第五歩 悲惨な結末
なんなんでしょう?予想外にアクセスしていただき、これまた予想外の総合評価ポイントをいただき・・・・・
これに応えなきゃ、男がすたると・・・・年も考えずに徹夜+通勤途中、タバコ休憩、食事中、ありとあらゆる時間を利用して第5話を執筆。
無理しすぎましたので少し休憩を貰うかもしれませんが・・・・・読んでやって下さい。
※しんどいくせに12000文字の第5話・・・・何やってんしょうか?
声にならない悲鳴を上げながら、くるみは咄嗟にMPー5の銃口を持ち上げると途端に引き金を引いた。
カチャ!と音がしただけで弾は発射されなかった。
『それとマガジンの交換の時もだ。大体、相手が接近してるときに限って弾がなくなるんだ。』
くるみの頭の中には先ほどの近藤の言葉が木霊していた。
駄目!食べられちゃう!
くるみは、おもわず目を閉じ、立ち尽くしてしまった。
ドンとぶつかられ、くるみはそのまま地面に倒されてしまった。
首筋に暖かい息がかかり
「ゾンビって死人のくせして…まるで人間みたいじゃん…」
とくるみは末期の割には冷静に分析していた。
「痛てえぇじゃないかよ!この糞ったれめが!くるみちゃん!起きて横に行って!」
恐る恐るきつく閉じた目を開けたくるみ…
左腕をゾンビに噛まれながらも、必死にその頭にMPー7Aの銃口を押し付けようとしている近藤が見えた。
ブブッと音がして、近藤を襲っていたゾンビが頭から血を噴き出していた。
覆い被さったゾンビを蹴り飛ばしながら、近づくもう1体に銃弾を打ち込み、身体についた土埃を払いながら、立ち上がった近藤に、泣きじゃくったくるみが飛びついてきた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。私のせいで近藤が噛まれちゃって……ごめ………………」
後は声にならずに泣きじゃくるだけであった。
くるみに抱きつかれながら、近藤は困り果てた顔をしていた。
左腕の装備の説明はしてなかったよな?こんだけ心配させて……どうやって説明したらいいんだ……て言うか…胸が…胸がぷよぷよで……これ以上は身体に変化が出そうでヤバい!
近藤は、引き剥がすようにくるみを突き飛ばす形になりながらも、何とか下半身の変化に気づかれる前に離れられたことにホッとしていた。
「噛まれ奴に抱きつく奴があるか!噛まれたらどれ位でゾンビになるのかもわかってないんだぞ!」
叱る近藤に対して目に一杯の涙をためてくるみは叫んだ。
「だって、だって…私のせいで近藤さんが噛まれたんだよ?」
近藤は左腕を前に突き出しながら、一歩くるみに近づいた。
「見てごらん?どこからも血なんて出てないだろう?
心配させて……今更ながらの説明になったけど…実は左腕のこの部分にはチタンって云う金属が巻いてあるんだ……」
くるみは、言われてしげしげと近藤の左腕を見て
「ほんとだ!白っぽい金属みたいのが見えます!!ってことは、近藤さんは無事なんですよね!」
再び飛びつこうとしたくるみを制しながら、自分の左腕の噛まれた所を見た近藤は背筋が凍るほどビックリしていた。
「防刃繊維のケプラーを3重にしてて……それが噛み切られたのかよ?
日本刀ですら2枚がギリギリだったのに……人間の口てか歯ってリミッターが外れるとすげぇな。気をつけないと次はヤバいな!」
「もう!何で教えてくれなかったんですか!ばか・ばか・ばか!」
左腕に気を取られいるうちに、くるみが飛び込んできて、両手で近藤の胸を叩いた後に力一杯抱きついてきた。
ゾ・ゾンビもヤバいが……くるみちゃんも違った意味でヤバいって!
