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迷宮の新米守護者  作者: 板 竹輪
第1章 迷宮の新米守護者
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第6話 召喚に至る話:後編 触手さんと私

今回実験的に

聞こえ難い声の表現をする為にひらがなをカタカナにする形で文章を作成してみましたが、読み難かったら申し訳ないです。

 

 私は目の前の触手に話しかけてみることにした。

 気持ちが悪いが仕方ない。

 そうだせめて頭の中では、さん付けて呼ぶことにしよう。

 少し親近感が沸くはずだ。


「そうだ、わた……我が汝を呼び出した。呼び出されたからには、我が願いを叶えよ」


 相手が神でも、今は魔法陣に閉じ込めれら行動を封じ込められている存在だ。

 通常の召喚生物と契約する時の対応と、同じように対応してこちらが下手に出ない姿勢を示・す


「ドノ様ナ手法ヲ用イテ我ヲ呼ビ出シタ。我ハ名ヲ奪ワレ、通常ノ召喚デハ呼ビ出セ無イハズダ」


 え?そうなの?そんなの神話にも家の逸話でも語られてなかったが……あーそういえば『名を奪われし者』って異名有ったな。この触手さん

 しかし、この触手さん口がないから魔力で何かして喋っているのだと思うのだけれど、言葉が聞きづらい。


「我の血を触媒として用いた。我は汝の使途の末裔だ」

「フム、暫シ待テ」


 何か、触手さんが考え込み始めた。

 そのせいか、ウネウネ動いてた体?が止まってしまった。


「確認サセテ貰オウ」


 そう呟いた触手さんはメキメキと異音を立て始めた。

 どうやら、異音は中央の触手から出ている様で、触手をを膨張させたり縮ませたりして音を立ているのである。


 ……そして中央の触手に大きな赤い眼が生成された。

 目線は私と同じくらいの位置だが、眼の大きさは私の頭より大きい。

 気持ち悪いこっちを視ないで欲しい。


「ナルホド、ソノ角ハ『貫通』カ確カニ我ガ使徒ノ末裔ダ。後ハ若干『疫病』モ混ザッテイルナ?」 


 魔王の血に連なる者は必ず頭に大なり小なり角が生えている。

 私もとても小さいが2本角が生えている。

 小さすぎて髪の中に隠れており普通は視認できないはずなのだが……だが、触手さんは私の角が見えるらしい。

 私達の角は魔力を持っているので、それを直接見ているのかもしれない。


 そして、この触手さんが言った『貫通』という単語は角に宿る魔力の事だろう。

 この角は魔力の防壁を無視し、物質の硬度も無視して刺し貫ける『貫通』の魔角だ。

 もっとも私のは小さすぎて戦闘で使い物にならないが……

 私の先祖、つまりこの触手さんの使徒だった初代魔王は比類なき魔力を持ち、逆らう者を巨大な角で串刺しにしたという。

 ちなみに、この話を始めて父から聞いたときに比類なき魔力を持っているのならわざわざ角を使わなくても良いのにと率直な意見を述べたのだが、男のロマンだと即答された。


 最後の『疫病』というのは分らないが、もしかすると母の家系かもしれない。

 私の母は先祖に様々な種族が居る混血の魔族だからだ。

 まぁ、そんな事は今はどうでも良い。早く話を進めよう、私の魔力はこうしてる間にも少しづつ減っていく。


「確認は出来たようだな、では我が願いを聞いてもらおう。眷属の願いを聞くは主たる者の勤めであろう」

「良カロウ。オ前ノ願イトヤラヲ、マズハ確認サセテ貰ウ」

「ありがたいでは、我の願いは……」


 私が願いを伝えようとした時、触手さんの眼が赤い光を発する。

 それだけで私の体は金縛りのように動かなくなり、赤い瞳から目を離せなくなる。

 これは……魔眼だ。


 魔眼は有名な所で『石化の魔眼』『魅了の魔眼』等があり、視線に魔力を乗せて相手に攻撃する能力だ。だが、普通は魔法陣の結界で遮れる物のはずだ。

 どうなってるんだこれは?

