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番外編 極楽温泉 その4 

前回の微エロは不評のご様子で申し訳ございませんでした。


気を取り直し本編てか番外編ですがどうぞ

「お、おねえちゃん?ってお母さん!離れて!離れてよ!」


89式自動小銃を肩付で構え、銃口をピタリと狂った宿泊客の男の頭に合わせたままの木村の横で、由紀が、猟銃の銃口を前にしてなお娘を取り返そうと男に詰め寄る母親に叫んでいた。


「由紀ちゃん!お母さん引き離して!そこの男!!女の子を離しなさい!」


木村は構えた小銃のグリップをきつく握り直しながら一歩前に出た。


今?今なら銃口は誰にも向けられていない?撃つ?相手は人間よ?でも、このままで危険?


いくつもの言葉が頭を過ったが、木村は引き金を引くことが出来なかった。


由紀が飛びつくように母親に近づき引き寄せ自分の背の後ろに隠した時、由真は既に男の腕に巻かれるよう捕まり、男の銃口は由紀にまっすぐに向けられていた。


ガタガタと震えながらも、男は徐々に正気を取り戻していた。


「そ、そこの女自衛官!じゅ、銃を床に置かないとこの母娘を撃つぞ!早く!

早く、置けっていってんだろうがぁ!」


駄目!目が狂ったままだ!このままじゃ由紀ちゃん達が撃たれる。


木村は、大げさなアクションで銃口を上に挙げ、左の掌を突出しながら


「分かった!分かったわよ!今、降ろすから撃たないでよ!」


静かに膝を折り、腰を下げながら、木村の89式は床に置かれた。


「下がれ!下がれ!こい!このアマ!」


相変わらず、銃口は由紀に向けられていた、ガタガタと音がするのではないかと思えるくらいに小刻みに揺れ動く銃口にいつ暴発が起こるとも知れず、由紀は自分の身が母親を完全に隠し果せているかだけを心配していた。


顔さえ、顔さえ撃たれなけりゃ。ケプラーベストで散弾くらいなら死ぬことはない!ってお父さん言ってたよね?


由紀ちゃん、銃器に詳しいと言っても所詮お父さんも日本人としての知識です。そんな数メートルに至近距離でダブルオーバックの鉛玉を浴びて無事ではいられませんよ!


男は震える銃口を由紀や木村に交互に向けながら、由真を引っ張るように部屋の中を移動しながら、とうとう部屋の入口にたどり着いた。後ろ手で扉をあけながら、グイッと由真を引っ張り廊下に引き出すと途端に、部屋の壁に向けて引き金を引いた。

狙われている訳ではないことを、頭で理解していても、室内に取り残された3名は頭を抱えて蹲っていた。


銃声から2秒後に、木村は89式を拾い上げて扉に走りかけたが、撃たれて傷つき呻き声を上げている数名の宿泊客を無視できなかった。


立ち止り、一番重症と思われる横の血だらけの子供と横たわっている女性の傍らに寄り首の頸動脈を指で確認した。


殆ど振れてない。無理だわ。


室内には他にも数名、撃たれて宿泊客がおり、木村はその間を縫うように確認に回った。


「誰か?誰か応答願います。宴会場奥の間で、宿泊客の1名が猟師のショットガンを奪い発砲!7名の負傷者と3名の死者!男の宿泊客は女子高生を人質に部屋から逃亡!ショットガンは推定で3回発砲されてます。」


「山本だ!衛生兵3名向かわせる!田中!佐藤!鈴木!行け!磯野!穴子!2名は念のために部屋前で警戒態勢とれ!

木村!お前は単独でその男を追うんだ!

徳川さん!徳川さん!」


「了解!」


木村が、追う体制を整えると同時に3名の衛生兵が部屋に到着していた。


「班長(山本)ヤバいっす!他の宿泊客がパニック起こして旅館内1階のあちらこちらを走り回ってます。誰か寄越して下さい!」


「徳川だ!了解した!

坂下―っ!横田、横須賀、呉と4名で宿泊客を宴会場に集め直せ!パニック起こしてるとのことだ!多少強引にやってかまわん!」


「坂下 了」


「横田 了」


「呉 了 横須賀も横に居ます。」


「木村さん!行きましょう!」


いつの間にか木村の横には、89式を持ちなおした由紀が立っていた。


「お母さんは?いいの?」


「お母さん看護師です!手伝うって!お姉ちゃんを!って」


「よし!行くわよ。」


2人は勢いよく広間から飛び出した。




パニック客 その1



「ケ、ケンちゃん!自衛隊のそばの方が、あ、安全じゃないの?」


目の周りを真っ黒にした如何にもといったいでたちの現代風娘チエが、ミニスカートを翻しながらケンと呼ばれる青年の後を歩いていた。


「俺は、こう見えても、空手2段の剣道初段だぜ!さっきの土産物屋の木刀さえありゃ!どんな奴だって蹴散らせるさ!

