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1-8

 今こうして自分で告げた内容を改めて見返してみると、僕はつまり、母親に軽蔑されそれに反感を持ちながらも怖くて何も出来なず、都合よくいなくなる事だけを待っている哀れで情けない奴、という事だ。いや、まったくその通りだな。こんな的確な評価があるだろうか。

 引きこもりは皆、自分の抱えている問題を重大だと思い詰める。だが他人から見ればそれは些細なもので、何故その程度の事で外に出られなくなるのかまるで理解出来ない。

 この、学校に行ける奴と行けない奴は別々のルールに従って生きているという事が、この手の問題を難しくしている一因だろう。この事についてはまた後に話す機会があるかもね。



 たまのイベントと言えば僕のクラスの担任教師の訪問だが、何というか、あの野郎は今考えても義務だから来てやっているという態度が見え見えだった。形式的な質問、形式的な現状報告、形式的な「みんながお前を待っている」とかって台詞。レジスターからレシートが吐き出されるみたいにそんな事を喋ったら、とっとと帰るという。



 それもしばらくの間だけで、半月もするとなくなった。「努力はした」と報告書に書けるだけの既成事実を作ったのだから、これ以上必要はないと判断したんだろう。

 今なら「学校行ってやるから、あんたがヅラって噂の真相を確かめさせてくれ」とでも……ああ、何でも「今なら」がついてしまうな。そう、過去の僕は無力だった。今だって対して変わらないという意見もあるだろうが、今は少なくとも無抵抗以外の抗議を知っている。



 話を戻して―――まあ、自慢じゃないが僕はそんな具合の毎日を送っていたというわけさ。

今思い出してみても、この一年は空白で敷き詰められている。何があったのか思い出そうとしても、果てしなく滞積した泥の中を掻いているようだ。何もなかったし、何もしてなかった。本当にただ、生きていただけだ。体中に管を繋がれ、延命する為だけに生きている老人のように。

 そして、その日が来た。




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