 結界を無視して使える魔眼等聞いた事がない。


 だがこれはまずい、非常にまずい、この魔眼に私の体を制御するような効果があれば良いように操られて触手さんを閉じ込めている結界を解除される可能性がある。


 どうにしかないと……

 そんな事を考えていると、触手さんの目から発していた赤い光が消えた。


 あ、体が動く。

 どうやら、魔眼を解除したらしい。


「オ前ノ願イノ確認ヲ完了シタ」

「へ?」

「今、我ガ『解析』ノ権能ヲ用イテ、オ前ノ脳内ヲ解析シタ」

「なんっ――――」


 思わず言葉が出なくなる。

 乙女の頭の中を勝手にみるなんて、なんと失礼な奴だ。


 そんな事よりだ。これは更にまずいかもしれない。

 触手さんは今、『解析』の権能と言った。

 魔神の権能、これは神話にも出てくる。

 名無しの魔神は12の悪魔に自らが持つ権能をそれぞれ一つずつ悪魔達に分け与えていたという話があるのだ。

 もし、私達の一族が持つ『貫通』を使われたら魔法陣の結界が破られてしまう。

 自分の角が使えないから失念していた……余裕が無かったとはいえ迂闊だった。

 恐らく先程の結界の効果を無視したのも『貫通』の効果との併用だったのだろう。

 もう触手さんが友好的な態度で接してくれるの期待するしかない……


 少し、下手に出てご機嫌取りでもしてみようか?そう思い改めて触手さんを見据える。

 おや?何か様子が変だ。

 こちらから目を逸らして困ったような空気を出している。

 心なしか触手もウネウネではなくモジモジしている様に見える。

 何か私の願いに不都合でもあったのだろうか?

 とりあえず、まずは願いを聞き届けて貰えるか聞いてみよう。

 ご機嫌取りはその後でもいいだろう?


「古き神よ。我の願いを叶えて貰えるだろうか?私はどうなっても構わないただ、民だけは助けて欲しい」

「ウム、オ前ノ願イダガ…………コレハ現状ノ敵ヲ殲滅スルノデハ駄目ナノカ?」

「駄目だ。今退けてもまた奴等はすぐに来る。殺したくらいでは、すぐに蘇ってこの遺跡を襲うだろう。我は汝に民を守護して欲しいのだ」


 そう、奴等は不死身なのだ。

 殺してもしばらく時間を置けば何処からともなく現れてまた襲ってくる。

 無限の兵力だ。

 一時しのぎに退けても余り意味はない。


「フム、デハ無理ダ」


 無理?そんなはずはない。もし守護向きの能力を持たないとしてもやり方はあるはずだ。

 名無しの魔神と天上の神々との戦いは天上だけではなく、地上の世界にも大きな傷跡を残したと神話には記されていた。

 そんな力を持つ者が地上の世界の存在に遅れを取る訳がない。


「何故だ!自らの力に自信を持ったからこそ、僅かな使徒だけを引き連れて天の神々に反逆したのではないのか?ならば地上の生物を守護すること等造作もないことではないのか?」