お前もテレビで見ただろ!映画と同じでノロマから、最悪走りぁいいんだよ!

お前もキャバ嬢になる前の高校時代は陸上部で走るの得意だって言ってたじゃんかよ!

それにさっきの見たろ?銃持ってる奴等が狂ったら、即射殺されるじゃん」


「そ、そーだね。さっきも親子が撃たれてたもんね。」


その時、2階から激しい銃撃音と多くの怒声が響いた。


「きゃっ!」


蹲るチエを強引に引き起こしながら


「さっき、自衛隊の坂下って下っ端と仲良くなったんだけどよ。

走るゾンビがいるらしいぜ。2階に罠を用意したとか自慢してたんだけど、その2階でさっきからあれだけの騒ぎだから2階に現れたんじゃねぇかな?」


「えっ?ゾンビが走るの?走られたら逃げれないじゃん?どうすんのケンちゃん?」


「走るのが2階にいる間に、裏から逃げるんだよ!俺の車!駐車スペースを指定された時は裏口の近くでクソッ!て思ってたけど、こうなりゃ結果ラッキーじゃね?

走って20秒とかかんねぇところに車があるんだ。利用しない手はないじゃん!」


「マジ~?私たちだけで逃げるのぉ?」


「何人も乗ったら、スピードも出ないし、燃費も悪くなるだろうが!アホ!

せっかく、自衛隊の奴から聞いてた簡易食糧の入ったザックもパクッて来たんだぜ?」


「ケンちゃん!あったまいい!」

旅館の裏口に簡易に積まれていた机や椅子を数分かかって取り除いた二人は


「いよいよだぞ!俺が声かけたら走れよ!お互いに何があってもぜってぇー振り返らずに車まで一直線だぞ!ほら、これ。」


チエの掌には車の鍵が握らされていた。


「スペアキーだよ。前から欲しいって言ってただろ。用意してたんだよ。まぁ、こんな渡し方になるとは思ってもみなかったけどよ。ただスペアだからな、鍵穴に突っ込んで開けなけりゃだめだけどな。

俺の鍵は無線で施錠できるから、5メートルくらいのところで作動させるから、助手席に乗り込むんだぜ!」


ゴクッと唾を飲み込みながらチエはコクンと頷いた。


静かにゆっくりとドアを開け、僅かの隙間と月明かりを頼りに自分の車の駐車してある方向を確認したケンは


「チッ!誰かの車が前ふさいでやがる。チエ!助手席の方に行くのに前に止まってる邪魔な車を迂回しなきゃなんねぇから、気合入れて走れよ!」


更にドアを開けたところで、普段使われていないドアなのであろう、大きな金属音を響かせてしまった。


やべぇ!今の音で寄ってくるんじゃねぇだろうな?


ケンは、首を突き出して周りを確認しながら毒づいていた。


案の定5~6体のゾンビが腕を突き出しながら、駐車場の正面方向からノロリノロリと現れだした。


「はし!」


掛け声をかけようとしたケンの頭に何かが押し付けられた。


「車持ってんのか?」


それは、由真を人質にとった中年男のショットガンの銃口であった。


「な!」


ケンが何かを訴えようとした時には、既にショットガンを持ちかえた男がその銃床でケンの後頭部に一撃を加えていた。


崩れ落ちるケンの拳から落ちた、車の鍵を拾い上げた男の顔は見事に歪んでおり、月明かりはその歪んだ顔をより一層不気味な彩を与えていた


「お、女が2匹だってよ。俺にもやっと運が向いて来たよな。後でたっぷりと可愛がってやるからな。ほら急げ!どの車だよ!」


男は由真とチカをショットガンで脅しながら車へと向かった。


「待てよ」


助手席に向かうために、邪魔な車を迂回しようとしたチカに対して


「逃げようなんて思うなよ。一人で勝手に動くんじゃねぇ。」


「じょ、助手席に行くにはこの車を迂回しないと・・・・・」


応えるチカに対して、銃口を盾にした男は


「お前、さっきあの男から何か渡されてたろ?スペアキーじゃないのか?だせ!・・・・・・だせっ!」


差し出されたスペアキーを満足げに受けとった男は


「外車の癖に何で左が助手席なんだよ?えーーーっ?俺をだまして走り去るつもりだったんだろう?このクソメスがぁ。俺だって外車に乗ってるんだよ!」


銃口を向けて撃つ振りをしながら男はチカを恫喝した。


「ヒィッ!来た。」


由真の小声の叫びを聞き、男は


「逃げたら、後ろからでも撃つからな。助手席に向かえ!」


狙いを定めながら銃口を車の方向に振り、指示を与えながら、自分は後ずさりしながら邪魔な車を迂回し車に向かった。


後少しで車と言うところで、男はチラッと車に目を走らせた。


「クソッたれ!そう言うことかよ!貧乏人がぁ!」


ケンの車は確かに男の指摘通り国産車ではなく外車であったが、国産向けの右ハンドル車であった。

車を運転するには助手席から運転席に移る必要があったが、ショットガンで狙いを定めながら移る自信がない男は同時に2人の女性も手放す気はサラサラなく、歪んだ顔と狂った頭は、引き返して再度車を迂回するという方法を選択した。


