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番外編 極楽温泉 救出部隊ー1

ご愛読いただいている皆様。

地獄のような仕事のスケジュールの合間をぬって、何とか番外編その2を書き上げることができました。お待たせした分13000文字の読み応えのある量にしています(あえて内容とは書けませんです。あくまでも『量』です)

今回の話しは救出に向かう自衛隊の話しです。


次話では、自衛隊が旅館に到着する?はずです。


乞う ご期待下さい。


S県 自衛隊駐屯地


「今日の午前で訓練も終了しましたし、小隊長!やっと産まれたばかりのお子さんの顔を見に行けますね。もう1日遅かったら立会えましたな!」


携帯電話を見ながらニヤニヤしていた織田3尉に向かって、火の点いていない煙草を口の端に加えたままの徳川曹長が話しかけた。


2週間に渡る訓練を終えたばかりの第3師団/第35普通科連隊/第3中隊/第2小隊のメンバーは思い思いの格好で食堂内で休息をとっていた。


「待ち遠しいですよ。曹長の所のお子さんはたしか・・・・」


「もう13ですよ。最近嫁さんと同じ口調で文句ばっかりで・・・・・・かわいいのは小学校に上がるまでですわ、女の子は」


思い出したように煙草に火を点けた後に徳川曹長は豪快に笑いながら、右手を差し出した。差し出された右手に自分の見ていた携帯電話を渡しながら


「うちは、男の子なんですが、ちょっと小さいみたいです。なんか・・・携帯の画面だけだとサルみたいで、なかなか実感が湧かないですね。」


「いやいや、結構しっかりした男前じゃないですか!小さかったら、バンバン飯食わせてデッカクすりゃいいんですよ。3尉の息子さんなんだからきっとデカクなりますよ。」


大きな声の徳川に釣られて、他の部下達も周りに集まりだして織田の携帯は次々と部下の手から手へと渡っていった。


ウゥゥーッ・ウゥゥーッ


いきなり基地内の緊急警報が鳴り響いた。


「緊急事態発令。緊急事態発令。訓練にあらず。各隊長は作戦会議室に集合。各個は原隊にて集合待機。只今より、基地は封鎖する。


繰り返す、これは訓練にあらず。緊急事態発令。緊急事態発令。各隊長は作戦会議室に集合。各個は原隊にて集合待機。只今より、基地は封鎖する。」


「曹長!全員を集めて待機しておいて下さい!」


織田は曹長の返事を待つことも無く指示を出したと同時に、椅子を蹴り出すように食堂を飛び出していた。


「何がおこったんだ?これも単なる訓練の一環だといいんだが、嫌な予感がするな。」


モヤモヤした気持ちのまま到着した作戦会議室には、基地内の数少ない隊長達が集結していたが、誰も非常招集が何故発令されたこの情報は持ち合わせていなかった。


ガヤガヤとしているところに、駐屯地指令官である胡桃沢2くるみざわが数名の部下を引き連れて現れた。


「敬礼!」


「挨拶はかまわん!全員適当に座ってくれ。」


「準備完了しました。」


会議室の正面に座している大型スクリーンにどこかの都市が映し出されていた。


「梅田(大阪)か?」


高校時代に過ごした大阪の梅田の場末に記憶していたのと同じ建物が次々に映し出されるのを見て、織田は問題が大阪で発生していることを悟った。


「何だ?あれは?」


織田の前方にいた、第9師団の普通科の小隊長が画面を指差していた。


そこには、全身血まみれの人間が5名ほど写っており、その前方に腰を抜かしたのか?1人の男が地面にへたり込みながらも叫びながら後ずさりをしていた。


画面がズームアップされたと同じタイミングで血まみれの数人が飛び掛るように男に群がった。大きな悲鳴とともに、飛び掛った数人は男の身体に噛り付いているように見えた。


画面は変わり、今度は東京の渋谷駅前の広場が映し出された、そこには、大量の血まみれの人間が他の人間に噛み付き、その肉を引きちぎり咀嚼している姿があった。


「・・・・・・・・」


誰もが声を出せないでいた。


「諸君!画面の通りのことが1時間前に日本各地いや世界各地で一斉に発生した。アメリカやイギリスの諜報機関からは、緊張情勢にあったリビアが北朝鮮を巻き込んで、全世界で一斉に革命決起と称してバイオテロを実施したとの情報である。

