番外編 極楽温泉
この度の東北の大震災でおなくなりになれた方々にご冥福をお祈りいたします。
また、震災に会われて、不自由な避難所生活を余儀なくされている被災者の方々の一刻も早い復興をお祈りいたします。
このような震災の中、フィクションである物語といえども、人の生き死にを面白おかしく発表することには、激しい葛藤がございました。
そんな自分勝手なことをと、1週間以上悩みましたが、この数日のアクセス数やお気に入り数の伸びを鑑み、こんな状況でも、楽しみにしていただいている読者の方々がいらっしゃるということが自分を後押ししてくれました。
不謹慎かも知れませんが、執筆と更新を継続していくことにしました。
ご批判などおありでしょうが、お楽しみいただけると信じていこうと思っています。
2011年3月25日 0時40分。 てつまる
極楽温泉 旅館
腰を太い綱で結ばれた、3人の猟師と2人のクレー射撃経験者は青ざめた表情のままで。ワゴン車の天井に立ち尽くしていた。
「一体全体、何匹いるんだよ?てか、市原のじっさまよ。握り飯っとる場合じゃないだろ?」
鈴木(従業員)が言った。
「最後の飯かも知れんぞ。お前らも食っとけ。奴らは鈍いから、後10分かそこらは大丈夫じゃろう。」
「ねぇ?ねぇ?」
いきなり2階からかわいらしい女性の声が聞こえた。彼らの真上の2階のバルコニーから、近藤由紀が幼い顔を突き出していた。
「なんじゃい?お嬢ちゃん?ここは危ないから宴会場に非難して置くように聞いておらんのか?」
市原がその勢いのままに旅館関係者を大声で呼ぼうとした瞬間に、2階の少女がガンケースを引っ張り出した。
「?????」
ガンケースの意味が分からない市原に対して
「これって、誰も使わないんですか?この距離だとこっちの方がベストじゃないんですか?」
由紀がガンケースを指差していた。
「雅坊!アレには何が入ってるんじゃ?」
怒鳴られた雅坊こと中山雅紀が
「ボルトアクションの銃ッス。豊和のM1500とか言うライフルで、あれも自衛隊への納入品で・・・・・・でも、じっさまはライフル嫌いだから・・・・・・」
市原がライフル嫌いになった理由を知っている中山はそれ以上の言葉を発しなかった。
「ねぇ!ねぇ!使わないんだったら。私が使ってもいいですか?」
いきなりの提案に市原を除く全員が一斉に吹き出してしまった。
「嬢ちゃん、テレビゲームじゃないんだから。それに、その銃は7.62ミリって言う反動の強い弾を使ってるんだよ。女性のか弱い肩では受けきれないよ(衝撃が)」
もう片方の若い猟師の高山 武が笑いながら応えた。
「大丈夫ですよ!去年、ウェザビーのマグナムをハワイまで撃ちに行きましたから、1日で400は撃ちましたし、狙撃練習もしたんで・・・・てか、既にセットして予備弾倉にも装填しちゃってるんですけど?」
「な・なんで・・・嬢ちゃんみたいな若い娘さんが、ハワイにライフルを撃ちにいったんじゃ?自信はあるのかえ?」
「えっっ・・・と。親父がゾンビフリークで。いつかゾンビが現れた際に狙撃が出来るほうが助かるって・・・今はまだお母さんが反対してるけど、将来はライフルも入手するって言ってました。
信じてなんか・・・・なかったんですけど。アレだけの数だし、少しでも手助けになればと・・・・」
由紀の目をまっすぐに見つめたまま市原が
「おかしな話しだが、現実にそのおかしな事が起きとるんじゃ!好きにすればいい。どうせここの者には扱えん代物じゃて。ただし、最後に・・・・残り2弾倉になったら、宴会場に逃げるんじゃぞ?約束できるか?」
「了解!です。弾倉(1弾倉5発)は14個しかないんですけど、弾はまだ100以上あるんで、支配人さんが空になったら装填してくれるって言ってるんで・・・4つは逃げるようにしますね。じゃ!」
まるで、遊びにでも行くような感じで手を振りながら少女はバルコニーから引っ込んだ。
1分もしない間に、重厚な銃声が鳴り響いた。
「当たったよ!由紀ちゃん!」
隣で、双眼鏡を覗いていた支配人は上ずった喚起の声を上げた。
「流石!自衛隊への納入品だけあるわ。スコープの狂いもないです。」
支配人に応えながら、銃についているレバーを上に上げ、引き抜くように引っ張りながら空薬莢を排出し、逆の動作で次弾を薬室に入れながら、由紀はスコープを覗いた。
息を吸って吐いて吸って吐いて、そして次に吸ったまま呼吸を止めて慎重に人差し指に力を入れて絞るように引き金を引いた。
ダァァァーーーーーン
スコープの向こうに見えるゾンビの頭がスイカの様に赤い色をぶちまけながら吹き飛んだ。
スイカや標的じゃないってのは・・・・・嫌な感じ!でも、誰かがやんないと!全員、食べられちゃうもんね。しばらく、お肉は食べれそうにはないわ。お父さんったら、こんな時にいないんだから!
