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放り出した髪が風に踊っている。僕の足音と気配に感づき、彼女はゆっくり振り返った。
それから笑い、言った。
「ビールは飲めるようになった?」
僕はもう……笑ってるんだか泣いてるんだか、自分がどんな顔をすればいいのか、そして現実にはどんな顔をしているのか、何にもわからなくなった。あんなに嬉しかった事は後にも先にもなかった。
「酒は嫌いだ」
どうにかそれだけ答えると、海里は笑ったまま頷いた。僕の手にしている袋に視線を移す。
「それは?」
僕は袋から船を取り出した。ボトルシップじゃないよ。僕と海里のボトルシップの、その中身だ。だから、ただのシップ。ホームレスが修理してくれたんだ。折れたマストは元通りになってるし、船底には瓶の中では省略されていたバランサーがちゃんと付いてる。