使用されたウイルスは、旧ドイツ軍が終戦間際に開発した最終兵器だそうだ。元々は、アメリカと当時のソ連が冷戦状況にも係らず極秘に回収し、ワクチンの共同開発を目指していたウイルスとのことである。


現時点では、罹患した場合の発症率は100%であり、ワクチンも完成しておらず救う方法は無い。次の映像を見てもらおう。」


画面には、両手、両足を鎖で縛られた人物が立っていた。肌の色は青白く、口からは常に涎を出し、開かれた眼は両眼とも真っ白に白濁していた。


「これが、発症した人間の末路だ・・・・・・・

この時点で知能と呼べる物は殆ど無く、あるのは食欲だけであり、映画のゾンビのように生きた人間を襲い、食すことにのみに興味を持っている。

また、動きは極めて鈍く、歩く速度も非常に遅いが、常人の数倍の力を持ち、音と臭いに反応するのが特徴である。

但し、マウスの実験では、発症個体の1~2%が通常以上の運動能力を有することが確認されているので、全ての個体の動きが鈍いとは断言が出来ないそうだ。

この情報は、15分後には警察庁を経由して全警察署にも公開される。国民への発表も近々に行われる予定ではあるが、永田町の面々はゾンビと言う事実をなかなか認めることが出来ないようだ。よって自衛隊と警察は協力して独自判断で行動を起こすことを決定した。」


「武装排除ということですか?」


織田が代表して質問をした。


「残念だが・・・・・・・その選択肢しかないというのが自衛隊と警察庁の判断だ。白濁した眼を持つ人間に対しては無差別の発砲を許可する。勿論、こいつらに噛まれた人物に対してもだ。」


「噛まれた人物に対してもですか?」


悲鳴に近い声で他の隊長が質問をした。


「そうだ。噛まれた場合・・・・・・即死なら2分以内にゾンビ化する、躊躇している間は無いんだ。また致命傷ではなくとも最大2日で死亡しゾンビ化する。現在で技術では助けることが出来ない。頭を破壊するか、頚椎を破壊すれば『死ぬ』とのことだ。」


一同は声を出すことが出来ずに作戦会議室は沈黙に包まれていた。その沈黙を破るように胡桃沢1佐が全員を見つめながら命令を発した。


「全部隊。実弾を装備し、ゾンビを駆逐しながら生存者の救出活動に入る。各隊の救出活動エリアは、熊田3尉から指示を受けてくれ。


2時間以内に支援としてヘリコプター部隊から人員輸送用に3機。攻撃用に1機のヘリコプターが到着する。


基地については、正面玄関を機甲化部隊で固め、避難民の引き受けを行う。

以上。質問が無ければ、解散し各部隊で装備を確認のうえ救出活動を開始してくれ。」


各隊長は口々に呪詛の言葉を吐きながら、熊田3尉の元に作戦指令書を取りに行き、各自の部下の元に向かった。


織田に至っては、この訓練直前に中堅層の隊員を異動で失い、隊の2/3が新兵や2~3年生。3名の班長も徳川を除けば、始めての班長経験者といった状況であったのであまりの間の悪さに天を仰ぐ気持ちだった。


中庭に集合していた小隊に戻り、織田は指令書を徳川に手渡した。指令書を見た徳川は、信じられないと言う顔をしながら、小隊内の各班長を集め作戦に必要な装備の手配を命じた。


「小隊長!これが事実としたら一体全体・・・・・・どうやって隊員に説明すりゃいいんですか?」


織田は、徳川の言葉に対して両手を広げて降参のポーズをとりながらも、目と言葉は真剣そのもので


「俺達が派遣されるエリアは温泉街だそです、老人などが多いと予測されるので、第9師団から衛生兵2班10名が追加されることになりました。その衛生班にノートパソコンが預けられているはずです。衛生班が到着次第、そのパソコンに先ほどの作戦会議室で俺達が見せられた映像や、現在判明している敵への情報があるので小隊内でブリーフィングを行いましょう。信じようが信じまいが…受け入れなきゃならない事実ってやつですね。

