第1話 DG/AO
処女作なので見苦しい点もありますが、読んでいただければ幸いです。
5/24追記 DGとAOの細かい設定や剣が経験した事については最初は記載していましたが、随分長くなってしまったので削りました。今後のお話の何処かで書こうと思います。
僕の名前は「立花 剣」何処にでも居るヘビーゲーマーの高校生だ。
僕はこの2年大変にはまっているゲームが有る。
PC用SLGダンジョンガーディアン(通称DG)
このゲームはシンプルだが、奥が深く僕を惹きつけて放さない。
ゲームの舞台は中世がモデルのダークファンタジーで、一般的なファンタジーRPGに出てくるモンスター達も一通り出てくる。
ゲームの内容は簡単に説明してまうと、プレイヤー同士がお互いの迷宮を攻めあい資源を略奪しあうゲームだ。
今時珍しい2Dで、携帯端末や低スペックPCでも遊べるゲームという事もあってプレイヤーは全世界に500万人ほど居ると言われている。
最初は高校受験の間の息抜きに始めたゲームであった。
現在主流のVRタイプのMMORPGは受験生向きでは無く、また僕はVRを苦手としていたので好みのゲームを探すのに大変苦労していた。
その時分に仲の良い友人が教えてくれたのが、DGだった。
受験勉強の息抜きにと、片手間で始めた筈のゲームとして選んだのはずのDGだったが、僕はその後ドはまりしてしまったのである。
そして無事高校受験にも成功し高校1年生になった今もDGへの熱は冷めなかった。
僕は今冬休みを利用してDGの世界ランキング戦に挑戦している。
この1年で貯めた資材と財宝を全て導入し、現在は世界ランク3位になっていた。
時刻は午前6時に差し掛かる頃だ。
昨晩より僕は一つの迷宮を襲撃していた。
今攻めている迷宮は世界ランク2位の迷宮で僕はこの迷宮攻略にかれこれ6時間ほど費やしている。
「いける?いけるよな!いけるって!良し行った勝った!」
PCの画面の中では武装した大鬼と人狼の群れが満身創痍になりながらも敵の迷宮の核を粉砕していた。
これで僕の勝利は確定だ。そして僕のDGランクが上がり世界2位が確定した瞬間でも有った。
「よし!よしよし!これで、世界ランク2位だ!」
悲願が叶い思わずそんな大きな声が出た。
悲願と言ってしまうと大げさに聞こえてしまうかもしれないけど、冬休みのほとんどを費やした事が成就したのだ。僕のような高校生にとって冬休みとは貴重なものだ。
ならばそのほとんど費やしたのだから悲願と言っても問題ない。
あとは1位のダンジョンをどう攻めるかだな……正直冬休み中の攻略は難しいだろうな。このダンジョンの攻略を練るだけでも相当に時間を要した。
1位が相手となればその倍から数倍の時間を必要とするのは間違いない。ここは一先ず防衛を固めて春休みまで2位をキープした方が――――
「五月蝿い、こんな時間に何騒いでるのよ」
バタンと大きく乱暴な音が遠くから聞こえたかと思うと僕の背後の方で再び同じ様な音を立てて突如部屋のドアが開いた。
あ、不味い……やらかした……
部屋の入り口に振り返ると、僕にとってのラスボス、パジャマ姿の姉『蓮華』が寝起きで不機嫌そうに腕を組んで立っていた。
立花蓮華
僕の姉である。歳は17歳の高校3年生。趣味は剣道の稽古とVR系ゲーム全般。
容姿は身内の僕が見ても美人の部類に入ると思う。
肌は色白で髪を腰まで伸ばしているのも相まって黙っていれば深窓の令嬢に見えなくも無い。だが、見た目に騙されていけない。その性格は激情家ですぐキレるタイプである。
口より先に手が出るタイプであり、怒らせるとボコボコにされるので子供の頃より僕はこの姉のご機嫌伺いに苦労している。
「答えなさい……こんな朝早くから何の騒ぎ?」
不味い、大分姉の機嫌は悪そうだ。
まぁそれもそうだよな、こんな朝早くに隣室で騒がれて起こされたら僕だって怒る。
「あーごめんごめん。ちょっと良い事が有ってハメを外しちゃってたんだ」
「少しは時間、考えなさいよ。おかげで良い夢見てたのに目が覚めちゃったわよ……」
「本当にごめん。遂、声が出ちゃったんだ。次からは気をつけるよ」
僕は必死に謝るが、姉の表情に変化は無い。
姉は眉間に皺を寄せて僕を睨み続けてる――――が、突然姉に変化が現れた。
笑顔、姉がとても良い笑顔になった。
あ、駄目だ。詰んだ。これ駄目なパターンに入った。
「そう、でもあれだけ朝から大きい声を上げる元気があるなら朝の稽古くらい付き合えるよね?」
