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異世界ペットライフ ~癒しと恐怖の獣~  作者: 狐の嫁入り
第3章 王立魔法学園エルサディーン
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第14話 協定と始まる絆

 学園の敷地の北東。裏門の近くに薄赤い煉瓦の建物があった。全校生徒が住む学生寮である。雑用をこなす使用人も含めるとおよそ2000名が暮らす3階建ての大きな建物だ。1階には食堂と瀟洒なカフェを備え、空き時間には学生たちの憩いの場となっている。


 ネネは入口を入ってすぐ右手にある階段を上った。何人かの学生とすれ違うが皆一様に俯くと足早に去っていく。


 なんか嫌な感じだな。


 ネネの表情を窺うとかなり強張っているようだ。折角の可愛らしい顔が台無しである。状況は粗方察していたがこの世界にもいじめがあるのかと思うと暗澹たる気分になった。


 2階をそのまま通り抜け左右に絵画の掛かった長い廊下を中央付近まで歩くと、やっとネネの私室に着く。驚いた事にバス、トイレ付きだ。3階は全てが同じ造りで召喚術科の生徒で占められているらしい。流石はエリートと言ったところか。


『部屋に入ったら先ず水浴びね。貴方は水浴びしたことある?』


 ネネは首に巻き付いた尻尾の先を撫でながらトトに問いかける。


 何を言ってるんだこの娘は?俺にノミやダニが付いているとでも言うのか?見よ!この美しい毛並みを!


『失礼な!俺は綺麗好きだ。今日だって朝イチで水浴びしてるぞ』


『あれっそうなの?水辺に住む動物以外は水に入るの嫌がるって聞くからカーバンクルもそうなのかと思ってた』


『そう言えば妹は水浴び嫌がってたな・・・。ところで俺はトトだ。こうして協力関係になったんだから自己紹介は必要だろう?』


 俺は協力関係のところを強調して言った。リコの事を調べるにも人間の協力者は必要不可欠である。友好を深めておくに越したことはない。


『トトね。改めまして私はネネ・アル・アフシャール。アフシャール伯爵家の次女です。養女だけどね』


 ネネは一瞬お嬢様っぽく姿勢を正すと優雅に一礼して見せた。


『ふ~ん、貴族ってヤツか。養女って言うのは召喚術が関係してるのか?』


『トトは賢いよね。まるで年上の人と話してるみたい。確かに私は召喚術の才能を買われてアフシャール家の養女になったの』


 ネネの顔に懐かしいような寂しいような複雑な表情が浮かぶ。


『む、悪いこと聞いたか?』


『気にしないで。酷いことされたわけじゃないから』


『・・・そうか。そうだ!召喚獣はみんな頭悪くて喋れないのか?俺の家族はそんな頭悪いって感じじゃないんだが・・・』


 微妙な空気に慌てて話題を逸らすトト。とは言え他の召喚獣について聞きたかったのは事実だった。


『召喚獣?召喚された妖かしのこと?』


『ああ、そっか。その理解で間違いない。それで?』


『凄く驚いたよ!妖かしと話が出来るなんて聞いたこと無かったから。カーバンクルはみんな話が出来るの?』


『どうだろう?事情があってカーバンクルの里から離れて暮らしてたからな』


 適当に誤魔化したがここに来てトトは盛大に失敗したことを覚った。こんな風に会話すること自体不自然だったとは。


『他の人間は俺が話せる事に気付いてないよな?この事は秘密にしてくれないか?』


『わかった。秘密にすれば良いのね?』


『頼む。これは何かと有利に働くからな』


 やけにあっさりと頷いたのが不安になってメリットを話しておく。


『トト。私からもお願いがあるんだけど』


 ネネは伏し目勝ちに切り出した。


『昼間のアイツと戦うんだろ?』


『うん、明後日の実技の授業で模擬戦をすることになってるの』


 本来召喚された妖かしには召喚主に従うよう術式が組み込まれていてお願いする必要はない。だがトトには術が効いていないようだった。元々強制する気はなかったネネだがトトの協力を得られなければ模擬戦は絶望的である。