近藤は、何とか、ギリギリで大人の威厳を保ってくるみを優しく遠ざけて
「早く、マガジン交換して!奥に入るからね。残弾には充分に注意をして!」
近藤は、再度後方から襲われることがないように、襲われた警官達を眺め直しゾンビ化しそうな警官の頭に銃弾を撃ち込んだ。
2人は武道場の中に入った。武道場とは言っても普通の体育館と同じ作りであった。
一部に畳などがひかれており、床全面で柔道や剣道と利用するエリアが区分けされていた。
武道場の一番奥の扉にゾンビが数十体押し寄せていた。
「くるみちゃん!あの奥に、多分避難した誰かがいてるんだ!行くぞ。もうさっきみたいに手遅れは嫌だからな。」
近藤とくるみはマガジンを引っこ抜き、弾が装填されていることを再確認して、早足で武道場の中ほどに移動した。
2人の銃はサプレッサー(消音器)により、大した音も立てずに、次々にゾンビの頭部に銃弾を浴びせていった。
最後のゾンビが倒れてところで、近藤が扉に向かって走り出した。
その後ろをくるみが後方にあたる武道場の入り口を警戒しながら後ろ足でゆっくりと進んでいた。
扉にたどり着いた近藤は扉を叩きながら
「誰か!誰かいてますか?外のゾンビは退治しましたから、無事なら扉を開けて下さい。誰か!」
何度目かの呼び掛けに
「あなたは誰ですか?どうやってゾンビを退治したんですか?」
女性の声が問い合わせてきた。
かなり警戒してるな!まぁ、しょうがないわな。
だいたい、こんな世紀末状態じゃ……女性は真っ先に男性からの性的蹂躙や陵辱を恐れるからなぁ。
近藤はくるみを呼び、扉への呼びかけを代わって貰った。
くるみの呼び掛けで安心したのだろう。
静かに扉が開けられて、回転式の拳銃(警察官が普段所持している、S&Wエアーウェイト)を両手で胸の前に構えた姿の30代くらいの婦警が一人出てきた。
くるみの姿を確認したところで、扉の中の仲間に声をかけやっと扉の中から人々が出てきた。
3名の制服を着た婦警、1名の私服の女性刑事?(同じく拳銃を所持)と中学生と小学生らしき子供の男女が7名。そして、全身のあちらこちらに傷を負い、血だらけの男性警官が3名、中学生男子2名の肩を借りていた。
近藤とくるみは男性警官を見て、顔を見合わせた。
間違いなく、先ほどゾンビに襲われた警官達の生き残りだな。
かなり、顔色も悪いところから見ても…長くはもちそうにないな。
近藤はそれとなく、中学生に指示を出して、怪我をしている警官を少し離れたところに横にならせた。
近藤は、様子を見に行こうとしている2名の婦警を引き留めて状況を聞き出そうとした。
「助けていただいてありがとうございます。私は組織犯罪対策課の藤井巡査部長です。
こちらが、交通課の中野巡査長、高橋巡査。それと生活安全課の石井巡査長です。怪我をしている2名は警備課の木村、中村巡査長です。
子供達は、署の柔道教室のメンバーで昨日親御さんに連絡が取れなかったので・・・・ここに残ってもらった子たちです。
男性の警官は全て先ほど、ここからの突破を試みて全滅してしまいまして、現状では、年齢も職位も私が一番上になんで・・・・・」
「そうですか・・・・でも、何で突破を試みることになったんですか?」
「個人携行無線で本館で立てこもっているメンバーから、武器庫と、その・・・・」
言いにくそうに藤井巡査部長は、近藤とくるみの持つ銃器をチラッと見た。
「これですか?言ってもいいのかわかりませんが、SATの装備班の鈴村巡査部長をご存知ですか?彼から今日のGSG-9 の訓練の見学の許可をいただいてまして、もしかしたら武器が入手できるのではないかと、1時間ほど前にここに来たんです。
運よくGSG-9のバンを発見して、拝借した次第です。えっーーと、緊急事態だから窃盗だとかって野暮なことは言っこ無しですよね。」
近藤のとぼけた笑顔で気が緩んだらしい藤井は
「GSG-9のことまでご存知なら。
