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三話

 宜しくお願いします

 冬也にとって元来授業とは退屈なモノでしかなかった。

県内でもトップに食い込んでいる黄咲学園の十傑の二番手である冬也は記憶に関しては自身があった。

よって教科書で習う単元のページを一通り読み込み、応用で何問か問題を解けば大体理解できるという頭脳を持ち合わせていた冬也にとって授業は同じような内容をクドクド繰り返す退屈な時間に過ぎなかった。

 だが今はそんなモノよりも冬也の頭を支配しているモノは学業などでは無くもっと別の事であった。

言うまでもなくあの和系吸血鬼の蝙蝠崎こうもりざきあかねの存在である、冬也は一か月前から茜に朝と昼に毎日吸血されると言う毎日を送っていた、茜曰く同じ『人外』同士共鳴し合い冬也の血が最高に馴染むらしい。

 「全く、D○O様みてぇだな、アイツ・・・」

 王野は頬づえを付きながら某元祖吸血鬼キャラを思い返す様に呟く。

 「どーした王野? 質問か?」

 「いえ、なんでもねぇッス」

 「そーかぁ」

 どうやら声が大きかったらしい。

とりあえず王野は気を取り直してとりあえずノートに色々書き出してみる。

 『蝙蝠崎茜、黄咲学園、一年C組、俺の血を吸う吸血鬼(本人曰く和系吸血鬼)、どうやら小学校から加賀屋と関わり思っているらしい』

 『加賀屋佐来等、以下同文、なんか俺に喧嘩腰、だまってりゃ美人』

 「(ふむ、こんなモンかな)」

 授業中に女子生徒のパラメーターをノートに書きだすなんて端から見ればただの怪しい人でしかないが、冬也に関しては『人外』という肩書がある。

からと言って「いや、俺式神だしwww」とは言えそうもない。

 今現在短針が十二、長針が六を指す時計を冬也は見てため息を付く。

あの長針がもう少し動いて七を指せば自分は再び人知れず蔵書室に向かい茜に吸血されるのだ、その後は何も無かった様に午後の授業を受ける(振りをして)、部活もせず真っ直ぐ家に帰る。

何と生産性も無く、無益な一日だろうと自虐的に笑って見せる。

 自分はただ秋に世話を掛けて、茜に吸血され生きているだけじゃないかと思えてきた冬也であった。

気付けば既に長針が七を指す三十秒前だった、茜にしてみれば自分の血を吸っても吸血鬼本来の力を取り戻したり出来る訳でも無いのに自分を吸血する様も滑稽で無意味なモノに思える冬也だった。

 

