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異世界ペットライフ ~癒しと恐怖の獣~  作者: 狐の嫁入り
第3章 王立魔法学園エルサディーン
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第16話 学園生活の始まり

 トトが召喚された翌日。


 ネネは妙に気合いの入ったトトを肩に乗せ学園長室に向かっていた。昨日の召喚の儀式は学園に許可を貰った正式なものだったが、召喚された妖かしは必ず学園長に報告するよう義務付けられている。


 ネネは学園長室の前で1度立ち止まり身嗜みをチェックしていた。


『なぁ、学園長の前では黙ってれば良いんだよな?』


『そうだね~、前に来た時はただ報告するだけでとくに何もなかったから』


 トトとしては学園長に興味などなく、すぐにもリコの捜索に取り掛かりたかったが、無駄に横車を押して波風を立てると後々面倒だと思いこうしてネネに付き合っている。八つ当たり気味にネネの左右の肩を行ったり来たりしているのはご愛敬だ。

 決して髪の下を潜るのが楽しいとか艶々の髪が気持ち良くて病み付きだなんて思ってはいない。ホントだよ?


 ネネは擽ったそうにしながらも笑みを浮かべてトトを捕まえる。


『もう、髪が乱れちゃうでしょ?ちょっとの間だから大人しくしてて』


『仕方ないな。でも攻撃されたら反撃するぞ?それと後で人間の言葉や文字を教えてくれ』


『ふふふっ、わかってるよ』


 ネネが人指し指で喉を撫で上げるとトトはネネの手の中で大人しくなった。目を瞑って気持ち良さそうに喉を反らしている。トトは警戒心が強い方だったが不思議とネネには心を許していた。


『それじゃ行こっか』


『おう』


 この辺りでは珍しい黒い木の扉をノックすると「入りなさい」と弄えがあった。

 ネネとトトは1度目を合わせると扉を開いて学園長室に入る。


「失礼します。召喚術科5年のネネ・アル・アフシャールです。召喚した妖かしのご報告にあがりました」


 ネネが挨拶をすると落ち着いた風合いの椅子に腰かけた五十絡みの男、学園長のイルヒム・オルグ・リヤドが目の前のソファーを指し穏やかに話しかける。


「良く知っているよ、ネネ君。立ち話も落ち着かないだろう?そこに掛けなさい」


 ネネは素直に指示されたソファーに腰かけた。柔らかいクッションがネネを包む。


 前はこんなこと言われずにすんなり帰れたのにな~。何か私に話さないといけない事でもあるのかな?


 疑問に思ったネネはトトのお蔭で大分弛んでいたネジがキュルキュルと締め上げられるのを感じた。不安の芽は瞬く間に大樹となりネネの心に影を落とす。


 もしかしてだけど私、退学にされ掛かってる?!


 思い当たる節は色々あった。過去の大会の散々たる成績に加え今回召喚したのはカーバンクルである。最後の大会も勝利は絶望的と判断され退学になる可能性は十分にあった。


 ど、どうしよう?!


 俄に慌て出したネネを見てトトは首を傾げるのだった。





 学園長室は本校舎の3階東の端にあり、眩しい程の朝日が差し込んでいた。棚に飾られた硝子細工が朝日を反射してキラキラと輝いて見える。整然と配置されたインテリアの数々は学園長の几帳面な性格を表しているようだった。


「さてネネ君。肩に乗っているカーバンクルが今回召喚した妖かしで間違いないかね?」


「はい!でもトトはとても凄い、とても凄いカーバンクルなんです!大事な事なので2度言いました!」


 退学にされると思い込んだネネが聞かれてもいないのにトトの凄さをアピールし始める。


『おい、落ち着けネネ。なんかおかしいぞ?変なこと口走ってないよな?』


 あまりの挙動不審振りに黙っていられず、トトはネネに話しかけた。言葉はわからずとも大体の察しはつく。何か不測の事態に陥ったのだろう。トトの言葉にネネは一瞬体を硬直させた後、息を大きく吸って心を落ち着けた。視線は向けずトトに返事する。


『大丈夫、大丈夫』


『おい!それは大丈夫じゃないヤツの台詞だ・・・』


 トトはネネの首もとに頭をグリグリと押し付けて叱咤すると元凶と思われる学園長の方を向いた。

 一連のやり取りを静かに見ていた学園長は顎に手をやり暫し黙ると唐突に切り出した。


「そのカーバンクルを君の使役する妖かしとして認めよう。ただ誰かに売るつもりなら先ず私に声を掛けてくれないか?」


「売る?何を仰ってるんですか?」


 ネネは心底意味がわからないという風に問い返す。


「いや、アフシャール伯爵に譲るつもりと言うなら無理にとは言わないが、カーバンクルでは召喚師の相棒として能力不足だろう?然程おかしな提案でもないと思うが」


 学園長の言葉が脳に浸透するとネネは激しい怒りを覚えた。


 トトを、家族を私に売れって言うの?!


