第10歩 夜叉丸-2
一応、ゾンビ物の体裁は保てましたが………
この先の8人衆(残り6人)との対決その後の一馬との対決。
一話、一話、まともな量の物語にしないていけない……胃が痛くなりそうです。
空手との対決や特殊部隊との対決。
妙案あれば、どなたか、お助け下さい。
相変わらず、無謀な作者でした。
近藤は意を決して
「人切りサイゾーさん…なんですね?」
「いかにも」
サイゾーは死角にあった右手を見える位置に出した。その手には、白鞘の刀が握られていた。
サイゾーはゆっくりと刀を抜き鞘を地面に落とし、近藤の真正面に正眼の構えで対峙した。
「本気でやるんですか?見たところ……あなたは夜叉丸。いえ、影丸一馬に荷担する人物とは思えないんですが…」
躊躇しながらも、近藤はP46をホルスターから引き抜き、軽く右肘を曲げてP46構え握る右手に左手を添え、左足をやや前方にし軽く膝に溜めをつくり、サイゾーの胸元、心臓の真上にレーザードットの紅点を向けた。
「一馬のボンのやり方や考え方には………決して納得はしていやせんが、おやっさんとこのお嬢がお熱でしてね。ボンから離れないんでさぁ。
親のためなら、おてんとう様に顔向けできないことだろうが、あっしには出来ねぇこたぁねぇんですよ。
あんさんには何の恨みもありやせんが…
いえね、どちらかと言えば、幼児姦の変態オカマ野郎に制裁を加えてくれたことにゃ感謝したいくらいなんですがね。
おやっさんの泣き顔は……あっしには直視出来ねぇんでさぁ。」
そう言った途端にサイゾーの目の色が変わり、ゾクッとする寒さが感じらるた。
こいつはマジだな。かなり時代錯誤の旧世代のヤクザ屋さんか……
いきなり、素人にもハッキリと分かるほどの殺気を放ったサイゾーは一気に近藤との距離を詰めようと踏み出しかけた。
パン!パン!と乾いた銃声にキン!キン!と軽い響きが木霊した。
サイゾーもゴスロリ・ナンシ−なみの剣技で簡単に4.6mm×30を弾き返しのである。
「飛び道具はあっしには通用しやせんぜ。申し訳ありゃしやせんが、お命頂戴!」
更に距離を縮めようと前進するサイゾーに向かって、近藤は発砲を続けた。
くるみはサンルーフから身を乗り出して、MP−7で援護射撃を行おうとしたが……サイゾ−はたくみに、くるみとの直線上に近藤を挟むような位置取りをしていたため、援護射撃が出来ないでいた。
「中野さん!駄目です。常に近藤さんが射線上に!…………撃てないです。」
15発の銃弾を弾き返した段階で
「15発を撃って、まだスライドが後退していないってこたぁ、薬室に1発入れてなすったてぇことみたいですな。
次の1発で…あんさんの拳銃はただの鉄屑になりはてやすぜ。
おっとと……マガジンチェンジの時間は……差し上げられやせんぜ?
もちろん、車からの援護射撃をご期待なさっても、あっしは常に死角にいてやすんで無駄ってもんですぜ。」
言いながら、ズイッと一歩を踏み出したサイゾーに対して、近藤は更に1発したが相変わらずサイゾーはいとも簡単にその刀身を目にも止まらない速さで振り抜いて弾き返した。
ニヤリと左口角を釣り上げて刀を上段に構え直したサイゾーが、必殺の袈裟切りを放とうとした瞬間に……
今だ!完全に油断してる!