 「時間ぴったり、やるじゃねえかモヤシ」

 と蔵書室の入口に二王立ちで構える加賀屋が冬也に言う、昼休みは朝に比べて廊下での人の往来が激しいのでこうして加賀屋が見張りに付くのだった。

とは言っても図書室のこんな奥まった場所に人はそうそう来ないのだが念を入れての茜の対策だった。

 冬也は蔵書室で一人古文書を読みふける茜を見つけてこえを掛ける、顔を上げた時に普段はその顔に有るはずもない授業と読書時用眼鏡に思いのほかドキッとしてしまった。

 「いらっしゃい、じゃあ始めましょうか」

 「おう」

 冬也も冬也も手慣れた感じで上半身の衣服を緩めて首筋をむき出しにする、もう既に血を吸いたくて堪らないのか茜の呼吸は何処か荒々しかった。

 「頂きまーす・・・」

 茜は冬也の肩を鷲掴みにする、身長差で噛みつきにくいのか冬也をしゃがませる、そして噛みつく。

 「っ・・・」

 牙が首筋の皮膚をブチ破り血管へと至る感触が冬也の顔を苦痛の表情に変えるが茜はお構いなしに吸血を始める。

当然十秒もすればその苦痛が快楽に変わる事を冬也も分かっているので対して抵抗もしない。

それから茜の吸血は続いた、冬也は何時もコレを腕時計で時間を計りながら快楽に耐えている。

 平均から言ってあと二十秒で終わるはずである。

当然茜も日に二回吸血される冬也の限界を知っているから何時も適当なところでちゃんと止めてくれる。

冬也は茜の顔をチラ、と見た、自分の首筋に一心不乱にしゃぶり付き唇の端から僅かに血の滴が垂れているのが何だか思いのほか艶めかしく見えてしまった。

 艶めかしいだけで無く一か月前に知り合って初めてこの蝙蝠崎茜と言う人物を冬也は異性として見た気がしてならなかった。

やがて茜の吸血が終わり首筋から唇を離す。

 「プハァっ・・・。御馳走様」

 「―――・・・・・・」

 「ん? 王野君?」

 冬也はいつの間にか茜の両脇から自身の両腕を回してまるで脆い硝子細工にでも触る様に抱きしめていた。

茜は十八センチの身長差で顔を冬也の胸にうずめる。

生まれてこの方関わってきた異性と言えば家族を筆頭に小中と自分に告白してきた女子位のものだった、そもそも異性なんてどうでもイイと考えていた冬也は生まれて初めて茜と関わって来た事で何かしら変化があったのかもしれない。

 仮にこれが恋だとすれば実に突発的で、冬也が茜の事を容姿だけで選んだようなモノであった。

元を正さば出会って一ヶ月ちょっとの人物に何を考えているんだと冬也は思うのだった。

 「・・・あの、王野君? どーかしたの?」

 「えっ!? あぁっスマンっ! つい・・・」

 冬也は弁明を図るが焦りと胸の早鐘のせいで言っている事が段々支離滅裂になってゆく。

結局この場は茜の寛容な判断でとりあえず収まったが、冬也はその時点で後ろで鬼の様な形相で構える加賀屋のとび蹴りを喰らうのはこれより三十秒後の話である。

 加賀屋に吹き飛ばされ冬也は本棚とモロに激突して額を赤くしながらも弁明をする気は起らなかった。

生まれて初めて自分に『人外』では無く一人の『人間』という実感を持てた気がしたからである。

今まで冬也が告白してきた女子を振って来たのは自分が人に有らざる者であると言う何処か自嘲的な考えが心を支配していた事に相違ならない、だが今さっき茜のさがに抗わず赴くままに自分の血液を徴収する様に生き物としての何かを見いだせたつもり冬也の冬也だった。

