第3話 現在地不明/妥協/契約書送付
新規の3話と4話を差し込みました。
4/22 誤字脱字修正、加筆を行いました
「騙されたどうして、人間なんかが来るんだ……」
そう呟き、赤いドレスを着た紫の髪の少女は空ろな眼で僕を見てくる。
最初は空ろとしか感じられない瞳をしていた少女だったが良く良く見るとその瞳には一つの感情が宿っている事に僕は気づいた。
そこにはボクに対する不信感の様な物が宿っていた、それも見るだけで分るほどに強烈な物だ。
――――これは、どういう状況だ?
先程まで見ていた夢の続きだろうか?でなければ、自分に今起きている事が理解できない。
だが、あの夢の住人同様こんな少女が夢に出てくる理由が分らない。
割と僕は年上好きだ。少女が出てくる夢なんか嬉しくもないし、今までそんな夢も見た事がない。
それにあの夢と違い、意識に感じる違和感の様なものをまったく感じていない……まるで現実のようだ。
改めて少女を観察する。身長は僕より頭一つ半小さい。
この身長から察するに年齢は恐らく僕より下で、13~14くらいだろうか?
髪は紫色と現実には有り得ない色をしているが、染めているのか疑いたくなるほどの自然な紫色で肩より下くらいまで真っ直ぐに伸ばしっぱなしになっていて飾り気がない。
そして、顔の作りは日本人離れした作りで白人に近いと思う。
顔立ちは年相応の可愛らしい感じで目がパッチリとしており、それが可愛らしさを更に引き立てている。
肌も日本人よりずっと白くこれも白人に近い。
体系はすらりとして凹凸が無い感じだ。まぁこれは年齢に寄るものだろう。
そんな感じの極普通の高校生の僕にはまったく関わりが無さそうな少女なのだが、先程ポツリと言葉を漏らしてから何も言わない。
そして少女は僕を見た第一声で騙されたと言っていたがいったい何に騙されたのだろうか?
少女が言った『人間なんか』という言葉も気になる、少女は人間以外の何かを求めていたのだろうか?
それよりも、少女の口ぶりだとまるで僕をこの場所に呼び出したのはこの少女のようだった……どういう事なのだろうか……
疑問ばかり湧き出てくるが、少女は何も言ってくれない。
改めて少女の様子を観察してみると、ボクの様子を見てなにやらブツブツ言っているが旨く聞き取れない。
そんな怪しげな少女に話しかけるか迷っている時、少女の様子に変化が有った。
少女は僕がジロジロ見ているのに気づいたのか最初にしていた不信感が宿る空ろな目付きではなく、剣呑な光を眼に宿している。
あの目付きは良く知っている。
姉が僕をボコボコにする時の目だ、初対面の相手をジロジロ見たのが悪かったのかもしれない。
どうやら、僕は少女の機嫌を損ねてしまった様だ。そして少女から話かけてくる気配は無く正直対応に困ってしまう。
うーん、どうするか……こうしていても埒が明かないのは間違いないな。
とりあえず、話しかけてみようか?と思うが、何を話すべきか……こんなタイプの人と僕は話した事もないぞ?
僕は彼女のファンタジー世界から抜け落ちて現実に現れたような姿を見て声をかけ難かった。
また、相手の服装と気配から見て高貴な身分なのかもしれないと感じていたからだ。
少女は真紅の美しいドレスを着ていて、手には美しい装飾が施されたナイフを持っている。
どちらもその美しさから相当に値が張りそうな物なのではないかと、素人の僕でも思わせる物だ。
しかも少女は現在倒れ付したままの状態の僕を冷たい眼で見下ろしている。
困った。なんと言って声をかけるべきか…………ん?
待てよ?最初ナイフなんて持ってたか?
しかも、今抜き身の状態で刃をこちらに向けている……まずくないかこの状況?何か誤解されているのかもしれない。
とりあえずなんでも良いから声をかけて凶行に及ばれる前に止めようとした時だった。
ギィンっという金属が軋むような音がして、左手首に熱を感じた。続いて針を刺された様な痛みが左手首を貫く。
痛みに驚き少女から眼を離す。
そして左手首に見覚えのない、黒い金属製の腕輪のような物が取り付けられている事に気づいた。
腕輪のサイズは縦幅が7cm程度という所だろうか?千円札の縦幅と同じくらいだと思う。
黒い金属の厚みはほとんどない。一部以外には装飾はほぼ無く、手の甲側に紅い小さな宝石とそれを囲うように三つのの長方形三角形が宝石に長辺を向けて彫られているのみだ。
なんだこれは?まったく腕輪を付けている感触が無く、重さも感じない。こんな腕輪、寝る前に付けてはいなかったはずだ。
それにこの痛み方からして明らかに僕の腕に何かをしている筈なのに血の一滴もでず何の変化も与えもしていない。
『所有……へ……敵……判……言語……ダウ…………ド開始』
腕輪を観察していた僕に更なる異変が起こる。頭の中に微かに抑揚のない女の声が聞こえてきたのだ。
熱っつ、つうううぅうう痛てぇええぇえええええ!!なんだ!?何が――――
謎の声が聞こえたと同時に腕輪は発する熱と痛みを更に強める。
腕輪の表面は冷たい金属のままなのに内側の僕の手首に接触している部分はまるで溶けた金属の様に浸透して行き手首の中の方から腕全体に伝わり熱と痛みを浸透させて行く。
しかもその熱はドンドンと強くなり腕輪の発する熱のせいで手首が溶けて取れてしまうのでは?と心配してしまうレベルだ。
痛みの正体は熱に肌が焦がされる火傷の痛みだと推測されるが、耐え切れない痛みと意味が分らない物への恐怖の為思わず僕は腕を抱えて蹲ってしまう。
強烈な痛みで叫びたい衝動に駆られるがそこで僕は認めがたいある事に気づく。
そう、夢だと思っていたのに痛みを感じているのだ。
やはり、これは夢ではなく現実なのだろうか?