「我ハ肉体ト魂ヲ創生ノ女神ニ破壊サレテイル」

「では、何故召喚が可能だった?死した神の魂を呼び出すことは可能だが、魂を失った者までは不可能なはずだ!」

「我ハ今、オ前ノ魔力デ擬似的ナ肉体ヲ構成シ僅カニ残ッタ魂ノ残滓デ現界シテイルニ過ギナイ」


 なるほど、体を全て私の魔力で構成しているのか。

 最初に魔力を大量に持って行かれたのはそれが理由か……

 現状で既に私の魔力は3~4割持って行かれている。

 呼び出して維持しているだけで、この有様だ。

 とても長期的に触手さんを存在させる事は出来ない。


「では、我の体を使え!神は魂だけになれば、他の生物に憑依できると聞く」


 肉体を失った神は他の生物に憑依できるのだ。

 ただし、憑依された生物の体は神の力に耐えられず、いずれ崩壊する。

 稀に耐える体もあるけれど魂が神の魂に潰されて魂を失うことになるのだ。

 死ぬか廃人か基本的にはその選択しかない。

 もとより、肉体を失っているとは思っていたので想定していた事態だ。


「不可能ダ。オ前ノ器デハ入リ切ラヌ」

「どういうことだ?我の肉体が脆弱だということか?」

「ソウダ、普通ノ生物ニハ我ガ魂ガ残滓デアロウト大キ過ギル。直グニ魂ノミ為ラズ肉体ノ崩壊ガ始マルダロウ」


 これは完璧に想定外だ。

 どうしよう…………そうだ!可能かは分らないが、駄目元で触手さんの権能を全て貰えないか聞いてみよう。

 私の戦闘能力でも全て貰えば多少の力になるはずだ。


「では、我に神話の悪魔達のように権能を与えてくれないだろうか?出来れば残りの11個全てを」

「全テハ不可能ダ。汝ハ我ノ権能ヲ既ニ肉体ニ宿シテイル。我ガ使徒ノ血肉ヲ用イテモ3種類ノ権能ヲ宿スノガ限界ダロウ」

「では、二種類しか権能を貰えないという事か?」

「一種類ノミダ。汝ハ既ニ『貫通』ト『疫病』ヲ宿シテイル」


 権能一つのみか……

 恐らく、それではきっと何も変わらない。

 触手さんの言っている『疫病』とやらがどんな権能か知らないが、私は使い方を知らない。

 もう一つの権能『貫通』は私の角が小さすぎて戦闘には使い物にならない。

 それに、私は戦闘用の魔術は使えないのだ。一般の兵士達にすら私単体の戦闘能力は劣る。

 一つや二つ権能が増えた所で、あの凶悪な冒険者達に太刀打ちは出来るとは思えない。

 手詰まりだ。

 これならば、残りの魔力を全て使い切って触媒を必要としない低級の召喚魔獣を乱造した方が良い。

 勝てはしないだろうが、乱造した召喚魔獣たちに民を護衛させて逃がせば少しは生き残るはずだ……他に手立ては無さそうだ。

 触手さんには折角来てもらって悪いがお帰り願おう。


「ならば権能は必要ない。残念だが汝の力では我が願いは叶わなそうだ。安らかな死の眠りに付いていた所を起こして悪かった。元居た所に帰るが良い」


 そう言って供給していた魔力をカットしようとした時だった。

 触手さんのウネウネが急速に早くなった。

 そして、焦ったような口調で私に語りかけてくる。


「マァ待テ!我ヨリ提案ガ有ル。我ハコノ地ニ顕現出来ナイガ、我ガ使徒ヲコノ地ニ遣ワス事ハ出来ル」

「12の悪魔か!?」


 もし、12の悪魔の生き残りが居るとしたらそれは大きな戦力になる。

 彼らは使徒でありながら、天上の戦争で多くの神々を滅ぼしたと伝わっている。


「違ウ。汝ラガ12ノ悪魔ト呼ブ者達ハ、大半ガ天上デ滅ビテイル。生キ残リモ既ニ、ソノ生ヲ全ウシテイルダロウ」


 流石に皆死んでいるか……創世神話の戦争は1万年以上昔の話だと云われている。


「では、まだ汝には他の使徒が居るという事なのか?」


 そう、問いかけると触手さんはまた困った感じに目線を逸らした。


「違ウ。今カラ使徒ヲ急造スル」

「そんな事が出来るのか?しかも、急造品なんかで大丈夫なのか?」

「契約ノ用途ニ特化シタ既存ノ生物ニ、我ガ権能ヲ与エ、急造デハ有ルガ我ガ使徒ト成ス。ソシテ、コノ地ニ我自ラ呼ビ出ス」

「その使徒とやらは、我々を守りきれるのか?」

「今我ガ用意シヨウト、シテイル生物ハ迷宮ノ作成ト守備ニ特化シタ生物ダ。コノ欲望ノ迷宮ヲ守リ切レル可能性ハ高イ」


 欲望の迷宮?この遺跡の事だろうか?

 なるほど、確かに2層は迷宮のような通路と小部屋で構成されている。此処は元々は神殿に付随した迷宮だった訳か。 

 3層は崩落して発掘が終っていない部分があるので全容は掴みきれていないが、この構造を利用するのは有りだろう。

 現に今私の兵達は冒険者達を誘導して迷わせて時間を稼いでいる。

 それに呼び出すのは迷宮の作成と守備に特化した生物だという話だ。

 迷宮の作成を行なえて尚且つ迷宮を守りきれる様な強力な存在といえば、私が思いつく限りだと上位の幻獣の鉄女王蟻(クィーンアイアント)や土竜王かもしれない。

 あれらは大量の眷属を持ち、単体でも戦闘力が魔王級だという話だ。

 それに魔神の権能を加え遺跡の迷宮化を進めれば勝てる!

