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迷宮の新米守護者  作者: 板 竹輪
第1章 迷宮の新米守護者
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第7話 正体判明そして……

「ここまでが我の1ヶ月の出来事だ。その後は汝の知る通りの展開だ。」


 リリアは淡々と、この1ヶ月に起こった事と魔神の召喚に至った経緯と結果を僕に伝えた。


「なるほど僕の方は――」


 そして僕はリリアの話を聞いた後に、この地に飛ばされた経緯をリリアに伝えた。 



 歩きながらお互いの情報共有を終らせ、互いの話をすり合わせると色々分った事がある。

 まずは名無しの魔神と夢の住人の存在が完全に繋がった。


 奴が言っていた依頼人の状況とリリアの今の状況が酷似している。

 盗賊と言われていたのは冒険者達で、家宝と言っていたのは吸魔石の事だろう。

 この地で起こっている事を奴は、僕の居た世界風にアレンジして伝えていたのだ。

 理由は僕に理解しやすく説明する為と、異世界だと気づかれない為だったのではないかと推測している。


 酷く騙された気分だが今更引き返せない状態だ。もう既に片足を突っ込んでしまっている。

 それに、せめてメリジューヌさんの足が治るまではこの仕事を続けると決めたんだ。

 しばらくは、この世界で生き抜かなければならない。


 まだ分った事がある。

 冒険者達の正体についてだ。

 彼らは恐らく僕が予想してた通りの存在で間違いないだろう。


 冒険者達は僕の居た世界と同じ世界から来ている。

 僕とはこの世界に来ている方法は違うが間違いない。

 冒険たちの会話、オークの死体の結晶化、銅の鎧を着た初心者と呼ばれる者達、そしてリリアの見た物を整合して、僕が過去に見た記憶と照らし合わせると一つの答えが出る。


 この世界はAO(アバターオンライン)の世界だ。

 いや、正確にはここは異世界で、ゲームと称してこの異世界にプレイヤー達が操作する人形を用意して狩りをさせている者が居ると言う事だ。

 目的はマナ結晶だろう。

 ゲームの形を取ってこの世界で非道を働いている者は、資源としてのマナ結晶を求めている。

 マナ結晶はリリアの話だと魔道具の動力源として使えるという。

 ここからは僕の完全な想像だが、新たな燃料として僕の世界に普及させるつもりではないのだろうか?

