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5、父娘の攻防

滞っていてごめんなさい。ごめんなさい。活動報告も書きました。

5/21 メティアお嬢様→お嬢様に直しました。それだけです。

 コンコンコン。

 朝の支度を済ませた頃、ノックの音がしたので入るように促す。

「おはようございます、お嬢様。今朝はお召し替えに立ち会えずに失礼致しました。お誕生日おめでとうございます」

「気にしないで。ありがとう、リラ」

 私が自身の部屋を持つようになってから、私についてくれるようになった侍女、リラが優しい笑顔と共にくれたお祝いの言葉に柔く笑って返す。

 もうお察しいただけたかと思う。

 本日は私、メティアの、五歳の誕生日だ。


 子供の成長とは早いもので、ここまであっという間だった。背も伸び、足も丈夫になったし、流暢に喋るようにもなった。

 ……魔法? 結論から言うと、今私は魔法を齧ってもいない。他のお勉強はもう始まっているのに。

 勿論何もしなかった訳じゃない。寧ろ努力したと言っていいだろう。

 ただ、やむを得ない事情があった。


――私は当時二歳で、普通より少し早く喋るようになり、両親に直談判した。

 お母様は、本人にやる気があるのなら、十分怪我などには気を付けて、もう少し大きくなったら、と言う条件で許してくれた。

 問題はお父様だった。お父様は「そんなの危ない」と言って許してくれなかった。気持ちは分かるけれど、こちらも引けない。何も今すぐと言うわけにいかないのは分かっていた。だから、お母様みたいな返答を期待していたのだけれど。


 思えば前世で騎士になりたいと言った時もそうだった。最後まで反対していたのはお父様だった。最後は渋々と言った風に許してくれたけれど、あれは裏でお母様の説得があったからだと私は知っている。


 そして、今回もそうなった。

 お母様が説得してくれて、三歳になったら、本当に少しずつなら、と言う条件で許してくれたのだった。正直もっと後からだろうと思っていたから嬉しかった。


 ……けれど、この話だと今の私はいくら少しずつと言っても、才能がないとしても、既に魔法の一つや二つ覚えるはずだろう。なのに、齧ってもいない。ちなみに自身の属性すらも分かっていない。


 簡潔に述べると、約束は実行されなかった。

 なんとお父様、私が三歳になった日に、色んな理由をつけて、さらにはその整ったお顔をシュンとして見せて、私の心を巧みに操り、見事一年の先伸ばしを勝ち取られたのだ。

 はやる子供心からしたらとても長い一年の先伸ばし。それでも私は耐えた。私は大人、と何度癇癪を起こしそうな子供心に言い聞かせたか知れない。

 なのに、その翌年もそれをやられて、また一年先伸ばしに——そうして現在に至るのだ。

 だが、今年こそはそんなことはさせまい。

 意地でも私は折れない。例えお父様が"シュンとする"を使っても――


「いいかい、メティア。君はまだ、年齢も体も小さいから、お父様は賛成できないな。寧ろ反対だな。……ね? メティアはいい子だから、お父様の言うこと分かってくれるよね? もう一年だけ様子を見てからにしよう? それからでも遅くないはずだよ」

「っや! 私、魔法を使いたいんです! 優しくてかっこいい、理解あるお父様なら分かってくれますよね?」

 毎年恒例の攻防。

 お母様も使用人さんもお兄様も慣れたもので、今では一部は柔らかな微笑みまで浮かべ、こちらを見守る。

 そして現在、お父様は既に少しシュンとしていて、私はそれに抗っている。

「メティア……君も口が上手くなったね。でもお父様は反対だ」


 おだてると言う手を去年から使い始めたが、どうも効果が薄い。なので今年はもっと分かりやすく言ってみたけれど、さすがにあからさま過ぎたか。お父様は少し頬を赤くしながら、たじたじ、と言った風だ。

 ちなみに、皮肉っているつもりはない……多分。

「お父様……。私、思うんです。公爵家の子女として、これから外に出る機会も増えますでしょう? そうなるとやはり身の危険もあるでしょうし、その時に自分の身を守れるようにしたいと。だからどうか、魔法を学ばせてください」 

 嘘は言っていないし、言う"危険"が本当に危険なものだから随分顔は真剣だろう。日々迫力を増す、"今年こそは"と言う思いも真剣さに拍車を掛けている気がする。


「メティア……」

 言ってからハッとした。

 今のは少々五歳児らしくない言葉だった気がする。迫力余って精神年齢の方が出てしまった。

 無意識に目を伏せる。

「メティア」

 お父様は私のボロに気付いているのかいないのか、真剣な声で名を呼ばれて、目線を上げる。

「は、はい。お父様」

愛娘(メティア)のことは、お父様が守るから……。だからどうか、お父様に守られておくれ。小さくて可愛い、私の大事なお姫様」

「…………」


 真剣な顔で何を言われるかと思えば。

 心配した私が間違っていた。そう、お父様はこうだった。家族の女性にすごく甘いのだ。肝心なところは許してくれてないけど。

 普通なら女性を口説く時に使うような甘い言葉だって私に使う。勿論お母様にも。何でも、この甘い言葉の数々の原因は、昔お父様達が学生の頃に遡るらしい。

 まあ嬉しくない訳じゃない。お父様は格好良いですしね。

 だが、絆されない。私はここで、お父様に攻撃をしようと思い立つ。


「お父様」

「なんだい? メティア」

「私を守ってくださると仰いましたけれど、お父様はお仕事で忙しいのを、私だって知ってるんです。ずっと一緒にいてくれるなら、私は嬉しいですけど、お父様のお体が心配になっちゃいます。それに、お父様はお母様だって守らなきゃでしょう? やっぱりとっても危ないときには、私を守れるのは私だけだと思うんです」

 私は真面目な声で、でも子どもらしく少し拙い風にそんなことを言った。

 お父様は、お姫様……云々もそうだが、男として、惚れたお母様も守りたいだろうし、お仕事もある。何より窮地に立った時、自衛は大事だ。きっとお父様が思う以上に私の言葉は重い。

 怪しまれぬように言葉を選びながらも、子どもらしくないことを言っている自覚はある。

「メティア……いつの間にそんなに大きく……私の心配までしてくれて……」

 ……お父様は何故か少し感動しているような表情を見せている。

 言葉から察するに、愛娘の知らぬうちの成長に感激しているのか。少々残念がってもいそうだが、もしかして……これは意外と、もう一押し?


「そうなんです、お父様……。私、素晴らしいお父様方のお陰でここまで大きくなれました。なので、もう魔法を学んでも」

「それとこれとは違うかな」

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