我が家は剣道の道場を営んでいるので僕も姉も子供の頃より父に本人の意志に関係なく剣道をやらされている。
そして、それは現在も続いていて僕は嫌々、姉は喜々として稽古を積んでいるのだが……
先程まで不機嫌は何処へ行ったのか、満面の笑みで姉は僕に問いかけてきている。
ただし、眼が笑っていないアレは獲物を見つけた時の野獣の目だ。肉親の僕ですら恐怖を覚える眼光だ。
「ご、ごめん実は徹夜でゲームをやっていて、徹夜ハイなだけで元気なわけじゃないんだ」
「ゲーム?」
姉は、また不機嫌そうな顔になり僕のデスクの上にあるPCの画面を見る。そして更に気配を剣呑にして声のトーンを一段落とす。
「ああ、またあの根暗な感じのゲームやっていたの?」
「根暗って酷いな……」
「だって迷宮に引きこもって敵を罠にはめたり、人の物を奪うような物騒なゲームなんでしょう?」
おおよそあっているが、何故この姉は気に入らない物には悪意を持った言い方しか出来ないのだろうか……
「そんなのより、お姉ちゃんとAOやろうよ」
AOというのは高い現実感を再現するシステムを売りにした、最近一番人気のファンタジー世界を舞台にしたVRMMORPGだ。
「ごめん、僕やっぱAOは合わない」
「えー!せっかく高いお金出して専用のHMDてあげたのに」
姉は随分AOが気に入っているらしく、僕にもやらせようと2ヶ月ほど前の僕の誕生日に専用HMDをプレゼントしてくれたのだ。
せっかく姉が専用のHMDをプレゼントしてくれたので、一度も使わないのも悪いと思い試しにAOにアカウントを作りログインしてみたのだが……AO内で僕は非常に嫌な物を見てそれ以降ログインしなくなってしまった。
「ほら、AOって戦い方の自由度高いからさ剣道の稽古応用できるし、楽しかったよね?剣でモンスターをバッタバッタなぎ倒すの」
「いや、なんかあのゲームリアルすぎてちょっと……」
「前言ってたモンスターが人みたいな反応するって奴?」
「うん、それ」
「確か、一時期統括AIがリアリティ追求だかの為にモンスターに擬似感情つけてたってヤツだっけ?」
「正直アレは悪趣味だと思うよ」
「でも、それクレームかなんかで削除されたみたいよ。まぁ、元々レアなイベントだったみたいだけど今はまったく無くなったって……だからAOやろう?ね?」
「…………じゃあ、剣でモンスター切った時の感触は?」
AOは五感再現に力を入れているので、モンスターを切った時の感触もリアルに再現されるのだ。
「ん、それは変わらない。でも、あんなの包丁でお肉切るのと変わらないじゃない?」
普段から料理をする姉としてはアレは慣れた感触なのだろうが……僕は生々しくてしばらく感触が取れなかった。
それに……
血、真っ赤な血だ。鮮やかな赤の血が流れる。叫びと慟哭が――――あぁクソが!またか!
一瞬AOで見たあの光景を思い出しかけてしまった。
僕はAOである心の傷を負った。AOの事を思い出すだけでその情景を思い出してしまい脂汗が止まらなくなる。
やめよう、あんな物思い出すべきじゃない。
しっかりと姉にはAOをやらないと言うべきだ。
「やっぱAO僕、無理」
「なんで?」
「リアル過ぎるし、僕は元々VRは好きじゃない」
「えーっ!あんな根暗で物騒なゲームよりは良いと思うんだけどなぁ……」
姉はPCの方を見ながら非難の声を上げ、DGの文句を言っている。
しかし……モンスターを切った感触が手に残るようなゲームやっている人に物騒云々を非難される謂れはない。
物騒なゲームをやっているのはどっちだ!! と、突っ込みたくはなるが下手に突っ込んでこれ以上話を長くされるのは億劫だ。
「とりあえず姉ちゃん今僕は徹夜で大業を成し遂げて非常に疲れているんだ」
「ふーんそれで?」
姉はまた目が笑っていない笑顔で言葉を返してくる。
怖いってその笑顔やめて怖いから!!
「あ、後で稽古には付き合うから今は寝させて!」
「ん、そう。じゃあ昼には起きて稽古の相手してね」
そう言って姉は上機嫌になり部屋を出て行った。
あの状況で、もし僕が姉の望みを断っていればラスボスとのバトルがこんなヘロヘロの状態で始まってしまう。それだけは避けたかった。
「ああ……憂鬱だ……」
姉が部屋から出ていったのを確認し、僕はベットに倒れるように横になり、程なくして眠りに付いた。
結局僕がその後目覚めたのは姉との約束の時間を大幅に過ぎた午後3時過ぎだった。
***
「さて、どうするか……」
姉との約束の時間は大幅に過ぎている……
姉はまだ道場にいるだろうか?