腕輪から発せられる痛みと熱が何処かでこれは夢だと信じたがっていた僕をこれを現実だと実感させる。
一体何なんだよコレ!僕なんか悪い事したか!?日頃の行いは良い方じゃないけど悪くもないぞ!
夢でないならば現実なのだろうけど不可思議な事が多すぎる。
状況を整理したい。だがそんな事は後回しにしなけなければならない脅威が僕を脅かしている。
そう、この耐え難い痛みと熱を腕輪だこの腕輪を外さないといけない!
まずこの腕を輪外さないと状況を確認する為にあのナイフを持った少女とまともに会話すらできない。
僕は腕輪を外すべく黒い金属製の腕輪を観察する。
黒い金属の腕輪の内側と側面には繋ぎ目らしきものは見受けられない。
腕輪と皮膚の間に爪を差し込んでみようと試みたがまったく入らなかった。腕輪と肌はぴったりと、溶接されたようにくっつき隙間すらない状態だったのだ。
次に外側の宝石の周りに外す為の仕掛けが有るのかと思い宝石の装飾周りを見た時に……ソレに気づいた……それと眼が合った瞬間、言い知れない恐怖と共に体に強烈な寒気が走った。
赤い宝石の内部に瞳のような黒いものが生成されていた。
その瞳は一瞬僕と 目が合った後にギョロギョロと周囲を観察するように瞳を動かし最終的にある方向を睨み付ける様に見据えた。
そう、あのナイフを持った紫の髪の少女を見ていたのである。
どうやら少女も腕輪の変化に気づいたらしく怪訝な顔付きをしている。
そして何か考え事をしている様で僕を冷たいで眼で見るのを止めて、再び下を向いて何かブツブツ言っている。
しばらくして、少女が顔をあげた。
先程までは陰鬱な表情をして冷たい光を眼に宿していた少女の表情はが幾分か顔が明るくなり笑みが一瞬見えた。
僕はその時、寒気が背筋を駆け抜けるのを感じた。その少女の笑みが何か企みを感じさせる邪悪な笑みだったからだ。
しかしそれではない、少女の変化に呼応するように腕輪にも変化が生じて、腕輪が発していた凶悪な熱と痛みがスッと僕の腕から抜けていく。
訳が分らない。少女の変化にこの腕輪が反応したのか?この少女とこの腕輪になんらかの関連があるのだろうか?だとしたらこの少女の目的はなんだ?
それにこんな場所に居る理由も訳が分らないし、本当にもう訳が分らない事だらけだ。
もう、何がなんだか分らなく混乱して頭を抱えたくなっている僕に少女は顔から笑みを消して真剣な面持ちでこちらに向かって歩み出した。
さて、どうするか。とりあえず理由は分らないが腕輪の発する熱は収まった。
ならば、腕輪よりはまずあの少女を優先した方が良いかもしれない。
少女はもう僕と目と鼻の先の位置迄来ている、もちろんナイフを手に持ったままだ。
陰鬱な表情でナイフを持っているのも怖かったが、あの何か企んでいる感じの笑みを見た後だともっと恐怖を感じる。
『決めた!もう、殺しちゃおう』とか、そんな事を思っていそうで余計に怖い。
そんな事は常識的に考えて無いとは思うが、既にこの事態は大きく僕の常識から外れているのだ。
ならばこの少女が常識を外れた行動を起こしてきても対応できるようにした方が良い。正直このままナイフで刺されるのは御免こうむりたいので少し対策を考えてみる。
まず、少女が襲い掛かってきたらあのナイフを取り上げよう。
幸い僕には家の稽古で得た経験がある。それに加えて思い出したくもないがAOで得た経験も役に立つだろう。
ナイフを無事に取り上げれれば、後は少女には悪いがうつ伏せに組伏してこの状況の説明を行なって貰う。それがベストな選択だ。
ナイフ持った相手に立ち向かうのは危険な選択だが、襲われて黙ってやられる訳にもいかない。このプランで行こう。
僕は立ち上がって少女の攻撃に対処するべくナイフの動きに集中する。
何時切りつけられても回避出来る様に少女の観察を続けていると、ナイフがギリギリ届くか届かないかの距離で少女が歩みを止めた。
そして、僕を見据えてこんな事を言い出した。
「フハハハハ、よくぞ来た!魔神の使徒よ。私がお前の召喚者だ。我に従え人間よ」
…………ん?……………うん、意味不明だ。
言葉を理解できないという意味での意味不明ということではない。
幸か不幸かこの外国人らしき少女の言葉は理解できた。だがその内容がまったく理解できない。