 しばらくはそれでやり過ごせるはずだ。

 うまく運用できれば、隙を見て民をエルフ領に逃がすタイミングも得られるかもしれない。

 それにもう他の手段が無い、触手さんの提案を呑もう。 


「分った。その提案受け入れよう」

「デハ使徒ヲコノ地ニ遣ワソウ。ダガ、ソノ前ニ使徒ヲ遣ワスニハ条件ガアル」

「契約の対価か?」

「ソウダ」


 召喚し、呼び出した者を従えるにはソレ相応の対価が必要になる。

 低級や中級の者であれば安定した食事の供給の約束や宝石を対価にする事等で済むが、上級の存在になると大量の生贄や小感謝の魂そのもの要求する者迄いる。


「何を望む古き神」

「オ前ノ魔力ヲ全テト、オ前達ガ持ツ吸魔石ヲ貰オウ」


 中々手痛い所を付いてくる。

 別に魔力全ては構わない、しばらく動けなくなり回復まで時間を要するが私の場合は残しておいても戦闘に役立つものではない。

 それならば差し出して戦力を得た方が賢い選択だ。

 だが、触手さんが言った吸魔石は渡せない。


 吸魔石は周囲の土地からマナを集める効果がある魔石だ。

 吸収したマナは取り出し可能であり生物の体には取り込めないが、魔道具に接続することにより土地のマナが続く限り、半永久的な動力源として魔道具にマナを供給してくれる代物である。

 現在この機能を使い遺跡の換気と照明、そして地下水の浄化の魔道具に接続されている状態だ。

 これは魔族の秘宝であり、私の領地を襲った天使も求めていた物だ。

 私がこの領地に赴く時に遺跡の発掘に使用する魔道具の動力源にと、特別に父が私に預けてくれた物で現在私達の生命線になっている。


「魔力は同意しよう。だが、吸魔石は渡せないこれは我等の生命線になっている」

「ソレハ元々我ノ所有物ダ。我ノ元ニ在ルベキ物ダ」


 元々、触手さんの所有物?

 確かにこれは古い自体から我が家に伝わる物ではある。

 もしかすると元を辿れば触手さんからご先祖様経由で、我が家にもたらされた物かもしれないな。


「そうは言われても今は我々が使っている。これを奪われたら民の命が維持できない。汝を召喚した意味も無くなる」

「ムゥ……ナラバ、先ニ残ッタ魔力全テ渡セ。ソシテ契約ノ完了時ニ吸魔石ヲ引キ渡セ」


 どうするか。悪くはない提案だ。

 契約完了条件を私達の安全を完全に約束される状況の確保にすれば、渡しても良いかもしれない。

 しかし、秘宝である吸魔石を渡せば、私は父に勘当されるか下手をすれば処刑されるだろう。


 ……だが、既に捨てたつもりの命だ。

 惜しむ事は無い。


 良し!詰めの契約交渉だ強気で行こう。   


「了解した。ただし契約と対価の引渡しタイミングに明確な条件付けさせて貰う」

「何ダ?言ッテミヨ」

「まず契約だ。契約の開始は使徒の作成が終り次第直ぐだ。直ぐに派遣して貰わねば意味はない。次に契約完了の条件は我と我の民達が命の安全を脅かされない環境が暫く続くことが条件だ」