パン!と更に1発の銃声が鳴り響いた。
その瞬間にガクンとサイゾーが膝をおり、倒れ込みそうになりながら刀を地につけ耐えていた。
「??17発目が…ありなさったんですか?」
「日々、進化と言えばいいんですかね。この拳銃はサイゾーさんが知ってらっしゃるのとは違うんです。」
痛みをこらえながら立ち上がったサイゾーは
「17発…撃ちなさってもスライドが後退してないってこたぁ…まだ撃てるってぇことですな。
しかし、この1発であっしに決定打を決めないってぇのは甘過ぎやしやせんか?」
そう、何故か近藤はサイゾーが根っからの悪党とは思えずに、わざと狙いを外して足に銃弾をかすらせようとしたのである。しかし、抜群の射撃センスの近藤ではあったが……所詮は経験不足なのだろう。
銃弾は、サイゾーの左大腿部を貫通していた。
「何、甘いことを!」
言いながら、中野巡査は先ほどセダン車から手に入れた日本刀を片手に車から飛び出して言った。
「考え直しませんか?今、人間同士がいがみ合ったり殺しあったりしている場合じゃないですよ。サイゾーさんが大事に思ってる親父さんですか?その親父さんだって、今頃はゾンビと戦ってらっしゃるかも知れませんよ。」
「そうかも…………知れやせんが、あっし達は……例え白でも親が黒といやぁ黒なんでさぁ。
嬢を哀しませるなと言われりゃ………
一馬ボンの……手駒としてやるしかないんでさぁ。」
サイゾーは言うや否や、足を撃たれているとは思えない速さで、刀を振りながら近藤に接近し必殺の袈裟斬りを放った。
ガシ〜〜ン
サイゾーの切り込んだ日本刀を近藤は咄嗟にP46を放り出して、右足から蛮刀を引き抜いて受け止めた。
「お見事、よくぞあっしの一の太刀を防ぎなさった。蛮刀でなかったらへし折れましたんやがな。しかし、あっしと斬り合いで勝負しなさるおつもりで?」
近藤は、サイゾーの言葉に返す言葉もなく、刀を受け止めることに必死であった。
足を撃ち抜かれてるのに……なんてぇぇ踏み込みの力なんだよ。こりゃ戦法をまずったかもな。俺の判断の甘さが……くるみちゃんや中野さんや香ちゃんを危機に落とし入れちまいそうだな。
最低でも、差し違えるにはどうすりゃいいんだ?
額から汗を滲ませながら、近藤は自分の甘い判断を呪った。
鍔迫り合いはジリジリと押し込まれて、更に近藤は劣勢にたたされていった。
どうする?いや……どうすりゃぁいいんだ?
額から吹き出る大粒の汗が目に入ってしまった近藤はその僅かの瞬間にグッとサイゾーに押し込まれた。
しまった!
必死に押し返そうとした瞬間にサイゾーはバックステップで1〜2歩後ろに下がり、体勢を崩した近藤目掛けて一気に上段から刀を振り下ろした。
駄目だ、ごめん!
近藤は覚悟を決めて、来るべき痛みを待った。
キン!と甲高い音と共に近藤の目の前に誰が割り込んできた。
「邪魔!下がって!」
サイゾーと近藤の間に中野が割り込んできて、サイゾーの一撃を中野の刀がはじいていた。
「おやおや、助っ人さんですかい?
あっしの必殺袈裟斬りを、おなごのくせに弾くとは………なかなかの腕前とお見受けしやす。どちらさんで?」
「中野優香よ。」
「なかのゆうか?…………………
柳生の?
木刀で人を斬ることが出来ると言われた平成の女十兵衛?
ハ、ハハハハッハ……ハ
こりゃ、とんでもない大物とのお手会わせが叶ったわけで………
示現流…永倉才蔵!いざ!」
サイゾーは大きな掛け声とともに大きく一歩を踏み出し、優香に斬り架かってきた。
「キィエーイ」
優香はサイゾーの袈裟斬りを刀で受けるわけでなく、紙一重のサイドステップで避ける。
すると、そこへすかさず地面から突風が吹き出るような逆袈裟斬りが地を這うように放たれかけたが、一瞬にしてその太刀筋は優香の40〜50センチ前方を通過した。
「あっしの袈裟斬りを避けながら、合わせて……胴を薙ぐとは……」
バックステップで後方に飛んだサイゾーの左脇腹から中心に向かい、着流しが切れ、身体に赤い線が走っていた。
「浅かったみたい……ですね。」
優香は息も切らさずにニヤリと笑い平然と言ってのけた。
「まぁ、6年ぶりだから…サイゾ−さんにご納得頂けるかどうかしら」
ぜ、全然見えねーぞ!どんな次元の闘いなんだ?P46を拾い上げマガジンチェンジをしたままで、唖然として2人を見ていた近藤であった。
同じくサンルーフから身を乗り出すくるみと車中の香も、口をあんぐりと開けたまま声も出せないでいた。
「浅かっただけですかい?もしかして、人を斬ったことがねぇんじゃ?」
サイゾーは、正眼の構えから八相の構えに切り替えていた。正眼の構えより初太刀のパワーを上げる方法であるが……最初から刀を振り上げているために達人同士の場合には、逆に胴体に大きな隙を作ることになる構えであった。
全力で初太刀を浴びせるつもりみたいだわね。
優香は冷静に状況を分析していた。
サイゾーが必殺の袈裟斬りを放とうとした瞬間に
パン!パン!パン!
