元国家元首の子供等を率いる女
息抜きに書いた短編小説。
取り敢えず、マリは士官になりますが、多分ここまで来るのにどれくらい時間が掛かるか・・・
国家元首。
それは行政の長として対外的代表権を持つ存在。
あるいは単に対外的代表権を持つ存在を示す物。
その概念は国家有機体説に発しており、国家を人体になぞらえた場合、君主を頭と首になぞらえた物として生まれる。
やがて国家有機体説を比喩を離れ、行政権を持とうが持つまいが、対外的代表権を持つ存在を元首と呼ぶようになる。
社会契約説の国家観の下では委任契約における社会的人格の一つである。
君主制の国家では皇帝・国王等の君主、共和制の国家では大統領も元首とされている。
社会主義国でも大統領の他、中国の国家主席、キューバや東ドイツの国家評議会議長、ソビエト連邦の最高幹部会議長も元首と該当される。
簡単に言えば、国家の長である。
だが、自由主義と国民主権の立場では、国家元首の権威は不要である考えもある。
さて、国家元首が長でなくなった場合、彼等の子供達はどうなるのかは、様々な国家の歴史を紐解けば分かるだろう。
例としては次なる脅威の排除の為、死刑にして根絶やしにするか、はたまた何処へ逃れ、そこでひっそりと余生を過ごすかである。
大半は前者の末路を辿るであろう。
しかし、戦乙女の名を持つ軍事結社「ワルキューレ」は、そんな哀れな後継者達を無償で引き取り、兵士に育てた。
これは、その哀れな兵士として育てられた国家元首の継承権を持たない者達を率いるある女中尉の物語である。
何処かの戦場にて、その女中尉こと元女帝であるマリ・ヴァセレートはその任を上官から命ぜられた。
「貴官に新しく編成される歩兵中隊の長としての任を与える」
目の前の緑色のベレー帽を被った上官から命ぜられた赤いベレー帽を被っているマリは、首を傾げた。
首を傾げ、疑問を浮かばせる彼女に分かり易く上官は続ける。
「つまり転属ってことよ。今日から私の大隊じゃなくて、他所の大隊の中隊長ってこと。中尉で中隊長になれるなんて、戦時下じゃないと無理よ」
マリはどういう訳なのかを問おうとしたが、上官はそれを聞こうともせず、彼女に即時指定された場所へ行くよう命令する。
「さ、分かったら荷物を纏めてここに行く! 分かったわね? ほら、行った、行った!」
上官はまるでマリを追い払うかのように急かし、彼女を自分の部隊から追い出した。
何故追い出されたのか?
それはマリが命令無視や勝手な行動ばかりをするからである。
彼女の才能なら大尉階級の上官より上へ行けそうだが、命令無視に勝手な行動が目立つ軍隊における問題児であり、上官の悩みの種であった。
昇進したこともあったが、降格処分を受けて中尉に留まっている。更には受賞した勲章も剥奪されたこともあった。
これはこれで、部隊から追い出されても仕方ないだろう。
「話し聞きなさいよ・・・」
自分がやって来たことを薄々自覚はしていたマリであったが、こういきなり追い出されては不服であったのだろう。
ふて腐れた表情で渋々と自分の荷物を纏めに自室へと向かった。
して、そのマリが属する事となった部隊の長は、本部の会議場に居た。
背もたれが頭の高さまである椅子に腰を下ろし、両膝を机に着け、両目が見えないくらいの濃い黒いゴーグルを掛けた黒髪で背が高い日系の男だ。
風貌は今の日本人とは似付かない歴戦錬磨の戦士と言え、証拠に顔面に傷跡が残っている。
部隊長、否、師団長の名は、万丈英輝。
階級は一個軍を率いる権限を与えられた大将。英輝が身に着けている制服には、幾つもの勲章がぶら下がっている。
「閣下、失礼します!」