お母さんもお姉ちゃんも震えてばっかで、全然役に立たないんだかんね!
ブツブツと言いながらも、ほぼ90%以上の確立で、ゾンビに2度目の死を与える続ける、トンデモナイ女子高生であった。
銃声の都度に、ゾンビの頭が弾け飛び、数が減る様を見ながら、ワゴン車の屋根にいる5人は勇気付けられていった。
「スゲェ!」
鈴木は、ただ呆然を見ているだけであった。
「おい!全員。気を引き締めろ!もう3分か4分で、こっちの射程距離に入るぞ!鈴木!倉田!お前らは無理をせんと、自信のある距離まで引き付けるんじゃぞ!
雅坊と武は、多少の無理でもぶっ放せ!遠いのは上の嬢ちゃんに任せるんじゃ!用意じゃぞ!」
自衛隊/第3師団/第35普通科連隊/第3中隊/第2小隊
クーガー2号車の1分隊が壊滅してことは、一部の兵士に緊張と使命感を、また一部の兵士には絶望感を与えていた。その時、先頭のライトアーマー1号車より入電が入った。
「この近くのはずなんですが・・・・・あっ!銃声が聞こえています。隊長少し飛ばして先行します!」
ライトアーマーが、急加速していった。
「全車両に告ぐ!目標に接近!全員、先頭準備!戦闘準備!アンビとトラックは後方に退却!ライトアーマー2号車は、アンビとトラックの警護。
クーガー1、2、3は突っ込むぞ!車載銃器準備!」
「RA1。旅館発見!凄い数のゾンビです!車載のMINIMIで叩きます。出来るだけ早く来てください!撃て!撃て!・・・・・」
無線機からは激しい銃撃音が炸裂した。
「急げ!急げ!RAじゃ、取り囲まれると厄介だぞ!」
クーガー全車は全速力で加速した。
「なんじゃ?こりゃ?どんだけいてるねん?」
栗原(クーガー3号車運転手)は、運転窓から見える範囲全てにウジャウジャといるゾンビを見て鳥肌が立った。
「全員、クーガーの上に上がれ!何でもいいから!撃つんだ!運転手!無茶な動きは厳禁だぞ!車載手!MINIMIは前方の45度だけでいい!残りは我々でやるんだ!クーガー2!お前達はRA1の近くまで行って、RAに纏わりついているのを何とかしろ!あのままでは、いずれ引っくり返されるぞ!」
「クーガー2!了解!」
クーガー1と3は、決して止まらず、僅かずつでも動きながら、車の周りにいるゾンビに銃撃を浴びせ続けた。
クーガー2が、RA1と接触ギリギリまで近寄り、クーガーとRAでゾンビをつぶすように挟みこんだ。
取り巻くゾンビの群れが少なくなってところで、RAは少しポジションを下げて後方から援護射撃を行っていた。
旅館前ワゴン車
「よっしゃ!撃て!」
市原の掛け声とともに、雅坊と武が発砲を始めた。
「うっしゃ!流石は!軍隊用!調子いいぜ!」
中山は、ポンプを引いては撃ち、引いては撃ちを繰り返し、弾がなくなれば銃を引っくり返して弾を装填して、また撃ちだした。
しかし、どんどんとゾンビは旅館に近づき、僅か数分の間に、鈴木や倉本も銃撃に参加し始めていた。
「どれだけ!いてるんだよ!」
撃ち終えた銃に装填しようとした鈴木は、ワゴン車に体当たりしてきたゾンビのショックでワゴン車の屋根から滑り落ちてしまった。
「わぁぁぁっぁ!た、助けて!」
バタバタと騒ぐ鈴木を倉本が綱を引っ張りながら
「綱があるから落ちねぇよ!ったく!注意しろよ!」
「じいっ様!もう限界じゃねぇ?」
撃ちながら武が大声で怒鳴った!