不謹慎だが…今の内に家族に連絡して避難させた方いいかもしれない。俺んとこも曹長んとこも…」


2人はいそいそと家族に連絡をし始めた。


30分後に用意が完了しブリーフィングが終了し、隊員達が驚愕の声を上げるなか


「信じられない話しではあるが、現実に・・・・既に一般人が襲われているのが実情なんだ。国内では唯一、我々が、この脅威に対抗するだけの火力を所持している。勿論。警察とも連携をとっている。


我々は、幸いにも他の基地に比べて、今回から実施された実弾訓練の強化のおかげで、通常の5倍から10倍近い弾薬を携行できる。その上、昨日までの訓練で自衛官になって以来通常では3年分に充たる訓練で消費する実弾量を僅か2週間で消費するほどの激しい訓練を行ったばかりである。


『人』の形をしたバケモノを撃つと言うことは人語に絶するが・・・・・生きている人を救う為である。全員心してかかってくれ!各個、10分後に乗車。

それまでに家族に避難など勧める…電話を許可する。」


織田3尉は、断固たる声を飛ばし、隊員達を鼓舞しながら命令を下した。15分後、率いる第3師団/第35普通科連隊/第3中隊/第2小隊のメンバー30名と第9師団からの応援の衛生兵10名は乗車を開始した。


全員の乗車が完了し、織田3尉が乗車するライトアーマー<(軽装甲機動車)定員4名> 2台を先頭と最後尾に配し、73式中型トラック3台<(定員16名)避難民収容用>アンビ(自衛隊所有の救急車)1台、クーガー<(96式装輪装甲車)定員10名>3台は一路S県の極楽温泉へと隊列を進めた。


「徳川曹長。移動中のこの間に、警戒員を残した全員に、ありったけ空マガジンに予備弾薬を装填させておいてくれませんか?

出来上がった予備弾薬は可能な限り、まぁ、行動に支障が出るギリギリのところまででバックパックなどで携行させて下さい。」


「了解!

しかし、既に指令書を無視して、全員に通常装備の2倍量を携行させてますんで……あともう1セット程度かと…」


「それで結構です。衛生班員の武装状況と実力の程ははどんなもんだんでしょうか?」


「いやぁ~。第9師団と言うのか、彼ら(衛生班)がそうなのかはわかりませんが…

うちで言うレベルでは、平均で『C』以上の技量はあります。少なくとも、昨日までの訓練結果から見たギリギリで『Cマイナス』の新人達よりは役に立つんじゃないでしょうか。異動した連中にはおよびませんがね…今の状況では、贅沢は言えませんわ。」


「そうですか。少なくとも衛生班の警護は必要なさそうですね・・・・・」


しばらくして


「小隊長!第3小隊の高山3尉から入電です。」


ライトアーマーに装備されている遠距離通信機から、雑音に混じった悲鳴を銃撃の音が聞こえた。


「こちら、織田!・・・・・・高山!高山!そちらの様子はどうだ?」


「高山だ!G市の中心街で行動中だが・・・・注意しろ!とてつもなくヤバイぞ。どこから現れるんだというくらいの数だ!

観測ヘリからの情報では、市街地を中心とした半径2キロで、上空からの確認された密集度から言えばゾンビの数は最低でも1~2万と報告されている。

各車両に積んでいる車載のMINIMI(5.56ミリを利用する軽機関銃)用の銃弾がすごい勢いで消費されているんだ。既に各車両2000は撃ってる!

でも、全然は減らないんだ。とてもじゃないが、救出活動どころか・・・・・誰も車両から降りることさえままならない!今、援軍を要請したところだ・・・・

それにこいつらの力は半端じゃねぇぞ!パンクして立ち往生したアンビ(救急車タイプの1BOXミニバン)が、20体ほどのゾンビに横転させられちまったんだ!・・・・・・」


「こちら、第9師団/第5普通科連隊/第4中隊/第2小隊、高橋!