腰巾着とも言える風貌の副官が入ってから敬礼すると、英輝は副官に視線を向けた。
敬礼を終えた後に、副官は英輝の前に手に持った書類を机の上に丁寧に置く。
「閣下の言われたとおりの人選は完了です」
「そうか・・・」
英輝はそう口にした後、副官が出した書類を手に取り、それを読み始めた。
その手に取った書類とは、顔写真が左上に記載されたプロフィール書だ。
山積みにされた書類の中には、マリの顔写真が載っているプロフィール書も含まれていた。
副官はマリの問題児ぶりを知っていたのか、それを英輝にマリを部隊に加えて良いのかを問う。
「閣下、この問題児の中尉を我が師団に加えても構わんのですか? 中隊の指揮経験は当然ながら無く、それに命令違反ばかりです。本当に宜しいので?」
問題児であるマリを師団に入れることに拒絶感を示す副官であったが、英輝は自身の人選に間違いないと伝える。
「いや、これで構わない。ヴァセレート中尉は才能溢れる百年に一度の逸材だ。これ程の優秀な士官を受け入れなくてどうする?」
「しかし、扱いは難しいと思いますが・・・」
「大丈夫だ、"種は撒いておいた"中尉は必ずこの任務を引き受ける」
「は、はぁ・・・」
種は撒いておいた。
この言葉に二言はないのかと副官は疑問を抱いた。
翌日、マリは新しく新設される師団「ソヴァリン」の転属となった。
師団の名は、英語で主権者、元首、君主、国王等の四つを意味する言葉から取られている。
何故こんな意味を取ったのかは、元それらの意味である称号を名乗ることを許された師団所属の兵・下士官等のことを皮肉っているのだろう。それに元王族や貴族、富裕層の将校も所属しており、もはや皮肉っているとしか言いようがない。マリも元女帝であるため、この師団名を聞いたときは、名付け親に少々ながら殺気を抱いたほどだ。
後にこの師団が、かつてのドイツ国防軍陸軍のエリート部隊「大ドイツ」のように師団規模から軍団規模まで拡大するとは、創設者の万丈英輝以外予想だにしなかった。
「これが新しい装備です」
師団本部の受付の女性からマリは新しい勤務服と野戦服、装備が入ったトランクを受け取った。
それを手に取ったマリは、士官用の宿舎まで足を運び、自分の部屋を見付けてそこに入る。
その部屋は兵・下士官時代とは違って一人部屋であり、多少のプライバシーが保証された物であった。
部屋に入った彼女は早速トランクと私物が入ったショルダーバックを机に置き、中に入ってある物を出した。
「さて、トランクの中身はと」
私物を出し終えたマリは、トランクを開けて中身を確認した。
「なにこれ・・・ふざけてのかしら?」
トランクの中身にあったのは、ナチス・ドイツ武装親衛隊の勤務服にM36型士官用野戦服であった。
かつて自分が皇帝だった百合帝国軍で採用されていた物であり、彼女は目を細めた。
仕方なく彼女は、今着ている濃い茶色の制服を脱ぎ、その軍服に袖を通すことにする。
ズボンを穿いてベルトで調整した後、ブーツを履いてボタンを全て留めて鏡の前に立ってみると、自分でも憎いほど似合っていた。
「まぁ、一応は着てみたいと思ったけど」
鏡に映る自分の姿を見て、マリはそう呟いた。
流石にハーケンクロイツ等のナチス関連の物は削除されていたが、ちゃんと中尉を示す襟の階級章や肩章はしっかりと再現されている。
数秒間動き回った後、一緒にトランクの中に入っていたアルミモールの顎紐が付いた一般制帽も取り、それを被り、その似合い具合に自惚れした。
マリは一切手を取っていなかったが、端っこ辺りにルガーP08自動拳銃一式が入った箱があった。
