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母親は性格の悪さがにじみだした顔を更に醜悪に歪め、ばさばさの髪を背に垂らした頭を掻きむしっている。それに無視で応じ、僕は冷蔵庫を漁った。煮魚らしき物があるが魚は嫌いだ。後はポテトサラダとぐちゃぐちゃの肉の何か。
悪態を背で聞きながら一つずつラップを剥がして臭いを嗅ぎ、食えそうなポテトだけ手に取って冷蔵庫を閉じた。その仕草のすべてに、拒絶と無視を込めて。ここには僕以外の誰もいないのだと。
皿を手に居間を出て自室に戻る。背に感じる母親の視線に、僕は無反応で押し通した。
どうせ無駄だ。何を言っても、みんな無駄だ。
胃の底に再び不快感が込み上げてくるのを感じながら、部屋に戻る。机に付き、電灯を入れてノートパソコンを立ち上げた。
起動する間に朝食を食いつつ、ペットボトルの水を流し込む。やや苦く感じるのは放置してあったからか? まあ、別に健康に気を使う方じゃない。でなけりゃこんな生活してるもんか。
さて、『e』のアイコンをダブルクリックしてインターネットに繋げば、ようやくお楽しみの時間だ。
インターネットは人類の進歩に貢献しただろうか? 無論そうだと言う人もいるし、あらゆる情報を街頭で配られるチラシ程度の物にしてしまったという人もいる。つまりどんな重大で貴重なニュースも、読み捨てられてそれで終わりという。野次馬的なわずかな好奇心を満たすだけの物に貶めた、と。
僕はこうして色んなサイトやブログ、ツイッターの知り合いにコメントを残したりレスをしたりしているけど、この知り合いってのもまあ、街角のチラシみたいなもんだろう。お互いの儚い繋がりであるコメントを読み捨てて、それで終わりの関係。
まあ、どっちにしろ少なくとも僕の性格を偏狭にするのには大いに役立った。同年代の女の子と手を繋ぐよりも先に動画ファイルナビゲータ(*エロサイトの大御所)のアドレスを知ってしまったくらいだからね。おかげで保健体育の授業を十年分受けるよりも多くの事を知ってしまったよ。
動画投稿サイトで新たに投稿されたMAD(*素人制作のプロモーションビデオのようなもの)に訳知り顔で評価を下し、掲示板で知ったかぶりの知識を披露し、チャットでは相手が女と見るや途端に性欲の牙を剥き出す、というのがまあ僕の日常だ。
はたからみれば何時間でも椅子に座って同じ格好のままマウスとキーボードだけいじっているわけだから、見方を変えれば変な修行のようだろう。ある種の座禅に見えなくもない。
真の強者ともなるとトイレに行く手間すら惜しみ(あるいは本格的に部屋から出られないのか)ペットボトルに小便をするという話だけど、さすがの僕もそこまで人間の尊厳を失っちゃいない。