 「(そうか、この痛さや気持ちよさってのが・・・)」

 「おいっ、何ニヤニヤしてんだモヤシっ! お前何茜に抱きついてんだよっ!」

 「気持ちよかった・・・」

 「はぁ!? モヤシお前まさか・・・、ソッチなのか・・・?」

 困惑の表情を作る加賀屋に王野は爽やかに応えて見せる。

 「あぁ、まだ。まだ『人外ソッチ』だよ、もう少しで越えられそう」

 「・・・・・・・・・」

 もはや反論の言葉も尽きた加賀屋をよそに冬也は茜に言う。

 「それじゃっ、俺はこれでな。茜、又明日な」

 「えっ、ええ・・・」

 王野は心踊りながら蔵書室を出て言った、二人の少女はただ混乱の中に置いて行かれた。

自分に人間らしさが微塵ながら出来始めている事に気づけた冬也にとって周りの物や景色が今までとは全く違うものに見えてくる。

何処となく輪郭がシャープになってスッキリとした印象だとか、前よりも学校全体が明るく見えるなど大したことは無いにしても冬也にとっては大発見であった。

 この時冬也の足元から伸びる五行の図は昨日よりも大きく図の絵の精緻さなどが向上しているのには当然冬也は気づいてはいない。









 「全くあのモヤシ一体どうしたんだよ・・・」

 加賀屋はため息混じりにそう言った。

 「・・・」

 「どーした茜? まさか抱きつかれた時に何かされたんじゃ・・・」

 「ううん、大丈夫よ」

 茜は先ほどの事を仕切りに思い返してみていた、ここ一カ月間特に行動を起こさなかった冬也の突然のあの言動。

全て思考を巡らせても答えが出てこない、『人外』にしても年頃の男子だからやはりある程度の性欲はあるのかもしれないと今のところは納得していた。

 「茜、やっぱりさっきから変だぞ? やっぱり―――」

 「本当に、大丈夫」

 「ならっ!」

 加賀屋は茜の肩を掴み強引に自分の方に向かせる。

 「大丈夫だってんなら! そんな顔するなよっ! どうして私に相談の一つもしてくれないんだ!? やっぱり私が―――」

 加賀屋は俯いて男泣きにせる、男以上に男前な男泣きだった。

その様子を茜は慈しみの表情で。

 「ハイハイ、泣かないの。せっかく可愛いのが台無しよ?」

 と、加賀屋の頭を撫でて慰める、さながら母親とその息子の様な光景だった。

 「でも・・・茜が・・・、そんな顔してたら私・・・」

 「本当に大丈夫なの、それに佐来等は頼りなくなんくは無いの。私がこの世で最も信頼している親友」

 「茜・・・」

 「佐来等は強い子、絶対」

 再び頭を撫でる、加賀屋は照れながら手を払う、それを茜は。

 「ふふっ昔はコレ、喜んだのにね」

 「むっ・・・昔の話だっ」

 茜と佐来等の交友関係は遡る事二人が小学校低学年の頃まで逆戻る。

小学三年だった加賀屋は今では考えられない程内気な生徒で、教室の隅で本を読むのが日課で決して目立つ存在とは言えなかった。

だが事は学級がスタートして一カ月で始まった、クラスカースト頂点の女子生徒主導で加賀屋へのイジメが始まったのだった。

理由は小学校でモテる典型的なスポーツ万能男子の好きな女子が加賀屋と言う事が漏えいしていてその男子生徒が好きな女子生徒の耳に入り逆恨みされてイジメに発展したのである。

 ちなみに加賀屋はその男子とも女子とも一度も話した事は無く赤の他人同然だったと言う。

加賀屋の小学校生活は地獄に豹変した、朝登校すれば上靴を隠されていたり、トイレので水を掛けられたり、極めつけは自身の大好きな本をビリビリに破かれてゴミ箱に捨てられているのを発見した時であった。

教師は面倒事は御免と見て見ぬ振りで人生は暗闇だった、が、ある日陽の光が指した。

 加賀屋を見るに見かねた茜が手を差し伸べたのである、加賀屋は二人きりの時に堰を切った様に今までの事を話した。

そして話し終えて茜の胸で思いっきり泣いた、茜に相談する頃には加賀屋へのイジメの内容は凄惨という凄惨を極めていた。

 話を聞いた加賀屋は『分かった、私に任せて』と言った、加賀屋はそれだけで十分だった。

何せ自分を苛める元締めはクラスカーストで頂点に立つ女子で後ろ盾も強大だった。

茜一人では無理と腹を括っていた、しかしその日から加賀屋へのイジメは少しづつ落ち着きを見せ始めた。

最終的には元締めの女子生徒と加賀屋が好きな男子生徒が加賀屋本人に土下座をして謝罪するという展開を迎えた。

 あの時茜はどうしたのかは今でも教えてくれない、でもそれ以来加賀屋の中には茜への絶対的信頼と友情が芽生えた。

加賀屋は生まれ変わった様に活発になった、性格も明るくなり格闘技も始めるようになってみるみる腕を上げて行った。

だが、加賀屋の中の茜への信頼はやがて忠誠へと変貌して行った。

ほんの少しでも自分の親友を悪く言う輩は容赦なく制裁を下し他の人間へも喧嘩腰になっていく中で現在の加賀屋佐来等が出来上がったのだ。

 今もなお冬也に対して喧嘩腰なのもコレらの事が根本にあったのだった。

茜本人もコレは直さないと佐来等自身に何時かよからぬ自体が起こりえると考えていた、だが今はこうして自分が佐来等の首輪の鎖を引くように上手く操るしか方法の無い現状だった。

 「佐来等、行きましょ? 昼休みもうギリギリだし」

 「あぁ」

 茜が佐来等を誘う、それに付いて行く佐来等の右手は茜の左手の小指を握っていた。

二人は長い廊下を黙って歩き続ける。

茜の小指は小さいな・・・、なんて事を考えている佐来等の考えが伝わったのかあるいは茜の願望なのか握られいる方から佐来等の手を握り返して来た。

 佐来等は赤面したが離しはしなかった、黙って強く握り返す。

二人の女子生徒は廊下の喧噪の中をただ黙って歩き続けた。







 

 

 イジメは絶対にいけません、いかな理由があろうとも。

ちなみに佐来等ちゃんのイジメの内容はほぼ私の実体験です(笑顔)

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