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1、二度目の私と、記憶と、決意。

 しばしご無沙汰しておりました。とうとう、生まれ直させました。始まります。

 色々(赤ちゃんとか、赤ちゃんとか)、難しいです。

 今回もよろしくお願いします。

「ほぉら、メティア~! こっちよぅ」


「だぁう」


 私はすっかり身に馴染んだ名前を呼ばれ、その人の方へ、まだ発達しない手足を、必死に動かし向かう。


「きゃ~! 可愛い! 見て、エル! 可愛いわ! 私達のメティア、可愛いわ~!」


 私が、正座したその人の膝辺りに辿り着いた途端、その人に抱き上げられる。

 見れば、たわわな胸程まで伸ばした、緩くウェーブのかかったブロンドをふわふわと揺らし、髪と同じ金の瞳をキラキラさせ私を見つめる、若い女性。


「まー」



「ああ。そうだな、シェリア。とても可愛い」


 そしてそんな女性に寄り添い、これまた私の顔を覗き混む、こちらは紺色の短髪で、深い青の綺麗な瞳を持つ、少し固い雰囲気の男性。だがそれは、今は緩められた頬によって、何とも優しそうな印象を受けた。


「ぱー」



 簡潔に述べよう。彼等は私の両親だ。名前はシェリアと、エルモンド。いやはや、またこの人達の顔を見られるなんて、驚いた。しかも、若い。


――なんと、私はもう一度、メティアとして生まれたらしかった。





 当然だが、神様は何とも分からない。

 殺された人物にもう一度生まれ変わるなんて。どういう意図があるのか……。もう一度、殺されろと言うことなのか? ……どんな拷問だ。

 ……それとも逆に、これは試練で、これを乗り越えれば、きっと素敵な未来が……? いや、それはないだろう。

 例えば、もしも私が、あの時――殺されてしまったとき――ゼラン様から逃げられていたら? そう考えてみたが、あの時、既に彼の心はエリーナ嬢に奪われていた。……ちなみにあの様子では、彼の心は元から私の元にあった訳ではないので、悲しいかな間違っても"私から"奪われた訳ではない。

 そんな彼から逃れられたとしても、後日には彼から、婚約破棄というやつを言い渡されるだろう。……そうなれば、ショックで自分の手で、己を殺してしてしまうかもしれない。

 例え、その理由が相手の色ボケ達の自分勝手なものでも、いくら相手に非があっても、それを周囲が理解してくれても。はたまた、閉じ籠ってしまうかもしれない。

 あれだけ、彼をお慕いしていたのだ――それこそ、いざ剣を向けられても、実際にぶっ刺されるまで、悪い冗談だと思っていた――否、思いたかったのだ。


 それに何とか婚約破棄のショックに耐えたとしても、公爵家嫡男に婚約破棄破棄をされたら――しかも理由が、男爵令嬢に奪われて、とのこと。そんな事では、もう貰い手が無くなってしまうかもしれない。そういうものなのだ、この国の貴族は。やたらと体裁を気にする。

 そんな暗澹たる未来に、人生の全てを賭して背中を追い掛けていた愛する人に捨てられた乙女が、耐えられるか。……答えは、否だ。結局これも、自殺か引き籠りコース驀地(まっしぐら)だ。



 そもそも。

 ここは……この世界は、乙女ゲームの世界らしかった。

 信じられないかもしれないが、前々世の記憶によると――そう、あの時、激痛を伴ったあれだ――私は前々世で日本を生き、その"乙女ゲーム"をしていて、この世界は、人物は、その乙女ゲームと似ている。……というか、そのままなのだ。


――そして、"ヒロイン"はエリーナ嬢。ゼラン様は"攻略対象"。私は俗に悪く言って"悪役令嬢"、良く言って"ライバルキャラ"、と呼ばれる者だった。


 そのゲームの内容と言うのはこうだ。

 両親を幼い頃に亡くし、その身を引き取って貰った親戚のおばあさんも最近亡くなり、カフェで働きながら貧乏な生活を送っていたヒロイン(エリーナ)に、ある日、フレリンズ男爵家より迎えが来て、実は、死んだと思われていた父親が、フレリンズ男爵だったことを知らされ、そのまま養子入りをする。

 そんなヒロイン(エリーナ)が、魅力的な貴族達と出逢い、目眩くロマンティックなラブストーリーを繰り広げ、時に試練を乗り越えて、幸せを掴む。そんなシンデレラストーリー。


 一方、悪役令嬢なんて、損な役回りのメティア(わたし)は"シナリオ"で、ゼランルートでのライバルキャラとなっている。

 想いの通じあったヒロイン(エリーナ)達を、婚約者という立場を利用し二人の幸せを邪魔して、嫌味を言ったり――婚約者に手を出されたのだから嫌味を言うのは至極自然のことかと思うし、婚約者と言う立場は、お家同士の事も……というか主にお家同士の事で、決してメティアのせいではないのだが――


 そんなメティアはある日、王都から程近い森で、任務中に崖から足を滑らせ、そこに偶然賊がやってきて襲われ、弱っていたメティアは呆気なくその命を奪われてしまう。

 するとゼラン様とヒロイン(エリーナ)、これ幸いと、二人は結婚。幸せに暮らしましたとさ。


 ……と、まあ、ふざけたものだ。"これ幸い"と記したが、本当にこれ幸い、と言った様子だった。

 ゼラン様は直ぐにヒロイン(エリーナ)と婚約してしまうし、ヒロイン(エリーナ)はもっと酷かった。「これで私、ゼラン様と幸せになれるのね! ふふっ」と零す始末だった。言ってることはまさに悪役のそれ。――これではどちらが悪役か……いや、婚約者のいるものに手を出したのだから、現実(ほんとう)なら、どれをとってもヒロインなのだけど……。

