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一話

 宜しくお願いします

『ルールなんて破る為にある』

 なんて類の言葉を偉い人だか、馬鹿な学生が言っていた気がする。

でも王野おうの冬也とうや場合ケースは『破られた』である。

この世の中を見渡してみたとき、『人外』が自分たちに紛れて生活を営んでいるなんて話がありふれている。

 数える事一ヵ月前に王乃冬也は生まれて初めて、自分以外の人外に出会った。

それは何よりも美しく、卑猥な吸血鬼だった。





 王野冬也は『ラノベ主人公』、と言うにはその素質に欠けていると言わざる得ない。

一般的には作者の手によって『何処にでもいそうな学生』という肩書の元、非日常をあたかも普通の日常の如く可愛いヒロイン達に囲まれながら過ごしたり。

場合によっては突然謎の力に目覚めてしまったり、見知らぬ異世界へ理不尽に飛ばされたり、とまちまちながらこれ等の環境下で彼らは生きている。

広い目で見れば、そのスペックが凡人と比べて遥かに優れているキャラなんて掃いて捨てられる程いる。

だがこの男はそれらの中ではかなりの上位とも言えるかもしれない。

 第一に整った容姿に高い身長、『外見』というモノのお陰で今までの十六年間の人生で得してきた事か。

小学校低学年の頃からしょっちゅう女子生徒に熱い思いを告げられて、その都度断るという限られた者にのみ許されし行為をしてきた。

 第二に両立している学業とスポーツ、成積は常に十傑の中、運動は筆記も含め何時も通知表で五。

特別な方法で勉強している訳でもなく、塾に言っている訳でもなく、親がスポーツ選手でその遺伝子を受け継いでいるとかではなく。

ただ単純に神がコイツに天才的な『何か』を与えたのだろう。

 第三に実家がお金持ち、王野の実家は町内でも異様といえる程の大きさを誇る屋敷で先祖が事業か何かで財をなしたとかで今現在王野の代でも贅沢な暮しが出来ている。

 最後の最後に王野の『ラノベ主人公』らしい事を探せば、両親が海外出張中で中三の可愛い妹がいるという事くらいだった。

 そして今日も王野コイツは高校生活二十通目の熱い思いを認したためた女子生徒からの恋文を貰って紙面に指定された場所へと向かっていた。

 「ハァ・・・ぶっちゃけ、週一、二ペースで告られても困るんだよねぇ・・・」

 今回の指定場所は屋上、如何にも青春の一べ―ジに相応しそうな響きと場所だと本人は思っていた。

当然今回も振る心づもりでいた王野は指定の場所である屋上の入り口に到着する。

『気持ちは嬉しい、だけどごめんさい』このツーフレーズで事は決するのだ。

王野は屋上へ通づる扉に手をあてがい、勢いよく開く。

 「―――って、アレ? なんだコレ」

 目にしたのは、可笑しいといえば、どちらかとおかしい光景だった。

それもそうだろう、比喩して誰もいないのだから。

自分から呼び出しておいて遅刻? 、まさか。

それとも敵前逃亡? 、ある意味その行動に敬意を表そう。

 王野は様々な推理を低徊されてみる、それでいたった結論は―――

 「うん、帰ろう」

 刹那―――

 「そうはさせない・・・・・・!」

 「は?」

 何処からか声が聞こえた形容するならば低く何処か心地いい声が、背後でもなく前方でもなく。

答えはそう。

 「まさか・・・!」

 そのまさかが起きてこその『ラノベ主人公』である、王野の頭上に視認出来るのは放課後を彩る夕焼け空の様な瀟洒な形容ではなく―――

 「マジかよ!」

 「何処を見ている?」

 王野の頭上に居たのは空中から自身に落下してくる、同じ学校の女子生徒、擬人などではなく。

スカートを真下から見ると、そこには男の夢がある。

それを体現するかのように、その女子生徒の魅惑的でやけに大人っぽいソレはこの状況下で王野のオスの部分を感化させた。