「まだ!弾はあるじゃろ!撃つんじゃ!つべこべ言うな!」
それから、全員はただ機械のように近づくゾンビに対して撃って撃って撃ちまくっていた。あまりにも多いゾンビを撃つことに専念しすぎ、自衛隊が近づいていることすら気づいていなかった。
「じっ様!最後だ!」
雅坊が最後の100発入りの箱を持ち上げた時に、数体のゾンビの体当たりで今まで以上に車が揺れてしまい、雅坊の手から箱が落ちてしまった。
「あっ!」
既に、箱はゾンビが闊歩する地面に落ちてしまっていた。
「雅!武!箱の周りのゾンビを集中して撃て!」
命令の意味も分からずに、雅と武と市原は箱の落ちた辺りのゾンビに銃弾をばら撒いた。
箱が見える段になり、市原がいきなり腰につけている綱を鉈で切り落とし、ワゴン屋根から飛び降りた。
飛び降りるや否や、周辺のゾンビがわれ先に襲い掛かってくる。そのゾンビに果敢に鉈で挑みながら、市原は地面に落ちた箱を掴み、雅に投げつけた
「その弾が半分になったところで引くんじゃぞ!」
言った途端に、迫り来るゾンビに向かって一身腐乱に鉈で切りつけていった。その勇猛な攻撃は数分に及び、市原の周囲10メートルのゾンビは全員絶滅していた。勿論、市原自体も数々の傷を負っていた。
2階 由紀
「支配人さん!自衛隊!自衛隊が来ました!もう少しもう少し頑張れば!」
「よし!下に伝えるよ!」
支配人はバルコニーから顔を出した。
「!!!!!!!!!」
そこには、仁王立ちで鉈を振り回してゾンビと対決している、市原の姿があった。
「何がおこったんだ!」
バルコニーから怒鳴る支配人に向かって、右手に、弾の入った箱を持った雅が目を真っ赤にしながら
「俺が・・・・俺が・・・・どじっちまって・・・・」
「綱!引け!引けぇぇぇぇぇぇぇぇ」
部屋の外に待機していた男の従業員達が一斉に、自分達が任されている綱を引っ張り始めた。
雅坊、武、鈴木、倉本の身体が宙に浮き、2階のバルコニーに引っ張られていった。
「じ・じっさま~~~」
中山の声が虚しく響くなか、市原の身体は少しずつゾンビの群れに飲み込まれていった。
引っ張られている中山を除く3人は、それぞれの散弾銃に装填されている銃弾の全てを不安定な状態にも係らず、市原に向けて撃ち出していた。
「せめて、じっさまを人のままで、送ったらなあかんぞー」
武が雄たけびを上げて連続で市原に散弾を浴びせ、市原の頭が吹き飛んだ。
「じっさま~~。俺が・・・・俺が・・・・」
バルコニーに引き上げられた後も、中山は自分のミスで市原を死なせたと号泣し続けた。
自衛隊
RA1号車
「班長!右方向!ゾンビが2体走ってます!」
ターンレットから半身を乗り出して車載銃器のMINIMIを構えている兵士が、報告をしながら、走るゾンビに向かって銃口を向け射撃を開始した。
「早えぇぇぇ」
MINIMIの5.56ミリは全て、ゾンビが走り去った後に着弾していた。
「隊長!(織田。先ほどの救助の後にRA1号車よりクーガー2号に乗り換えていた。)こちら、RA1。クーガー3に向かって走るゾンビ2体高速で移動中!捉え切れません!」
「クーガー3。車上の者注意しろ!」
織田は無線に向かって叫びながら、車載カメラの向きを3号車に向けた。丁度、ゾンビが2体、クーガー3号車に飛び乗る瞬間であった。一瞬のうちにクーガー3号車の上部にいた隊員7名の内4名がゾンビに襲い掛かられた。
「誰か!クーガー3を援護しろ!」
織田が叫びながら、自らもクーガー2号車の上部に出ようとハッチに手をかけた瞬間に、ゾンビの1体の頭が吹き飛ばされた。
「誰が撃った!」
「わかりません!我々ではないです。ここからでは狙いが定まりません!」
徳川がクーガー2号車の上部からクーガー3号車に向かって狙いを定めようと必死になりながらも、携行無線に怒鳴るように返事をした。
「誰でもいい!襲われた隊員もすぐにランニングゾンビになるぞ!そちらにも注意しろ!」
旅館2階 由紀
スコープで自衛隊の隊員を覗いていた由紀の視界に、いきなりゾンビが現れて隊員を襲い始めた。思わず、引き金を引いてしまったが、運良く隊員の首の後ろの噛み付いたゾンビと隊員の頭を吹き飛ばすことに成功した。
「何?アレ?いきなり現れたじゃない。どうやって登ったの?」
ブツブツと疑問を言いながら、スコープを左右に振ったところで、もう1体のゾンビと隊員が揉み合っている姿を捉えた。
どうやら、ゾンビに噛まれてはおらず小銃を盾に何とか噛まれるのを阻止している様子だった。
「なむさん!」
ここで、由紀が撃たなければ、噛み付かれてゾンビになるのは明白である。一か八か由紀は引き金を引いた。ゾンビの顔半分が吹き飛んだが、揉み合っている隊員も銃弾の衝撃派で倒れこんでしまっていた。
由紀は素早く、戦車の様な乗り物の上部を隈なくスコープで見渡したが、他にゾンビはいてそうになかったが、上部に居てる全員がある方向に対して、小銃をフルオートで撃っている姿が見えた。
「何?何であんなに必死に撃ってるの?」
由紀がスコープをその方向に向けた一瞬、ゾンビの顔を捕捉したがアッという間にスコープから見えなくなった。
何度か、同じ状況が繰り返された後に、由紀の頭の中ではかなりの速さで動くゾンビが居てるのでは?と結論付けられていた。
「あんなの、この距離で撃てっこないじゃん!・・・・・・・スコープの倍率下げれば何とかなるかな?」
倍率を下げたことで、ゾンビの全身をスコープで捕捉することは出来たが、それでも恐ろしく早く、引き金を引こうとした瞬間には、そこにゾンビはいなかった。
「何?自衛隊が自衛隊を襲ってるの?なんで?・・・・・あっ!襲ってる方がゾンビ?血だらけだもんね!」
「!!!」
しかし、由紀は、ゾンビがある特定の方向に向かって狩りのごとく迫り・下がりしていることに気づいた。冷静に、ゾンビの動きを見定めて、由紀は3体のランニングゾンビの身体の一部に7.62ミリ弾を当てる事に成功した。
7.62ミリは、現在自衛隊員達が撃っている89式小銃の5.56ミリと違い、1発でゾンビの動きを止める威力があり、3体のゾンビは命中された肩や足や胸などに大きな傷を負い、地面に倒れるか、または大幅に動きが鈍くなっていた。
そこに、隊員達の5.56ミリ弾が雨、嵐の様に降り注いで、ランニングゾンビを葬ることに成功した。
流石は、ゾンビフリーク、近藤雄一の娘である。信じられない射撃センスは勿論だが、女子高校生をハワイに連れて行き、1日中ライフル射撃の練習をさせる親父とは・・・・・だから家族に嫌がられるのだろう。本人の悩みは自業自得であった。
自衛隊
「何だか、分からんが。ランニングゾンビは葬ることが出来たみたいだ!
