8-6
もっともな話だ。
ふと、もう一つの特徴である「ボトルシップを持ち歩いていた」という情報を付け加えてみたが、おっさんはやはり首を振った。
「このへんじゃ聞かねえな。町の中心ならわからんが」
僕は礼を言い、言われた通り中心部を目指した。
人通りの多い場所は苦手だが、もう時間がない。すでに日は落ちかけ、夕日が差している。大通りは帰宅ラッシュが始まりかけており、排ガスが目に染みた。
そりゃあ、兄貴の下へ行くのを諦めて探し続ける事は出来る。だけど、それは僕の導き出した「最高のシナリオ」とはほど遠い。最低でもないけれど、出来れば避けたい。
一番いいのはホームレスを見つけ、海里を救い出し、そして兄貴の下へ行く。二番目が兄貴の下へ行けないまでも海里を救う。三番目が海里を救えず兄貴の下へ行く。最悪なのは海里を救えず、兄貴のところへも行かない、だ。
救う……救うって、実際にはどうすればいいんだろうな。いや、この疑問は後だ。とにかくまずはホームレスだ。
真夏の日はなかなか沈まず、いつまでも地平線で燃え続けていたが、それは返って僕を焦らせた。今にも消えそうなロウソクの明かりで捜し物をするようなものだ。
高架下はもちろん、自転車を停めて地下街に入ったり、公園を覗いたり、枯れた側溝の下まで調べた。しかし大都会の片隅で、僕一人の目と足など蟻のようにちっぽけだった。
夜と共に次第に失望が訪れ、とうとう日が完全に落ちて西の空にわずかに赤みを残すまでとなると、僕はガクガクになった足を止めた。
もう無理だ。これ以上は探せない。
何てこった。こんな終わり方か? ボトルの中に吸い込まれるという奇妙で不思議な、非現実的体験の終わりと来たら、大抵はハッピーエンドと決まっているじゃないか。それが住所不定無職の男が一人捕まらないという理由で、悲劇の結末を迎えるとは。
僕は溜め息をついた。涙が滲んでいたと思う。だがある意味で、僕にふさわしい中途半端な終わり方じゃないか? 運命の神はこんなところで僕に見合った結論を見繕ってくれたわけだ。
お前は何をしてもダメなんだ。戦う事はもちろん、逃げる事すら出来ないんだ。ただとどまっているだけの奴なんだ、そこらへんの電柱や街路樹と同じだ。
海里は今、どうしているだろう。無事だろうか。