おかげで頭の中が少し空白で埋まってしまった。
魔神の使徒とはなんだろう?まず、魔神とやらを知らない。それに使徒とやらも何か知らない。
もちろん、使徒の意味自体はなんとなく僕も知っている。
宗教的な意味合いか、大昔のアニメに出て来た天使の名前が付いた怪物達がそう呼ばれていたと記憶している。
しかし、僕はそんな者になった記憶は無い。
うん駄目だなこりゃ……
何か勘違いをされているか、この子はちょっと危ない頭の弱い子なのかもしれない。恐らく後者の方が正解の確立は高いだろう。
先程迄元気が無かったと思ったら、急な物騒な眼で見てきて物騒な物を持ってこちらに近寄ってくる、しかも急に笑い出して意味不明な事まで言い出した。
どう好意的にとっても危ない人にしか見えない。ならば僕はどうするべきか?決まっている。
危ない頭の弱い子にナイフなんて持たせておいても良い事なんて何もない。
ナイフをまず取り上げてしまおう。それで無事ナイフを取り上げれたら少しだけ話をしてみよう。もっともとまともに会話が成立するかも怪しいが…………
そんな事を思いながら少女に身を低くして近づこうとした時、ボンッと突如僕の頭上でクラッカーを鳴らしたような音がした。
頭上を見上げると黒い煙の中から一枚のA4サイズくらいのコピー用紙らしき紙がヒラヒラと落ちてきている所だった。
僕と少女が驚いて身を半歩引いて黙って紙が落ちてくる様子を見ていると、少女と僕の中間くらいの位置に紙が落ちてきた。
そのコピー用紙らしき物の表面には文字がビッシリと書いてあった。
拾い上げて紙を見てみたが、紙には見たことがない文字が印刷されている。
僕は紙に書かれている文字を見て二つの意味で驚愕した。
まず驚いたのは紙に印刷してある見た事も無い知らない文字を…僕は何故か書いてある文字を読む事が出来た……見たことも無い象形文字のような文字だったのにだ。
そしてもう一つの驚愕した理由はこの紙に書かれていた内容についてだ、紙にはこう書いてあった。
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【召喚契約書】
■契約者名:『リリア=ラリス=フォールン』様(以下敬称略)
■契約神:名を奪われ名無しに成りし魔神(注:契約神は肉体を失っている為、契約神の代わりに臨時雇用の使徒を就業場所に派遣する)
■就業使徒:名無しの魔神臨時使徒『ツルギ=タチバナ』殿(以下敬称略)
■就業場所:名無しの魔神の地下遺跡(旧名称・欲望の迷宮)
■就業内容:迷宮の作成及び迷宮の守護
■契約内容:契約者とその民達が安全に暮らせるように迷宮を作成し同迷宮を守護する。
■契約完了条件:契約者とその民達が命を脅かされず、安全が確保され自由に行動できるようになる迄
■契約対価:
1.前払いでリリア=ラリス=フォールンの総魔力量に相当する魔力譲渡
2.契約完了時報酬として吸魔石の譲渡
■契約対価特記事項:吸魔石の支払いはリリア=ラリス=フォールンが安全を確保したと判断し、居城に戻った時点で譲渡される。
■就業使徒への貸し出し物: 神器『導きの腕輪・権能搭載型』
■貸し出し物詳細:
1.所有者の就業条件に適した権能 『創造』『解析』『自衛』の三種類を機能制限状態で搭載
2.対話型インターフェイス搭載(注:初期出荷状態なので、所有者の脳内よりデータダウンロードの必要性有り)にて適宜助言を与える。
■お問い合わせ先:現在契約神が肉体を失っている為準備中。後日契約神より連絡予定
■備考
1.臨時使徒ツルギ=タチバナが契約解除を望む場合は契約者に通告する事により、いつでも解除できる。
2.ツルギ=タチバナが備考1を望む場合、貸し出している神器はその場で消滅する。
3.ツルギ=タチバナが元居た世界に帰還を望む場合は、世界転移可能な魔法陣前にて、お問い合わせ先項目に記載されている方法で契約神に問い合わせる事。
4.世界転移に必要な魔力は契約神が負担する。
5.契約期間中に使徒がケガや死亡する事象に在った場合、契約神は一切の保障や賠償を行なわない。
6.臨時使徒の吸魔石との接触は禁じる
以上
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