他にも専用のガンホルスターもあり、9㎜パラベラム弾の弾薬箱も弾倉も数本ほどのセットもある。
それも身に着けることにして、へその上までバックルを着け、左腰にガンホルスターを吊した。
「似合ってるわね」
鏡に映るデザイン性が優れる軍服姿の自分の姿を見てまた自惚れした言葉を漏らしつつ、暫し鑑賞を続けた。
それから更に翌日。
戦闘装備を調えたマリは、初めて指揮する自分の中隊がある中隊本部へと足を運んでいた。
「お持ちしておりました中隊長殿。私は副官のエルセ・ハーパライネン少尉であります!」
自分の中隊本部に着けば色白の銀髪の女性士官が、直立不動状態で敬礼してマリを出迎える。
彼女の身体を観察したマリは、軽い敬礼を返して案内するように告げる。
「これからあんた達の指揮官になるマリ・ヴァセレート、以後よろしく。取り敢えず案内して」
「はい、ではこちらの方へ。既に中隊総員が広場にて集合しております」
副官のエルセの言葉に従い、マリは自分の中隊の閲兵式を行うことにする。
エルセの後へついて行って広場に出れば、これからマリの部下となる総勢二百名余りの将兵が、小隊ずつに整列して彼女を出迎えた。
「子供ばっかりね」
出迎えた将兵達の顔立ちが幼いことが分かったマリは、それを口にする。
彼女の言うとおり、整列している下士官と士官を除く大半の兵士等は17~19代と兵士としては幼い。
ちなみに、マリを含めて中隊全員が武装親衛隊の野戦服を着ており、古参兵と下士官は迷彩服を着ていた。
整列した自分の兵達を見つつ、マリは副官に若い兵士等の訓練期間を問う。
「この子供兵隊の訓練期間はどのくらいなの?」
「四ヶ月です。十分に使い物になると思いますよ」
「四ヶ月ね・・・いざという時に失禁しながら逃げ出さなければ良いけど」
そう年少の兵等に期待しない言葉を副官に漏らしつつ、マリは閲兵式を終了した。
それから更に一日の日が経ち、師団総動員の大規模な演習が行われた。
ソヴァリン師団長である万丈英輝自らが観閲する中、演習所で派手な爆破音と銃声、大きな怒号が響き渡る。
マリが期待していなかった年少兵等は、彼女の予想を覆すほどの動きを見せていた。それもその筈であろう。彼等は四ヶ月間みっちりと厳しい訓練を受けていたのだから。
身体を動かす機会が少ない元富裕層に政治家、国家元首の後継者等は、兵士として扱えそうもないと下士官に将校等は侮っていたが、予想に反して良く動いていた。
年少兵等の動きを見ていた副官は、中央の席に座る英輝に期待を寄せた言葉を述べる。
「素晴らしい動きです。これなら実戦でも・・・!」
「いや、何千回もの訓練と演習も行おうとも、実戦で使えなければ意味がない」
「ですが、この動きは戦術家から見ても大丈夫だと思いますが・・・」
英輝は余り期待していなかったようで副官は少し表情を堅くし、異議を唱えようとした。
これに答えてか、英輝は師団の最初の実戦をすると提案する。
「では、実戦をしよう。丁度良い相手が居る。何千回の演習と訓練よりも、一回の実戦で全てが学べる」
「い、いきなり実戦に出すのですか!? 創設からまだ二週間目ですよ!?」
「それの方が効率が良い。初の実戦を生き延びなければ、所詮はソヴァリンはそこまでだ」
ソヴァリン師団の初の実戦に異議を唱える副官だが、この壁を越えなければそこまでの存在と評し、英輝は席を立って何処かに去っていった。
演習より数日後、本当にソヴァリン師団初の実戦となる出動命令が下された。
して、その任務の内容とは、敵対の民兵組織の掃討である。
創設から二週間と数日余りの部隊には、余りにも味気ない戦闘任務であるが、これはこれで打って付けの任務といえよう。