もし、まだ道場に居た場合、僕は稽古という名の全身ボコボコにされる刑に処されるだろう。
起き抜けの頭で姉の稽古からなんとか逃げ出せないか考えるが……
「うん、今逃げてもどうせ明日には倍しごかれるんだから今日は大人しく稽古を受けておくか……」
結局、ウダウダ考えているうちに時刻は午後4時に差し掛かろうとしていた。
結局姉の稽古から逃げられないと判断した僕は道場に向かった。
道場では一人で、姉が素振りをしていた。
見ているだけなら姉の稽古は凄い絵になる。
後ろでまとめた黒髪は時代劇に出てくる女性剣客を髣髴とさせる。
「おはよう姉ちゃん」
「おはよう剣」
僕の遅めの起床の挨拶に、不機嫌そうな声で姉が挨拶を返してきた。
「で、今何時だと思ってるの?」
「しょうがないだろ?徹夜だったんだから」
「遊んでいて徹夜なんて言い訳にならない、自己管理くらいしっかりしなさいよ」
「それを言われると何も言えないな……」
「以後気をつけなさい?それじゃあ始めましょうか」
そして稽古が始まった。
***
その後3時間ほどの間に僕は姉に打ち負かされ続け、体力が尽きて道場に転がっていた。
「うん、やっぱり父さん以外だと剣は一番長持ちしていいわね」
「僕は姉ちゃんのサンドバックじゃないんだけど……」
「あら?サンドバックは反撃してこないんだもの剣の方が上等よ?」
サンドバックと比較して上等と言われても嬉しくない。
「そんなに稽古が好きなら門下生の人たちが来るの待てよ」
姉の僕へ対する不当な扱いに思わず声が出てしまった。
「えーだって皆すぐへばっちゃうし私とやるの怖がるんだもの」
ちなみに門下生の人達は子供から大人まで幅広い年齢層だが、その古株の門下生さん達でも姉には敵わないのだからこの姉の異常ぷりが良く分るというものだ。
稽古中の姉は眼が怖い、眼に殺気が灯っていると言って良い。
打ち込みは早く鋭く重い、物心付いた時から剣道をやらされている僕でも正直防ぐのがやっとだ。
もちろん僕だって打ち込まれっぱなしというのは嫌なのでなんとか、隙を見つけ反撃もするが…………当たらないのだ。
防がれるか避けられる。そして確実に強烈な反撃を貰う。
特に最近の姉は妙に感が鋭く相手が打ち込む場所を分っているような防御をする。
僕が姉と稽古した場合はまともにやりあっても姉から1本も取れない事が圧倒的に多い現状だ。
正直長時間この姉と稽古を行えるのはウチの父か古参の門下生の人達ぐらいだろう。
特に先日の父との稽古は凄かった。
両者攻撃が決まらず、姉がスタミナ負けしてギブアップするまで勝負が付かなかった。
父も結構な歳だ、いずれは姉にスタミナ負けするようになり姉に勝てなくなるだろう。
そうしたら、この道場はこの姉の天下だ……
考えるだけでも恐ろしいそんな事になってしまったら僕は家出してしまいそうだ。
そんな恐怖の未来を想像してしまい、どの様な返答が返ってくるのかは分かるが姉に質問を投げかける。
「もうちょっとこうなんて言うか、穏はやかに稽古できないの?」
「真剣にやらないなんて、そんなの相手に失礼だし意味の無い事じゃない?」
やはり、まぁこういう回答だよな……
この姉は真剣に稽古をしているだけなのだ。
あの強烈な殺気のようなものに自覚は無く、唯その真剣さに付随しているだけなのだろう。
「ま、姉ちゃんの好きにすれば良いけどさ。僕を巻き込まないでくれよ」
「もう、だから私だって気を使って2日に1度しか誘ってないじゃないのよ」
姉は姉で一応気を使っているつもりらしいが、出来れば月1くらいにして欲しい。体が持たない。
まぁ、そんな事を言ったら余計にムキになって毎日稽古に誘われそうだから絶対に言わないけどね。
「まぁいいや、僕はこれからまた部屋でゲームやってるから後は一人で稽古しててよ」
情けない話だが正直これ以上付き合っていると体が持ちそうにない。
「えーまた、あの根暗ゲームやるの?」
どうしてこの姉は自分の認められない事に対して嫌な言い方で文句を付けて来るのだろう……
「根暗じゃないの!知略と計画性を重要視した戦略ゲームなの!」
「そんなのより、お姉ちゃんとAOやろうよ?」
「嫌だよ。嫌々姉ちゃんに稽古を付き合わされているのに、なんでゲーム迄姉ちゃんに付き合わされなきゃいけないんだ!」
AOの名前が出たので、分っていながらも思わず嫌な言い方をしてしまった。
「何よ!そんな言い方しなくたっていいじゃない!」
姉も語気を荒げる。当たり前だ。そう言う風になるように僕が仕向けた。
「姉さんは過干渉過ぎるんだよ。冬休みくらいゆっくり好きなことさせてよ!」
「あんたが自堕落な生活してるから私が、面倒見てあげようとしてるんでしょ!」
「それが過干渉だって言っているんだ!」
売り言葉に買い言葉で、僕がそう告げると姉は憤怒の形相になり竹刀を放り出し、顔を真っ赤にしてこちらに近寄ってくる
あ、ヤバイこれは言いすぎたか?