全員周辺は十分に注意しろ!
これだけのゾンビの数だ!後4~5体は覚悟しないといけないぞ。トラック!後方の幌から突入されない様に、簡単なバリケード代わりに荷物を積み上げるんだ!急げよ!」
「隊長!旅館の2階バルコニー奥に、狙撃手発見しました。彼女がランニングゾンビを殺ってくれたみたいですね。」
徳川が双眼鏡でバルコニーの由紀を見つけて、手を振っていた。
「彼女だと?女性なのか?SATが来ているとの報告はないぞ?」
織田が、納得のいかない声で徳川に返答してきた。
「隊長、ここのゾンビを何とかしてからのお楽しみですが・・・・・かなり若い女性ですな。中学生か?高校生くらいでしょうか?」
「中学生?」
素っ頓狂な織田の声が、オールチャンネルで全隊員の耳に届いていた。
「よくわからんことばかりだが・・・・・・とにかく!ゾンビ殲滅だ!」
その後、20分近くに渡り、MINIMIを中心に銃撃を続けた自衛隊は、旅館周辺にいる50体程のゾンビ以外を全て葬ることに成功した。
「隊長!旅館前の奴等は、ここからじゃ、流れ弾が旅館に届いてしまいます。かといって既に我々の車両のタイヤも血糊でズルズルですから、上手く横方向への展開が出来るか?怪しいです。」
徳川の報告を聞いた織田はしばし考え、無線でトラックを呼び出した。
「山本曹長!トラックのタイヤはどんな感じだ?滑りそうか?」
「山本です。先行するクーガーの後を付いて行ってるんで、まだまだ大丈夫です。何かお手伝いですか?」
「そちらには、ショットガンは搭載してるか?」
「M870とベネリが3丁ずつあります。」
「よし、申し訳ないが、先行して、ゾンビのギリギリのところで反転して、ショットガンでゾンビの下半身を吹き飛ばしてくれるか?出来るだけ旅館には当てたくないんだ。正面玄関のワゴン車が爆発されても厄介だからな。」
「了解!お任せ下さい。」
衛生班の乗る73式トラック2台が慎重に前進して、ゾンビに向かってショットガンの散弾を嵐のように降り注いだ。
10分あまりで、旅館の前にいた50体余りのゾンビを駆逐した後に、クーガー1号車から降り立った隊員達が、確実に1体1体にとどめを刺して行った。
その後に自衛隊車両は、ワゴン車に並ぶように駐車し、バルコニーを経由して銃弾や医薬品、食料を旅館に運びこみ、バルコニーにショットガンや狙撃銃を持つ3名の警戒班を残し全員が旅館内に立て篭もる準備を始めた。
「第3師団/第35普通科連隊/第3中隊/第2小隊 織田3尉です。」
支配人と握手しながら織田が自己紹介を行った。
「救助に来ましたと言えば格好もつくのでしょうが・・・・・現状から言えば、他に救助に赴いた各隊との連絡も途絶えていまして・・・・・。当面の指示としては24時間待機状態です。我々も旅館に篭城させていただきます。」
徳川が支配人と篭城場所などの相談を始めたところで、織田は、M1500を抱えている由紀の元に歩み寄り、正式な敬礼を行った。
「第3師団/第35普通科連隊/第3中隊/第2小隊 織田3尉です。
先ほどはランニングゾンビに対しての狙撃援助ありがとうございました。おかげで被害を最小限に抑えることが出来ました。」
「い、いえ。あの・・・・こちらこそ、助けに来ていただいてありがとうございます。私は、近藤由紀。高校1年生です。
えぇぇっと、これは、雅さんという猟師さんが、地元の銃砲店から自衛隊への納入物ですが、緊急という事で借りてきたそうです。無断で使って申し訳ありません。」
オズオズとM1500ライフルを差し出す由紀に対して、織田は、ライフルを受け取ろうとはぜずに
「この非常時です。使える方に持っていただいてる方が我々も心強いですよ。しかし、何故、ライフル狙撃を?」
織田が不思議そうに訊ねているところに、由紀の母親が現れた。
「ゆきちゃん!何やってんのよ!何それ?・・・・・・あっ!鉄砲ね!」
この時点で由美子は自衛官に気づいた様子で、いきなり、まくし立て始めた。
「無許可で鉄砲を撃ったかも知れませんが、緊急時だからお咎めはないですわよね?