鋭い銃声の音が響いた。
「ヤバいぞ!走るゾンビだ!くるみちゃん!車の中に戻るんだ!」
車の後方から凄まじい勢いで10体程のゾンビが走りよってきていた。
くるみは慌てて車中に戻り運転席に滑り込むと同時に、優香が開けっ放しにしていたドアを閉め、ドアロック下げ、とサンルーフの開閉スイッチを操作していた。
「くるみちゃん!閉めちゃったら、近藤さんと優香ちゃんが!」
「こっちの方がゾンビに近いのよ!まずは安全を確保しなくっちゃ!」
ランニングゾンビは、車中の2人には見向きもせずに、近藤達3人に迫っていった。
「クソッ!めったやたらに速いじゃねぇかよ。」
近藤はP46を乱射気味にランニングゾンビの集団に向かって発砲した。
数発の4.6mm×30弾がランニングゾンビに当たったらしく2体のランニングゾンビのスピードがガクンと落ちた。
近藤や車中のくるみや香に一瞬気が向いた優香に凄まじい殺気が向けられた。
「ヤバい!」
優香がサイゾーに向かい直した瞬間に
サイゾーは優香の脇をすり抜けながら
「一旦お預けにしやしょうや!」
脱兎のごとくランニングゾンビに走りより、先頭にゾンビを袈裟斬りをおみまいした。
先頭のランニングゾンビの上半身が斜めにずり落ちたが、そのずり落ちるた隙間から2体目のゾンビがすり抜けるように現れた。
2体目のゾンビに逆袈裟斬りを放ちかけたサイゾーであったが、先程、優香に斬りつけられた傷が初太刀の満身の力を振り絞ったせいで若干開いてしまい、思わず膝をついてしまった。
「おやっさん!すいやせん。」
サイゾーは自分の死を覚悟した。
そこへ、若干遅れた優香が走りより
2体目のゾンビの首をやすやすと跳ねた。
続いていた6体は、減速し2人を囲むように散開し始めた。
囲まれた2人を横目に近藤は、自分が撃ったスピードの鈍ったゾンビに蛮刀で対峙していた。スピードが鈍ったと言っても常人以上の速さで近藤の周りを回りながら攻撃をされていた。
「中野さん!サイゾーさん!こいつら、連携攻撃が出来るみたいです!」
何とかそれだけを伝えることが出来たが、その後は2体と対決するだけで精一杯であった。
優香とサイゾーはお互いに背を付けながら、緩やかに自身も回転しながら高速で周りを回るゾンビに対峙していた。
「姐さん、聞きやしたか?こやつら、少しばかり知能があるらしいですぜ。」
「年上のサイゾーさんに姐さんって呼ばれるのは抵抗あるんですけどぉ。今はそんな状況じゃないですから我慢します。」
「で、姐さん。あっしの知ってるゾンビとやらは、のろまで怪力なんですが……走るやつてぇのは初めてお見かけするんですが、やっぱり怪力なんですかぁねぇ?」
この状況でも相変わらず惚けたことを言い放つサイゾーであった。
「知んないわよ。あたしだって初めて見るんだから!あっちの近藤さんは昨晩見かけたって言ってたけど……誰も闘ったこてはないから、未知数ってことで納得していただけないかしら?」
「さいですか。なら…問答無用で行くしかないっちゅうわけで。」
「そりゃ、そうなんだけども……こうクルクルとまわらるてちゃね。下手に斬り込むと左右と後ろから詰め寄られちゃうしね。」
「あっしが後方を受け持ちますんで…姐さんが正面ってことでいきやせんか?」
「何であたしが一番手で斬り込まなくっちゃいけないのよ。」
「剣技の実力差ってことですかねぇ。姐さんの実力の方があっしより何枚も上手ですから……
これが、ヤクザもんなら経験値から言ってもあっしなんですがぁねぇ。
どんな反応をされるのか皆目見当がつかねぇ相手ですから…あっしより手数に優れた姐さんが…」
「わ、わかりましたよ!でも、サイゾーさんこそ大丈夫ですか?さっきの傷が開いてて動きが鈍りませんか?」
「さっきは……お恥ずかしいところをお見せしちまいやしたね。
相手の実力が掴めないもんですから
しまいやしたわ。力一杯でいきやしたが、手応えから行けば、7分の力で十分とわかりやしたんで、姐さんの足ぃ引っ張るこたぁいたしやせんぜ。」
「何か……信用していいんだか?わかんないですけど…
考えるのも面倒くさいんで、5数えたら突っ込みますからね」
「5でスタートで?それとも5で初太刀を?」