第10師団/第10後方支援連隊の衛生隊および偵察支援小隊と合流してA県N市西部に到着したが、どこもかしもバケモノであふれている。車載銃器でバケモノを排除し、第1目標の西区のN小学校の避難場所に向かう。既に、途中での一般人の救出で5名の隊員が死亡。

各個、車外での戦闘ではバケモノとは距離をとることを進言しておく。バケモノ共の歩くスピードは遅いが、殺っても殺ってもあふれるように湧いてくる!・・・・・・・」


作戦行動開始から時間が経過するたびに、各地の壮絶な状況が報告されており、避難場所に到着後に車外に作戦展開を実施した部隊の大半との連絡が途絶えてしまっていた。


小隊の隊列は、避難民の移動で発生す可能性がある渋滞を避けて現地に到着する方法を選択し、県境の山越えのルートを選択したせいか、1体のゾンビとも遭遇せずにS県の極楽温泉前駅のあるメインストリートまで後数分という地点に差し掛かっていた。


「小隊長!駐屯地本部より入電でス。2/3の隊との無線が不通になり、その内の半数はヘリからの上空探索の結果、救出失敗で全滅、または部隊崩壊による敗走との知らせと、駐屯地にも大量のゾンビが押し寄せてきているそうです。他地域も、自衛隊設備県に異常な数のゾンビの発生が報告されています。

新しい命令では、駐屯地への帰還は行わず各小隊長の判断で避難民の安全を確保すること。24時間以内に、新たな救助方法と避難先を指示するとのことです。」


基地(駐屯地)からの通信報告を受けている間に、車列はS県の極楽温泉前駅のロータリーに到着していた。


「右前方のビル4階に避難者確認!ベランダから5~6名がこちらに手を振っています!」


織田と徳川が乗車するライトアーマーのターンレット(天井に備え付けてある銃器の射撃操作を行うために、天井部分が開閉式になっていてところ)から車載するMINIMI軽機関銃で周囲を警戒している隊員から報告がなされた。


織田は車載無線に向かって指示を出した。


「クーガー2号車。前方のビル4階の避難者が確認出来るか?確認出来次第、車両にてビルまで接近して救出活動を開始!

くれぐれも言っとくが、ゾンビおよび感染者は『頭部』を破壊するんだ!動きは遅いがかなりの腕力だとの報告だ。出きるだけ距離を置くことを心がけるんだ。

尚、確保した避難者については、必ず、噛まれていないかを入念にチェックすること!チェックを拒む物には武力行使も許可する。

クーガー1号車も同行し、避難者の救出後の退路確保ために建物の入り口および周辺に散開し警戒態勢!

73トラック1号は、避難者の搭乗が出きるように待機。ライトアーマー2号車は、73トラックの警護位置につけ!

我々は、この位置を臨時のベースにする。クーガー3号車は車載銃器で後方確認。残りは360度展開で警戒。

ベース警戒の指揮は徳川曹長が実施。」


そこに無線が割り込んできた。


「小隊長!衛生班の責任者の山本(准尉)です。避難者に女性がいた場合の身体検査でトラブルが生じると厄介なんで、当方から女性隊員の木村3曹を突入班に合流させたいのですが許可をいただけますか?」


「突入はかなり危険を伴うが大丈夫か?」


「はい、衛生班所属ですが、9師では師団内でのレンジャー試験合格者です。戦闘能力は保証します。本人の立候補です。」


「了解!木村3曹の同行を許可する。クーガー2号、金本(3曹)木村3曹をピックアップ頼んだぞ。」


「衛生班、山本曹長。緊急時なので、衛生班の方からも車両運転者以外は散開警戒のバックアップの協力をお願いする。徳川曹長の指示で展開させてくれ。」


「了解!9師の衛生隊は一味違うところをお見せしますよ!」


クーガー2号が救出者の待つビルの入り口に到着し建物内に兵員が姿を消すころには、残る車両はベース周りの360度の方向が確認できる位置に散開し、その周囲で89式自動小銃を持つ自衛官が目をギラつかせながら周囲を睨んでいた。





クーガー2号車


「よーし!全員装備を確認し、初弾を装填、安全装置を解除!89はバーストにしておけ。4人1組で行動。永倉、沖田、芹沢、斎藤。が頭を取れ!ショットガンと89でバディを組み、近接はショットガンが対応するんだ。永倉達の次は、俺(金本)と新井、原田。しんがりは土方、伊東、藤堂。藤堂!木村衛生兵の世話を任せたぞ。」