人助けですし、そもそもこの子は未成年ですものね!
そもそも、うちの主人がですね。
この主人なんですけど、本当はいやしないのに、アンデット?やらゾンビ?やらが大好きなんですのよ。
今日の旅行も置いてきたんで、このゾンビもきっと主人の呪いですわ。
それで、海外旅行の都度に鉄砲を撃ちに行くんです。困ったものですわ。
それを、この娘たら2年前から鉄砲撃ちに付き合い始めちゃって、困ってるんですの。危ないでしょ?
あら、兵隊さんに鉄砲が危ないなんて・・・・釈迦に説法ですわね!ごめんなさいね。」
止まりそうにない勢いとゾンビマニアの父親が高校生にライフル射撃を教えていたという突拍子もない話に戸惑った織田は
「いえいえ、我々もお嬢さんに助けていただいた部分もありまして・・・・・・その、よろしければ、当面はそのままお使いいただいてもと・・・・・・」
「まぁ、素人の未成年が・・・・女の子が鉄砲を持ってウロウロしなさいっておっしゃるの?」
織田に、詰め寄る由美子を邪魔者を弾き飛ばすように由紀が割って入り
「了解です。このまま私が保管しておきます。でも、7.62ミリも残弾が20発もないんです。予備弾薬から分けてもらえますか?
それに、これだと長距離がメインになるんで、出来ればハンドガンもお借りできると助かるんですが?」
「ハンドガンも使いこなせるんですか?」
織田は由紀の提案に驚きながらも質問した。
「お父さんの話しだと、ハンドガンの方が筋がいいらしいです。ただし9ミリまでにしとけって言われてます。」
「分かりました。7.62ミリは狙撃班の予備から都合をつけさせましょう。ハンドガンについては、貴方の知識を確認させていただいてからにします。紹介する木村士長がOKすれば彼女から手配させます。 木村3曹!!こっちへ」
木村が人ごみを縫って近づいてきた。
「3曹。この娘さんが先ほどのランニングゾンビを狙撃してくれた方だ。まだ高校生だそうだが、M1500はそのまま使ってもらうことにした、狙撃班から7.62ミリを100か200ほど都合してくれ。
それと、本人は近接用にハンドガンを希望している。簡単な基礎知識を確認して、実際に操作してもらい、問題がないか確認してくれ。渡せるかの最終判断は君に一任する。以上。」
「了解!」
織田と木村は軽い敬礼をし、織田はそのまま篭城場所の確認に向かった。
「何?言ってんのよ。私が武装しているほうがお母さんやお姉ちゃんを守りやすいでしょ?生き残る確立の問題よ。」
木村が由紀の方に振り返った時には、母親対娘の対決が始まっていたが、自分や姉を守るという娘の意見を覆す方法が見つからず、由美子は渋々ながら了承した様子だった。
「宜しくね。私は木村3曹よ。では、こっちへ」
木村は由紀の手を引いて隣の部屋に向かった。
「さっきの狙撃は助かったわ。あのゾンビは普通のノロマのゾンビと違って、信じられないスピードと身体能力があるの・・・・・。貴方が狙撃してくれなかったら、後4~5人は自衛隊から犠牲者が出ていたと思うわ。
でも、何処で習ったの?高校にライフル部なんてあるのかしら?」
由紀は、またかよ!といった感じで父親のゾンビフリークの説明を始めた。
「ふーん。結構ナイスな父ちゃんじゃないの。お陰で、普通の女子高生の100万倍は生き残れるじゃない?いやいや、もしかしたら、普通の自衛官より生き残れる確立が高いかもね。」
木村は、由紀にSIG P226と実弾の入ったマガジンを手渡した。
「さぁ、まずは撃てる状況にしてもらえるかな?」
由紀は、マガジンを銃把に装填し、P226の上部のスライドを引き、初弾を薬室に滑りこませ、安全装置をセットした。
「上出来!その銃の装弾数は分かる?」
「これって、自衛隊の官給品の220とは違いますよね?226ですか?なら15発だと思うんですが?」
「OK!それも正解。出発前の装備倉庫にテスト品として1箱(50丁)ほどあったらしいの、この小隊の曹長が目ざとく見つけて来てね。全員P226を装備してるのよ。15発は魅力でしょ?」
片目でウインクをしながら、木村はハンドガン用のホルスターと予備マガジンポウチのついたベルトを由紀に渡した。
「予備は6本。でも、勝手に発砲はしないようにね!原則は、交戦指示があってから撃つこと。いいわね?」
「了解です。 けど、こんなに簡単に渡してもかまわないんですか?」
「何、言ってんのよ。M1500をあれだけ上手に扱えるんだから、最初からOKのつもりで3尉は言ってたのよ!」