連絡では、武器庫とGSG-9の装備を確保するための決死隊を、2隊結成して行動に移すと・・・・GSG-9の隊員の方も4名いらっしゃいましたし、彼らは大型の自動拳銃を所持されていましたので、強攻策に出たのだと思います。
警察署の外のゾンビをGSG-9の装備で排除するので、排除、つまりそれなりの銃声が聞こえて30分後に、こちらも盾を使い武道場から突破。GSG-9が援護にこられる予定だったんです。
警備課の大半は懐疑的でいたのですが、警備課の課長がこのままでは食料もなく何れは、討って出るしかないので、賭けるしかないと判断されまして」
「そうですか。我々の銃声が誤解を招いたんですね。申し訳ありません。」
近藤の苦痛に歪む顔を見て、藤井のみならず近くで話しを聞いていた石井と中野が口々に
「あなたが悪いなんてことはありませんよ。」
「そうですよ。我々は警察官なんです。死んだ仲間も、こうやって子供達が生き延びれたので・・・・満足しているはずです。この子たちを助けてくれたのは紛れもなくあなた方なんですから」
「ありがとうございます。そう言っていただくと、少しは気が楽になります。
しかし、この状況では助けたとは言えません。まだ敷地内には数多くのゾンビが徘徊していますし、ここを脱出して安全な場所を探さないと・・・・・」
「近藤さん!!」
怪我をした警察官を距離を置き警戒していたくるみが鋭く叫んだ。
事切れた二人は、新たな動く屍として息を吹き返してしまった。血まみれの身体を不器用に動かしながら立ち上がろうとしている。
「子供達を! 出きるだけ悲鳴は我慢させて下さい。」
昨日からの世紀末の蠢くゾンビを見続けている子供達は、音がゾンビを引き寄せることを十分に学習しており、気丈にも、中学生が男女を問わず小学生からが叫び出さないように口を押さえたり、見えないように立ちふさがったりしていた。
その中学生達の姿を確認して、近藤とくるみは冷静に生き返った警官に銃弾を撃ちこんで2回目の永遠の死をもたらした。
「兎も角、武道場を出ましょう!ここに留まっても大量に入ってこられると袋のネズミ状態になっちまう。
自己紹介が遅くなりましたが、俺は近藤雄一。あっちの女子高生が根元胡桃さん。俺たちも昨日知り合ったばかりの急造のペアです。よろしく。」
挨拶も済み、近藤を先頭にして一同は武道場を出ることにした。
しかし、13名か?この人数をどうやって守る?残弾も乏しくなってきているし、はてさてどうしたものか?
考えながら武道場の階段を降りている時に、近藤の足に落ちていたライオット・シールドがあたった。静かにライオット・シールドを拾い上げた近藤は後ろを向き男子中学生と婦警のうち大柄な中野と高橋を呼んだ。
「このライオット・シールドを持ってもらえるかな?現状では武器が少なすぎる。この状態でゾンビに襲われると俺とくるみちゃんだけでは手が廻らなくなるだろう。
ゾンビに対峙した時に、このライオット・シールドを盾にしてゾンビから身を防いでくれ。透明だから・・・・ちょっとばかし赤い染みがあるが・・な。相手も見えるし、旨く使って盾ごと体当たりするって方法もあるし・・・・出きるか?」
近藤は特に最後の言葉は男子中学生に投げかけた。二人とも警察で柔道を習っているので、平均よりは大きいが、所詮は子供である。ましてや、やんちゃなワル餓鬼という風でもない普通の中学生であった。
二人とも少し、泣きそうな顔をしながらも、落ちていたライオット・シールドを拾い上げると
「小学生は助けてやらないと、一人じゃ何にも出来ないし。先生(柔道を教えている警察官)は、弱いものを助けるため、弱い心を鍛えるために柔道はあるんだって言ってた。そんなことは綺麗事だとは思うけど、誰かがやんなきゃなんないんだろ。」
その少年の肩を後ろから叩きながら
「私も、中学生だし・・・・子分(小学生)共を守んなきゃね!あんたたちですら『ヤル!』って言ってんだから!