 ネネの脳裏にアフシャール家へ送り出す元家族やアフシャール家に来たばかりの頃の寂しかった自分の姿が思い起こされる。


 トトを物か何かのように売れだなんて考えられない!


 ネネは怒りのまま乱暴にソファーから立ち上がると、もう話すことはないとばかりに言い放つ。


「私は誰にもトトを売るつもりはありません!もうよろしければ失礼させて頂きます!」


 ネネは足音高く学園長室を出ていった。



 残された学園長は急に怒り出したネネを唖然と見送った後、小さく息を吐いた。


 聞いていた性格とは随分違うようだがカーバンクルにあれほどの執着を見せるとは・・・、いよいよ真実かもしれんな。


 学園長が考えを巡らせていると若干の苛立ちを含んだ少女の声が学園長の耳朶を打つ。


「学園長。あのような聞き方をする必要はなかったのではありませんの?無駄に警戒心を煽るだけです」


 それは生徒会長のファーティマであった。ネネが早朝に学園長を訪れる事を読んで学園長室の続き部屋に身を潜めていたのだ。


「そうかな?カーバンクルに対してあれほどの執着を見せるのだ。ほぼ確実と私は見るがね」


 突然響いたファーティマの声に驚くことなく学園長はネネが去って空いたソファーを勧める。ファーティマは学園長の進めに従って優雅にソファーへ腰掛けた。


「学園長ほどの方でもやはり男性ですわね。あの子のような境遇なら小動物に愛着を持ち執着してもおかしくはありません。確信を持つには至りませんわ」


「ではどうする?」


「私自身が戦ってみましょう。それが確実ですわ」


「直系使いの君がかね?当代最強の召喚師と謳われる君が?喩えあのカーバンクルがそうだとしてもまだ子供だ。十全に力が使いこなせるとも思えんが・・・」


「だからこそ戦う価値があるのです。もし私と互角以上に戦えるなら間違いないと言えますから」


「ふむ、では任せよう。自然な流れで戦うとすればカロッソ・エルディーニの後期大会が舞台となるか。楽しみが増えたな」


 学園長は満足気に口角を上げた。




 一方、学園長室を飛び出したネネ。

 勢いで学園長室を飛び出してしまったが教室に向かう足取りは一歩毎に重くなっていった。


 はぁ~言った事に後悔はないけれど、これで退学が確定したかも知れないと思うとやっぱり堪えるな~。


 ネネが俯いたまま廊下を歩いているとトトが前足をそっとネネの頬に添えた。驚いたネネがトトの方を向く。


『ネネ。何が見える?』


 トトはネネの瞳を覗き込むように顔を近付けて問う。


『えっと、トトが見える、よ?』


 突然の行動に面食らいながら辿々しくネネは答える。トトは戸惑うネネにお構い無く言葉を重ねた。


『そうだ。カーバンクルのトト様がネネの側にいる。カーバンクルが何を呼ぶか知ってるか?」


『幸運・・・かな?』


『そう、幸運だ!何を言われたか知らんが俺がネネに憑いてる。幸せになれるさ』


『ふふふ、ありがとう、トト。ちょっと引っ掛かる言い回しがあるけどすっごく嬉しいよ』


 ネネの顔に笑顔が戻る。ほっとしたトトは急に恥ずかしくなって混ぜっ返した。


『まぁ幸運を呼ぶ方法なんて知らないんだけどな!』


 ネネはトトの照れ隠しなど意に介さず、ぎゅっと胸に抱き締める。トトは締め付けが強過ぎて苦しかったが教室に着くまでネネの好きにさせたのだった。



 教室に着いたネネは映画館やスタジアムの観客席のように階段状なった席に適当に座るとトトを机に乗せて言い聞かせる。


『トト、これから授業があるの。その間大人しくしててね』


『わかってるよ。授業が終わったら図書室な!』


『図書室?』


『人間の言葉や文字を教えてくれる約束だろ?まさか図書室がないのか?』


『あるよ~、ただカーバンクルって文明が発達してるんだな~って。ここは王立魔法学園だから図書室があるけど、図書室や図書館がない街だって結構多いんだよ?』


 しまった!意外と鋭いな。人間との会話が久々過ぎてつい余計な一言が・・・。ネネは信用できそうだが転生したことはまだ秘密にしておきたい。


 トトが言葉に詰まっていると1限目の講師が教室に入ってきた。ネネも講義に集中し始める。


 取り合えずやり過ごせたか。もっと言葉に注意しないとな。


 その後、言葉も文字もわからない授業に飽きたトトはネネの膝の上に移動して昼寝を決め込むのだった。

裏設定をひとつ

魔法学園の授業は午前が学科の2コマ。午後は実習です。実習は魔法の修練のほか、礼儀作法やダンス、体術の訓練なども行われています。

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