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第10話 聞き出すためには


「もう一回! もう一回!」


 お父さんの! もっといいとこ見てみたい!

 元ネタは知りません。さっきから同じこと繰り返し言ってるから、『ちょっと』じゃなく『もっと』だよ!


「巳稀は絵本が好きだな~! よし、頑張っちゃうぞぅ!」


「わーい!」


 イケボじゃあ! いい感じの低音ボイスじゃあ!

 幼い娘に絵本を読み聞かせるだけなのに手を抜かず、情感たっぷりで台詞を読み上げてくれるのだ、この父は。

 なんて素晴らしい父親なんだ……。読み聞かせている幼女の中身が、精神年齢では成人間近の転生者とも知らずに……。

 なんだか申し訳なくなってきた。

 だがしかし。優しい嘘というのも時には大切なのだ。このまま一生隠し続けますぜ!

 もしも私が転生者だからって都合の悪いことなんて……起こらない、よね? きっと大丈夫だよね? ね? ま、なるようになれ!

 こんな適当なことを考えながら、私はまた父の読み聞かせに耳を傾けるのだった。ちなみに父の膝の上に乗っています。居心地良いです。







「ーーこうして、勇者様とお姫様は幸せに暮らしたのでした」


「しあわせー」


 にこにこと笑いながら復唱すると、父もにっこりとした笑みを浮かべた。

 少し離れたところでは、時折私達を見ては和やかに目をすがめていた母も父と同じ顔でいる。

 あんまりにも平和すぎて、平和ボケしそうです。この世界にいれば何のストレスもなく生きられそうな気がする……。あぁだめ、このままではニートになってしまうわ……。

 こういう平和なところにいるとニートが増えて、国の税収が減って、その分を接種しようと消費税率が上がる……のかな? 詳しいことは分かりません。高校生までの知識しかないからね。


 あ、そうだ。やろうとしていたことを忘れてた。燐くんと父の仲が悪くはなさそうに見えるけど良くもないし、ちょっとギクシャクしている原因を探るっていう。

 でもなー、下手に探りなんか入れて燐くんに嫌われるのは嫌なんだよなー……。あの燐くんの目がブリザードのように凍って「お前、そういうやつだったんだ。失望した」なんて言われてみなさいよ。私の心が死ぬ。

 だったら燐くんに直接聞いて拒否られたほうがいい。いや、これもう探るの諦めた前提だな。そんなの駄目だ。

 私は基本的にお節介なんか焼かない人間ではあるけど、父と燐くんと私の三人でいるときのちょっと固い空気というものに耐えられないからこればっかりは首を突っ込む。あと、やっぱり親子は仲良くしていてほしいという願望。

 もしも私が燐くんに嫌われたとしても、燐くんと父が仲良くなってくれるなら、まぁそれも……よくないけど、仕方ないのだ。何かを達成するには犠牲が付き物、とか言ったりするしね。

 私が燐くんに嫌われて、燐くんと父の仲も良くならないパターンが最悪だ。それはなんとしても避けたい。

 もしかしたら燐くんと父の仲は、何かがあって拗れてしまったのだとしたら、時間が解決してくれるということもあるのかもしれない。精神的に成長した燐くんが譲歩して、二人が笑い合える日が来るのかもしれない。

 でも、それじゃ駄目なんだ。だって中学生なんて時期、父親とやんちゃしてたいものでしょ、たぶん。男の子は母親より父親と悪ふざけしているという勝手な私のイメージに基づくものだけど。


 よし。覚悟は決まった。

 いざ父から燐くんとのことを聞き出そうとしたのはいいが、何て言えば思った通りの話になるのか分からない。

 え、どうすればいいの? 転生してから私の頭脳は多少は利口になったと思ったけど、頭の回転は鈍いままですね? ごめんなさい、こんな娘で……。


「巳稀? どうしたの? お腹痛いの?」


 困ってしまっていたのが顔にも出ていたのだろう。母が心配そうに近寄ってきた。

 あー、違うんです母上! 心配されるようなことじゃないんです! ただ改めて自分の馬鹿さに呆れただけだから!

