第1話 もしかしなくても転生ですか?
────体が重い。自由に動かない。目が開かないし、なんかすっごい頭が痛い。何かに締め付けられているかのようだ。
とか思っていたら、私の体はずるりと動いて、誰かの腕の中に収まった。いやん、お姫様だっこなんてぇ。
「女の子ですよ!」
うん、女の子ですよ? 生まれてから十五年間、私は女の子でしたが? 男のアレがついていた記憶はないし、ちゃんと女の子の日もあった。
今更そんなこと言わなくたっていいんじゃ───
パァンッ!
いったっ!? 痛い痛い痛い! お尻叩かれた!?
パァンッ!
だから痛いから! 何なの一体!? 泣くよ? 泣いちゃうよ!? もう一回やったら本気で泣いちゃうから────
パァンッ!
だから、だから、だからぁああっ!
痛いってぇのぉおおおおおおおおおおっ!!
「オンギャァアアアアア!!」
「泣きました!」
「よし!」
『よし!』って何!? イジメですか、これイジメなんですか!
ピチピチの女子高生のおケツ叩いて何がいいの! そういう趣味の人なのか!? ヤバいな逃げないと!
「オギャァアアア、オギャァアアア!」
あぁ、涙が止まらない……。こんなに泣かせてくれるなんて、あんたらプロだね!?
「オギャァア……!」
「お母さん、ほら赤ちゃんですよ」
「まぁ……!」
えっ、うわっ、他の人の腕の中に移された。あー目が開かないんですけど。何これ不便……。
そして今更気づいたけど、さっきからオギャオギャ泣いてる声って私のですかい? でもこんな声だったっけ、私のって。
これじゃあまるで赤ちゃんの泣き声だよ……。
「私の可愛い巳稀。私がお母さんよ~」
「オギャァ……オギャ?」
「うふふっ」
お母さん? 『うふふっ』?
ちょい待てや。私の母はこんな品の良い笑い方なんてしないよ。もっと高笑いな感じだよ。
むむむ、記憶を遡ろう。
まず、私は寝過ごして家族に置いていかれて、それで近所に住む叔父さんの家に押し掛けたのだ。それで焼き肉に行くことになって、車に乗った。
車に乗って、穴場の焼き肉屋に行くための細い道を走って……あ、思い出した。
あそこで後ろから超高速の居眠り運転がやって来たんだ。それで、追い付かれそうになって、叔父さんが前に来るように言った次の瞬間だった。
凄い大きな音が聞こえて、死んでしまいそうな痛みが私を襲ったのは。
そこまで思い出して、私は考えることを止めた。これ以上思い出すともう一度吐きそうだった。あの感覚は忘れられない。
で、だよ。私はどうなったのか? あの死にそうな程の痛みの後だ。きっとここは病院で、私は手術でも動けたんだろう……。
なんて考えない。
だってこの状況は、そうじゃない。私の母親ではない人が母と名乗り、私は赤ん坊の声でぎゃあぎゃあ泣いている。
アレですか、転生ですか。これが噂の『TE・NN・SE・I』ですか。
いやいやいやいやいや、冷静に考えてみよう。転生なんて二次元じゃあるまいし、あってたまるか。そりゃ、何度もしたいとは思ったけどね、転生。
でも実際にそんなの出来る筈がない。ここは現実。三次元なのだ。
だけどこの状況が『転生しかない』と言ってくる。転生……転生ねぇ……。
つまり、私は死んだの?
え、嫌だよ。何ソレ。ふざけるなよ。何で死ぬんだよ。折角高校に受かって、夏休みはぐうたらしようと計画を練り始めていたのに。
舜くんは? ねぇ舜くんとはどうなるの? 私のこと、舜くん忘れちゃうかもしれないの?
それに叔父さんのことも気になる。叔父さんも死んだのだろうか。それとも生きてる? 死んだとしたら、私みたいに転生してる? ってかまず私って本当に転生したの?
分からない。全くもって分からない。何これ。意味分からん。
「巳稀? 難しい顔してるのね……」
「オギャぶぅ……」
ミキ? 前世と同じ名前ですか。こりゃビックリ。すごい偶然だね。
あっ、普通に『前世』とか言っちゃったよ。もう駄目だ。死んだのを認めちゃってる。
「七月三十一日午前五時二十四分、お誕生ですね!」
看護師さんらしきお姉さんの声が耳に入った。
そうか……ここまできたら認めよう! さっきまでは本能が認めていたけど、今は理性でも認めよう!
私は、七月三十一日午前五時二十四分に二度目の生を受けた!
つまりは転生しました。おめでとー! パチパチパチパチ……。
って、んな訳あるか!!
全然おめでたくないよ! 転生イコール久保美樹は死んでるってことだから!!
今度の名字は何かなぁ~って、おい私。名字を楽しみにしてどうするよ。
ママー、助けてー……。
すりすりと今世の母に頬を寄せると、優しく抱き締められた。