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5-3

 半ば麻痺した思考で、僕は単純な結論を出した。

 僕は、海里の友達だ。だから行かなくてはならない。わかりやすいだろ? わかったなら、とっととその両足を動かせよ!

 自分に気合いを入れ直し、足音を忍ばせて突き当たりまで進んだ。角で待ち伏せしている何かが、今にも飛び出してくるんじゃないかと、心臓が鼓動で破裂しそうになりながら。



 その何かはそんな暇でもなかったらしく、僕がカタツムリの半分くらいの速度で横道に出た時には、もういなかった。霧は何事もなかったように静かに佇んでいて、僕の動きにだけ反応している。

 いやいや、そもそも最初からそんなものはいなかったんだ。疑心暗鬼って言葉の起源は、暗闇の中に居もしない鬼を疑うって意味から来てるんだ。今の僕がまさにそれじゃないか?

 どっと安堵がこみ上げて来て、僕は溜め息と一緒にそれを吐き出した。気のせいだ。みーんな気のせいだって、落ち着けよ。そう言い聞かせると幾分体の強張りが消えた。



 さて、それじゃあ気を取り直して、張り切って行ってみようか。

 階段を上がって二階に回ると、奥の部屋から僅かに光が漏れていた。それが床と壁に伸びているんだけど、それをおぼろげに人の陰がくり貫いている。つまり光源の前に誰かが立っているのだ。

 最初は僕の不安がそう見せているのかと思ったが、時々動いているとなると、さすがに楽観していられなくなった。一度は消し去った筈の鬼が再び暗闇の中に現れ、その気配を僕に示し始める。



 壁際に寄って手を突き、心細げにその手触りを感じながら、僕は半開きの扉へとにじり寄ってゆく。中を覗いて、そこにいるのが海里じゃなかったら、窓から飛び降りてでもここから逃げ出そう。そうしよう。

 静かに高鳴る胸を手で押さえ、呼吸の音すら気取られまいと息を止める。意を決して隙間から顔を出すと、白い水着の後ろ姿が見えた。柔らかい茶色の髪が背に垂れている。



「海里」

 思わず下の名を呼んでしまった。彼女は一瞬振り返ったものの、すぐにまた視線を手の中に戻した。

 そこは寝室で、埃にコーティングされた二つのベッドが並んでいた。それらに挟まれる形でベッドサイドテーブルが置かれ、海里はその前に突っ立っていた。ライトスタンドの光を頼りに、手の中のものを覗き込んでいるようだった。

 この時の彼女は、どこか幽霊じみて見えた。存在感が希薄で、魂をどこかに置き忘れてしまったような。僕が見ているのはその抜け殻だ。



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