10-14
「僕が……僕が何とかするから……」
「無理だよ」
僕の抱える矛盾が、自分と同じものであると悟ったのだろう。海里は眼を閉じた。
「内藤くん。わたしたち、向いてないんだよ。走るのが苦手とか、数学が苦手とか、そういう向き不向きってあるじゃん。それとおんなじだよ。わたしたち、向いてない。この世で生きてく事に向いてない」
「そうじゃないよ! そうじゃない!」
僕は狂ったように首を振った。
決断しろ。今しかない。今度こそ見捨てるな。彼女を、じゃない。自身をだ。
ちゃんと朝起きて夜は寝る生活にしよう。中学は……今更通えるかどうかわからない、でも勉強はする。それで高校に通いながら働くんだ。稼いだお金で海里を助けるんだ。
それしかない。他に彼女を救う方法なんか何にも思い浮かばない。
「僕、勉強するよ。部屋から出て、ちゃんと高校に行くよ。世界が君にとって真っ暗なら、何の希望も見つからないんなら、僕が君の希望になる」
自分の眼からこぼれた涙が水中に溶けてゆくのを感じた。
ややあってから、海里は虚ろな視線をこちらに向けた。その先は僕の伸ばした手を伝い、僕の眼にぶつかった。その眼は僕と同じだった。「何かが出来る筈の自分」が「何にも出来ない自分」だと思い知ってしまった人間の眼だ。
彼女の思考の内がありありと見えた。手を伸ばし、僕の手を掴めば、あの世界に戻らねばならない。薄らいでいた無力と絶望が再び体の内側で形を成し、自らを支配するだろう。
「あんたに出来るの?」
「出来ないよ! 僕一人で、そんな事出来るもんか!」
僕は更に手を伸ばす。
「だけど、二人なら……君となら、きっと……」
海里の指先がぴくんと跳ね上がった。それからゆっくりと持ち上がり、僕の方へと伸びて来た。僕は最初、それをすぐに掴めなかった……また、直前で霞のように分解してしまうような気がして。恐れていたのはお互い様だ。
彼女の白い指が僕の指に触れた瞬間、そこに確かに温もりを感じた。僕は構わずすぐに手を掴んで、彼女を引き寄せた。
「ほんとは思ってたの、あんたが助けに来てくれたらいいのにって」