表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/116

1-4

 ちゃんとトイレには行くし、腹が減れば冷蔵庫を漁りにも行く。偉いだろ? 真人間ってのは僕みたいな奴の事を言うんだぜ。

 まあ、楽しい事もあるんだ。探していた画像を拾えたり、自分のブログにコメントがついたりすると。



 だけど僕はふと正気に戻る瞬間がある。夢が途切れ、その合間から差す客観視は、常に僕をあざ笑っている。ネットで有名になったからって何だって言うんだ? 現実のお前は学校にも行けない、友達もいない、怖くて母親の嫌味に言い返せもしない、ただそれだけの奴なのに。

 ニートとか引きこもりとかって言うといかにも外に出なくても平気な寄生虫野郎ってイメージだけど、そうじゃない。僕らはいつだって自己嫌悪に苦しんでるんだ。親に申し訳ないとかって感情もきっちり働いている。

 ネットはうまく行かない現実の気休めにはなる。でも苦痛を和らげてはくれても、その原因をなくしてはくれない。



 夜が明けて日が昇り、そろそろ各家庭の寝室に置かれた目覚まし時計が鶏鳴のごとく一日の始まりを告げようという頃、俺は逆に布団の中に潜り込む。

 世界の目覚める音を聞きながら布団に入るのもなかなか心がすり減る思いだ。まず夜明けと共に新聞を宅配するスクーターの音があり、それに反応した近所の犬がしばらく吠える。スクーターが去ると犬は縄張りを荒らす奴を撃退した事に今朝も満足し、再び小屋に戻って眠り込む。テレビが朝のニュースを伝え、キッチンから湯気が上がり、駐車場では目覚めの悪い愛車のエンジンを叩き起こそうと持ち主がキーをさかんに捻っている。



 太陽が夜の帳を押し戻し、世界はよみがえる。そしてこの時分になると大抵、僕の父親が帰ってくる。父さんは出版社勤めで月末になると朝帰りが多くなり、締切が目前になると帰宅する事すら出来なくなるが、まあいてもいなくても同じだ。僕と同じで、家庭ってもんに何ら興味がないようだから。

 玄関の鍵が捻られるガチャガチャ言う音がして、靴から疲れ果てた足を引き抜く音が聞こえる。次に部屋を行き来する、疲れ切った足音。最初に洗面所、それから寝室、居間、風呂、また寝室。

 僅かな時間の静寂があり、しばらくすると母親が起き出して来て、一人分の朝食を作る音が聞こえて来る。



 僕はその頃、へとへとの体を横たえ、何とか眠ろうとしている。今日こそぐっすり眠ろう。よく眠れば頭がすっきりするだろうから、きっと物事がちゃんと見えるようになる。明日、明後日、あるいは来年の為に。将来に向かってきっと何かが出来る。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