あっ!八木沢 香です。女で、達也や和也ほど役には立てないですけど、こう見えても道場では一番強いんで力にはなると思います。」
そう言い放って、地面に落ちているライオット・シールドと木刀を拾い上げた。
「OK!まずは、直ぐそこに車を止めてあるんで、そこまで頑張ろう。」
3名の中学生は小学生を囲むようにして移動し始めた。また、囲まれている小学生の中でも6年生の男子2人が4年生の2人の女子の手をしっかり握り4年生の男子は二人で手を繋ぎ団結が形成されていた。
無事に車にたどり着いた一行は近藤を警戒に残し、くるみは車の中にあるスナック類と飲み物を配り終えると、黙々を空のマガジンに弾丸を詰める作業を繰り返していた。
子供達が無事に食料に手を出し始めたことを確認して、中野は後方を警戒すると車の後ろに行き、出きるだけ早く交代できるようにと高橋が急いで配られた食料を口に運んでいた。
藤井が子供達の世話をしている間に、くるみの横に石井巡査長が近寄り
「装填手伝うよ。こっちの弾をいれたらいいのかな?」
くるみの答えも聞かずに、石井は4.6ミリ弾をマガジンに詰めだしていた。早々に食料を食べ終えた男子中学生も弾丸装填の輪に加わり、あっという間に9ミリ弾の30発マガジンと4.6ミリ弾の40発マガジンが50本ずつ、5.56ミリ弾の30発マガジンが35本が出来上がった。
装填されたマガジンを自分のポウチに満タンにしたくるみは、車後方で警戒している高橋の様子を見てから、前方を警戒している近藤と交代をした。今の所、警察署の正面玄関から死角の位置ということが効を奏しているのか、ゾンビは1体も現れなかった。同時に警察署内からは発砲音すら聞こえず、署内の武器庫に向かった決死隊も失敗したのだろうとの憶測が、全員の頭の中をよぎっていた。
近藤は、荷台の木箱を開けて装備を引っ張りでして用意していた。用意を横で見ていた石井巡査長は、頃合を見計らい少し離れた前方にいるくるみを呼びに行った。
車に戻ったくるみは、近藤から新たな装備を手渡された。
刑事テレビの刑事が使っているような脇の下に拳銃をつるしているショルダーホルスター、太もものに固定するホルスター(勿論ズリ落ちないように腰ベルト付き)。少し大きめのウエストポーチ。
ショルダーホルスターには左に自動拳銃P46(ダットポイントレーザー付)、右には予備マガジン3本。レッグホルスターにはMP-7A、ウエストポーチにはP46用の交換マガジン(8)とMP-7Aの交換マガジン(5)。さらには、ベストに拳銃用のマガジンポウチに3本のP46用マガジン。(MP-5、MP-7A、P46)
「近藤さん・・・・凄く重いんですけど?全部持たなきゃ駄目なんですよね?」全部の装備をつけた重さに圧巻されていた。
同じような装備(G36とMP-7A、P46)に、さらにバックパックを背負う近藤は苦笑いしながら、両手を顔の前で祈るように合わせて
「ごめんな。まともに戦えるのは俺たち2人だけだし、重すぎて動けないか?」
「ううん、剣道の練習でこれくらいの重さで動く練習はしたことはあるから、何とかなると思います。」
無理をしているのは顔を見ればわかるが、13名を引き連れて動く為にはくるみにも負担を掛けるしか方法がなかった。
「近藤さん。こちらも用意が出来ました。」
組織犯罪対策課の藤井巡査部長は、基本的なSATの訓練課程を受けていたということで
G-36とUSPと予備弾薬。
石井巡査部長も射撃の上級者とのことでUPSと予備弾薬を渡されていた。残りの婦警は実銃をまともに取り扱ったことさえない状況なので、そのままS&Wエアーウェイトを持ち、藤井と石井の予備の弾丸を受け取っていた。
