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10-13

 彼女の母親はどこかで海里を憎んでた。自分の人生の幸福を吸い取った父親に似ていたのだろう。時折苛立たしげに口にするその言葉……「あんたはやっぱりあの人の子」って言葉は、彼女のハートをグシャグシャにした。



 ただ一人の肉親であり、愛さねばならない人からぶつけられるこの言葉。もっとも憎んでいる男と一緒にされ、本当は母親は自分をもまた憎んでいるのかも知れないという不安。

 海里は母親のお気に入りでいようと努力したんだろう。だけどうまく行かなかったんだ。この世にはうまく行かない事や、うまくやれない人があまりにも多くて、多分海里もそのうちの一つだったんだ。

 母親が死ぬと学校にも通えなくなり、児童保護施設に預けられたものの、そこにも馴染めず結局飛び出した。



 バイトで食い繋ぐ生活を続けていたけれど、そんな生き方にいったいどんな光がある? ある日ネグラにしてるネカフェにビル・ゲイツが現れて「君を養子にしたい」と言ってくれるとでも?

 前を向こうとした。でもテレビも雑誌もインターネットも、今もこの先もずっと時代は真っ暗だと告げている。海里のような生き方をしている人間に将来などないと冷笑している。

 誰も彼も、そうするしかなかった海里の生き方を否定するだけだ。そうするだけで、誰も別の生き方を教えてくれない。考えようともしない。



 未来が見つからない。希望が自分を見つけてくれない。

「帰ろう、海里。手を伸ばしてくれ!」

「ここから出て、それでどうするの?」

 密やかな絶望を含んだ言葉。

 海里は夢うつつのように囁いた。その声は水中だと言うのに、耳元でするように感じられた。

「何かいい事、あるの?」

「僕が何とかする!」

 思わず口をついて出た言葉だったが、海里は悲しそうに笑った。



「あんたに何が出来るの?」

 ああ、そうさ。ずっとわかっていたとも。この矛盾、そして疑問。

 海里をこのボトルの中から連れ出せたとしても、本当は何一つ好転なんかしないんだ。彼女も僕も、元のままだ。彼女は天涯孤独の高校中退フリーター、僕は引きこもりで学校すら行けない。

 彼女を救いたい? 自分の人生すら救えない僕が何を言ってるんだ?



 それでも―――それでも僕は、とにかく言葉を絞り出した。他にどうする事も出来ずに。



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