敵対している民兵組織の戦力はおよそ九千人余りであり、戦闘車両と火砲の数は合わせて三百余りと師団規模な戦力だ。
戦闘装備を調えたマリの中隊は同じ師団所属の全部隊の集合地点へと向かい、合流すれば敵民兵組織の拠点へと進軍する。
進軍中、師団本部から師団長である万丈英輝大将の訓示を通信で聞いていた。
『師団所属の兵士諸君、師団長の万丈英輝だ。この掃討作戦は落ちた諸君等が最初に成すべき課題だ。初の実戦であり、戦死者や戦傷者も出るだろう。しかし、この最初の課題をこなさなければ一気に這い上がれる機会は少ない。故にこのチャンスを逃すな!』
全部隊に聞こえているためか、マリが乗っているキューベルワーゲンの無線機からもこの英輝の声が聞こえていた。
「私には一生来ないけど」
助手席に座り、Stg44突撃銃を腹の上に置いて英輝の訓示を聞いていたマリはそう呟き、顔を上げて空を見上げた。
後部座席には副官のエルセと携帯式無線機を背負った無線兵が乗っている。
運転手も含めて中隊本部の人員は全て女性であり、彼女等が乗る指揮官用車両の前を走るBMW・R75サイドカーに乗っているドライバーとMG42汎用機関銃を構える機関銃手も女性である。
これは彼女の要望であるが、流石に小隊指揮官だけは女性という訳にはいかなかった。
彼女には四十五人編成の小隊が四個ほど与えられており、その指揮官は全て兵・下士官上がりの指揮官だ。マリが後ろを振り返れば、中隊本部勤務の人員を含める中隊将兵を乗せた数量ほどのトラックが後へ続いている。どのトラックも、戦時中にドイツ軍で使用されていた軍用トラックばかりだ。
担当地区へ到着すれば、乗用車から降りて敵地の様子を双眼鏡で確認する。
「見張りは余り居ないみたいね・・・確かに新兵相手には打って付けだわ」
民兵組織の拠点にされている村の様子を確認したマリは、見張り台に余り見張りが居ないことを確認してから、各小隊長を集め、手順を知らせる。
「まぁ、装甲連隊の一個突撃砲小隊が支援に来てくれてるし。迫撃砲で砲撃かましつつ突撃って事で」
支援として出されたⅢ号突撃砲G型四両編成の小隊を盾として活用しつつ、マリは迫撃砲による砲撃で前進するという簡単な手順を説明した後、実行に移った。
先陣を切るのは迷彩服を着た指揮官が率いる第3小隊であり、機関銃や迫撃砲を装備した支援主体の第4小隊に支援を行わせ、第3小隊の後へ第1小隊と第2小隊と一緒に前進した。
迫撃砲の砲撃を受けた民兵達は直ぐに砲撃から身を隠すべく、塹壕へと走り始める。
だが、何名かは吹き飛ばされており、肉片となって辺りに散らばるか、身体の一部を失い、這いずりながら戦場から逃げようと塹壕へ避難する。
警告無しの攻撃であった為か、村人達も巻き添えを受け、女子供を含める数名以上も砲撃に巻き込まれて犠牲となった。民間人にも犠牲が出ているのにも関わらず、マリの中隊と支援に来た四両の突撃砲は銃弾を撃ちながら前進する。
「クソッ! 機関銃か狙撃銃を持ってこい! 後、対戦車火器もだ!!」
民兵達も負けじと、機関銃や狙撃銃、対戦車火器を持った人員を前線に出し、反撃に移る。
前面装甲の厚い突撃砲が盾となって銃弾は防がれているが、
「うわぁ!」
「がっ!」
先陣を切って前進していた第3小隊の兵員二名が銃弾を受けて倒れた。
「ひっ、ヒィ・・・!」
倒れた戦友の姿を見た兵士等はkar98k小銃を握る手を震わせ、ズボンを濡らし始めた。
銃弾を浴びていたマリは近くの無線兵から背負っている無線機の受話器を取り、重機関銃を装備している第4小隊に支援攻撃をするよう命ずる。