「暫クトハ、ドノ程度ダ?」

「異界の冒険者と呼ばれる者達が、この地に踏み込まなくなるようになり民が自由に移動できるようになるまでだ」

「分ッタ。ソノ申シ出受ケ入レヨウ」

「次に、この地へ来る使徒を我に服従を約束させろ。強力な存在に暴れられては我らでは太刀打ちできない」

「ソレハ駄目ダ。強制的ニ服従サセル事ハ出来ルガ、自由意志奪ワナケレバナラナイ」

「それでも構わない、指示は私が出す」

「あれ等ノ種族ハ自由意志ガ有ルカラコソ能力ヲ発揮サセル。意思ヲ奪エバ使イ物ニ成ナラナイ、オ前達ヲ守ル事モ不可能ダ」

「その使徒は我等に反逆する可能性はないのか?その力が我等に向けられる可能性はないのか?」

「ソレハ、オ前達次第ダ。ダガ、オ前達ニ危害ガ加エラレヌヨウニ安全装置ハ取リ付ケヨウ」

「使徒が我らに危害は加えないとしても、命令を効かない可能性はないのか?」

「有リ得ルガ、オ前ハ王族ナノダロウ?ナラバ従エテ見セヨ」


 正直、私にカリスマ性も人心掌握力も無い。

 そんな物があれば国からこの地に来る時にもう少し兵隊を連れて来れた。

 そうすれば……やめよう今過去を顧みても、解決にはならない。


「それは流石に王族としてもそうだが、召喚師としても同意しかねる。呼び出した者が命令を聞かない可能性が有るのならば居ないと同じだ」

「クドイゾ、意思ヲ奪ッテハ使イ物ニ成ラナイ。ナラバ存在シナイノト同ジダ。コノ条件ヲ飲メナイナラバ、契約ハ無シダ。我ハ還ル」


 まずい、今帰られたらもう何も出来ない。

 触手さんを維持するのに魔力を大分消耗した。

 この魔力では低級の召喚獣も大量には呼べない。

 しょうがない折れよう、他に手は無い。


「分った。その条件で契約しよう」

「了解シタ」

「次に、対価の引渡しタイミングについてだ。魔力は直ぐにでも引き渡せるが今渡すと、汝の体を維持出来なくなる。汝の使徒が到着した段階で引き渡したい。」

「良イダロウ」

「最後だ。吸魔石を引き渡すタイミングは、民が我が領地を自由に歩けるようになり、そして我が居城に戻った時だ。後、使徒とやらに契約中は吸魔石に触れる事を禁ずる。これだけは譲れない」


 使徒とやらが、制御が聞かないならこれくらい飲んで貰わなければ困る

 いつ裏切るか分らないのに目当ての物を触れさせるわけには行かない。


「了解シタ、他ニハ条件ハナイカ」

「無いこれで契約は締結だ」

「分ッタデハ、使徒ヲ連レテコヨウ。暫シ姿ヲ消スガ魔力ハ供給ヲ続ケヨ」


 そう言って触手さんは、魔法陣が描かれた床に開いた次元の裂け目に戻っていった。

 床は唯の床に戻りウネウネした触手の痕跡はもう何もない。

 だが、存在は消えてない様で少しずつ魔力を吸われている。


 30分後――――

 帰って来ない、魔力は吸われているのに帰ってこない。

 どうなってるんだこれ?

 残りの魔力は僅かだ。

 使徒が来た時に渡せる魔力などこれでは微々たる物だろう。


 更に30分後――――

 全身から魔力を捻りだし、体が悲鳴を上げる。

 抜け出る魔力に比べれば微々たる量だが、大気からマナを補給する。

 魔族の特技の一つだ。

 大気からマナを吸収し魔力に変換する。

 これが有るから私達魔族は他種族より高い戦闘能力を誇る。

 それにしても、遅い。


 更に更に30分後――――

 ゴホッゴホッと血の混じる咳が出た。

 どうやら全身から魔力を引き出したせいで何処かの臓器が限界になったようだ。

 まずい、触手さんが戻る前に私の体が持つかどうか怪しくなってきた。

 それに、上の階が騒がしい。どうやら冒険者達との戦闘が激化してきたようだ。


 更に更に更に10分後――――

 私は朦朧とする意識の中で実はこれ、騙されて魔力を吸われる詐欺に引っ掛かっているんじゃないか?と思い始めた頃だった。

 魔法陣に裂け目が出来た。

 しかし、触手さんの姿は無く、代わりに魔法陣の真ん中には王冠が浮いていた。

 ん?なんだこれは?まさかこれが使徒か?


「待たせたな、少々使徒と交渉するのに時間を要した」

「え、触手さん?」


 疲れ切った私にはもう、召喚物に対する威厳と威圧を維持した喋りをする余裕も無かった。

 それに使徒との交渉という言葉にも突っ込みを入れる余裕はなかった。

 使徒は無条件で神に従う者のはずなのに……


「ん?ああ、そうだ。この姿は使徒のイメージに引っ張られた姿だ。先程お前が話していた神と同じ物だよボクは」


 おおう、一人称まで変わってる。しかも、喋りも流暢だ


「もう、私の魔力は限界です。早くしてください。それともう払える分の魔力は残ってないけれど、そちらの落ち度ですから契約は守ってくださいね」

「ふむ、召喚師らしく威厳を取り繕う気力も無いか、良いだろう今使徒を呼ぶ。それと魔力だが別にお前からじゃなく、お前の体を通して奪うから良い気にするな」


 突然風が吹いた。

 いや、これはマナの流れだ。

 強い力でマナを引っ張り込んでいるから大気も一緒に動いているのだろう。

 遺跡の周辺から強制的に引き出しているんだと思うが、規格外の集約力だ。

 しかし、何故こんな力を持ちながら吸魔石を必要とするんだ?


 私の体を経由して魔法陣の上に膨大な量の魔力が集まる。


「おおよそ、これがお前の魔力総量と同程度だな大した物だ。誇れ娘、お前は我が12使徒に匹敵する魔力容量を身に宿している」

「そんな事どうでも良いので早くしてください。もう意識が途切れそうです」


 触手さん少し性格変わってないか?姿に性格が引っ張られているのだろうか? 