警察署に到着した際に目撃した立てこもっているらしい階は、刑事課や警備課の階らしく、救出できれば戦力になる可能性が高いことわかり、同時に、近藤の友人である鈴村巡査部長は、元々武道場に居たが武器庫の鍵を保管しているということで単身で武道場から武器庫に向かったことが判明した。
どちらにせよ、現有のメンバーでは確実に子供達を守ることは厳しいということは明白なので、無理をしても警察署内の救出を決行することで全員の意見が一致した。
運よく、中野巡査長の自家用車(1BOX)が武道場の駐車場に止められていたことから、中野、高橋両名が子供達を乗せてコンビニへ先に避難することにさせた。
車を見送った後に、4名は近藤の車に乗り込み、警察署の正面玄関に向かった。
「・・・・・ということは、駐車場横のドアから入るより、正面玄関からの方が距離も近いし、通路も広いということですね?」
「そうです。旨く行けば、正面玄関に隣接する警務課で携行無線がまだ残っている可能性がありますし、PCの鍵も何本かの予備が入手できるはずです。ただ、署内の窓口なんで・・・・身を隠すことは出来ないと思います。」
「わかりました。では、先頭は俺、次いで石井さん、藤井さん、くるみちゃんの順番で入ります。1階での署内の探し物はお二人にお任せします。俺とくるみちゃんは周囲の警戒に当たります。1階が終われば、階段から、俺・石井。藤井・くるみのペアで動いていきます。弾切れに十分に注意してください。お互いにマガジン交換時は声を掛け合ってください。いいですね。質問はありますか?」
言いにくそうに石井が
「マガジン交換って言うんですか?」
「リロード!」って言うんです。
「それと、出きるだけ、撃った弾数は覚えておく方がいいです。石井さんの拳銃に入っている弾数は・・・・」
くるみは答えも求めて近藤に視線を送った。
「15発だ。1マガジン15発。ちなみに俺とくるみちゃんの拳銃は20発。」
「了解しました。くるみちゃん、ありがとね。」
石井はやさしく、くるみに微笑みながら言った。
「じゃぁ、行きますよ。石井さんの拳銃には消音器がついていないので、出きるだけ俺から離れずに居てください。出来れば、2階に上がるまで発砲する状況にならないことを祈りますよ・・・・・
それと、通路に倒れている死体には十分に注意してくださいね。通りすぎたら後ろで蘇って襲ってきたなんて冗談ではすまされませんからね。血で滑りやすくなっているかもしれません。兎に角注意を怠らないで下さいね。」
近藤は、警察署の階段に一歩足を掛け、軽やかに音を立てずに入り口に近寄っていった。
入り口にもたれかかるようにし胸ポケットから小さな鏡を取出した、鏡には伸縮性の棒状の握りがついておりそれを無造作に伸ばし、鏡を入り口から室内に差込、見える範囲を確認したところ、入り口右手の受付カウンターらしきところに5~6体、左手の方向に4体ほどがあてもなくユラユラと揺れて立っていた。他には動かない死体しか見えなかった。
近藤は追いついて来た入り口の逆方向に位置するくるみに向けて手で合図をした。右方向を指差してから指を6本。左方向を指差してから指を4本。
くるみは頷き、指で自分を指して右方向をさした。(くるみからすると直進方向)
なるほど!直進して銃撃するほうが遣りやすいってことか。確かに、わざわざ室内に入ってから方向転換する必要もないしな。
近藤は指で丸をつくり、OKのサインを返しながら、くるみを指差して指を1本、自分を指差して指を2本と指示をした。
再度、頷いたくるみは、数度の軽い深呼吸を行い。スッと警察署内に足を踏み入れた。間髪いれずに近藤も署内に踏み入った。
