3、初対面だけどトラウマ
3/23 お出迎えの所の主人公の重さの表記などを修正いたしました。
しまった。
ここ最近、というか生まれてから、平和な日々が続いてすっかり油断していた。
そんな私に、神様は警告をしたいのかもしれなかった。
全ては今朝のお母様の言葉で始まった。
「聞いてちょうだい、メティア。今日はね、ラミラがご家族と遊びに来てくれるのよう! うふふ、楽しみね! あっ!ラミラっていうのは私の親友よ」
私はその言葉に驚きを隠せず、朗らかな笑みを浮かべて私のベビーベッドを覗き込むお母様を瞠目して見た。
"ラミラ"とは、ラミラ・ランベルト様。ランベルト夫人だ。……ゼラン様のお母様。その人が、ご家族で。……そう、もうお分かりだろう。みなまで言わずともよかろう。
私はムムム、と悩ましげに眉間に皺を寄せるが、親友が遊びに来る、とルンルン気分のお母様は気付かない。
「メティアより、一つ年上の息子さんも来てくれるの。仲良くするのよ? ふふ」
うむ、ゼラン様で間違いないだろう。ゼラン様は私より一つ上で、ランベルト家の一人息子だった。故に、ランベルト公爵はきっとやむなく罪を揉み消したのだろうから。
(うぅ、仲良くするとかしないとかの前に、会いたくないですお母様……)
お母様はルンルン。
私は内心泣きそうだ。
結局、まだ上手く喋れない私が、可憐な少女の様にはしゃぐお母様に対して成す術など持ち合わせる筈もなく、とうとうランベルト一家は我が家にご到着なさった。
まだ生後一歳と一ヶ月の私は、立てるけれど、そう多く歩けない。
となると、抱っこをしてもらうことになるのだが、体も小さくか弱いお母様の腕には、きっと五キロ程でも大変だろう。もうそれを優に越える私を抱えるのは困難だろうと言うことで、本人からの申し出もあり、私はお父様の腕の中からお出迎え。
軽い足取りのお母様に続き、門先に行けば、そこには見目麗しいランベルト一家。
右にゼラン様のお父様、現ランベルト公爵家当主、セドレー様。左にお母様、ご夫人、ラミラ様。その間に二人に手を繋がれ、一人息子、ゼラン様が立っていた。
(前世ぶりですねゼラン様。……なんて)
私がそんな下らないことを思ってる間に両親達はご挨拶もそこそこに客間へとランベルト一家を通した。
「やっと会えたわ~! こんにちわ。貴女がメティアちゃんね~。や~ん、可愛い! ちょっとセドレー! 見て! この可愛さ! しかもこの柔らかさ……気持ちいいわぁ~」
「ぶぅ」
客間に通されて、私を母から紹介されて……それからずっと、ソファーに座る私の頬をツンツンしたり、手足をにぎにぎして、はしゃいでいるご夫人。
それを少々呆れた目で見る公爵。
「すいません、妻は本当に今日という日を楽しみにしていて、はしゃぎ過ぎてしまっているようで……。
ほら、ラミラ、可愛いのは分かるけど、少し抑えて……」
「セドレー……。だって……可愛いんですもの……お預けなんて辛すぎるわ! ムリ! メティアちゃ~ん」
「あう~」
「あの、ラミラ……! だから……! メティアちゃん困っちゃうし……!」
先程からこれの繰り返し。
止める公爵、駄々を捏ねるご夫人。
いや、私としては、さすが母と言ったところか、にぎにぎされるのはマッサージみたいで気持ちいいし、ツンツンも痛くない。少しくすぐったいだけ。だから、大丈夫なんだけどな。
「ふふ、良いのですよ。メティアも気持ち良さそうにしているし、気にしないでください、セドレー様」
二、三分それを見てから、その間くすくすと小さく笑っていた母がやっと止めに入った。
そろそろ、こちらに申し訳なさそうなランベルト公爵がかわいそうになってきたので、止めてもらえて良かった。
今のやりとりを見ていて、公爵も、ご夫人も、変わらないものだと思った。
……つい、前世に思いを馳せる。
ランベルト公爵は、お仕事になると、キレッキレ。今はまだ違うだろうが、ゆくゆくは宰相となる実力者の癖に、普段はこんなになよなよというか……ヘタレだ。
ご夫人は、天真爛漫で明るく、お母様とは対照的に活発で公爵を振り回していた。
きっとこの対照的な部分がパズルのピースのように嵌まったからお母様達は親友なのだろう。