金本班長の指示に対して全員が雄たけびのような返事を残し、クーガーの後部ハッチから飛び出していった。


小さな4階建ての雑居ビルであったが、通路は整理され灯りもしっかり点灯していた。


「前方に、ゾンビ2体!こちらに気づいた様子で、向かってきます。」


永倉が、携行無線のオープンチャンネルに小さな声で囁いた。


「かまわん!どうせ何時かは発砲するんだ。排除しろ!」


金本の指示が聞こえるや否や、20メートル先のゾンビに対して、永倉が89式小銃を構え、撃ち始めた。


タン!タン!タン!  タン!タン!タン!と小気味良いリズムから発射された5.56ミリ弾は2体のゾンビの上半身に吸い込まれていき、1体の頭を破壊し、もう1体の首筋に飛び込み首の半分を吹き飛ばした。


「ビンゴ!永倉!ナイスショットだぜ!」


バディの沖田が冷やかしながら進んでいると、いきなり開いていた扉からゾンビが飛び出し、撃ったばかりの永倉に掴みかかった。


「離せ!この野郎!」


永倉は飛び掛られたゾンビに噛み付かれないように、咄嗟に89式小銃をでゾンビの口元を防いでいた。


「クソッ!なんて力なんだ!沖田!何とかしてくれよ!」


飛び掛られた勢いで、通路に倒れ込みながらも必死で抵抗している永倉に対して、沖田は素早く近づき


「永倉!何とかゾンビの頭をもちあげるんだ!」


永倉は沖田の指示に何とか反応し、渾身の力でゾンビの頭を持ち上げたところ、そのゾンビの頭の横に、沖田のサバイバルナイフが刺しこまれた。


大量のゾンビの血を浴びながら、ゾンビの死体から抜け出た永倉は、沖田に掴みかかり


「お前なぁ~。血液感染するかもしれないじゃねかよ!もっとスマートに出来ないのかよ!」


「わりい!わりい!」


おどけている沖田の背後から、いきなりゾンビの2本の腕が伸び永倉の頭が掴まれた。沖田を真ん中に挟みサンドイッチ状況である。室内にはまだ他のゾンビがいたようだ。


勢いよく手を伸ばしすぎたゾンビは、ちょうど、沖田に頬を擦り付けるような状況で永倉の頭を掴んでいた。永倉から見れば目の前に沖田と白濁した目を剥きながら必死に噛み付こうとしているゾンビ顔が並んでいる状態だ。

沖田は抵抗しようにも、下手に動けば噛まれる可能性があり、頭を捕まれた永倉はその信じられない握力で捕まれていて、身動きが取れないでいた。


「どうすりゃいいんだよ!」


困り果てた沖田が怒鳴った時ドスンと衝撃を感じ、2人と1体は、通路を転がることになった。部屋の奥から他のゾンビが沖田、永倉めがけて突進してきたのであった。


パン!パン!と2発の銃声が響き、運良く、転がったことによりゾンビから開放された2人は、後方に控えていた斉藤に助けられた。


「何、ゾンビとダンスやってんだよ!」


銃口から微かな白煙を出しているP226自動拳銃を構えた斉藤は、2人に声をかけるながら、ゾンビが出てきた室内を覗き込んでいた。


「芹沢!まだ3体もいやがるぞ!」


「よっしゃぁ!」


ズガーン! シュコン! ズガーン! シュコン!ズガーン! シュコン! 


 と芹沢は室内に飛び込みながら、ショットガンを立て続け3発発射し室内のゾンビを穴だらけにして出てきた。


「・・・・・・・・・・・・」


ジト目で、永倉と沖田を見つめながら芹沢は


「ダンスペアさん達。先を急ごうぜ!」


1階はこれ以外の脅威は無く、金本班は2階へそして3階へ上がっていった。4階に上がる階段に近づいたところで芹沢が止まれのハンドシグナルを出した。


「班長。階段の踊り場にウヨウヨいるのが影で見えます。10体近くいてるような感じです。俺と沖田がショットガンで飛び込みますんで、第2派で新井と伊東を突入させてもらえますか?」


