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四話

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 事の始まりは実に些細な一言からだった。

それは冬也と茜が偶然図書室で出くわして色々話しこんでいた光景を他の生徒の目に入った結果。

 『やっぱ、冬也と茜って付き合ってんの?』と言われた。

 当然冬也は反論した、自分達はあくまで主従の様な関係であり恋人同士だなんて有りえない―――とは言えないので適当に返した。

 好きな映画が同じだとか、共通の趣味があるとか、誤魔化し方のヴァリエーションは意外に出てきた。

第一に茜と付き合ったら佐来等に消される、と冬也は考えていた。

だが茜の反応は思いのほか嫌悪を示さなかった、寧ろ小悪魔的な笑みを浮かべて。

 『あっ、そーゆう発想は無かったわ』と意味不明な発言をしたかと思うと冬也に主として命令を下した―――

 「あー・・・、どーなってんのかね? この状況?」

 「何って、分からないの? そのままよ? デート、逢引き」

 「言葉が古いぜ・・・茜さんよ」

 「んぅ?」

 思わず冬也は顔をそむけた、先ほどまで何処にでもいたら困りそうなただの美少女だったのに今の一言で茜の顔が口程に物を言う表情に豹変したからである。

 今現在、冬也は貴重な休日を潰して茜と燐市の複合型施設に来ていた。

おおよそうら若き学生二人が並んで歩いていれば誰しもが『デート』だと思う、しかし内容は冬也が茜に施設内を犬の飼い主みたいに連れまわされて冬也の疲労が溜まってゆくという到底デートとは呼べる代物ではなかった。

 「あのさぁ、俺達なんでこんな事してんの?」

 「だから言ったじゃない、王野君が私の恥ずかしーい写真を撮ろうとして失敗し、その罪の帳消しに私の買い物に付き合っているって」

 「違うっ!」

 比喩して言えば、茜が冬也との交際疑惑を掛けられた時に思いついた企画でもある。

茜の言い分としては。

 『王野君、やっぱり血は美味しいけど。慣れ始めたのか最近パンチに欠けるのよねぇ、なんて言うのか。共鳴し合うとは言え、私の身体が現状に満足してるって言うか、何かダメなのよ、と言う訳で更なる二人の関係のレヴェルupを図っ今週の土曜、私に付き合ってくれる?』

 聞くも理不尽と形容の似合う言い分であった、本当に冬也が茜の盗撮に失敗しているのなら露知らず。

今まではちゃんと冬也のプライベートは確保してくれていたのに突然のこの仕打ちである。

冬也自身も出かける事を愛妹の秋に話した際に「えっ・・・? お兄ちゃん友達と出かけるの、まさか彼女じゃ・・・え? ううん何でも無いよ! 楽しんできてね!」と目の濁った笑顔を向けられる始末だった。

その時秋が持っていたコップには亀裂が入っていた・・・。

そして今日の朝、秋に叩き起されて服装やら色々仕立て上げられて今に至っている。

 冬也は艶のある黒髪をぞんざいに掻きながら言った。

 「ってか、俺はそれ以上に佐来等の監視が無いか不安でならんがな・・・」

 「あっ。その点は大丈夫よ、だって佐来等兄弟(妹)が四人いるから休日は家事で忙しいの」

 「マジ?」

 「えぇ、大学生のお兄さんが二人に小学生の弟と中学生の妹が一人づつね。あの娘、兄弟のまえじゃあ凄い良き姉なのよね。って言うかもはや良妻賢母レヴェルね」

 「そうだったのか・・・、アイツ兄弟いたのか」

 冬也は何故か兄弟がいると言う点で急に佐来等への親近感が沸いた。

 「これが全員ネーミングセンスがハイでね。そう言えば王野君も、妹さんがいたわね?」

 「あ・・・うん、アレは妹っつーかさぁ・・・。なんてんだろもはや保護者だな」

 「あら、王野君まさかの親と子の親近相姦の趣味が?」

 「だから違うって!」

 王野のシャウトに茜は冷たい笑顔を見せた後に、こう王野に言った。

 「前々から疑問だったのだけれど、王野君の妹さん、つまり秋さんは王野君みたく『式神』としての肩書は所持しているの?」

 この女俺の妹の名前まで把握してんのか、と思う冬也だったがこらえて答えた。

 「多分だけど、無いと思う。王野家の式神の先祖は九割九分の割合で男性が素質を持って生まれ、職に就いている。勿論女性の名もあるけど記述も少ないし、王野家の女性に式神の素質は恐らく遺伝的に備わっていない事になる」