 奴等がリリアの持っている吸魔石を狙う理由も同じだ。

 吸魔石は大気中や土地からマナを集めれるのだから、使い方次第では半永久機関として機能する。

 実際リリアもこの地下遺跡で同じような使い方をしている。


 まだ何か裏が有るかもしれないが、冒険者達の事はこれで大部分が判明したと思う。

 しかし、今はまだ冒険者達との事はリリア達に伝えるべきではない。


 僕はまだ冒険者達を一度退けて、やっと信頼を得た段階だ。

 もし、冒険者達と同じ世界から僕が来たという事を知ったら不信感は拭えないだろう。

 メリジューヌさん辺りには僕が間者だと疑われかねない。

 だから、この事は僕が完全に信頼を得られるかこの仕事を辞める時に明かすべきだ。


 後はもう一つ分った事があったが……これは少しリリアに文句を付けたい気分だ。


「リリアお前、僕をあの時僕を殺そうとしてただろう?いきなり殺そうとするのは酷くないか?」

「ああ、ナイフで汝に近づいた時か?あの時の状況ならば仕方なかろう。私の判断で民の命が一人でも多く助かるならば、人間の一人くらい殺すぞ我は」


 リリアは決意の篭った眼差しで、僕にそう返答した。


 確かにリリアの言っていることは正しいな、僕とは背負っている物が違う。

 それに人を殺してはいけないという価値観も僕の世界の価値観だ。

 例え、僕の世界の価値観に照らし合わせたとしても、リリアの状況を思えばそんな事は気にしていられないだろう。

 態々言葉にする事では無かった。

 僕の勝手な価値観で、リリアを傷つけたかもしれない。

 謝ろう


「すまない。態々言及する事じゃなかった。嫌な事を言った謝る」

「良い。気にするな汝の気持ちも分る。我も同じ状況だったら同じ事を言ったと思う」


 それっきり、リリアは僕から眼を逸らし黙ってしまった。


 誰も会話をしない沈黙が辛い。

 黙々と広間に向かって歩いているが、まだ広間には到着しない。

 そんな時にリリアも沈黙に耐えかねたのかメリジューヌさんに話しかけた。


「しかし、メリーどうやってこの短期間でエルフの国から戻った?まさか途中で引き返してきたのではないだろうな?」

「いえ、不眠不休でエルフの国に行き、急ぎこちらに戻って参りました」


 何の事も無いという風にメリジューヌさんが答えた。

 先程のリリアの話だと徒歩往復で5日は掛かる距離だと言っていたはずだが…………やはり規格外だなこの人は。


「それは無理を掛けたなすまない。それで、エルフ王とは謁見できたのか?」

「はい、謁見はしていただけましたが……援軍は出して貰えず、亡命も受け入れて頂けないようです」

「ぐっ…………!やはり、エルフも我等魔族を良くは思っていなかったと言う事か」


 リリアは唇噛み締め泣きそうな表情になっている。

 それもそうだろう。

 今打てる方策で一番安全に彼女が治めていた民達を生き延びさせる方法が潰えたのだ。


「そうではありません。姫様、私がエルフの国に到着した時にはあちらも酷い状況でした」

「酷い状況?まさか冒険者共があちらにも?」

「ええ、どうやら我々が襲われた後直ぐに一部の冒険者達がエルフ領を襲った様なのです」

「そうか……では、あちらも我々と同じような状況か?」

「いえ、我々よりかは幾分かマシな状況ですが、エルフ領の民に偽装した冒険者集団に内部から破壊工作を受け、町の何割かを焼失していました」

[ふむ、そうなると奴等に対する警戒の為に援軍に兵は割けぬし、我等の亡命に紛れて冒険者が入るかも知れぬから亡命は受けれないといった所か?」

「はいその通りでございます。その代わり、エルフ王より食料支援のお約束をして頂きました」

「おお、それは助かる!で、いつ食料は届く?」

「私がエルフ領を出る時には輸送部隊の編成を始めていましたので、近日中には届くかと」

「そうかよかった。とりあえず、これで餓死の心配は遠のく……」


 リリアは一時的とはいえ、心配していた餓死の可能性が遠のいたので先程とは別の意味で泣きそうな顔をしている。

 しかし、僕は先程の会話で気になる事が有った。


「エルフの輸送部隊は道中、冒険者に襲われる可能性は無いのか?」

「そうですね。その可能性は十分有り得ますが、彼らは森で身を隠す事に長けていますので無事にこちらにたどり着ける可能性は高いかと思います。」

「なるほど。だが、無事にたどり着いてくれればいいがもし――」


 僕が最悪の事態を想定した発言をしようとした時に、リリアが明るい声で僕の言葉を遮ってきた。


「何、気にすることはない。エルフ達は森限定では有るが姿隠しの魔術も使える。きっと、無事に食料を届けてくれる」

「リリアは、随分エルフを信頼しているんだな」

「少し縁が有ってな――あ、ツルギよ。そこを曲がれば広間だ」

「ああ、やっと着いたのか……」


 正直、激戦の後にリリアを抱えてこの距離を歩くと、流石に体力の限界が近かった。

 まだ広間まで距離があるようなら少し休ませて貰おうかと思っていたが、良かった。もうまもなく到着するようだ。


 通路を曲がると、そこには広大な空間が広がっていた。


 広間は円形の作りになっており、広さは野球の試合を行なう某有名なドームと同等かそれ以上だ。

 壁は今までの通路を構成していた黒い石の壁ではなく白い壁で作られており、壁にはビッシリと壁画らしき物が描かれている。


 そして、広間には様々な種族が犇めき合っている。

 オークを含む亜人や獣人らしき者、それにあれは土竜(もぐら)か?

