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異世界ペットライフ ~癒しと恐怖の獣~  作者: 狐の嫁入り
第2章 薄幸少女ネネ
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第11話 ネネという名の少女 転機

 マッカ村の目抜き通りと言える場所に異彩を放つ建物がある。この地域で豊富に採れる石材を使った家が多い中、日干し煉瓦を使って建てられたその建物は呪い師ノエヒム・ルシノフの家だった。


 石造りの家が見窄らしく思えて我慢ならなかったノエヒムが、実家の援助を受けてわざわざ低地から日干し煉瓦を取り寄せ、この建物を建てさせたのだった。


 ノエヒムはルシノフ準男爵家の次男であり、本来は呪い師などという怪しげな生業ではなく、正式に元魔法を学んだ魔法師であった。


 この世界の魔法は大きく分けて3つ。元魔法、召喚魔法、概念魔法がある。

 これは人間が便宜上分けたもので、それぞれの中間に位置する魔法も存在するが、おおよそ先の3つに分類出来る。


●元魔法

 妖かしの力を研究し人間が使用出来るように体系化した魔法である。地水火風の四元になぞらえ現象を操る。人間は妖かしと比べ魔力が小さいので個人では種火を起こす程度しか出来ない。そのため元魔法の真価は複数で連携したときに発揮される。


●召喚魔法

 その名の通り妖かしを呼び出す魔法。これは後天的に習得する事が出来ず、生まれつきの才能が必要である。妖かしを使役することで間接的に妖かしの力を行使するため術者本人は集中などの制限を受けない。ただし、出来ることが召喚した妖かしの能力に左右されるため汎用性は低い。


●概念魔法

 元魔法の基になった魔法。人間が解析できず元魔法にすることが出来なかった魔法の総称である。召喚魔法と同様に妖かしが直接行使するのため非常に効果が高い。




 ・・・大雨直後のマッカ村・・・


 ノエヒム邸の前には今日も村人たちが押し掛け、口々に罵声をあげていた。


「ルシノフ出て来い!俺たちが必死で畑の復旧に汗水垂らしてるってのに!」


「こんな事がないように俺たちは金を払ってたんだ!」


 ルシノフは鎮護謝という名で村人たちから金品を受け取っていた。村人たちが怒るのも当然と言えよう。

 このままでは門を壊して中に押し入ろうとする者が出てくるのも時間の問題である。ノエヒムは心の中で村人たちの無知を罵った。


 魔法は万能の力ではない!明日の天気などどんな魔法を使えばわかるというのか!


 その無知を利用し元魔法と話術で今の地位に就いた手前、言葉には出来なかったが怒りは収まらない。たが気になる事を村人が言っているのを聞いた。


「アフルドの娘が雨を予言した」と。


 アフルドの娘と言えば確か妖かしとよく遊んでいるのを見かけたな。恐れを知らん子どものすることと気にしていなかったが・・・


 調べてみるとアフルドの娘は妖かしから雨が降ることを聞いたらしい。

 ノエヒムには思い当たる節があった。召喚師の事だ。召喚師は稀有な存在で生まれつき妖かしの感情を読む力があるという。

 嘗て己の才能の無さから宮廷魔法師の道を断念したノエヒムにとって、それは憎悪の対象であり今の地位を脅かす邪魔者であった。


 宙を睨んでいたノエヒムの口に歪な笑みが浮かぶ。今の苦境から脱し、且つ、将来の脅威を排除する一石二鳥の手があるではないか!





 しかし、ノエヒムの策は村長の一言で頓挫した。あの娘は今も村に居座り続けている。だがノエヒムもただ手を拱いていたわけではない。

 行商人のアマルーフを使って召喚師の才能を持つ娘の噂をオルグレン領に広めさせたのだ。

 召喚した妖かしの能力に左右されるとは言え、召喚師は元魔法以上の力を行使出来る。目端の利く者なら噂に食い付いて来る可能性が高いと踏んでいた。それが今日、形となったのだ。





 村の北側、開拓現場へ続く山道の近くにアフルド一家の家がある。その家に珍しく客が訪れていた。


 使い込まれた革鎧を身に付け何かの紋章が縫い付けられたコートを羽織った壮年の男は、アフシャール伯爵家に仕える騎士ムティア・ルアンドと名乗った。


「お初に御目にかかる。私はこの地を治めるアフシャール伯爵タラール・ビン・アフシャール様の命を受け、ネネ嬢を迎えに参上した」


「ネネを迎えにですか?一体どういう事でしょう?」


 アフルドは酷く動揺した。ムティアを迎えるにあたってイスムたちには奥の部屋に行っているよう伝えている。今この居間にいるのはアフルドとムティアの2人だけだ。

 子供たちが失礼をしないよう配慮したためだったが結果的に功を奏した。


「結論から言おう。ネネ嬢には召喚師としての才能がある。この地で腐らせるには惜しい才能だ。失礼ながら事前にネネ嬢の事は調べさせて頂いた。この村での扱いについてもな」


「・・・間違いないのですか?召喚師など聞いたことがない。それにネネを連れて行くなんて・・・」


「召喚師の才能については間違いない。召喚師は生まれつき妖かしの感情が読めるという。心当たりがあるだろう?それに悪い話ではない。タラール様はネネ嬢を養女に迎えたいと仰せだ」


「ネネを養女に・・・」


 ネネはまだ7歳だが美しい容姿をしていた。側女として連れていかれる事すら考えていたアフルドだったが養女となれば話が違う。村娘への待遇としては破格と言える。アフルドは知らない事だったが召喚師とはそれほど貴重な人材なのだ。


「どうだ?なにもタダでとは言わん。相応の謝礼も用意がある」


「時間が欲しい、です。すぐに決められる事ではありません。妻や子供たちにも相談しなければ・・・」


「そうか、だが長くは待てん。明日の昼までに返事を伺いたい。そうだな、東門で落ち合おう。・・・これは独り言だが、一家全員が行方知れずになる事件もあるようだ。我らも治安維持に力を注いでいるが気を付けろ」


 ムティアはそう言い残してアフルド家を後にした。


 翌日の昼、東門にアフルド一家とムティアの姿があった。泣き腫らした顔のイスムを支えたアフルドは一歩前に出ると頭を下げる。


「ネネをよろしくお願いします。ネネ、また会える。それまで元気でな」


 ネネの頭を撫でると2人の目から再び涙が溢れた。ネネは無言で何度も頷く。


「ネネ、絶対会いに行くから」


「俺たちはいつまでも兄妹だからな」


子供たちもそれぞれ声を掛ける。イスムは堪えきれずアフルドの胸に顔を押し付け嗚咽を洩らした。


「・・・すまんな。道中の安全は私が保証する。ではネネ嬢行きましょう」


 こうしてネネは旅立った。半年後、アフルド一家もまた家や畑を処分するとネネを追うようにマッカ村を離れ、やがて村人たちからアフルド一家の記憶は薄れていった。


 余談だがアフルド一家がマッカ村を去って5年、大雨で発生した鉄砲水によって村は甚大な被害を受けた。多数出た死者の中にノエヒム・ルシノフの名前もあったのだった。

もう1話ネネのお話が続きます。


因みにマッカ村を襲った鉄砲水の原因は殺されたピグムが最後の力を振り絞って地中の岩盤に穴を開けていたためです。

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