近づくゾンビと人質の女性2名に気を取られていた男は、ゾンビにおわれて車に下に潜り込んだが、無残にも追いつかれ、下半身を食い尽くされた姿のままゾンビになり果てた女性が肘から先だけを出して、必死に動く者を掴もうとしていることに気づいていなかった。


男は不意に足首を掴まれて気が狂ったように叫び声を上げた。


更に男は、自分の足首を掴む地面から生え出たかのような腕を目を一杯に広げて凝視しながら、おもむろにショットガンの銃口を生え出た腕に向け、引き金を引いた。


「ぎぃやぁぁぁぁあっ!」


当たり前だ、生え出た腕と同じく自分の足にも至近距離で大粒の鉛玉数発を撃ち込んだのである。


男の膝から下は大きな穴がいくつもあき、崩れるように男は地面を転がり、痛さに耐え兼ね、地面をゴロゴロと転がり回った。


勿論、お約束であろう。数度となく転がりのたうつ男は、その自分の身を、腕が無くなり獲物を捕獲する術を失いながらも、一心不乱に口を信じられないくらい大きく開き何かに噛みつこうとしているゾンビに捧げたのである。

男が最後に見た物は、裂けそうなまでに大きく開かれた不自然なほど赤い人間の口と虫歯数本であった。


「C4だな」


男の最後の思念であった。そう彼は歯科医であった。


男が落としたショットガンと車の鍵を拾う腕があった。


「ざまぁみろってんだ。」


そこには、額に血の筋をつけながら、意識を取り戻したケンが居た。


「逃げるぞぉ!チカ!」


ケンはリモコンを車に向けて操作しながら車に駆け寄り、助手席から器用に運転席に潜り込んだ。


ウィンドウを下げながら


「早くしろっ!後ろからゾンビが迫ってんじゃぁねぇかよぉ!」


脅していた男がいきなり自身の足を打ち抜き地面をのたうちまわるっている事態が飲み込めずに寄り添うように身を寄せ合っていた二人の内の一人が涙の枯れた顔を向けて


「この娘は?置いてくのケンちゃん?」


「臨機応変だよ!二人とも乗るんだぁぁぁ!」


ケンは、車から飛び出して木刀を右手に高々持ち叫びながら二人に向かって走ってきた。


「な?何」


戸惑う二人に


「しゃがめ!」


叫んで、ケンは宙を舞った。


二人の直ぐ後ろに2匹のゾンビが迫っていたのである。


一匹にはとび蹴りの要領で後方に弾き飛ばし、着地するなり構えた木刀を上段から振り落としてもう一匹のゾンビの頭を打ち砕いた。


「早く!」


ケンがチカの手を引き、チカは由真の手を引き、3人は車に飛び乗った。


「掴まってろよ!」


荒々しいエンジンの音と、地面をこすれるタイヤの音と痕を残してケンのBMWは勢いよく発進した。


「ケンちゃん!轢き殺しちゃえぇぇぇ!」


後部座席でケンの指示に従わずに、気勢を上げて右手を突き出していたチカは、ケンが左右に慌ただしく操作するハンドルに合わせて後部座席を転がりまわっていた。


「痛いーいっ!何で轢き殺さないのよぉぉぉ」


車内が安全と知ってか、急にチカは強気になりケンに文句を言い出した。


激しくハンドルを切りながらもケンは


「ハカヤロー!人跳ねたらエアバックが作動するんだよ!そんなモン作動したら運転できねぇじゃねぇかよ!黙って掴まってろ!」


ケンは、必死の形相で前方の睨みながら駐車場の出口を目指した。運も味方したのであろう。ハイビームで駐車場内を照らして、隅方向にゾンビがほとんどいないことを確認していたケンは、出来るだけ駐車場の端っこを走ることに専念した。

駐車場の中央は大量のゾンビの血だまりがまだ乾ききっていない状態で非常にぬめっておりまだまだタイヤが滑りやすい状態であったのである。


カン高いスキール音を残してケンのBMWは旅館の駐車場を飛び出して行った。


「ケンちゃん。どこに行くの?行くあてはあるの?」


問いかけるチカに


「坂下が云ってた・・・・・・山越えのルートはゾンビが居なかったって。そして隣のS県には自分達の基地があるって。取り敢えずそこを目指そうかな?

あっ!俺、木村健一 一応売れないホストな。でそっちは工藤チカ。ストロベリーキャンディ―のNo5のキャバ嬢。お宅は?」


「近藤由真です。」


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