くるみは、冷静にカウンター付近にいた6体のゾンビの頭に1発ずつ弾丸を撃ちこんでいった。
くるみと背を併せるように、近藤もMP-7Aから4発の銃弾を発射させながら4体のゾンビを葬った。
近藤の手招きで残りの二人も署内に入り、藤井は携行無線機へ、石井はPCの予備鍵を求めてカウンターを乗り越えて警務課の机に向かって散っていった。
「くるみちゃん!凄いじゃないか!もう、特殊部隊の隊員並みの腕前だよ。くるみちゃんとなら、安心して背中を任せられるよ。」
周囲を警戒しながら近藤はくるみに話しかけた。
「銃が上手に撃てるって・・・・女の子としては・・微妙なお褒めの言葉なんですけど?・・・定期試験にゾンビの射撃のテストなんてないですしね。
でも、褒めてもらえるくらいの腕前なら、こんな、私でも『人』を助けることが出来るってことなんですよね。」
その時、警務課の奥まった通路から10体ほどのゾンビがいきなり現れた。藤井や石井の立てる音に引きつられてきたのだろう。
「俺が殺る。くるみちゃんは周辺の警戒を継続して!」
ゾンビに気づかずに携行無線を探している藤井巡査部長の背後のゾンビにむかい近藤はMP-7Aを向け、スコープを覗き込みながら1体、1体と藤井巡査部長に近づくゾンビを撃ち倒していった。
「駄目だわ。緊急事態だったから、全部持ち出されているみたいだわ。」
予備の携行無線の引き出しまで確認したが、携行無線を発見することは出来なかった。
一方、脱出に利用できるようにPCの鍵を探していた石井は、警務部長の執務机横の棚に鍵があることを思い出して探していたが、その辺りでゾンビと警官が激しく攻防したのであろう、机も棚も激しく損傷したり、ひっくり返えされたりされていた。
あきらめかけた時に、粉々になった棚の隙間に鍵の束が落ちているのが石井の目の隅に写った。
机が邪魔をして手が届かないことに苛立ちを覚えながら、机に身を預けてガラクタ状況になった棚の隙間に左腕を突っ込み必死に伸ばして鍵の束を取ろうとしていた。
「ん?石井さんは何をやってんだ?」
目の隅を掠めた石井の行動を疑問に感じて視線を戻した近藤は、石井がガラクタの中に腕を突っ込んでいるのを見て
「石井さん!駄目だ!隙間に手を入れたら駄目だ!」
石井は、静かに行動しろと言っていた近藤が大きな声で何かを警告していたので、改めて聞き直そうとした瞬間に、左腕に激しい痛みを感じて、思わず叫び声をあげていた。
「いた・だ・だ・だ・あ・あ・あ・あ~~」
隙間から引き抜いた腕には、無残にも肉を喰いちぎられた後が残っていた。足が動かない這い回ることしか出来ないゾンビが偶然そこにいたのだった。
噛まれた!自分もゾンビになるんだ・・・・そう分かった瞬間に石井は無意識のうちの大声を上げていた。
「いやあああああああ!いやだああああああ!死にたくないよ・・・・・・・」
その叫び声につられて、警務部の奥の通路から続々とゾンビが現れ始めた。
「ダ・ダ・ダ・ダ・・・・・・・」甲高い射撃音が室内に響いた。
警務課の奥の通路から2メートルも離れていないところにいた、藤井は突然現れたゾンビに軽いパニック状態になって、G36自動小銃をフルオートでゾンビに向かって撃ち始めたのだった。
咄嗟にフルオートで撃ち始めたので、狙いは定まらずに銃口は2~3体のゾンビの足から胸に向かって斜めに走り、ゾンビを僅かによろけさすだけに終わり、大半の銃弾は室内の壁に撃ち込むことになってしまった。
石井を狙って室内に溢れ出てきたゾンビの半分が藤井に目標を変更してきた。
ヤバい!ヤバイいぞ!藤井さんの位置だと俺もくるみちゃんも流れ弾を考えると援護射撃が出来ないじゃないか!