「重機関銃分隊、射撃支援開始!!」
『了解! 支援射撃!!』
中隊長のマリからの要請を受け、重機関銃分隊は、三脚に乗せたMG42を敵地に向けて掃射し始めた。
電気のこぎりのような連続した銃声が鳴り響き、銃本体の下の排出口から空薬莢が次々と排出されていく。
MG42は1942年にドイツ軍に開発された汎用機関銃であり、毎分一千二百発という恐ろしい連射速度を持っており、人間がそれ程の掃射を受ければ手足の二~三本は千切れるほどの威力である。
掃射を受けて民兵達はバタバタと地面へ倒れていく。中には内臓を垂らし、苦しむ民兵もいた。
「前進!」
マリが指示すれば、中隊は前進速度を上げ、民兵等が立て籠もる塹壕まで突入した。
この間にマリの部隊に数名ほど犠牲者が出ているが、大した損害でもないので前進を続ける。
「こ、この!」
一人の民兵が銃を手放し、自作の棍棒で殴り掛かるが、相手は訓練、それも四ヶ月にも及ぶハードな訓練を受けた少年兵士であり、直ぐにkar98kの銃座で殴られ、トドメに頭部に二発ほど殴り付けられ、顔面を潰される。
ある者は銃剣で刺され、ある者はスコップで撲殺、ある者はMP40短機関銃の掃射で撃ち殺される。
「お前が指揮官か!」
少年兵の一人が指揮官であるマリを狙ってナイフを突き刺そうと向かってきたが、肘打ちを顎に喰らって地面に倒れ込み、ホルスターから取り出されたルガーP08を頭に撃ち込まれ、射殺される。
敵討ちのように数名の民兵がマリに向けて銃口を向け、撃ってくる。彼女は直ぐに横に飛び込んで回避し、滞空時間の間に手に持ったStg44を目に見える民兵等の頭を正確に撃ち込む。
シュタールヘルムを被った副官も、上官であるマリを守るべく、背後から撃とうとする民兵に向けてMP40を撃った。
「ありがと」
自分の背後から迫った敵を排除してくれた副官にお礼を次げ、マリは複数の部下を連れて村へ入り込む。副官もその後へ続き、他の将兵等と共に村へと突入した。
一方のある二十代の御曹司は、単独で辺りに目を配りつつ、額に汗を浸らせ、kar98kを握りながら人気がある家屋へと入る。
家屋にいたのは、自分と歳が変わらない若い女性であった。
周囲に敵が居ないことを確認すれば、警戒する若い女性に近付き、息を荒げる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・!」
「こ、殺さないで・・・!」
息を荒げる兵士に対し、女性は後退りながら逃げようとするが、背後には壁があり、逃げられない。
兵士はそんな怯える彼女に近付き、狂気じみた笑みを浮かべ、銃を置いてからブーツから抜いた戦闘ナイフを彼女の衣服に突き立て、服を切り裂いた。
「キャッ!」
女性は小さく悲鳴を上げるが、兵士はにやつきながら衣服を強引に引き千切り、下着に手を出そうとする。これに女性は抵抗するが、兵士に両腕を押さえられ、押し倒される。
「動くな! 殺すぞ・・・!」
ドスの効いた声で女性を威圧して黙らせれば、衣服を脱がすのを再開する。
これは戦地で行われる兵士が女性を屈辱する行為、強姦だ。
人間は死が近付くと、子孫を残そうと性欲が高まり、近くの異性に迫り始める。
常に死に晒されている戦場においてこのように陥る兵士は多く、被害を受けた女性は傷付き、最悪の場合は性病に罹るか死ぬ。この対策のために、軍はお抱えの売春婦を雇うことにしている。
「お前、良い身体してんな・・・! 俺が金持ちだったら絶対に・・・!」
「あんたが金持ちだったらって?」
「んあ!? まさか!?」