 冬也は理路整然と喋った、茜が一度で聞き取れたのか疑問は残るがとりあえず茜の反応を待つ。

 「そう、ならいいの。もしも王野君が私に逆らって血を指しだっさなかったら最終手段で秋ちゃんの血を頂こうという計画もあったのよ」

 「・・・・・・、お前・・・」

 冬也の顔には若干眉間に皺が寄っていた、今度は茜が続ける。

 「私、実は両刀使いでね。男には服従を求めるけど、同性には比較的対等な恋愛を求めるのよ」

 「あんたが・・・、秋と・・・」

 「えぇ? 王野君まさかレズフェチでもあったの? 全く救いようのない紛う事無き変態さんね」

 「有難うございまっ・・・、じゃなくてっ!」

冬也がソッチに目覚めかけているのは別として、また会話の内容で。

いざこうして学校では出来ない会話を交わしているのに冬也にしてみれば茜の事が何一つ分からない。

これでは今日のイベントの意味を成さないのでは無いのかと心配になった冬也は一石投じた。

 「そんでさぁ茜は兄弟とかいるの?」

 「いるわ、血の繋がらない弟が・・・」

 「・・・」

 どうやら投じた石が爆弾に着弾したようだった。

 「えっと・・・、なんかスマン・・・」

 「ちょっ! 今の本気で信じたの!?」

 俯く冬也に顔を染めながら茜がいった。

 「(ハイ、まずは恥じらう茜ゲット・・・)」

内心、自身の指名を果たした気分の冬也だった。

 冬也は茜をよそに会話を発展させようとする。

 「んまぁとにかく弟一人なんだな」

 「ええ、中三のね。秋ちゃんと同い年よ」

冬也はひとまず親近感を抑えて、顎に指を当てて考える仕草をした後こういった。

 「ふーん。身長はどんくらい?」

 「えぇと・・・たしか百六十五? いやもっと高かったかな?」

 「あぁ・・・。そんくらいか・・・」

 「次は私の質問だけど、どうして名前とかよりも先に身長を聞いたの? 頭の宜しい王野君なもっと別の事を聞きそうなのに」

 「うーん。いやもしかしたら俺の妹と茜の弟が同い年で仲良くなる展開があるのかなぁーって考えた時。

どうしても『身長』と言う問題は避けられないって・・・」

 「あら、じゃあ秋ちゃんって身長どの位?」

 「アバウトに言って百九十センチ」

 冬也の言葉に茜が固まった、無理もないだろう。

ただでさえ自身も女子高生にしてもやや小柄だと言うのに、年下の女子中学生の方が三十センチも身長が高いとなれば心中穏やかではない。

そもそも女性で身長が百七十以上あるだけで世の中は珍しがるのだから百九十もあればもはや崇めるレヴェルだ。

 「う、嘘でしょ・・・? 百九十?」

 「あぁバスケやってるからなぁ」

 「私の弟もバスケやってるけど・・・」

 今度は冬也の言葉が消失する。

バスケをやっているからと言って皆が高身長は限らないが、何処か自分より身長が高いイメージが出来上がる。

「(本当、スポーツって偏見持たれやすいよなぁ・・・だから俺そんなに好きじゃない)」

「な、なんで私の周りの人はこんなに背が高いのよ・・・」

 「あー確かにそうかも・・・」

 冬也が言葉を最後まで言い切る事は無かった、茜の『人間離れ』―――いやもとより『人外』なので『女子離れ』した握力で顔を握りつぶされる直前まで追いやられた。

 「はぁ、人生初の異性とのお出かけがこんなとは―――」

 痣を気にしながら呟く冬也に茜は言った。

 「あら以外ね。王野君まだ童貞だったんだ」

 「言い方っ! まぁ否定出来んが!」

 「王野君モテていらっしゃるのでてっきり経験済みなのかと」

 「なんて言うのかね・・・、俺異性に関心がないって言うのか。・・・そーいう茜は―――」

 「あー、同性となら・・・」

 「たっはっはっは! またまた冗談を!」

 「・・・・・・」

 「え? マジ?」

冬也の顔から完全に笑いが消えていた、この女なら十分あり得るからだ。

前述の両刀使いが本当ならシャレにならない。

 「茜さん・・・?」

 「ぷっ、これこそ冗談に決まってるじゃない! 本っ当王野君って馬鹿する甲斐があるわぁ!」

 「っ!」

冬也の握り拳には青筋が一本、対照的に茜は心の底から楽しんでいる様で頬を赤くして笑っていた。

深紅の眼から小粒の涙が流れる。

 冬也はその顔に先日の学校で茜に抱きついてしまった時と同じ感情らしき物が沸いた。

どこまでもドSで、女好きなこの卑猥な和系吸血鬼に冬也の心は既に侵略されていたのだった。

 「あっ、王野君次はあのお店行きましょ!」

 「ヘイヘイ」

 つい素っ気の無い答えをしたが、茜に振り回されるのも悪くは無いな、と思える冬也は歩きだす。

そして茜に並ぶと―――

 「ちょっ、王野・・・君?」

 茜が驚きと羞恥の混じった声を出す。

 「関係のレヴェルupなんだろ? じゃあこの位はしようぜ?」

 冬也の右手を先程まで包んでいたのは愛妹にコーディネートされたズボンのポケットであった、が今現在冬也の右手を包み込むのは茜の小さな柔らかい左手である。

