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途端に諦め切れなくなり、激しい動揺とやり切れなさがこみ上げてきた。これで終わり? みんな終わりなのか? 本当の本当に?
最悪な事は、最悪な気分の時にやって来るものだ。いつだってそうじゃないか?
僕はちょうどその時、自転車を押して繁華街の裏路地を歩いていた。自転車をこぐ単調な動きに足腰が堪えられなくなり、そろそろ別の動きを加えて凝りをほぐす必要があったんだ。
店じまいを済ませてシャッターの降りた店ばかりで、すぐ行く手を大きな高架が渡してある。その上を飛び交うように走る車の音がかすかに聞こえた。
「おい」
最初、その声が僕を呼んでいるとは思わなかった。だってそうだろう、いったいこの世の誰が僕に用があるって言うんだ? だけどそいつは間違いなく、この六十億人が住まう地球上で、確かに僕だけを呼んでいた。
「おい!」
さっきよりもずっとイライラした口調だった。思わず足を止めて振り返ってしまったのは、史上最低の失敗だった。僕はこの教訓から、以後背後から声をかけられた場合は必ず一目散に逃げるようにしている。
街頭の下に三つの人影が見えた。小走りにやって来て僕の背後にぴったりつくと、ニタニタ笑い始めた。僕はこの笑い方をしっている。僕みたいな人生を送っていれば、瞬間的にその下に隠れた悪意を見抜けるようになる……イジメられっ子の動物的本能だ。
三人とも揃いも揃って他人を威嚇してやまないファッションセンスの持ち主で、自分たちの性格を四方八方に宣伝していた。そうでなきゃ入れ墨や鉄のアクセサリーをあんなに見せびらかしてるもんか。
「ちょっと来て」
うちの一人、金色に染めた髪を全部逆立てた男が手招きし、真っ暗な高架下を親指で差した。もちろん、あの笑みを浮かべたままだ。
僕は答えられなかった。身じろぎすら出来ず、凍り付いていた。血液の流れは瞬間的に凍結し、頭は少しも働いてくれない。恐怖に心臓を鷲掴みにされて動けなかったんだ。
「来いっつってんだよ!」
一番体格のでかい奴が喚いた。
僕は夢うつつのように自転車をスタンドで立て、言われた通りにした。そうする以外に何も出来なかった。