目の前で犯そうとしている女性とは違う聞き覚えのある女の声を聞いた兵士は直ぐに振り返り、床に置いた銃を取ろうとしたが、背後から声を掛けた男に殴られ、壁に身体を打ち付けた。
「このアマ!」
腰のホルスターからワルサーP38自動拳銃を抜こうとするが、襲ってきた女の方は既に銃を手に持っており、右腕を撃たれ、拳銃を手放した。
「グァァァ・・・! てっ、中隊長!?」
撃たれた右腕を押さえつつ、兵士は自分の右腕を撃った人物の方へ視線を向けた。
その正体とは、自分の上官であるマリ・ヴァセレートであった。
暗くて良く分からなかったが、識別できる距離までマリが近付けば、直ぐに兵士は言い訳を始める。
「ち、違うんです中隊長殿! あ、あの女は民兵でして、俺はその身体検査を・・・!」
「襲ってるようにしか見えなかったんだけど」
言い訳を聞いたマリは、ヘラヘラしながら言い訳する兵士の股間をルガーP08で撃った。
股間を撃たれた兵士は凄まじい痛覚を感じ、左腕で自分の股間を押さえ初め、悶え苦しみ始める。
「ぐ、グァァァ!! お、俺の、俺の・・・!」
そんな悶え苦しむ兵士を、汚物を見るような目で見つつ、銃口を頭に向けた。
「まぁ、未遂で許すんだけどさ。でも、またしそうだからここで銃殺刑」
マリは悶え苦しむ兵士に対し、頭に数発ほど撃ち込んで強姦を働こうとした兵士を銃殺刑として処罰した。
弾を全て撃ち尽くしたのか、弾倉を排出し、新しい弾倉を挿入してから初弾を上のボルトを引いて薬室に送り込んだ後、ホルスターに仕舞った。
それから強姦されようとしていた女性に視線を向け、一緒に来るよう告げる。
「ほら、そんな所に突っ立ってないで、一緒に来なさいよ」
女性は破られた部分を両腕で隠しつつ、マリの指示に従った。
「は、はい・・・」
家屋から出た女性は周囲から聞こえてくる銃声に怯えつつ、平然と立っているマリについて行く。
民間人を保護している分隊の近くまで来れば、マリは近付いてきた少女兵士に女性を引き渡し、戦場へ戻ろうとする。
「じゃあ、後はお願いね」
「了解!」
「あ、あの・・・!」
女性はお礼を言おうとしたが、マリは既に銃弾が飛び交う村の中へ向かった為、その声は届かなかった。
戦場に戻ったマリは、残っている敵を排除しながら敵が立て籠もる風車を包囲している自分の隊と合流し、戦況がどうなっているのかを問う。
「状況どうなってんの?」
「粗方村の屋内に潜む敵は排除しました! 後はあの風車だけです!」
「そう。じゃあ、後は突撃砲にでも撃って貰いましょうか」
迷彩スモックを羽織い、Gew43自動小銃を持った古参兵からの報告を聞き、マリは近くの無線兵から受話器を取り、突撃砲に風車を砲撃するよう命じた。
「あの風車を砲撃して」
『了解。砲撃開始します!』
それから数秒経てば突撃砲が現れ、風車に向けて48口径75㎜の長砲身を向け、榴弾砲を撃ち込んだ。
風車の羽根車を破壊し、倒壊させた。土煙が上がる中、敵からの銃弾が止み、手を挙げた民兵達が出て来る。既に交戦の意思はなく、抵抗を諦めた様子だ。
「降伏する!」
「撃たないでくれ!!」
降伏の意思を示す言葉を叫びながら出て来る民兵達であるが、殺気だった新兵達は敵が出て来たのと勘違いして発砲を始め、無抵抗な民兵達を殺し始めた。
「撃ち方止め! 撃ち方止め!!」
小隊長が必死に叫ぶが、新兵達が撃つ銃声の所為か、その声は余り届いていない。
「馬鹿野郎が!」
一人の古参兵が新兵を殴り、撃つのを止めさせたが、ほんの一部でしか無く、まだ新兵達は銃を撃つのを止めない。
仕方なしに長であるマリが一人の新兵の腕を拳銃で撃ち抜き、それから空へ向けてStg44を数発ほど撃てば、ようやくの所で新兵達は銃を撃つのを止めた。