 これを見て私は(この子は、凄く残酷な子なんだな……)と幻滅した。それは当然皆同じだったらしく、ネットでは公式のSNSが炎上。凄く叩かれていた。



 ……何も、炎上した理由はそれだけではない。

 何と、メティアの死の不審点についても、作中に書かれていたのだ。何故、ヒロイン(エリーナ)目線のお話に、そんなものを混ぜたのか、それは今でも分からないのだが……そして、それは握りつぶされた、とも。


 メティアの同僚は語る。「普段なら、彼女はあんなミスはしない」と。

 よく森へ薬草を取りに行く、城下町の薬屋は言う。「あんな閑静な森で、人を殺すような賊など、聞いたことがない」と。

――結局、王宮の上層部が出した結論は"メティア様は、運が悪かったのだ"。

 ……全く笑わせてくれる。公爵令嬢が殺されて、"運が悪かった"。それで済ませたのだから。これでは、波紋を呼ばない方が驚きだ。


 当時は只、それでいいのか、と疑問を抱くだけだったが、こうして経験した今ならわかる。

 ……間違いない。これはゼラン様が裏で手を回していた。ゼラン様は公爵家嫡男だ。しかも、ゼラン様のお父様は宰相と来た。公爵令嬢の死。実際は嫡男が……一人息子が、手にかけた。……そんな真相を握り潰すことも、可能だ。

 貴族社会を経験した身なので分かるが、一部の権力大好きな貴族は、私の生家、ローレント公爵家に恩を売るとか、媚びるとか、他を引きずり下ろす為に使いそうなネタだったのに、食いつかないのはおかしいと思った。

 こう言うことなら、納得だ。

 ローレント公爵家に恩を売っても、ゼラン様の御家、ランベルト公爵家に睨まれては困る。私の父も外交大臣なんて立場ではあるが、きっと、大きなプラス要素を作り、共にそれに負けないマイナス要素も作るより、プラスマイナスゼロを選んだのだろう。私はそれで賢明だと思う。……もしかしたら、正義感から動いた者もいたかもしれないが、大方――私の様に――消されてしまっただろう。

 ……家族は大丈夫だっただろうか。まさか消されてはいないだろうか? 父も母も前世も可愛がってくれた。彼等の娘を失った悲しみは如何ばかりか。……親より先に死ぬなんて、悔やまれるばかりである。



 大体、メティアが何故"悪役令嬢"とされたのかも、当時からプレイヤーに疑問視されていた。

 作中でのメティアは、やはり騎士。スレンダーな身体も相俟って、そこらの男より格好良かった。更に流石公爵令嬢と言ったところか、振る舞いの端々に溢れる上品さ。言っていることは、他のルートの婚約者……悪役令嬢より、至極真っ当だったし、嫌がらせと言われるようなことは、何もしていなかった。いつだって、ヒロイン(エリーナ)に真っ正面から物申すだけ。……正直、同性ながらに惚れそうだった。


 それなのに、メティアだけ死ぬ。

 しかも他の、メティアよりずっと質の悪い悪役令嬢とは友達になることだってあったのに、メティアとは一切ない。ヒロイン(エリーナ)は只管「あの……今日、メティア様が……」と泣きそうな様子でゼラン様に縋るだけだった。

 そして、その内容にも、なんだか、ヒロイン(エリーナ)の被害妄想が入っていた様に思う。

 通して見ると、どうしても話が噛み合わなかったのだ。

 何よりいつも、語られるのは全て終わった後。彼女の回想で語られるのだ。勿論選択肢は無し。問答無用にメティアのイメージは暴走していく。


 プレイ当時、何故彼女と友達にならないのか、もどかしく思ったものだ。彼女なら、真摯に話し合えばきっと、横槍であろうヒロイン(エリーナ)をライバルとして認めてくれたであろうし――今言うと自画自賛みたいで、くすぐったいが――それくらい良い人だった。

 製作会社は、メティアに何か恨みでもあったのか。自分達が産んだキャラにここまで酷いなんて……。まぁそんな製作会社の恨みは、今さら知る術もないので、さておき。



 ……そこまで話して、言いたいことが一つ。これをゲームの世界だとして、シナリオがまた始まるとして。

 ……私は、このままでは、多分また死ぬ。殺される。だけど、そんなループ私はお断りだ。

 愛する貴方になら殺されても――なんてことも世にはあるけれど、今の私はそんなの御免だ。既に不本意に殺されて、百年の愛も冷めた。

 そして、今更ながら改めて言うが、私には前世と前々世の記憶が、ちゃっかり備わっている。

――これを利用しない手はない。


 もう、騎士になることを心配しながらも許してくれた両親を、悲しませたくはない。互いに切磋琢磨してきた同僚達に、迷惑は掛けたくない。騎士として、また公爵令嬢としての誇りを持って、足を滑らせたとか、賊などに殺された、なんてことにされたくない。



――何とか、死亡フラグを回避して回避して、私は寿命を全うしてやるのだ!


 ……密かに決意を固めた。メティア、生後八ヶ月と半分。

 長くなりそうな闘いの前、穏やかな日常の流れる中、私は内心意気込んでいた。




 

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