 でもそんな事より、強制的にマナを私の体を使って引っ張れるなら少しくらい魔力を私に残してくれても良いと思う。


「最近の若いのはせっかちでいかんな。まぁ良い、契約通り使徒をこの地に遣わそう」


 王冠さんがそう言うと魔法陣の床が全て裂けた。

 魔法陣丸々一個分の大きな次元の裂け目が出来る。

 そして魔法陣の中に暴風が吹き荒れ大気が渦を巻く。


「来たれ、我が臨時使徒よ。我が名代としてこの地に顕現せよ!」


 暴風が出す音で旨く聞き取れなかったが、今なんて言った?臨時?臨時ってどういう事だ?


「では、さらばだ娘。機会があればまた会おう」 


 魔法陣の中が黒い霧に覆い隠される。

 霧は魔法陣の中で高速で渦巻いている様だ。


 そうして、30秒ほど経つと霧は晴れ元の魔法陣の床に戻っていた。

 王冠さんは消えて、中央には人間らしき者が倒れている。が、人間という事はあるまい、触手もとい王冠さんは迷宮作成と守護に適した存在だと言っていた。

 そんな人間が居るなんて聞いた事はない。

 大方、人型の高次元生命体か、人間と見間違うほど生前の姿を維持した高位の不死者(アンデッド)だろう。

 むしろあれだけの苦労をして人間を呼ばれても困る。


 中空にはまだ私を通して魔法陣に集められた魔力が残っていた。

 サイズは小さくなっているが、まだまだ大きな魔力の塊だ。

 王冠さんが私に気を使って残していってくれたのだろうか?


 私がはっきりしない意識で眺めている間に魔力の塊が動いた。

 倒れている人型の何かの左手に集約し、黒い腕輪のような物になった。


 しかし、この召喚された使徒とやら魔力をまったく感じない。

 黒い腕輪からは何か禍々しい魔力を発しているが使徒からは何も感じないのだ。

 まるで本当に人間のようだ。

 あ!起きた。


 使徒は何か周りを見回している。

 やはり見た目は完璧に人間だ。

 少し目付きは悪いがまだ少年の域を越えない顔立ちで、顔の作りも割りと悪くない。

 髪の色は黒、瞳の色も黒、服装は異界から流れてきた仕立て屋が作る服装に似ている。

 あれは良い物だ。生地も丈夫だし動きやすい。

 そうか異界の服装好きか、私と話が合うかもしれない。

 私も公務以外の時は異界の服装は愛用している。

 配下になる者と話が合うのは良い事だ。


 しかしまぁ、総評すると全体的に異界から偶に流れてくる人間に似ているな。ウンそっくりだ……な?

 んん?…………えっ?これ人間じゃないか?


 まず、不死者特有の闇の魔力を感じない。

 高次元の存在ならば特殊な気配がある。が、この人間らしき者にはそれも感じられない。

 もしかして、あれだけの苦労をして人間一人呼んだのか?私は。

 割りに合わない!騙された!


「騙されたどうして、人間なんかが来るんだ……」


 思わず声に出てしまった。

 茫然自失という奴だ。

 文字通り血の吐くような苦労をしてこの結果だ。

 どうしようもない無能だ私は、騙されてるのにも気づけず貴重な時間と魔力を浪費をしてしまった。

 もう良い、あの人間を殺してあの腕輪から魔力を取り戻そう。

 取り戻した魔力で最後の悪あがきをしよう。


 そう思って懐に忍ばせていた護身用のナイフを手に持った時だった。

 腕輪の中心部に有る宝石のような物が一瞬動いた。

 中心には黒い何かがあり、まるで眼のようだと感じた。

 まるで、あの詐欺魔神の目のようだ。


 いや、待てよ?そうだ!あの腕輪だ。

 あれが何か意味の有る物なのかも知れない。

 それで、あの腕輪はあの人間しか使いこなせないという可能性がある。

 いや、そうに違いない。出なければ人間なんぞ呼び出されないはずだ。

 よし、話してみよう。

 使えないようなら後でいつでも始末できる。

 とりあえず、召喚者としての威厳と魔王の娘らしく高圧的にだ。

 最初から私が存在が上の者だと認識させるのだ。


 立ち上がり、力強く述べる


「フハハハハ、よくぞ来た!魔神の使徒よ。私がお前の召喚者だ。我に従え人間よ」


読み難い文章、最後迄読んで頂いてありがとうございました。


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