素早く、射線から藤井を外そうと移動しかけた近藤に対してくるみが警告を発していた。
近藤の後方の通路や階段からも信じられない数のゾンビが溢れかえり始めていた。
近藤は、藤井を気にしながらも迫るゾンビに後ずさりしながら銃弾を浴びせ、くるみのいる入り口の方向に下がるしか方法が無くなった。
「落ち着いて!落ち着くのよ!」
藤井は自分に落ち着くように言い聞かせながら、G36の空になったマガジンをリリースして、ポウチから新しいマガジンを引き出し装填し、コッキングレバーを操作し、迫り来るゾンビに向かって撃ち始めた。
しかし、ゾンビとの距離が近すぎて、数体のゾンビを撃ち殺したところで横から現れたゾンビにG36小銃の銃身を掴まれ手放さざるを得なくなり、銃ごとそのゾンビを押し倒し、腰のホルスターからUSPを引き抜き、その額に銃弾を浴びせた。
藤井のほほ前面に扇状に集まり出したゾンビに、必死にUSPを撃ちながら藤井は一歩、一歩と後退していった。
近藤さんとくるみちゃんが援護してくれるはずだから・・・もう少し、もう少し後方に下がらなくちゃ!
がむしゃらに狙いをつけては一番近いゾンビに対して引き金を引き続けた藤井であったが、後ずさる足が机の角を踏み、バランスを崩したところで踏ん張ろうとしたもう片方の足が地面に横たわる死体を踏みつけてしまい、大きくバランスを崩して後方に転がるようにこけてしまった。
一瞬、何が起きたのかが判断できなかった藤井であったが、起き上がる間も無く座ったままの状態で後ずさりをしながら、迫り来るゾンビに向かって右手を上げて銃を構えようとした時に自分がこけてしまい、拳銃を手放したことに気がついた。
駄目だ!と目をつぶり自分の死を悟った瞬間、藤井の顔の横にUSPを握った腕が現れて矢継ぎ早に引き金が引かれ迫るゾンビの数体を撃ち殺した。そう、既に噛まれたしまった石井の横まで後退していたのだった。
「噛まれた!噛まれた!ちくしょう!ちくしょう!死ね!死ね!死ね!」
と叫びながら石井はマガジンが空になるまで引き金を引き続けた。
藤井は、スライドが後退した後もUSPの引き金を必死に引き続ける石井の手から、拳銃をもぎとり、自分のポウチから新しいマガジンを装填し、迫るゾンビを撃ち始めた。
「石井さん!大丈夫?ここは、私に任せて逃げて!早く逃げて!」
石井が噛まれたことに気づいていない藤井は懸命に近づくゾンビを撃ちながら石井を逃がそうとしたが
「噛まれた!噛まれた!噛まれた!噛まれた!噛まれた!噛まれた!」
と石井が狂ったように同じ言葉を呪詛のように叫び続けることに気がつき、同時に近藤とくるみからの援護が無いことにも気づいた。
みんな、殺られてしまったんだ・・・・・・もう誰も助けてくれないんだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
前方のゾンビに装填されているマガジンが空になるまで引き金を引き続け、最後のマガジン交換をして、さらに10体のゾンビに銃弾を浴びせた後に藤井はくるりと振り返り、髪の毛を振り乱しながら叫び続ける石井に
「ごめんね」 と一言、謝りながら眉間に銃弾を撃ち込んだ。
静かになった石井を見つめながら、藤井はUSPの銃口を口に咥えて
中野、高橋!子供達を守ってね!