銃声が止んだのを確認すれば、第2小隊長がまだ息のある民兵の確保を部下達に命じる。
「まだ生きてるかどうか調べろ!」
その声の後に、戦闘が終わったのを確認したマリは、近くの木箱に腰掛けた。
中隊が戦果の確認を行う中、彼女は懐から煙草の一箱を取り出し、一本取り出して煙草を吸おうとしたら、近くの建物が何処からの砲撃を受け、吹き飛んだ。
「西方よりT-34中戦車確認! 数二十両ほど!!」
屋根の上にいる新兵からの報告に、古参兵は種類がどんな物か問う。
「T-34だと!? 車種は76か? 85か?」
「分かりません!」
「それくらい分かれ! 短いのが76で長いのが85だ!!」
分からないと答えた新兵に対し、古参兵は見分け方の怒鳴り散らしながら告げた。
これを聞いていたマリは近くにある突撃砲まで近付き、キューボラから上半身を出している車長に何故迎撃に向かわないかを問い詰める。
「ねぇ、なんで迎撃に向かわないの!?」
「四両で二十両の戦車を相手出来るか!」
「キャン!」
砲撃に負けないくらいの声量で問うも、車長は四両では敵わないと答え、戦場から遠ざかるために急バックを掛け、マリを振り落とした。
副官に抱き抱えながら、マリは自分の部下等に使い捨ての対戦車火器であるパンツァーファウストを持ってくるよう告げる。
「総員対戦車戦闘用意! パンツァーファウストを持ってきなさい!!」
「えっ、パンツァーファウストですか? でも、味方の戦車部隊が来てますが」
近付いてきた部下は「味方の戦車部隊が来た」と告げ、その必要はないと答える。
「どういう事?」
「重戦車一個小隊が来てます。もう大丈夫と思いますが」
部下は屋根の上にいる古参の随伴狙撃兵からハンドサインでそれを知っていたのか、マリにありのままに告げた。彼女は自分の目で確かめようと、自力で立ち上がって村の外へ出る。
そこに広がる光景は、三両のティーガーⅡ重戦車が二十両のT-34を圧倒していた。唯一対抗可能な85㎜砲塔型が無かったのか、瞬く間にT-34は黒煙を上げるスクラップへと変わっていく。五分も経てば敵の戦車部隊は撤退を始め、戦闘は完全に終了した。
小隊長車のキューボラから車長が飛び出し、マリに向けてピースマークを送る。
「馬鹿丸出しね」
そう調子に乗る車長に吐いてから、マリは部隊の戦果を確認すべく、民兵のアジトがある場所へと足を運んだ。
マリの中隊の損害は二百人中の約二十人ほどが負傷し、約七名が戦死した。七人の内一人はマリに射殺された兵士も含まれている。
して、敵側の民兵の損害は約三百六十人中約三百四十名が戦死し、九名が負傷、十一名が生存という大敗を喫した。無論、マリの中隊が過剰なまでの攻撃を加えた所為もあり、民間人六百人が死傷するという被害が出ているが。
マリにとって初めての実戦における中隊指揮は激務であり、後日の報告の書類を纏めた後、疲労で机で寝込んだという。
初の実戦を幸運ながらの少ない損害で乗り越えたソヴァリン装甲師団は、上層部からやや高い評価を受けた。実戦経験皆無の新兵だらけの部隊では良くできたという評価ではあるが、英輝は師団の将兵等に上出来と評した。それからソヴァリン師団は上層部から次なる掃討任務を受け、新たな戦場へと向かう。
マリは「またあの激務をこなさなければならないのか」と文句を言いつつ、師団長からの命に従い、師団の戦友達と共に新たな戦場へと部下達と共に向かった。
ソヴァリン師団の編成は、武装親衛隊の第12SS装甲師団「ヒトラー・ユーゲント」を参考にしております。
よって、兵員の殆どは少年少女と餓鬼ばっかです。はい