偶には僕の気持ちを死って欲しいと思い、態と感情的な言葉を投げかけたけどマズったかもしれない!まずい、殴られる!
以前同じような喧嘩をした時は無言で殴られしばらく酷い顔で登校するハメになった。
前回と同じ轍を踏むわけにはいかないし、いい加減やられっぱなしも癪だ。少しは反撃を――――
僕はそう思い。立ち上がり防御の体勢を整えようとしていると、姉は怒気の篭った声で僕に言った。
「そうじゃあ、もう勝手にしなさいご飯だって作ってあげないし、稽古だってもう誘ってあげないんだから!」
誘ってあげている?冗談ではない。
あの稽古を僕が好んでやっているとでも思っていたのか?
この姉は……
「これで姉ちゃんのストレス発散稽古に付き合わなくて良いと思うと随分気が軽くなるよ!」
「なんっ――――」
姉に口を挟まれないように僕は続けて言い放つ。
「飯だって自分で作れるし、別に姉ちゃんに頼らなくても自分の面倒くらい自分で見れる!!」
そう僕が告げると姉は唇を噛み泣きそうな顔になり無言で道場から出て行った。
***
その後、僕は姉が放り出していった竹刀を片付け自室に戻ったのだが後悔の念が今更湧き上がっていた。
先程のは言い過ぎた。
つい売り言葉に買い言葉で言い争ってしまった。
我が家は父と姉と僕の3人家族だ。
母は僕が小6の時に他界しそれ以来姉は母の代わりに家事を行ってくれている。
父や僕もそんな姉に家事を丸投げし甘え切っている。
もちろん僕も父も姉には感謝しても、仕切れない気持ちを持っているが今回の喧嘩はまた別の話だ。
最近は姉は僕に対して異常に過干渉なのだ。
DGをやっている時に必ず姉は細々とした理由をつけて、僕からDGからを引き離そうとしてくる。
今日の稽古の事、そしてAOへの勧誘もその一環だと思う。
僕の自堕落な生活を心配しての事なのかもしれないが……長期休みの間くらい放って置いて欲しい。今日のはそんな感情が爆発してしまったのだ。
言い過ぎたのは理解している。でも、僕は悪くないぞ。最近の姉ちゃんはおかしい。少し時分の横暴さを理解するべきだ。
午後11時――――――――自室
あれから暫く時が経ち、午後11時を回った。
僕は自室でDGをやりながら姉との喧嘩の件を考え続けている。
時間が経ち少しは冷静さを取り戻したので、冷静に今後の対処法を考える。
あの姉の事だから、明日以降しばらくは機嫌が悪いだろう……
正直、明日以降の姉を想像すると胃と頭が痛くなる。
ああなると、うちの姉はこちらから謝ってもしばらくは許してくれない。
時間が経って怒りが収まるの待つしかない場合が多く、その間にまた今回のような喧嘩を勃発させる可能性がある。
下手をすると、明日以降このまま姉を放置してDGをやっていたら激高した姉にPCを破壊されかねない。
基本的にあの姉は口より手が先に出るタイプなのだ。
姉からのPC破壊だけは避けなければいけない。
とりあえず、幾つかの手を打ってみよう。
明日は普通に起きて駄目元で姉に言い過ぎた事を謝ってみよう。
姉は姉なりに僕のことを思っての行動も有ったのだろうし、僕も見直すべき部分が多い。
謝っても許してくれないようなら、姉の溜飲が下がるのを待つ為にもしばらく距離とって見るのも良いかもしれない。
その場合は仲の良い友人の家にしばらく泊めてもらおう。PCは……うん、隠して出掛けるか…… 目標のDG世界ランク1位は遠のくがPCを破壊されたら元も子も無い
「よし、完璧だ」
明日からの方針が決まった僕は手早くPCの電源を落としベットに横になった。この時、部屋の明かりを消して直ぐに眠りについた僕は気づけなかった。
少しずつ部屋に侵食していく黒い霧と呟くような不気味な声に……
「見ツケタゾ」