 この間、僅か三秒。

 「っ、暫く大人しくしていてもらうぞ」

 「へ?」

 それが王野の最後の言葉だった、瞬間、鳩尾みぞおちに女子生徒の強烈な右フックが決まる。

王野の身体は脱力によって重力に身を委ねるがままに落ちる、が、それを女子生徒が肩で受け止める。

「ふぅ、思ったより手こずらなかったなぁ」

 次いでこれが王野が意識のある内に聞いた最後の言葉だった。


 王野が目を覚ましたのは、冷やかな空気が首筋をなぞるお世辞にも心地良いとはいえない場所だった。

景色などで場所を割り出そうにも目隠しをされている、ご丁寧に椅子に縛り付けられている。

 「(この状況・・・、うんヤバい)」

 王野は一人でそう合点する、すると。

 「やけに落ち着いているのねぇ」

 今度はハッキリとした方角から声が聞こえた。

声の質が高いの所からさっきの女子生徒とは別人の様だった。

 「んまぁ、目隠ししながら話すってのもあんまりだし。佐来等さくら、目隠し取ってあげて頂戴」

 「分かった」

 後者の声は先ほど王野を気絶させた張本人の様だった、やがてその張本人によって王野の目隠しは解かれる。

 「おはよう、ご気分は如何? 王野冬也君?」

 「妹に叩き起される方がマシに思える・・・」

 「おい、口を慎めモヤシ」 

 恐らく目隠しを解いた方と思われる女子生徒が声を凄ませて言ってくる。

その目線にはナイフのような鋭利ささえ感ぜられた。

 「まぁ、いいじゃない多少反抗する方が調教のやりがいがあるの」

 と、命令した方がなだめる、コイツが穏やかで話の分かってくれる人物と信じる王野は。

 「次いでと言っちゃなんだけど、この縄も解いてくんない? すこし痛い」

 「あらぁ? 吹けば飛んで行ってしまいそうな薄っぺらい男が私に意見? それともその態度は早速私に調教をお願いする遠まわしなおねだりなのかしら?」

 話は決着しそうにはなかった。

見た目穏やかの女子は王野に顔を近づけて、先ほどの言葉を打ち消すような逆説的な笑顔を向けて言う。

 「自己紹介がまだだったわね、初めましてモヤ・・・いえ、王野冬也。私は蝙蝠崎こうもりざきあかね学校では美人で通っているの宜しく、それでこっちが」

 「加賀屋かがや佐来等さくら、茜の同級生」

 「・・・俺も自己紹介すべき?」

 「結構よ、すでに調べはついてるの」

 「調べようと思って調べられるモノのか・・・?」

 「簡単よ、まず私のしもべ・・・じゃなくて友達の女の子に密偵を頼んだりしてね。後は学校の書類や何やらから調べさせてもらったわ」

 「お前・・・さっきから色々ツッコミたいんだけどさ・・・」

 王野が口を開いた瞬間、目の前にはニ―ソがあった。

と言うのも―――

 「おい、さっき口を慎めと言っただろう? そんなに私の蹴りを喰らいたいのか?」

 加賀屋の回し蹴りが王野の顔面直撃寸前で静止していた。

 「・・・!」

 「いいかしら? 王野冬也、いちいちフルネームは面倒だから王野君でいくわよ、王野君。貴方はコレをどう思うかしら」

 そう言って茜の差し出したのは、一冊のライトノベル文庫だった。

背表紙のアバウトな設定を読むとそれは、いわゆる普通スペックの自分と同世代の男子が、これも俗に言う

限りなく人間と容姿の近い『人外』系統のヒロインとイチャイチャする内容の様だった。

 「それが・・・どうだって?」

 「あら、何も思わないのかしら。私、こういった類の物語を見聞きするとどうしようもなくイライラするのよ、本来自然という大きな世界で静かに暮らしてきたエルフとか、獣耳のカワイ子ちゃんとかを勝手に人間どもの身勝手な醜い争いに巻き込んだりして・・・もし私がこんな事に巻き込まれたら堪ったものじゃあ無いわ・・・そう、同じ『人外』として」

