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7-12

 他人に敬意を払わなければいつかああなるって教訓さ。最後のプライドまで踏み付けられたら、鼠だって猫を噛む。

 だから、気にするな。



 まあ、そうやって自分を誤魔化そうとしたって、気にならないわけがない。僕は結構無感情な奴だと思っていたけど、母親をぶん殴って何も感じないほどじゃなかったようだ。

 苛立ち。悲しみ。そしてもしかしたら、罪の意識。嫌になる。何でこんな事で悩まなきゃいけないんだ? 全部、あの女のせいだ。



 僕は机に着いて、ヨットを元通りにしようとした。接着剤で折れた柱を継いでみたが、いかにも不安定だ。そこでゴミ箱から拾い上げた割り箸をトイレでよく洗い、それを当て木にしてテープでぐるぐる巻き付けた。かなり不格好だが、これで取れたりはしないだろう。

 一応、元通りにはなった。だがもちろん、それは僕の望んだ形じゃなかった。ヨットに手を翳したり、あるいは船体を撫で回したりしても、もう中には入れなかった。あの世界の入り口は永久に閉ざされてしまったのだ。



 海里は無事なのだろうか? ボトルが割れると同時に、海に放り出されてしまったんじゃないか。今頃漂流しているかも……溺れる心配だけはないけど、きっと心細いに違いない。それともボトルの中というか、世界そのものが粉々に砕け散ってしまい、海里は宇宙の狭間に放り出されてしまったのかも。

 僕は両手で顔を押さえた。絶望に涙すら浮かんだ。くそっ、なんてこった。くそっ、くそっ! こんな結末かよ!

 悲しみに泣き崩れ、母親を罵倒し、のたうち回る。焦燥にオーバーヒートした思考は完全に平静を失い、僕はどうする事も出来ずにいた。



 ああ、なのに、だけど、その一方で、心底ほっとしている僕がいる。憂鬱な英語と数学のテストの日が、学校が火事になったおかげで永久に来なくなったような気分でいる。問題が解決されたのではなく、その問題が根底から消えてなくなってしまった事を喜んでいる。

 もう海里の問題を自分の問題として背負い込む必要はないんだ。



 すぐに自己嫌悪が身を焼かんばかりになった。頭を机に打ち付けてみたが、鈍い苦痛は少しも意識をはっきりさせてくれない。ますます混沌の迷路へと僕を突き落とすばかりだった。 

 何て奴だよ、僕は。あの子は友達じゃなかったのか? いや、僕は少なくともそう思っていた。

 だけど彼女を助けるのは無理じゃないか? どう考えたって僕の問題解決能力をはるかに超えている。電卓でウィンドウズXPを起動させるようなもんだ。



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