「7.62ミリは後で届けるわね?ベルト用のポウチ4つ程度とバックパックで全部入るかしら?」
「ありがとうございます。十分です。」
由紀はペコリとお辞儀をして、母親や姉が待つロビーに駆けて行った。その後ろ姿を眺めながら
「高校卒業したら、SATとかに取られる前にスカウトしなくちゃいけないわね。この騒動が片付けば、だけど・・・・・・・・」
「木村3曹!」
携行無線から、織田の声が流れてきた。
「木村です。P226とスペアマガジンを渡しておきました。」
「ご苦労。2階のバルコニーに陣取って、街の方からチョロチョロをやってくるお客さんをうちのメンバーと共同で、叩いておいてくれないかな?山本曹長の話しだと、狙撃もなかなかのものだと聞いたが?」
「了解しました。病人や怪我人が殆どいらっしゃらないんで、本来業務では役に立たないですから、ゾンビ駆除くらいには役立ちたいですわ」
89式小銃のマガジンの中身を確認しながらバルコニーに近づいた途端に、バルコニーで警戒態勢を敷いていた3名の隊員が騒ぎ出した。
「出たっ!出たぞーぉ!ランニングゾンビが5体も現れやがったぞ!右だ!右だ!右、右!」
木村はバルコニーに飛びつく様に近づき、警備が指差している方向を確認した。確かにランニングゾンビが走っていた。
「織田3尉!織田3尉。こちら木村。」
「何だ!上が騒がしい様子だが、何があったんだ。」
「ランニングゾンビが5体。約200メートル先に現れました。1階の窓で強化していないところと正面玄関にショットガン手を数名ずつ配置してください。」
「分かった!1階は手配する。由紀君を捕まえて上に上がってもらうように手配するから、しばらくの間持ちこたえてくれ。」
「織田さん・・・・・・待って下さい。彼女は駄目です。
今回ばかりは彼女じゃ荷が重そうです。小隊の狙撃手と1級射手を集めてください。それと山本曹長を捕まえて、郷田と池内にフル装備で越させるように指示してください。」
「彼女じゃ駄目な理由は何だ!情けない話しだが、今の段階では彼女が一番だぞ!」
「分かりました。指示だけお出しになられたら、あがって来てください。ご自分の目でご確認いただければひとめで分かります。」
30秒もしないうちに織田が階段を駆け上がって来た。
「どういうことなんだ!」
怒鳴る織田に対して、木村はランニングゾンビの走っている方向を指さした。
「な?・・・・・・・・・・・・・・ 間違いなくランニングゾンビなんだよな?」
唖然とした表情で織田はランニングゾンビから目が離せないでいた。
「全員、口の周りと、身体の正面が真っ赤な鮮血で染まってますから・・・・間違いはないと思いますが・・・・・・」
織田の目にしたランニングゾンビは、どう見ても、小学生の高学年。5~6年生程度の男女の児童ゾンビであった。
「あれは・・・・・人間の手だよな?」
目を凝らして織田が確認しようとした。
「ええ。さっきからあの手。正確には生前はかなりの凶暴な男性と思われる右手の取り合いでしょうか?私には遊んでいるように見えます。」
織田に、観測手用の双眼鏡を手渡しながら、木村は自分の目でみた事実を説明した
「なるほどな・・・・・あれだけの刺青なら、さぞかし名の通った親分さんなんだろうな」
双眼鏡で右手を確認した織田は、まだ信じられないという顔で木村や他の部下の顔を交互に見つめた。
「あれ・・・・撃てるか?吉岡?」
「小隊長。あんなに無邪気?に遊んでるんですぜ。撃てっこないっすよ。しかも、相手は子供ですぜ。」
「でも、ランニングゾンビだぞ!」
「でも、子供っす!」
織田以下3名で、どうするかと言い合いあいをしている時に、M1500を担いだ由紀がバルコニー現れた。
「どうしたんですか?下で聞いたら激ヤバの走るゾンビが5体現れたって・・・・・」
黙って指差す、織田と木村の指先の方向を見た由紀は
「餓鬼?のゾンビですか!」
「ガ・ガキ?あれは子供って言うんだろうが!」
吉岡がワナワナと両手を震わしながら、由紀に詰め寄ってきた。
由紀は無言で、バックパックから1台のスマートフォンを取り出して、織田に差し出した。
そのスマートフォンには『ゾンビに遭遇した際の用意』と書かれたページが映し出されていた。
「4章<火器編>第1項 3条。
知り合いだろうが、自分の親だろうが子供だろうが、ゾンビになっちまえば、俺たちは餌だ。昼間ならビックマ○ク、朝ならソーセージエッグマフィ○見たいなもんさ。夜に出会ったら、食べ放題の焼肉だな!
