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第6話 隠し事ですか?

 駆け込んだリビングの隅っこには、私の顔があった。お供えものもちゃんとある。写真の中で、私は悪戯っぽく目を輝かせてしたり顔で笑っていた。

 ……あの、これ確か中二病な発言してるときの写真ですよね? 何でこれにした?


「あ、おい! ……すみません、妹が」


「いいのいいの。元気ね、妹さん」


「元気すぎるのも困りものです。失礼します」


 玄関の方から声が聞こえる。兄が迷惑そうな声で『困りものです』って言ったのもしっかり聞こえた。

 小さいうちは騒いでも疲れないから、仕方ないでしょ。


「おにーちゃーん」


 リビングに入ってきた兄に駆け寄ると溜め息を吐かれたが、直後にピタリと動きが止まった。

 その視線の先にあるのは……私の、遺影だ。中二病な発言してるときの、私の、写真………本当、何でこれにしたんだろ。


「可愛い? ねえ可愛い?」


「本当に……死んでたんだな……」


「ねえ可愛いって聞いてるでしょ!?」


 小声で聞いてみるも無視されました。寂しい。もっと構って!

 じっと遺影を見つめる兄に、お母さんが後ろから説明を入れる。


「四年前に事故でね。お線香、あげてくれるかしら。きっと喜ぶわ」


「分かりました」


 明るく笑ってみせるお母さんと真剣に頷く兄を見て私は思った。



 私、転生してここにいるんだけどね。



 言わないけど。言ったところで病院行かされそうとかたった今思いました。






 兄が線香をあげ終わってから、私達はお茶会タイムへ。私にとってはお菓子パーティ。


「むぐむぐむぐむぐ」


「まさか美樹が人助けをしていたなんて、驚きだわ~」


「そうだね。あの面倒臭がりな美樹が」


 ちょい待ち。お母さんと叔父さんの私の印象ってどうなってるのさ? そりゃ、困ってる人を見かけたら助けるよ? 助けたお礼にお菓子くれないかなとか思っちゃうけど、助けるよ?

 兄が憐憫の意を込めて私を見ているのがつらいです。やめてその目。あっ、ちょ、何で溜め息? 呆れですかそれは!


「でも、地味だったけど悪い子じゃなかったわね」


「うん。何でも興味無さそうにしてたけど、意外と気にしてたりとか。見た目より情に厚い性格だったね」


 え、なに。今度は褒めモードに入るんですか。やめてよ、照れる。

 昔から貶されるのにも褒められるのにも動揺してしまうので、今現在手が震えてる。バレないようにお菓子を食べなければ。


「あ、そういえばあなた達、名前何ていうの?」


 おかーあさーん、今更ですね。私も私で気づかなかったけど、自己紹介してないね。

 私の名前『巳稀』だけど、疑われないよね? 美樹とは違うし、大丈夫……なはず。

 それに、転生なんて普通は信じないからイケるかな。


「俺は霜月燐で、こっちが妹の霜月巳稀です」


「……みき?」


 感情の籠らない声音でそう呟いたのは叔父さんで、どことなくつらそうにしていた。

 お母さんが叔父さんを見て心配そうにしている、その理由が気になる。さっきまで普通に笑っていたのに、どうして?

 兄も唐突に変わった空気に戸惑っているように見える。


 ここは、あれだね。空気読めない子供を装って、この空気をぶち壊――


「うちの美樹と名前同じなのね、妹さん。驚いちゃったわ」


 私がやるまでもなく、お母さんがどうにかしてくれちゃった。

 それでこの場の空気は通常のに戻った。


 ――ように、思えるだろう。けど。


 ねえ、お母さん、叔父さん。私はもう、二人の家族じゃなくなっちゃったけど、二人のことをずっと見てきたんだよ?

 だから何か隠しているって、分かるんだ。私達という他人に言えない何かを抱え込んで、苦しんでいるのが。


 分からない。何を抱え込んでいるんだろう。私の名前が前世の私と同じって知って、変な空気になってたから……私が原因かな。どう考えても。


 私が死んだ原因は交通事故で、もっと言えばあの時居眠り選手権で優勝できそうなおっさんがいたのが悪い。

 そういえば、あのおっさんから慰謝料は取れたのかな……?


 とにかく、私が原因だとすれば二人がそれを気にしていると考えられる。悲しんで、くれているということか。

 でもそれだったら叔父さんがつらそうにする理由は?


 はふん……分からないですよ。


「さっきからソワソワしてるけど、どうしたんだ? トイレか?」


「……お兄ちゃん」


 その呆れたような目はいただけないけど、私のことよく見てくれているのは嬉しい。お兄ちゃん大好きだよ、まったく。


「トイレならそっちのドアから廊下に出て左にあるわよ」


 お母さんがニコニコしながら教えてくれたので、別にトイレに行きたいわけじゃないけど用を足しに行こう。

 ……兄も連れてね!




「何で俺も……」


「いやいや、三歳の子供が一人でトイレまで無事に辿り着けるとでも? 一人で、何も困らずやれるとでも!? ただの三歳児がぁ!?」


「分かったから、うるさい」


 すんません。うるさいのは持病です。


 服を引っ張って連れ出してきた兄と一緒にトイレに行く。当然、するときは外で待っててもらうよ? 兄は幼女が用を足すのを見たがるような変態じゃないからね。






 そんなこんなで、トイレタイム終了。でもちょいと前世の家がどうなっているのか知りたいので。


「探索に行こうぜ」


「阿呆か」


「ん、まぁそうなるよね」


 間髪入れずに突っ込みを入れられたことに落ち込みそうだけど、私の言ったことが確かにアホだったのでなんとも。

 探索を諦めて大人しくリビングに戻ることになった。


「ふふぁふぁふぁふぁ」


「何か言ってないといられないのか……?」


「おやまあ、頭痛でもするんですか? 顔が怖いことになってるよー?」


 しかめっ面をしている理由なんて私しかいないって分かっているけどこうやって煽っているのは、ただ単に反応よろしいイケメンの姿を見たいからですね。

 だって兄、イケメンだし。なんだかんだで構ってくれるし。ツンデレっ気あって可愛いし。


「可愛いって言うな」


「え、口に出してた?」


「駄々漏れだった」


 なんてことだ。独り言をぶつぶつと呟いてしまったなんて、変な人に思われてしまう。それは困る。非常に、困る。

 でもこの場には兄しかいない。よし、これからは兄の前では気を付けないで、他の時だけ気を付けよう。


「兄は私の事情分かってるし、いいよね」


「声」


「あぁぁぁまた無意識にぃぃぃ……!」


「疲れる……」


 口の端をぴくぴくさせているのでそろそろ大人しくしようかな。私だって兄に嫌われたい訳じゃないからね。


 口を噤んで黙ってリビングまで歩く。静かなのも嫌いじゃないからいいけど、でもやっぱり喋ってる方が好きだなぁ。

 ……………ん?


「お兄ちゃんストップ」


 リビングのドアの前。今日で一番小さい声で兄を止め、耳を澄ませた。

 兄も訝しげな表情をしながら、私と同じように音を拾おうとしている。

 聞こえてくるのは声。私の前世でのお母さんと叔父さんの、寂しげな声だった。



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