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まさかこの水族館のマンボウよりも無気力そうな面構えをしたガキに、後を追ってくる根性があるだなんて思いも寄らなかったのだろう。ホームレスはぎょっとして併走する僕を見た。
「お前な、その根性を世の中の為に使おうとかって思わないのか?」
彼は速度を上げてはいないが、ペダルを漕ぐ足の力を緩めてもいない。逃げ去る気もないが待ってやる気もないらしい。
「どうしても知りたいんだよ!」
「あー、さては兄ちゃん、あのガキにホレたか? まったく、男ってのは事が下半身に至ると見境がなくなるよなあ」
ごたくはいいから早く教えて欲しかった。まだ百メートルも走っていないのに、すでに吸い込む息が炎のように熱く感じる。肺が焼けそうだ。
「まあ必死さに免じて教えてやるが、つまり……ボトルは沢山あって……俺の……」
僕は聞き取ろうとしたが、ホームレスは速度を落としちゃくれない。おまけに自分の心臓の音がどんどんうるさくなって来て、頭が割れんばかりだ。
「全部のボトルは一つに繋がってて……」
まだまだいくらでも聞き続けるつもりだったが、足が先に音を上げた。もつれて転び、アスファルトに抱きつく。
少し先に行ったところで、ホームレスは一度だけ足を止めた。キッと甲高いブレーキの音がし、こちらを振り返る。
「怪我してねえか」
幸いどこもしていない。ちょっと膝が痛むくらいだ。だがもう立ち上がる事は出来なかった。
「まあ、来週まで待つか、本人から直接聞くこった」
それっきり、今度こそ彼は行ってしまった。
僕はしばらくアスファルトに伏したまま、喘ぎ喘ぎ彼の姿を目で追っていた。やがて小さくなり、角を曲がって見えなくなると、ようやく自分がどうなっているのかを思い出す。早朝にこんな所でぶっ倒れていたら新聞配達の人に通報されかねない。
次第に痛みを増してくる膝をさすり、両手で地面を突いて体を起こした。
あの薄情なホームレスの口から得た情報は二つ、ボトルは他にもいっぱいあるって事と、その中身はみんな一つに繋がってるって事。そして海里の事を切り出した時の、ホームレスのあの反応だ。