躊躇するな!哀れみを持つな!生き延びたいのなら、守るべき仲間がいるのならば、迷わず撃て!圧倒的な戦力があれば、粉砕しておけ。
って、その作者が書いてます。ちなみにその作者は中学3年生にライフル射撃を仕込むゾンビフリーク。つまり、私のお父さんです。
今までのところは、その付録が役に立ってるんで、私は従います。」
説明しているうちに、由紀のM1500は射撃姿勢が整い、既にスコープを覗きランニングゾンビに照準を合わせていた。
「木村さん!こいつら、さっきの走るゾンビより強力かもしれませんよ!目つきが違います。顔は無邪気に笑ってるように見えますが、眼は獲物を狙う獰猛な眼です。
もしかしたら、襲うのに知恵みたいな物があるのかもしれません。こちらを油断させてるんじゃないでしょうか?」
あわてて木村も89小銃のスコープを覗きこみ、ランニングゾンビに焦点を合わせた瞬間に由紀の言葉を信用していた。
「3尉!由紀ちゃんの言うとおりです。ヤバそうです!マジに殺らないとこっちが全滅するかもしれません」
その時、由紀、木村が焦点を合わせていた、幼いランニングゾンビが見られているのが分かっているかのように、スコープに向かって、ゆっくりとニヤリと顔を歪めて笑った。
「クッ!」
由紀と木村は同時に引き金を引いたが、既にゾンビの姿はなく、一房の髪の毛が舞っているだけであった。
「早い!どこ?」
由紀は素早くスコープの倍率を下げて視野を広く取るようにした。
「いた!」
と、気づいた瞬間に人差し指は引き金を引いていた。
スコープの向こうでは、幼い男子のランニングゾンビが頭から血や脳漿をぶちまけながら、身体をクルクルッと回転させ地面に叩きつけられていた。
その銃声を合図としたかのように、瞬時に他の4名のランニングチャイルドゾンビはバラバラに散り、方々から高速で旅館に向かって走り出していた。
「来ました!警戒態勢!」
木村が叫びながら、バースト射撃を開始し始めた。
「クッ!早すぎて、当たらない!」
銃口を右に左に小刻みに動かしながら、バースト射撃で3発ずつの5.56ミリ弾を発射しているが、ランニングチャイルドゾンビは、まるで弾丸が見えているかのように瞬時のところで方向転換をして弾丸を避けていた。
バルコニーで警戒していた隊員達に、必死な二人に巻き込まれるように、ランニングゾンビに発砲を開始し始めていた。
「総員!戦闘配置!戦闘配置!徳川は自分の班を連れて、宴会場に宿泊客と従業員を誘導!立て篭もれ!入り口を地元の猟師たちと固めるんだ!
1階の窓および正面玄関警護!突き破ってくる動く物があれば容赦なく発砲するんだ。
山本3曹!2階からの階段下で防御陣形を!」
「了解!」
「了解!」
そこに、郷田と池内の2名の木村の同僚が慌しく到着した。
「どうしたんだ?」
と叫ぶ郷田に対して
「走る奴です!簡単には当たりません!」
マガジンを交換しながら木村が怒鳴り返した。
「3尉、ここは、我々で面倒見ます。1階をお願いします!」
池内の提案に対して
「よし!任せた。吉岡は残れ!他の2名はついて来い!部屋の外に出るんだ!階段前で警戒態勢を取るぞ!任せたぞ!」
織田は2名を引き連れて部屋から出て行った。
「由紀ちゃんも下がって!この距離じゃ、ライフルは意味がないわ!早く!」
単発でしか射撃が出来ないライフルでは、近づいてくるランニングゾンビを迎えうつことが出来ない。
「お願いしま~~す!」
由紀は、山本の指示通りにM1500を担ぐようにして部屋から駆け出していった。
激しい銃声を響かせながら、郷田は他の隊員が置いていったMINIMI軽機関銃をランニングゾンビに向かって撃ちこんでいた。
「当てなくてもかまわん!スピードを殺せ!」
カチッと音が鳴り、MINIMIのベルト弾帯で供給されていた5.56ミリ弾がなくなった。
「池内!」
郷田は、新たな弾帯をMINIMIに装填させるために池内にMINIMIを手渡し、池内は給弾の作業を始めた。
郷田は自分の89式小銃を構えて、ランニングゾンビに向かって発砲を続けた。
「全然!あたらねぇ。あたらねぇぞ!どんどん近づいてきやがる!」
吉岡が、銃口を右に左に振り回しながら怒鳴り散らしていた。もともと、相手が子供の姿をしているうえに、吉岡自体の射撃能力が低いことも相まって、彼が受け持つ範囲を走り回っているランニングゾンビが一番早く旅館前に達していた。
「どこに行った?」
怒鳴る吉岡に反応して、池内が給弾の済んだMINIMIを床に置き、自分のベネリショットガンを構えていた。
吉岡が見失ったゾンビは、急加速し、一直線にワゴン車に向かって走り、ワゴン車を踏み台にして一気にバルコニーに飛び込んできた。両手を目一杯に広げ指は僅かに鈎状にし、触れた物を引っかくような体勢であった。
その左手鈎は吉岡の左顔半分をごっそりと抉り取り、右手鈎は郷田の顔を狙ったが、郷田は咄嗟に89式小銃のストック(肩当)でかわしたが、飛び込まれた勢いのエネルギーを正面で受け止めることになり、派手にバルコニーの隅に転がってしまった。
飛び込んだ丁度真正面に位置していた池内は冷静に、飛び込んできたゾンビの顔面付近に対してショットガンを発射し、その凶暴な爆発力は一瞬にして子供ゾンビの顔を吹き飛ばしていた。