「サイゾーさんって、意外と細かいんですね。5でスタートていいですか?」
「合点!」
「では、行きますよ。」
「イィチ」
「ニイィ」
「サァン」
「シィィ」
「ゴォ!」
優香が脱兎のごとく、前方のランニングゾンビに向かって突っ込んでいった。
予想通りに左右と後方のゾンビが距離を縮めてきた。
優香は、前方のゾンビに対して上段から振りかぶって左首から右脇にかけて一気に切り裂き、そのままの太刀筋を左から右斜め上に凪ぎ左側から接近するゾンビの左脇腹右肩を切り裂いた。その太刀筋のまま身体を回転させ独楽のように回り、右から接近するゾンビの正面に対峙し八相の構えに似た状態から、ゾンビの頭を斜めに切り裂いた。
片やサイゾーは、後方正面から迫るゾンビに逆袈裟斬りを浴びせて上半身を斜めに切り裂き、返す刀で右方向から迫り来るゾンビを袈裟斬りで両断した。そして、左方向から来るゾンビに身体を向けた瞬間に
そう来やしたか…
ランニングゾンビはその身体能力をフルに利用して、2メートル程の跳躍を行い優香に狙いを定めて上空から落下し始めた。
「南無三!」
優香が3体目のゾンビを切り裂いた瞬間、サイゾーの怒鳴り声が聞こ、優香はサイゾーに突き飛ばされていた。
「きゃっ!」
突き飛ばされた優香は地面に倒れ込むか込まないかの瞬時に、踏み足を調整して何とか踏鞴を踏みながら耐え凌ぎ、突き飛ばされた方向に目を向けた。
丁度、落下してきたゾンビとサイゾーが接触する寸前であった。
ゾンビはサイゾーの下からの突きを僅かに首をそらせ、そのままサイゾーの肩に噛みついた。
「ガッッツ」
噛みつかれたサイゾーはゾンビ共々地面を転がり込んだ。
「ガハッツ!」
口から地を吹きながらもサイゾーはゾンビの肩口に突き刺さった己が日本刀を力ずくで無理やりゾンビの首まで引き、ゾンビの首の半分を切り裂いた。
一方、近藤に対峙していたゾンビは回転を中止して2体が一直線上になり突風してきていた。
近藤は正面のゾンビに蛮刀を投げつけながらP46を引き抜き構えた。
蛮刀は運用先頭のゾンビの眉間に突き刺さりゾンビはもんどりうって倒れこみ、後ろを走るゾンビが無防備になったところを近藤のP46から発射された4発の4.6mm×30弾がゾンビの頭部を捉えた。
「サイゾーさん!」
近藤は、優香の叫び声を聞き、踵を返して2人の元に走り寄った。
そこには、肩口に噛み傷を受けたサイゾーが横たわり、その横には首を半分に裂かれたゾンビがピクピクと末期の痙攣をさていた。
「サイゾーさん」
近藤が地面に跪いてサイゾーの肩口を触ろうとしたところ
「触るな!………か、感染………するかもしれやせん…」
「サイゾーさん!気をしっかり持って下さい!」
優香も無駄だとは知りながらもサイゾーを励まそうと声をかけた。
「ゾンビに噛まれた奴の末期は散々見てきましたよ…
あ、あっしはバケモンの仲間入りは御免こうむりたい…、姐さん………あっしを人のままで送っちゃいただけませんか?
こ、近藤さんとやら…ボ、ボンは執念深……い。全員、む、無線機を装備してやす。
あんさんは……第一級手配……8人衆が…狙って……むせん、持っていき………チャンネルは……12時間表示でマイナス3…1時間ごとにかわ…い、意識…ひ…ひと…お、お、おやっさ…ん」
サイゾーは意識を失ったようだった。
2人は立ち上がり…近藤がP46をサイゾーに向けた。
「近藤さん。私が…………サイゾ-さんとの約束ですから…」
優香は静かに刀を引き、サイゾーの額に突き入れた。サイゾーは人のままで最後を迎えることが出来た。
近藤と優香の目にはいっぱいの涙が溜まっていた。
「優香さん。辛いし名残惜しいが…また、ランニングゾンビが来たら厄介だ。
サイゾーさんの好意に甘えて無線機をいただいて………移動しよう。銃声でゾンビが寄ってくるかもしれない」
「はい。
何で、何で、こんな状況なのに……人同士で闘わなくっちぁならないんでしょう?」
「申し訳ないが、俺には……その答えはない。
生き延びて優香さん自身で答えを探すんだ。」
2人を紅い夕焼けが包んだ。
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