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海里は泣いていた。僕の首に抱きつきながら、耳元に涙声を囁いた。後半はほとんど言葉になっていなかったと思う。
「自分勝手だってわかってたけど……わたし、ずっとそう願ってた。でも、ほんとに……ほんとに来てくれるなんて……」
僕は黙って彼女の後頭部を抱いていた。
船の中から流れ出したらしいボトルが、すぐ先の水中に浮かんでいる。中身は僕の家と病院がまだらになって見えた。
中に光が生まれた。カメラのフラッシュをもっとずっとゆっくりにして、更に強力にしたようなやつ。ゆっくりと、しかし確実に光は大きくなってゆき、やがて内圧に耐えられなくなったらしいガラス面に大きなヒビが走った。パキッと音を立てて。
光がヒビの隙間から溢れ出した。更にヒビは広がり、縦横にボトルをのたうつと、とうとう砕け散った。
後はもう、みんな光に包まれて、何が何だかわからなくなった。