私もお二人の事は嫌いじゃなかった。むしろ、好きで、第二の親みたいに思っていた。
けれど、私の死の真実を揉み消すのは紛れもない、この人達だ。
いや違う。この人達は、まだそんなことはしていない。それでもいずれ……でも、でもこの人たちだってやむを得なかった。一人の優秀な息子を守るために――だったら親友家族を傷付けることは、自分達を慕っていた一人の娘の死は正当化されるのか。隠蔽されるべきものなのか。
……つい考えてしまったことは、ぐちゃぐちゃなままのとても悲しいことだった。まだ私の心にあのことは整理のつかないものらしい。
それを受けてか、私は眉間に皺を刻んでいて、むうぅ、と唸るような声も漏れていたらしい。ご夫人に変な目で見られてしまった。ただ、決壊しなかった幼児の涙腺は褒めてやりたい。
「メティアちゃん、ご機嫌斜め?」
(違います。違いますよう)
寄せていた眉を戻した。
「? 良かった、ご機嫌戻ったのかな?」
「この子表情が豊かで、コロコロ変わるのよ~。面白いでしょう?」
「まぁ。そうなの? ふふ! そうね! 可愛い」
私を挟んでお母様達は会話を楽しんでいる。
表情がコロコロ変わるだって。そうだったのか、私……。
「あら、ゼラン? どうしたの? あなたもメティアちゃんが気になる?」
ふと横を見ればゼラン様が、二歳にしてはしっかりした綺麗な足取りで歩いて、私を触るため中腰になっていたご夫人の足元に来た。
何だかそわそわした様子でこちらを見ている。
……改めて見ると、彼も前世と変わらぬものであった。あまり小さい頃の彼は覚えていないけれど、成長しても変わらぬ母親譲りの緑の瞳と、父親譲りの柔らかい黒髪のストレートヘア。
これは確かにゼラン様だ、そう思うと、嫌でもあのときのことが思い出された。
私を殺したゼラン様じゃないのも、お母様達も居て安全だというのも分かっているのに、分かっているのに、奥底から沸き上がる恐怖心や感覚は消えてくれなくて、体が僅かに強張ったのが分かった。無意識のうちにまだ幼児らしくふくよかな腹部にやっていた手は握り混んでいて、入りすぎた力が指先を白くさせていた。
まだ僅か二歳のゼラン様が口を開く。
「メティアっていうのですか? この子」
「ええ、そうよ~。ゼランくん、仲良くしてね?」
「……はいっ!」
お母様が優しく言うと、やや間があってゼラン様は何とも無邪気な笑顔で大きく頷いた。
その様子を私も見ていて、純粋なゼラン様の笑顔により少し恐怖心は和らいだと思ったのに、体の強張りは解けなかった。
その後、私を構うのもそこそこに、お母様達両親は様々な話題で盛り上がっている。ゼラン様のことや、私のこともあったし、他にも社交界や世間話も。
私は放置されたことで、うとうととしながらもその話を聞いていた。
「すこし、メティアとあそんでてもいいですか?」
(えっ!?)
ゼラン様は何を思い立ったか、急にこんなことを言い出した。
「ええ、勿論。いいわよぅ」
お母様から許可が出るなり、ゼラン様はこちらへ来て、私の横、お母様が空けたスペースに腰掛けた。
お母様に縋るような視線を向けるも、お母様はさっさと大人同士でのお話には戻っていた。
(お母様あぁ……)
座るなりゼラン様はじっとこちらを見つめている。
(何、これはどうしたらいいの、どんな試練なの……)
私は怯えてしまいビクビクしている。
「……可愛い」
私にはよく聞き取れなかったが、小さく何か呟いたゼラン様はクスリと笑って、手を伸ばしてきた。
(――!)
体が石のように固まった。
きっと今私は泣きそうな顔をしているであろう。
手が頬に触れて、ぷにぷにする。
もう一方の手は、お腹に置かれた私の手に重ねられた。
ふにふに、ぷにぷにされるのは赤子の宿命なのだろうか。
(……ムリ。怖い)
私はとうとう泣いてしまった。
でも私の涙腺は今日、よく頑張ったと思う。決壊もまぁ仕方ないよね。
ありがとうございました。
引き続き頑張ります。
ところで、書いてて、お兄さんやゼランさん目線のお話も書こうかなとか思ったりします。必要性はちょっとよく分からないです。