 伸張が1メートル前後の大型の土竜が二足で歩行で歩いている。

 もしかすると、あれが名無しの魔神が言っていた土木作業員達なのかもしれない。


 なんというか、ファンタジー世界に来たというのが実感できる光景だった。

 僕がその光景を見て固まっているとリリアが若干顔を赤らめて僕に声をかけてきた。


「ツルギよ、降ろしてくれ。これでは皆に示しが付かん」

「ん?ああ、分った。今降ろす」


 ゆっくりとリリアを床に足が着くように降ろしてやる。


 降ろす時に体が密着して甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 とても良い匂いだ。香水でも付けているのだろうか?

 それに足の方から降ろしたので顔が近づいて少しドキドキしてしまった。


「ありが……ご苦労。大儀であった」


 どうやらリリアも同じだったらしい。

 顔を真っ赤にして、また言葉使いが素に戻りかけたようだ。

 普段から素の言葉使いを使っていれば可愛らしくて良いと思うのだが……


 僕のお姫様抱っこ状態から開放されたリリアは怪我をした足を気にしながら広間を進んでいく。

 少し広間を進んだ先で銀色の全身甲冑(フルプレート)を付けた者が近づいて来る。

 兜の中に見える顔を確認した所、白い口ひげ生やしたオークだった。


「姫様ご無事でしたか!」

「おお!オーカスか2層の防衛ご苦労であった」

「ハッ!労いのお言葉有難う御座います。途中メリジューヌ殿に助太刀いただき、なんとか防衛線を維持できました」

「いえいえ、オーカス卿と親衛隊の奮戦有ってのものですよ」


 少し前まで親衛隊の事ボロクソに言ってなかったか?メリジューヌさん


「む、そちらは人間ですか?」


 オーカスと呼ばれているオークが腰の剣に手を運ぶ


「ああ、我が召喚した」

「人間を召喚されたのですか?」

「うむ。この遺跡に祭られている魔神によって派遣された使徒だ。名はツルギ=タチバナだ。今後我等の力になってくれる」

「おお!そうですか、よろしくお願いします。ツルギ殿」


 剣から手を外し、にこやかに挨拶された。

 どうやら最初に会ったオークよりは頭は柔らかそうだ。

 一応年上のようなので敬語で挨拶をしておこう


「立花剣です。こちらこそよろしくお願いします」

「我々も奮戦しているのですが多勢に無勢でしてな、戦力の増加はありがたい」


 どうやら、受け入れて貰えそうだ。


 僕達の挨拶が終るとリリアが暗い顔でオーカスさんに語りかけた。


「オーカス、汝に伝えねばならぬ事がある。オルカスが我に危機を伝えに来て我の代わりに冒険者に討ち取られた。許せ我の落ち度だ」

「なんと……いえ、弟も姫様のお命をお助けして散ったのなら本望でしょう……」


 あの最初に会ったオークこのオーカスさんの弟さんだったのか……

 正確にはリリアと言い争ってる時に冒険者の不意打ちで死んだのだが、まぁ言わぬが花だな。


 一気にお通夜ムードになって、沈黙が僕達を支配しかけた時にメリジューヌさんが口を開いた。


「オーカス卿、姫様が負傷されております。応急手当は済んでいますが、傷が残るといけません。まずは姫様の治療を」


 流石メリジューヌさん、リリアの事になると場の空気なんか関係ないぜ!


「なんと!それは失礼いたしました!直ぐにマルトメントを呼んで参ります」


 マルトメントさんとやら、医者か何かなのだろうか?