 茜はラノベを加賀屋に預けて右手を自身の口に人差し指の第一関節を入れて引っ張って見せる。

目にかかったのは人間と大差ない健康な歯、ではあったが一つ大きな点に置いて特異な部分があった。

 「っ! お前・・・!」

 「ふぉおう? こへがははしがふぅへふぃへぁふひょうほ(どう? これが私が吸血鬼である証拠)」

 折角の自他ともに認められている美人が残念な顔になっているのは別として、茜が誇るかのように見せたのは、人間の犬歯と比べたら2.5倍はあろうかと言う鋭利な犬歯。

王野はしばらく見入ってしまった、この感情は驚きからではなくもっと別の所から沸いてきたモノだった。

 「ぷはぁっ、まぁ単に吸血鬼とは格好付けても別に日光も平気、寧ろラーメンにニンニクはウェルカム、十字架なんて屁の河童、ただの血を吸うだけの本能の残滓よ」

 「おいっ」

 「?」

 今度は王野が牽制する。

 「なんか知らねえが、俺にはオカルトの趣味は無くってな。正直お前の妄想話はもう飽きた」

 その言葉加賀屋が飛びかかりそうになるが茜に抑えられる、そして。

 「まぁそうね、証拠なしに信じろと言って無理があるわ。良いでしょう、佐来等、準備」

 「あぁ」

 この言葉を合図に、王野の前に桃源郷が現れた、加賀屋は茜に言われて突然制服のブレザー、Yシャツのボタンを緩めて遂にはその首筋を晒すに至った。

若干の隙間から下着が垣間見える。

 「これが証拠よ」

 高揚する王野そっちのけで茜は加賀屋の首筋にかぶりつく、そしてチューチューと艶めかしい音を立てて血を啜り始める。

時折こぼれた滴を下の表面で妖艶な動作で舐め上げて見せた。

 「あっ・・・! だめぇ・・・こんなモヤシの前で・・・」

 何故かは知らないが加賀屋は嬌羞の表情で膝を震わせていた。

この行為は一分間に渡り続いた、やがて茜は加賀屋の首筋から口を離して口元をぬぐう。

加賀屋は文字通り脱力したように膝から崩れ落ちた。

 これによって王野は茜が吸血鬼である事を信じざる終えなくなった。

 「ははっ、そんで俺の血を吸いつくそうと?」

 「いいえ、別にトマトジュースで我慢できない事もないけど。定期的、あるいは一度に血液を大量摂取しないとダメな娘こなの」

 「それで、本題よ王野君。私は長い事私自身の食糧と成り下がってくれる人を探していたの、そーいう家計と伝統なのよ。それで貴方が私に相応しいと判断して今ここに拉致させてもらったのよ」

 「運が良いんだか悪いんだか、分からんな」

 「そーいう事を抜きに奇跡と言えるわ、だって貴方・・・」

 茜は溜める、溜めて、溜めて、溜めて言い放った。

 「だって貴方自身も『人外』さんでしょ?」

 茜は笑んでみせる、その時この場所だけの温度が下がった様な感覚に王野は襲われた。

 「調べていて驚いたわぁ、あなたの先祖って陰陽師なのね。でも貴方の一族はその裏方、長い間ずっと陰陽師の式神として機能し、補佐してきた。もうピーンって来ちゃったわ、『貴方しかいない!』ってね」

 茜はその奥深い深紅の眼まなこをまるで無邪気な子供の様にキラキラ輝かせて言う。

 「・・・・・・あぁ、そうとも俺の家系はたしかに百年ちょっと前まで陰陽道を補佐する『式神』として機能していたよ。でも明治時代には廃業して生糸だか、貿易だったか別の商売に転身したよ」

