第1話 未知との遭遇
仰向けで寝ていた俺が目覚めると、土で出来た洞窟チックな天井が見えた。
知らない天井だ・・・
寝惚けていた俺はとりあえず言ってみたかった台詞を心で呟く。
しかし冷静でいられたのもここまでだった!
一瞬で意識が覚醒しガバッと身を起こす。寝て起きたら知らない場所にいたなんて、恐怖以外の何物でもない!
どうなってんのコレ?
パニック状態の俺はこの状況の手懸かりとなりそうなものを探して辺りを見回した。
まず目についたのは先程の天井。人の手が入っているとは思えない粗い土壁がむき出しのまま側面から床までつながっていて、見た目は土で出来た洞窟のようだ。
暗くてよく見えないけど奥行きもそれなりにありそうで床部分は干し草と枯葉で覆われている。
うん、どう見ても人間の住む場所じゃないね。
手の込んだサプライズだったとしても近所にこんな穴なんて見たことないし、山に出かけた記憶もない。
少なくともプラカードを持った人や知り合いが飛び出してくることはなかった。
さっぱり状況がわかりません!ヘルプミー!
俺は成す術なく天井を仰いだ。
すぅすぅ~・・・はぁはぁ・・・
こうして天井を眺めていても事態は一向に改善しない。パニックをどうにか抑え込んで、冷静になるよう自分に言い聞かせる。
ここはどう見ても野性動物の巣だよね?
巣穴の大きさは良くわからないけど人間が余裕で寝転げる事を考えればここの主は大型犬以上の大きさはあるだろう。
日本で言えば熊あたりが妥当か?そんなものに会うなんて冗談じゃないぞ。
幸運なことに近くに主が居る様子はない。今のうちに逃げよう。
俺は光が見える方へ慎重に進もうとしてビクッと硬直した。
ガサガサ
奥の方で音が聞こえた・・・ような気がする。
息を潜めて音に集中する。奥の方から枯葉を掻き分けるような音が確かに聞こえてくる。音は徐々に近付いて来ているようだ。
俺は体を強張らせながら必死に念じた。
頼む!こっちに来るな!
息を殺すこと暫し俺の祈りも虚しくガサゴソという音が背後まで近付いてきた。
脳裏に腕を振り上げる熊の姿がチラつき振り返る勇気がでない。音の感じからしてもう直ぐそこだ。
あまりの恐怖で体が小刻みに震え出し、今にも心臓が飛び出ようかという瞬間、俺の背中に何かがのし掛かってきた!
「みぎゃー!?」
思わず意味不明の叫び声が出た。
死ぬ!死んじゃう!食べられちゃう!
熊の生態なんてよく知らないけど熊に襲われて怪我したってニュースは毎年やってるし、死人だって出てたはず。俺もニュースに出ちゃうの?
反射的に振り返った俺はそいつと見つめ合った。
・・・見つめ合い中・・・
思ってたのと随分違うな。
そいつはリスとキツネを合わせたような姿で短い前足を拝むように合わせながら円らな瞳で見つめてきた。
俺が急に叫んだため向こうも驚いているようで太めの尻尾がピンっと立っている。
めっちゃカワイイんだけど!
見たこともない翠毛は長めでツヤツヤ&フサフサ。後ろ足で立ち上がった姿は全体的に丸っとしていて額付近に紅いルビーのような石が付いている。
こんな感じの動物ゲームで見たことあるわ~
某国民的ゲームで“ルビーの○“とか使うマスコット的なあれ。確かカーバンクルという名前だったはず。
想像上の動物がいるなんてどうなってんの?いや、伝説上の生物だったっけ?
突然の謎生物登場に困った俺は癖で鼻先を触ろうとするがいつもと感覚が違う。指が思ったように動かない?
疑問に思って何気なく手を見ると意外と鋭い爪が生えた短い前足が目に入った。
えっ?
どう見ても目の前にいるカーバンクルと同じ手だった。試しにニギニギしてみると多少動かし難いがちゃんと思い通りに動く。
振り替えって尻尾が付いているのを見た時、初めて俺自身がカーバンクルになってしまった事を知ったのだった。
茫然自失状態から復活した俺は状況の整理を始めた。
これは所謂転生というやつだろう。夢とかVRとかを疑ったがどこか懐かしい土の匂いやカーバンクルの息遣いなど圧倒的な現実感がそれらを否定する。
人間だった頃の記憶を思い出そうとすると個人に繋がる記憶だけが思い出せなかった。それと何故死んだのかも。
まぁ突然の落下物に当たるとかテロにあって痛みも感じずに死ぬ可能性がないわけじゃない。寧ろ転生があった事の方が驚きだった。
俺があれこれと考えを巡らせている最中しつこく絡んできたカーバンクル(たぶん一緒に生まれた弟か妹)を尻尾で適当にあしらっていたらかなりご立腹のご様子。
言葉は通じなくても感情はダイレクトに伝わってくる。これが野性動物の感覚なのかも。感情を取り繕うのは人間だけってね。
慌てて宥めようとそっちに意識を向けると時すでに遅く頭突きを敢行してきた!
よし、そっちがその気なら受けて立とうじゃないか!
喧嘩はすぐにじゃれ合いに変わり疲れきるまで遊んでしまった。心も体の影響を受けるのかただ体を擦りつけたり走り回ったりすることがとても楽しい。
程なく2匹のカーバンクルはフカフカの干し草を寝床に寄り添って昼寝を始めるのだった。
初めての投稿です。
これまでは読む専門でしたがふと思い付いたこの話を書いてみることにしました。
拙い文章ですが一時でも楽しんで頂ければ幸いです。
更新はかなり不定期なると思いますが頑張ります。