「いや、時間が惜しい直ぐに軍儀を始めたい。議場にマルトメントを呼べ、参加を許す。それとメリーも負傷している。予備の魔力回復薬を用意するように伝えよ」

「は?メリジューヌ殿がですか?ハハハご冗談を」


 やっぱりメリジューヌさんは仲間内でもそういう扱いなのね。


「事実です。見て下さいこの足、私が愚かだったのでツルギ様を敵と認識し襲い掛かったらこの様です」


 と、今度はメリジューヌさんがバツの悪そうな顔で、怪我をした足をオーカスさんに見せている。


「ば、馬鹿な……し、信じられん……」


 オーカスさんは目を見開いて化け物を見るような目で僕を見てくる。


「そういう訳ですので、オーカス卿お急ぎを」

「では、一度医務室に行ってマルトメントを議場に向かわせます。姫様達はそのまま議場に向かわれて下さい」

「うむ、わかった。他の者も一緒に声を掛けておけ、直ぐに軍儀を始める」

「畏まりました。それでは行って参ります」


 オーカスさんはリリアの命を受けて広間の右奥の方に走っていった。


「では、我等も行こうか。議場は広間の奥の部屋だ。付いて参れ」


 リリアが怪我した足を気にしておっかなびっくり歩いていく。


 どうしよう、また抱えた方がいいだろうか?

 でも、ここだと人の目があるしなぁ。

 とりあえず、メリジューヌさんに相談したほうが良いな。


 僕は背後にいたメリジューヌさんのほうを振り返り声を掛け…………られなかった。

 なにか、怖い目付きでブツブツと独り言を呟いていて声を掛けれる雰囲気ではなかったのである。


「私だって…………乙女…………許せな……方じゃなかったら……ミン……」


 うん。よく聞こえないが言ってる事はなんとなく分った。

 オーカスさんのメリジューヌさんへの扱いが気に入らなかったのだろう。

 僕はそういう扱いをしないように気をつけよう。ミンチにはされたくない。

 とりあえず元に戻ってくれないと相談できないので、話しかけるのは怖いけどフォローはしておこう。


「エート、めりじゅーぬサン怪我ハ大丈夫デスカ?僕めりじゅーぬサンハ、強クテモ女ノ人ダカラトテモ心配デス」


 余りにも、心にも無い事を言ったので片言になってしまった。


 メリジューヌさんは体をビクンッと一瞬震わせた。

 まずい!ちょっと嘘臭過ぎたか!?


「ツルギ様はお優しいですね。ですが、この程度の傷なんともありません。ご心配して頂き有難う御座います」


 と、まぁ晴れやかなニッコニコの笑顔で返答してくれた。


「で、少し相談なんですが」

「なんでしょう?」

「リリアを、あの足で歩かせるの心配なんだけど、無理にでもまた抱えた方がいいかな?」

「いえ、恐らく大丈夫でしょう。ある程度の治療は応急手当で済んでいます。それに無理に抱えようとすれば姫様は大変お怒りになられるかと」

「でも、無理に動かして後遺症でも残ったら大変ですよ?」

「ツルギ様、姫様は今ここに居る者達の長です。例え後遺症が残るとしても姫様は配下の者と民達の前では健在の姿勢を見せなければならないのです」

「そういうものですか…………」

「はい、そういうものです。それが出来るからこそ、姫様は私の姫様なのです」


 メリジューヌさんは誇らしそうにリリアの後姿をみている。

 そして、僕も続いてリリアの後姿を見た。

 リリアはもう、おっかなびっくりの歩き方を止めて背を延ばし堂々と歩いていた。

 時折、獣人や亜人に「姫様姫様」と声を掛けられ片手を挙げて目だけで挨拶している。

 その姿はまさしく誇り高い王族の姿であった。

 平和な日本で育った僕には、先頭に立って戦時に赴く王族というのは初めて見るものであるが……なるほど、あの姿を見ればメリジューヌさんが魅入られる理由が分ったかもしれない。


「二人とも何をしておる。遊んでいる暇は無い!早くせよ!」


 リリアがこちらに向けて早く来るように催促してきた。


「はい、只今」

「ああ、今行く」


 そうして、僕達は議場に向かった


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