 「あら? 否定しないんだ、以外以外」

 「でも、俺自身は式神として何かしら特別な力は持っていない」

 「全然オーケィよ、私が求めていたのは同じ『人外』と言う肩書なの。かく言う私自身前言どおりただの吸いたがりなの」

 そこから王野は長ったらしい茜の先祖の話を聞かされる羽目になった。

要約すると茜の祖は本物の吸血鬼で、日本が俗に室町時代と呼ばれていた頃に欧州から迫害を受けて東の地に逃れてきたらしい。

そこから長い時間を掛けて茜の祖先は混血を繰り返して来た(茜曰くそれらを『和系吸血鬼』と呼んでいるらしい)、この日本で『人外』という身分を偽って生活してきた。

ただ吸血鬼の性さがとでも言うべきか、本来の培ってきた吸血の習性だけはどれだけ代を重ねても抜けきれなかったと言う。

 その事から代々茜の先祖は自分の血液の提供者を伴侶として生きるならわしが出来上がった。

 「本来は血液を吸えれば何でもイイの、ただ我がままを言えば性別とか、血液型とか、そういった相性のディテールを求めるのだけどね。でも貴方の様な同じ『人外』ならそれらの条件をすべて打破できた、王野君。私の食糧になってくれないかしら? 学校なら昼休みにこう言った目立たない場所で構わないの、あなたのその『人外』の血液が私は欲しいのよ・・・」

 「質問・・・イイかな?」

 「どうぞ」

 「もしもお前が血液を満足に摂取出来ずに、人間で言う栄養失調の様な状態になったらどうなるんだ?」

 「これまでになった事は無いのだけれど、聞いた話では激しい殺人衝動に駆りたてられ周りの人間に手を掛けてそうやって血液を得ようとするらしいわ。祖父の話よ」

 ただの好奇心からの質問のつもりがとてつもない事を聞いてしまった王野だった。

今の質問で王野の中にある一種の感情が芽生えてしまった、それは。

 「(おいおい・・・もしもコイツがさっき言った殺人衝動に駆られたりした場合、俺にも責任が問われるのか・・・?)」

 『頼まれたら断れない』という日本人の悪い習性が出てしまったのである。

向こうが頼む立場なのだから自分がいつも通り『ごめんなさい』と言えば済むのに、何故か王野の中で訳の分からない何かが激しく争い始めた。

 「はしかひ、ふぉのきふぁへかはふほふぁふおいいふぁいへほいふぁひほふぁはいひょはへほ(確かに、この牙で噛まれるのは痛いけど痛いのは最初だけよ)」

 茜は先ほどの様に指で口を引っ張って牙を見せながら、支離滅裂な発音で言う。

今度の王野は何かしらを決めたように、真剣な顔立ちで応える。

 「んまぁ・・・同級生が殺人犯になるなんて良い気持ちじゃあねえからさ・・・良いぜ? 俺がお前の食糧エサになってやる」

 「あら、嬉しいわ。じゃあ契約の印に―――」

 茜は右手の人差指を王野に差し出す。

 「この指、舐めて頂戴」

 指先にはまだ先ほど口に突っ込んだ時の唾液が付着していた。

 「っ・・・!」

 「あら? 私の食糧エサになるのでしょ? 当然貴方は私の物なの、これくらいの行為は当然でしょ?」

 「お前なぁ・・・!」

 「モヤシ、早くしろ。茜を待たせるな」 

 と、加賀屋に髪の毛を掴まれて無理やり前に倒される、王野の口の行き先は茜の人指し指。

王野の口内に茜の人差指が入る。

 「ふふっ・・・さぁ舐めなさい、犬の様に」 

 これが不思議と逆らえない物で、王野は身体が勝手にと言うのか自身の下で茜の人差指を臆面もなく舐めまわし、最終的にはしゃぶるにまで至っていた。

その光景に茜は―――

 「ふふっ、宜しくね王野君・・・いえ私の『式神』さん」

 そうとても愛おしそうにそう言った。

 有難うございました

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