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4、具体策を講じよう

「ぅ……ん~」

 朝だ。眩しい朝だ。


 寝起きはいい方だと思うが、やはり重たい瞼を持ち上げて、朝の光を瞳孔に取り込む。

 いつもは起こされるのだが、それより早く起きてしまったようだ。やはり昨日のことで、少し眠りが浅くなっていたのかもしれない。


 おはようございます。いいお天気です。

 ……ええ、はい。ゼラン様との再会――きっとゼラン様からしたら初対面だったけど――から一夜明けました。




 私が泣いてしまったあの後、「あら。メティアは、初めましての人は苦手なのかもしれないわね?」なんて言って、お母様は速やかに私を回収し、あやしてくれて、涙も止まった。

 それで事態は収束したかと思われたものの、なんとゼラン様、めげずに再び私に近付いてきました。

 それからはもう……何と言うか、その場にいた両家ともが少しずつ気まずくなっていったのが幼い私の肌にも感じられた。

 でも、一度溢れた涙を抑えることもできなくて……。

 ゼラン様が近付いて、私が泣いて、お母様にあやされて、またゼラン様が近付いて、私が泣いて、お母様に――これを繰り返した。

 ただゼラン様だけはずっと楽しそうに笑ってた。……怖かった。

 私は最早ゼラン様の精神力、諦めない心に感動しながら泣いた。


 そんなこともあり、私はますますゼラン様が苦手になった訳ですが……。




 私は気付いてしまった。このままではダメだと。


 フラグを回避して寿命を全うする! と決意を固めたはいいものの、私は具体的な案は出していないのだ。私としたことが失念していた。


 という訳で、具体的に策を講じようと思う。


 思い立ったが吉日。朝食を終えた私は、早速部屋で考え始めた。


 少し離れた場所にある机では、お母様が読書をしながらお茶を飲んでいる。何でも、お友達にオススメされた本らしい。


 そちらも少し気になってしまうが、思考を再開しようとムムム、と一人眉を寄せた。




 まず、何事も原因究明からだ。


 死亡フラグの思い当たる原因は?


 ゼラン様は言った「婚約者(きみ)は邪魔になったんだ」と。

 好きな人が、エリーナが現れたから――もう愛してなどいないはずなのに少し感傷的になりかけ、それを無理矢理抑え込んだ。

 なら、邪魔にならないようにすればいい。

 そう、婚約回避。これが一番単純な結論だ。


 一番の目標はこれで決まりでいいだろう。



 だが、そう上手く婚約回避ができるかと言われれば、そうは思えない。

 何と言っても、御家のことだってある。努力はするが、無理を押し通そうとして、両親をあんまり困らせるのも気が引ける。


 どうしても無理だった時……無論平和的解決が一番だが、何せシナリオだってある。そう簡単に殺されないように強くなろう。


 体を鍛える。

 ……いやこれは前世でも、結構ストイックにしていたつもりだ。あれ以上というのはちょっと無理だ。私だって令嬢だ。あまり筋肉をつけすぎて、体のラインもムッキムキになってしまっては少々困ってしまう。

 これは前世と同じでいこう。


 それよりこの世界には他にも身を守る術がある。

 ……そう、魔法。


 前世ではゼラン様ばかりを追いかけていた。

 ゼラン様は自らの剣で戦うのを基本としていて、魔法はあまり使わなかったので、私もそれに倣った。

 少なくとも学園で習ったものは一通り使えるのだが、ほとんど使うことはなかった。

 ただ、あの時使った治癒術だけは別で、得意であったし、職業柄役に立つだろうと思い、それなりに身に着け、使っていたものだった。



 それでは、今世ではもっと他の魔法にも興味を持ってみよう。


 だが、ここで一つ問題がある。

 魔法は治癒魔法の他に、防御魔法、攻撃魔法。転移魔法もあるが、魔法には"属性"というものがあり――ここでは"属性"についての説明は省かせてもらうが――転移魔法なんかは特定の属性持ちにしか使えない。ちなみに治癒魔法も同じだ。

 防御魔法、攻撃魔法も全属性それぞれ使えるものが違って、属性が違えば発動しない。

 つまり、まずは属性を調べないことにはどうしようもないのだ。

 前世では調べたし、同じ人物なのだから恐らく変わりないと思うが……調べないことには正確なことは分からない。


 そして調べる機会というのは、このアルカルバ王国の王都にある学校、アルカルバ学園に入学してから。それも中等部に進学する時――年齢的には14歳。……まだ随分先だ。そんな先まで待てない。

 幸いなことに先人達は、魔法の属性を個人で調べるキットを――それなりにいいお値段ではあるが――売り出してくれているらしい。それを使わせてもらおう。

 とは言ってもまだ一歳児。買い物には行けやしないし、欲しいものも強請れない。


 生活魔法に含まれる程度の無属性の衝撃波とかそういうものなら属性も関係なく使える。

 だがそこで、じゃあとりあえず衝撃波を、なんて言って、体が魔力の制御も覚えぬまま使っては怪我をすることは目に見えている。

――つまりは、やはり先のことになる訳だ。


 しかし、ぽけっとしていては、学園の授業まで魔法の勉強はさせてもらえない。

 そこで、何でも魔法には力を入れる御家――代々魔法で名を馳せた人物を多く輩出している御家――では入学前から講師を招いて学ばせるらしいというのを思い出した。

――よし、その方法でいってみよう。

 何歳からならいいだろう。あまり小さくても両親は許してくれないだろう。危ないし、当然だ。

 だが、善は急げ。なるべく早いことに越したことはない。……やはり喋れるようになったら交渉を開始しよう。



 と、ここまで話して今更だが、一番平和的な方法もあるのだ。

 それは、ヒロイン(エリーナ)がゼランルートに入らないこと。

 だが、こればかりは本当に未知だ。

 エリーナは今何処にいるのか――確か設定は同い年だったから生まれてはいるだろうが――皆目見当がつかない。

 大体、会ったってどうするというのか。「ゼラン様には近づかないで! じゃないと私が死ぬかも知れないの!」とか? 無理だ無理。頭のおかしい人認定をされてしまう。

 ……エリーナに関しては、ただ祈る他ない。


 確か彼女が現れたのは、私が二十歳だった時か。もうすぐ結婚を控えていた。……勿論ゼラン様との。

 この国の貴族は婚期が成人になる十六歳から二十歳までなので随分待った方だった。全ては家を継ぐまで騎士として頑張りたいと言ったゼラン様の為。

 だが、あんなことになるなら早々に結婚をしていればよかったのかもしれない。エリーナだって、既婚者だったら手を出さなかったと信じたい。

 でも森での、あのおめでたい様子を思い出すと、やはり結婚していなくて良かったかもしれないという気持ちを否定できなかった。

 ……とにかく、そんな歳まで分からないのだ。彼女がどのルートに入るかは。

 それもヒロイン(エリーナ)は、とりあえず皆と仲良くなって一人を選ぶので本当に最後まで分からない。厄介だが仕方ない。



 今の私に出来ることは、可能性を潰しておくことだけだ。



 ……とりあえず今は、うっかり婚約の約束やなんかをしないようにしないと。

 確か正式な婚約は、国に書類なんかを提出した。それが可能なのは、八歳くらいだったはず。それまでは口約束。婚約の約束だ。そして大体それは実行される。

 それを避けるには、きっとあまりゼラン様と仲良くならない方がいいだろう。



 よし。

 今後の具体的な方針が大方決まった。


 まだ私の人生は始まったばかり。



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