 こんなに素晴らしい父と母の子供なのに中身が私だから本当に申し訳ないね。でも中身が年取ってあるぶん賢い部分もあると思うからそれで見逃してほしいな。

 ……待てよ、この状況、使えるんじゃないですか? ちょうど私に二人の視線が集中していることだし……美男美女の視線が集中しているとか、心臓がつらいな。

 ともかく、使える状況は何でも使ってしまえばいいじゃない!


「あのね、お兄ちゃん、のことで……」


 駄目です。言葉が思いつかないです。ぶっつけ本番に弱いんだよ私。かと言って計画的に物事を進められるかよ言えばそんなこともない。凡人過ぎにも程があるのでは。

 けれど父と母は『お兄ちゃん』という単語だけで私の言いたいことを察したらしく、不安げに顔を見合わせた。


「お兄ちゃんが、どうしたんだい? パパとママのことを、何か言っていたのかい?」


 父よ、声が小さくなっていますよ。母も母で、おろおろしている。本当、優しい両親だなぁ……。

 二人共、不安そうな悲しそうな表情を浮かべている。こんな顔をさせていることに罪悪感を覚えるけれど、私が切り出さなくてもいつかきっとこの不安は現れていた。『私』が産まれる前から存在していた問題なのだから。

 問題を乱暴に扱うようで悪いけど、理由を知らなきゃ私も動きようがない。教えてもらいますよ。


「んーん。でも、パパとママと、一緒だと、お兄ちゃん……元気、ないように見えるの……」


 口にすることが躊躇われるんですけどね、こんなの。ほら、父と母が凄く悲しそう。私は自己嫌悪で死にそう。

 これまでの反応からして、母はちゃんと燐くんと父の事情を知っているのだろう。まぁ誠実そうな父が隠し事したまま結婚なんてするはずもないしね。


「何か、あったのかなって……」


 自己嫌悪が凄いのに探りを入れる自分なんて……! なんて図太い精神なんだ、ごめんなさい。

 ちらっ、と両親を見てみると、父が私の頭に手を置いた。大きな手が優しく頭を撫でる。


「巳稀にはまだ分からないと思うけど……昔、パパがお兄ちゃんに酷いことをしちゃったんだ」

「玲哉さん! あれはーー」

「本当のことだろう?」

「でも、誤解させるような言い方は駄目よ。そうやって自分を罰しようとしないで」


 ふむふむ。父は未だに負い目を感じている、と。そして母はやっぱり事情を知っていて、様子を見る限り父はそこまで悪くない……。

 きちんと言ってほしいな。見た目は幼女だけど、中身がこれだからさ、何が正しいのかも間違っているのかも、それなりに判断できるつもりだし。……たまに、何もかも分からなくなるけどね。


「何があったの? パパ」


 幼子らしく言葉遣いは拙く聞こえるよう頑張っているけど、こういう状況ではそう上手くはいかない。真面目な話は早めに終わらせたいのだ。

 父を見上げると、迷うように俯いていた。しかしそんな父の手を母が握りしめた。


「玲哉さん」

「けどこの子に……聞かせていい話じゃないだろう」


 あ、そういっちゃう!? そりゃあね、こんな三歳児に聞かせるような話じゃないでしょうけどね。

 でもそれだと困る。その判断は、親としては正しいけど、困るんですよ。


「お兄ちゃんのこと、助けたいなー」


 ちょっと棒読みになってしまった……。

 その棒読み具合には気付かなかったのか、父が『うぐ』とでも言いたげな顔をした。母は少し驚いたように私を見ている。

 何で驚かれたのか分からなくて不安なんですが……。それよりも教えてください、何があったのか。


 父と母は再び顔を見合わせ、互いに目配せをした。目配せで意思疏通ができるってかなりの上級者だから、お二人は本当に仲が良いんだな……微笑ましいよ。


「不安にさせちゃってごめんなさいね、巳稀」

「んーん」

「巳稀はお兄ちゃんのこと大好きだもんな。お兄ちゃんのこと、心配してくれてありがとう」

「うん!」


 よし、話してくれる雰囲気だ。よくやった私。覚悟してくれてありがとう両親。

 これで話を聞いても解決できそうにない難題だったら困るしかない。その時はその時として、方法を考えましょうっと。


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