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 だけど、僕がそんな奴ではあったけれど……毎日原因不明の吐き気と頭痛に苛まれて、毎晩冷たい汗びっしょりになって飛び起きたりはしていても(後にこれらは鬱病の典型的な症状であることがわかった)、それまではちゃんと毎朝起きて学校に行っていたんだよ。学校に行くくらいなら車に轢かれた方がマシだと半ば本気で考えながら、それでも行っていた。



 そのサイクルがある日突然変わり、起きるのも寝るのも自由となった。

最初の一ヶ月間は今思い出してもひどかった。とにかくもうそわそわイライラしていてもたってもいられないんだ。「こんな事してちゃいけない」「何かしなくちゃいけない」と焦るばかりなんだけれど、集中力がなくて何も続けられないんだ。パンツに蜂の巣を入れたまま共通模試に挑んでるようなもんさ。

 落ち着きがなく、寝ている事も起きている事も出来なくて、ただひたすらに疲れるだけの日が始まった。そしてそれが終わると、一見は落ち着きを取り戻したものの、静かで暗い絶望感が僕を満たしつつあった。



 あの焦燥の日々の反動なのだろう。大好きなネットすらやる気力もなく、ただ一日中寝ているだけの日々が続いた。飯を食って排泄をして、後は寝床で横になっているだけ。悶々と自分の人生を呪いながらね。このまま朽ちて堆肥になってもおかしくなかったよ。

 昼夜逆転になったのもこの頃だ。それに母親は顔を合わせる度に嫌味を言うから、自然と生活時間帯はずれることになった。



 今だから告白しよう。僕はこの時、無抵抗の他にもう一つだけ、ある方法を使って彼女に反抗していた。目に見える方法でもないし、何の実害もない。だけど、その事を自分の本心が自覚しているという事は、ある程度の慰めになった。

 僕は母親の嫌味に対し、頭の中でいつもこう考えていた。

(早く死ね)

 まったく、母を探して三千里の作者が聞いたら卒倒するだろうよ。

 だけどマルコは三千里も離れたところにいたからこそ、無条件で母親を愛せたのだと思わないか? 国というのは隣同士に限って仲が悪いように(左翼だとか右翼だとかって連中が言うような、過去の遺恨や賠償問題ってやつ)、そばにいると悪い所までもがクッキリ見えるんだ。そしてそれはいいところを覆い隠してなお余りある。



 まったく、ネット依存者については、ある人物の格言通りだ。「インターネットは世界を広げ、世間を狭める」。もう一つ付け加えるなら、「そして自分自身を見えなくする」という所だろうか。



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