そう願いながら引き金を引き、33年の生涯を閉じた。
「右!」
「左からも!」
「リロード!」
「退却するしかないぞ!」
「藤井さんと石井さんは!」
「わからん!ゾンビの数が多すぎる!出ないとこっちが殺られる!」
「分かりました!フルオートでいきます!」
中野・高橋達
「この道でいいんだよね?」
「もう!アンタは交通課でしょ!次の角をまがるんだよ!」
中野は高橋の方向音痴にあきれながらも道順を指示していた。
角を曲がったところで、1台のワゴン車が立ち往生して車の屋根に男が1人、手を大きく振りながら助けを求めていた。
「どうする?警察官としたら助けない訳にはいかないよね」
中野に意見を求める高橋に対して、中野は
「あいつのツラ。良く見てみなよ。広域暴走族の『夜叉丸』の特攻隊の奴だよ。絶対によからぬ企みをしてるに決まってるって!無視!無視!突っ切ちゃえ!」
無視して突っ切ろうとした時に、立ち往生しているワゴン車とその周りにとまっていた車が一斉に動き出した。
「止まったら駄目だよ!ぶつけてもいいから止めるなよ」
中野は言いながら、拳銃を右手に構えていた。
「止まってつかまったら、間違いなく慰み物にされるよ!車4台だから最低でも5人。いや、1台運転手以外に2名としても10人以上。
10人に犯られるなんて・・・真っ平ごめんだね!」
既に、こちらが婦警ということはばれている様子で、助手席からハコ乗りして鉄パイプを振り回している男が
「婦警さんを犯すぞ!」と叫んでいた。
その車に気を取られていると、逆方向から違う車が体当たりをしてきて、高橋の運転する車は大きく蛇行した。
「高橋!この車は伊達にデカイだけじゃなくて重いんだから逆にぶつけてやれ!負けるな!後ろの子供達、どこでもいいからしがみつといて!」
中野の勢いにつられて、高橋は2回目の体当たりを行おうとしているセダン車に、勢いをつけてワゴン車をぶつけた。
重量のあるワゴン車と高橋の絶妙なハンドル裁きでセダン車は大きく蛇行し、駐車されている事故車に乗り上げて他の車に突っ込んでいた。
セダン車から必死に這い出てきた暴走族達は、近寄ってきたゾンビに襲われていった。
「ゾンビまで結構出てきてるよ!とにかく、夜叉丸を振り切らないとコンビニにも行けないよ。高橋、その調子で他の3台もぶつけて!」
婦警といえども、交通課に勤務するだけあって高橋の運転技術は確かなものだった。2台目の暴走車を事故車に突っ込ませた後、彼らも、流石に悟ったのか方法を変えてきた。
体当たりを止めて、助手席や後部席にハコ乗りをして、鉄パイプや釘打ちバットでワゴン車体やタイヤを叩いては離れという、ヒットアンドウエー戦法を使ってきた。
中野は後部座席に移り、サンルーフを開けると身を乗り出して、拳銃をかまえて暴走族を狙い始めた。
拳銃は4丁あるし、弾も50発はある。下手な鉄砲も数うちゃ当たるでしょ!絶対にあんな馬鹿供の慰み物にはなんないからね。
中野はいきなり、近寄ってきたセダン向かって無造作に3回引き金を引いた。1発が助手席の男に命中したらしく、血を噴出しながら車から落ちていった。
10数分にわたり一進一退の攻防が続いたが、痺れを切らした暴走族の2台は急加速で一気にワゴン車を追い越して前に出る作戦に打って出てきた。
不幸は重なるものである、前を塞がれることを予感した高橋は一気に減速して左右のどちらかに逃げる算段をして左と決めたが、中野はそんなことを知らずになかなか命中しないことに業を煮やし、急加速してくる左側の車に的を絞り、あろうこと2丁拳銃でめくら撃ちを開始した、見事にタイヤとガソリンタンクに銃弾が突き刺さり、左側前方を走るセダンは火を噴いたが、そのままワゴン車の進行方向にノーズを向けながら右から来た仲間の車に突っ込んでしまった。
高橋は、左側の車が進行方向の正面に来た瞬間にギリギリで避けれるところに向かって急制動をかけながら勢い良くハンドルを切ったが、激しいカーチェイスの繰り返しにタイヤがついていかずバーストしコントロールを失ってしまい、2台の燃えるセダン車に突っ込んでしまった。一瞬の内に残り2台のガソリンタンクに火が移り3台は大音響とともに炎の中で燃えていった。
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