 「この店見終わったら、血? 飲む?」

 冬也が語りかける、茜は少し思案してから照れながらに言った。

 「いや・・・、いいわ。今日一日くらい普段とは違う風に過ごしてみたいな・・・って」

 と、顔を赤く染める茜に不意を突かれ冬也の胸も早鐘を告げる。

この時冬也は今までの人生で多くの異性から熱い思いを告げられてそれを断り続けた、だがそれによって冬也自身に異性への免疫が出来ていた訳ではない事を悟った。

 「分かった」

 冬也はそう答えた。

 この美男美女カップルへの『非リアもたざるもの』達からの視線の集中砲火は通用しない。

目的の店に到着して、茜が自由に歩きたそうにしていても手を離せない冬也だった。





 「お姉ちゃ~ん、お腹減ったぁ」

台所にてフライパンを煽る音に混じって弟の半蔵の声を佐来等は確かに聞き取った。

 「もうちょっとで出来るから待ってねぇー」

 返事は無い、大方再びゲームでもやりだしたのだろう。

佐来等は一気に炒飯チャーハンの仕上げに掛かる、具材と米が適当に混ざったところですかさずねぎを投入する。

それからせわしくフライパンを突き米を煽る音が台所に響く、最後に火を落として醤油を掛けて少し煽る、先に入れてある高菜自体に味が付いているので塩も醤油もそこまで必要ではない。

 作品を皿に盛り、スープを温めなおした来等はリビングで待つ半蔵に炒飯チャーハンを出す。

 「おぉっ、美味しそ」

 「召し上がれ」

 佐来等はエプロン脱ぎ自身も食事にする。

と言っても食事と言うには余りに簡素な内容だった、

 「お姉ちゃん、又ササミなの? 好きだね」

 「当然でしょ? 近々試合も有るしねぇ。ちゃんと絞っておかないと」

 その言葉に半蔵は特別きにする素ぶりも見せずただ「そう・・・」とだけ言って食べだす。

佐来等は近々『ムエタイ』の試合を控えておりこの時期には何時も食事制限を掛ける、格闘技をする者なら別に不思議な事でも無い。

小学生の頃に始めたムエタイの成果で今の佐来等の身体には黄金比と形容できる筋肉が付いていた。

特に腹筋の密集具合が力を入れずにシックスパックが浮かび上がっているが自慢である。

 「半蔵、おかわり要る?」

 「要らない」

 今日と言う日は、茜とあの冬也が親睦を深めるために出かけている日ともあって何処か落ち着かない佐来等であったがそれらは家事をする事で何とか紛らわしていた。

 佐来等は深いため息をつく、やはり冬也が茜と二人きりというのが許し難い。

茜の隣は私の場所なのに―――少なくともそう思っていた。

もしも二人が付き合いだしたりして茜が自分を必要としなくなったらどうなってしまうのだろう、この事ばかりが佐来等の頭の中を駆け巡っていた。

 再びため息をつく。

 「お姉ちゃんどーしたの?」

 「いいや、何でも無いよ」

 「そりゃそうか、だってお姉ちゃん友達いないもんねぇ」

 「・・・・・・あ?」

 「ごめんなさい」

 半蔵が悩んでいる自分を見て人間関係で悩んでいるのを見抜いた鋭さへの驚きと、実弟からの思いよらぬ謀反とも言える『友達いない』と言う言葉。

 佐来等自身普段学校では基本的に茜と行動を共にする、がどちらかと言えば『茜の友達』と言うよりも『茜のボディガード』というイメージが強かった。

級友から言われる一言は大体『加賀屋さん・・・、不機嫌なの?』といって類。

顔が少し怖いのは仕方ないとして、格闘技の達人であって身長が百七十三センチもある女子が普段美少女と名高い茜の傍にくっ付いて睨みを利かせていれば誰しも良いイメージは抱けないだろう。

 やはり冬也にも良いようには思われてはいないだろう、ほぼ毎回蹴りを喰らわせていれば嫌われても仕方が無い。

 次あった時は少しだけ優しくするべきか・・・――――。

 「(って! 私は何を考えてんだっ! あのモヤシ、茜に手ぇ出したら許さん・・・!)」

 佐来等の胸中では複雑な思いが交錯していた、冬也は必然的に契りを結んだ茜の所有物でもある。

しかしあのいけすか無い目つきがどうも癪に障ってつい蹴りたくなる。

自分の敬愛する茜にちょっかいを出す者は今まで自分の手で制裁を下して来た癖が冬也に対して全面的に出ている。

 「―――ちゃん・・・」

 「え」

 「お姉ちゃん、携帯鳴ってるよ」

 「あ、ありがと」

 佐来等は携帯を耳にあてがい「もしもし」と言う、その光景に半蔵が。

 「お姉ちゃん、電話じゃない。メールだよ」

 「っ・・・!」

 赤面を隠しながら佐来等は受信トレイを確認する。

差出人は茜だった。

 「なんだぁ?」

 【件名 ❤ 】

 「珍しいな茜が絵文字使うなんて・・・」

 メールを確認した瞬間佐来等の世界は消失した。

 【本文 王野君・・・いや冬也君と付き合う事になった】

有難うございました

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