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突然、奇妙な夢の中に―――これは夢だ。だって、現実の僕は自分の部屋でボトルシップを眺めている筈だろう―――放り込まれて、何が何だかわからないままでいるうちに、だんだん手足が重たくなってきた。海水の冷たさと言い、実にリアルだ。頬をつねられているような現実感を伴っている。
寄る辺を求めてその場でぐるりと回ると、すぐ背後に白い壁がそびえていた。わずかに傾斜を付けられたそれは滑らかにカーブして後ろへと続いている。
壁かと思っていたものは船体だった。そんなに大きな船じゃないが、小船というほどでもない。ここからではどれだけ仰け反っても甲板は見えず、人がいるかどうかもわからない。
船体に沿って船首へ移動し、三角形に尖った舳先を回って反対側に入ると、階段のようなものがあって船上へ続いていた。普段は船体に収納される仕掛けのようだが、今は開いたままになっている。
とにかくもう、これが現実なのか夢なのか、何がどうあれこれ以上浮いているのは不可能だった。体は鉛のように重くなり、今にも海中へ引きずり込まれようとしている。
手をかけて体を引き上げるのにもまた、大変な苦労が必要だった。砂袋を一つばかり背負っているかのようだ。呻き声と共に悪態を吐き出しながらも、何とか体を足場に持ち上げた。
しばらくそのままでいて、改めてなけなしの気力を掻き集める。自分をなだめすかして立ち上がり、今度は階段を一段ずつ上がっていった。睡眠も運動も全部不足している自分を呪ったもんだが、甲板に上がりゃあ休めると言い聞かせてね。せめて散歩前なら、もう少し体力が残ってたんだが……
白い甲板は広々としていた。白い帆を畳んだマストがそびえ、多数のロープが絡む事もなく整然と巻き付いている。中央奥には船内に続く扉があり、あそこからキャビンに入れそうだった。
だが僕がそこへ向かうより先に気付いたのは、甲板に置かれたカラフルなビーチパラソルと、その下の寝椅子だった。そこに身を横たえた彼女は上半身を起こし、僕と同じくらい唖然とした顔でこちらを見ていた。
すらりとした体つきで、まっすぐに立てば僕よりも少しだけ背が高いだろう。柔らかい茶色に染めた髪をアップにし、ヘアピンで後頭部に固定している。Tシャツの上に青いヨットパーカーを羽織っていて、下は太股を大胆に露出したホットパンツという格好だった。
いやいや、異性どころか同姓、というか人類とろくに口を利いた事もない僕にとって、彼女の姿はあまりにも刺激が強すぎた。彼女が何故ここにいるのか、誰なのかという事はさておき、冗談ではなく頭痛がしてぶっ倒れそうになったほどだ。
しばらく僕たちはお互いの顔を見ていた。