?


 トトは派手に動きながらもネネに向かった矢を悉く逸らし無効化していた。ネネもただ見ていたわけではない。矢が自分に届かないと知ると猛然と前に飛び出す。


 トトは一撃を遮った土壁を蹴って身を翻すと今度はヨハンナの足元にいるピニーの頭に向かって突貫した。下から襲ってくる土杭を右に左に躱しながらピニーに急迫する。


 これでヨハンナを守る壁を作る余裕はないだろ!


 トトは意識を集中してピニーの体重を一時的に激減させるとソバットの要領で尻尾を叩きつけた。


 バシッ


 イタ! 尻尾イタイ?! 相当軽くしたのにどんだけ重いんだよ!


 ビニーには大したダメージがなかったが驚く事に1.5メートルくらいの巨体が軽々と吹き飛んで行った。ダンプカーが三輪車に撥ね飛ばされるような非現実的な光景が現出する。


 トトの尻尾攻撃を受けたピニーは回転しながら狙い通りにヨハンナの足を払う。


『今だ!決めろ!』


 バランスを崩して方膝をついたヨハンナにネネの剣が突き付けられた。


「参ったな。私の負けね」


 初めてとは思えない見事な連携にヨハンナは素直に賞賛を贈る。トトの俊敏性を活かした撹乱と、タイミングを合わせた崩しに決め。これならムエジニにも勝てる可能性は高い。

 ヨハンナはこれでもランク上位の実力者だ。ピニーの力は守りに優れ鉄壁の異名で呼ばれている。影ではとある特徴を指して絶壁と呼ばれたりもしているが・・・聞き咎められた者は男の尊厳を失うと専らの噂だ。


「・・・勝った? 勝ったよ~! トトのお陰で初めて勝った~!」


 ネネは喜びを爆発させ地面に寝転がって尻尾の具合を確認していたトトを拾い上げると勢いよく上に放り投げる。


『おい! 止めろネネ! や~め~ろ~!』


 2度、3度と投げられ続けたトトはサッと腕を掻い潜ってネネの胸にダイブした。


「ひょわっ?!」


 掻い潜られた手を天に伸ばしたまま固まるネネ。トトは谷間に頭を突っ込みながら温かさと柔らかさを存分に楽しむ。


 あ~、落ち着くわ~。やっぱ胸はロマン。いや至宝だな!


 そこへ地獄の底から響くような呟きがヨハンナの口から漏れ出した。


「やっぱり胸なのね・・・こんな畜生でも・・・」


 ネネは別の意味で再び固まり、ピニーはリヤカーへと去っていく。気付いていないのはトトだけだった。ヨハンナはツカツカとネネに歩み寄ると谷間に頭を突っ込んだままのトトの尻尾を掴む。


「(ちょっイタイ?!)」


 尻尾を掴まれ宙吊りになったトトはヨハンナの目を見て硬直した。


「確認するまでもなかったけど、やっぱり雄ね!」


 冷たい視線が一点に注がれる。


「(何すんだ!)」


 我に返ったトトは身を捻って尻尾を取り戻すとヨハンナに飛びかかった。丁度良い高さにあったヨハンナの胸を蹴って着地する。


『んん? 絶壁?』


 首を傾げたトトはアッサリと地雷を踏んだ。仕草だけで意味がわかったのか完全にヨハンナの目が座る。


「コロス!!」


 言葉の意味はわからなかったがトトは本能に従って逃げ出した。その後を魔人と化したヨハンナが矢継ぎ早に矢を放って追いかけていく。


『ネネ!助けて! こいつ幼気な小動物を殺しにかかってるよ?!』


『ふ~女の子は繊細なの。諦めてお仕置きされて来なさい。図書室はまた今度ね』


「(ちょまっ絶対お仕置きじゃ済まないだろぉぉぉぉ!!)」


 トトの絶叫が訓練場に響き渡った。

トトの力の一端が出せました。でもこの程度はミコもリコも使えるレベルだったりします。


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