銃身の下にある、スライドを引きながら、空になったシェルを排出し次弾を装填した池内は、そのまま吉岡の頭も打ち抜いていた。
「来ます!」
木村の警告と同時に2体のランニングゾンビがバルコニーに飛び込んできた。
木村の真横に降り立ったゾンビに対して、89式小銃では間に合わないと咄嗟に小銃をゾンビに投げつけて、P226を引き抜きながら、我武者羅に引き金を引き続けた。P226から発射された9ミリパラベラム弾は、至近距離でゾンビの腰から大腿部に15発近くがめり込み、ゾンビの下半身をボロボロにしていった。
スライドが後退した時点で、弾切れに気づいた木村は、バックステップを踏みながら、腰のポウチからスペアマガジンを抜き出してP226にマガジンを叩き込むように装填し、スライドストッパーをリリースして、初弾を薬室に装填し、下半身がボロボロになりながらも動こうとしているゾンビの頭部に対して、4発の銃弾を叩き込んでいた。
飛び込んできたもう1体は、池内の真正面に飛び込んだ形となり、池内の放った散弾で身体を真っ二つに寸断されていた。しかし、ちぎれた上半身は池内に乗りかかる状態になり、池内はガチガチを葉を鳴らしながら、噛み付こうとしているゾンビを必死にショットガンを盾に防いでいる状態であった。
「クッ!なんて、力だよ!くそったれメ!」
バルコニーの隅で転がっていた郷田が、何とか意識を取り戻し、頭を振りながら起き上がり、上半身だけのゾンビに組み付かれている池内を見つけ
「うぉぉぉぉぉぉぉっ」
叫びながら、ゾンビの胸元を渾身の力で蹴り上げた。身長190、体重110キロの郷田の蹴りに、流石のゾンビも耐え切れず、池内のショットガンを掴んだままの状態で、1メートほど吹き飛んだ。
足元まで吹き飛んできたゾンビに対して、木村はP226を構えて3発の銃弾をその頭に撃ち込んだ。
「あと1匹いてるはずです!」
木村が、落ちていた吉岡の89式小銃を拾い上げて、射撃姿勢のまま周囲に銃口を向けて、最後のゾンビを索敵し始めた。
「いない?何処?何処にいったの?」
必死に銃口を左右に振るが、銃口の向こうにランニングゾンビは発見できなかった。郷田と池内も発見することが出来ない様子であった。
「郷田です!ランニングゾンビ4体は殺害確認できましたが、1体ロスト(見失う)しました。各個、厳重注意して下さい。ワゴン車を踏み台にして、やすやすを2階のバルコニーに飛び乗ってくる身体能力です。我々はこのまま警戒にあたります。館内の2階以上で動く者には容赦なく発砲してください。」
「了解した。旅館の周辺監視カメラに何か映っていないか、支配人に確認してもらうので、しばらくバルコニーを任すぞ。今のところ外部からの進入路はそこだけのはずだからな。
各個!よく聞いてくれ。ランニングゾンビの1体をロストしている。現状では2階からしか進入は出来ないはずだ。バルコニーの3名と2階からの昇降階段で警戒班を残して全員宴会場に入るんだ。警戒班、他の者が宴会場に撤収したら、動く者は何でもかまわんから撃て。躊躇するなよ!」
その後、監視カメラの映像から、ランニングゾンビの最後の1体は、誰かが乱射した数発の弾丸が足(大腿部)にあたった様子で、足を引きずりながら旅館から去っていった様子が映し出されていた。
「当面の脅威は去ったみたいだな。さて、2階のバルコニーをどうするかだな?位置的には迎え撃つのには最適だが・・・・・ランニングゾンビには格好の進入口になってしまうな。」
織田と徳川が篭城するにあたっての2階バルコニーの処遇を健闘していた。
「バルコニーから入った部屋に、FFV013(指向性対人地雷)<一般的にはクレイモアというタイプが有名だが、自衛隊はスウェーデン製の類似品を使用している>を設置しましょう!」
「FFV013はリモコン操作だろ?どうやって監視するんだ?」
織田は、徳川の提案を評価はしたがリモコン操作の場合、進入を感知すること、今回の場合は監視する方法がないことを懸念していた。
「小隊長、蛇の道は何とやらです。坂下が元工兵所属でして、以前に簡単にワイヤートラップ型に改造できると言ってましたので、緊急時でし、相手はゾンビですから、対人地雷禁止条約はこの際無視しても問題はないでしょ!2~3台設置すれば破られることはないでしょう。念のために通路側のドア前に簡単にバリケードも設置しましょう。」
「・・・・・・・・・それしか、ないみたいだな。よし許可する。改造には十分に注意させてください。それと、指向先は必ず、室内から室外の方向で設定してください。」
「了解!ただちにかからせます。小隊長は少し休んでください。警戒警備のパトロール順は山本曹長と相談しておきますから・・・・・・」
「ありがとう。お言葉に甘えるよ」
重い腰を上げて、織田は宴会場の方向へと身体を引きずるように歩き始めた。
こうして、極楽温泉旅館には、織田以下第2小隊の生き残りと宿泊客、猟師、旅館従業員が篭城することになった。
次回からは、本編に戻ります。
物語の流れ上、ランニングチャイルドゾンビを登場させましたが、不愉快に感じられた方がおられましたら、この場をおかりして、陳謝いたします。
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