『相手の妖かしはどんなヤツなんだ?残念ながら俺は妖かしと戦った事がない。俺の力は応用こそ効いても直接的な攻撃力は小さい。だから対策を練る必要があるんだ』


 トトにとっての最優先はリコだ。母さんも悲しんでいるだろうけど召喚されてはいなかったので安全だろう。ここは多少危険があっても模擬戦に協力して貸しを作り、リコの捜索に協力して貰った方が良い。


 リコは俺と同レベルでサイパを使いこなせるし滅多な事はないと思いたい。寧ろ今頃は召喚主を困らせているかもしれないな。


『ムエジニの妖かしはパイロンと言うの。大きな雄牛のような姿で風を操る力があってね。体当たりで何でも吹き飛ばしちゃうのよ!』


 ネネはトトが模擬戦に参加するつもりでいることが嬉しかった。ついパイロンの説明にも熱が入る。


『風を操るのか。まさか飛んだりしないよな?』


『跳んだところはあまり見ないけど出来ると思う。後は速く走ったり風で壁を作ったりしてたかな?』


『飛ぶ可能性があるのか。厄介な・・・まぁ体当たりがメインの攻撃ならなんとかなるだろう』


『んと、跳ぶ妖かしって珍しくないよね?』


『そうなのか?』


『トトだって跳べるでしょ?』


『まぁ頑張れば飛べるかもしれないが・・・』


 微妙にずれた会話をしていた1人と1匹だが気付けば結構長い間話をしていたようだ。既に太陽は地平線に隠れ辺りは薄闇に包まれつつある。


 ネネは左手の壁に掛かっていた籠から蝋燭を取り出すと、慣れた手付きで燭台に明かりを灯す。


『話はこれくらいにして水浴びを済ませちゃいましょ。トトも水浴びしたいでしょう?』


 ネネはそう言うと制服を脱ぎ出した。トトの事を気にする様子はなく下着までさっさと脱いでしまう。


 こっ、これは!今や俺は小動物に過ぎない。つまり見放題ということか!


 トトはこれ幸いとネネの脱衣シーンをじーっと凝視した。


 うむ、ネネは着痩せするタイプだな。何処とは言わないが素晴らしいものをお持ちである。カーバンクルの雌に対して興奮出来るか不安だったが人間の女の子には十分興奮するようだ。


 服を脱ぎ終わったネネは大人しく待っていたトトをヒョイッと抱き上げて一点を見詰めた。


『やっぱり男の子だったのね』


『!!!!!!?』


 前足の付け根を両手で持ち上げられたトトは前面の全てをネネの前にさらけ出していた。隠す事も出来ないカーバンクルの体が恨めしい。


『は~な~せ~』


 ジタバタと暴れるトトだったがネネが胸に抱き締めると途端に大人しくなった。心地よい熱と程よい弾力がトトを包み何だか甘い匂いまでする。


 お、お、お、桃源郷じゃぁ~!!


 至福を味わっていたトトに受難の時は迫っていた。洗い場に着くとネネがむんずとトトを掴む。はっと目を見開くトト。


『ちょっ、自分で出来るから・・・』


 イヤイヤと首を振るトトに対しネネは綺麗な笑顔を浮かべた。


『もう~観念なさい。自分じゃ洗えない場所もあるでしょ?』


 ネネさん笑ってる。ちょー笑ってるよ?!


『止めろ~~~ヒャッ?!』


 結局トトは頭の先から尻尾の先。アレやお尻の穴まで綺麗に洗われたのだった。


 ・・・・・・


 ・・・


 ・


『そんなに拗ねないで。ね?』


 ネネはトトを宥めながらも久しぶりに心が浮き立つのを感じていた。思わず頬が緩む。一方トトはと言えば・・・


『もうお婿に行けない・・・』


 ベットに潜り込んだまま暫く出てこなかった。

ちょっとほのぼのしてきました。

ネネも年相応の感情が出てきてるはず・・・

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