小声で7メートル後ろの金本班長に相談したところ、直ぐにOKの返事と、新井と伊東が近寄ってきた。


「1・2の3で行くからな」


芹沢と沖田がタイミングを計って階段の踊り場に飛び出した。


「!」


「!」


そこで、芹沢と沖田が目にしたものは、踊り場だけでなく4階へと続く階段を埋め尽くしたゾンビ達であった。


「ヤバイ!」


芹沢は叫びながら、一番近くにいた手をこちらに伸ばし始めたゾンビに向かってショットガンを撃ち始めた。


「班長!数が・・・数が多すぎます!」


しかし、芹沢の声は2人が矢継ぎ早に撃つショットガンの炸裂音で金本の耳には届いていなかった。


冷静に発射された弾丸数を数えていた新井は、14発が発射されたところで通路の角から芹沢達の援護のために飛びこんだ。


そこには、ゾンビ・ゾンビ・ゾンビ・・・・・・14発の散弾を浴びせたにも係らず、既に芹沢がゾンビに掴みかかられ、沖田は空になったショットガンの引き金を必死に弾いていた。


呆然としていた新井の腕を伊東が引っ張りながら、通路角に引き下がりった時、前方のゾンビの群れの中から、もの凄い絶叫が聞こえた。


「芹沢ああ!沖田ああ!」


新井が2人の名前を叫んだが、返事は返ってこなかった。


「班長!ゾンビの大群です。後退して体制を整えて下さい。新井!ここで下がりながら5発分だけぶっ放すぞ!」


その時には、既に数体のゾンビが通路角を曲がってきていたと思うと、次から次へとゾンビが通路に溢れ出てきた。


通路一杯になったゾンビに対して、新井と伊東はショットガンを撃ちながら後退していたが、あまりの数に全弾を撃ちつくしてしまい。ゾンビに背を向けて敗走を始めた。


20メートル程後退していた金本達は、89式小銃を持つ、金本、永倉、土方、原田の4名が新井と伊東が射線から外れたところで一斉にフルオート射撃を開始した。しかし。フルオートでは狙いが定まらずに、なかなか頭を撃ちぬくことができず、ジリジリと後退を余儀なくされた。


「藤堂さん。MINIMI貸して下さい。」


唖然とする藤堂をしかりつけるように、木村が藤堂の手元からMINIMI軽機関銃を奪い取りながら、金本も横の位置についた。


「班長!足元!膝辺りを中心に狙って下さい!動けなくすればいいんです!」


木村は、おもむろにMINIMI軽機関銃をゾンビの群れに対して腰だめで撃ちだした。毎分750発を発射出来る能力を持つMINIMIは機関部下に装着されたプラスチック製の弾倉M27に装填されているベルトリンクの5.56ミリ弾200発をリズミカルにそして狙いよくゾンビの群れにみまっていった。

それを見た、金本、永倉、土方、原田も同じ様にゾンビの下半身に銃弾を集中して発砲し始めた。同じく、新井や伊東のショットガンも火を噴いていた。

M27弾倉2個分と89式小銃の通常弾倉(30発)8箱分 計640発の銃弾の嵐を愛せることによって、群れと化したゾンビを何とか撃退することに成功した。


「ハア、ハア、ハア、ハア・・・・・」


全員が大きく肩で息をしていた。


「何とか、片付いたのか?」


金本班長はつぶやきながら、床一杯に転がっているゾンビを見渡した。そこには、死んではいないが、立ち上がることが出来ずに通路に這いつくばりながらも、こちらに向かってズリズリと近づこうとしているゾンビが何十体もいた。


下半身をズタズタにされたゾンビ、下腹部から内臓を引きずっているゾンビ・・・・。いずれのゾンビも、自分達の姿や状態などには一切の興味はなく、ただただ、目前にいる『人』である金本達を食べようと一心不乱に匍匐前進を行っていた。


「うおおぉぉぉぉぉ・・・・・・」


突然、永倉が叫び出して這い蹲るゾンビ達に向かった。蠢くゾンビの頭を蹴り、踏み潰し、まるで幼い子供が虫を踏み潰すように傍若無人に手当たり次第にゾンビにとどめを刺し始めた。


「沖田ああ、芹沢ああ・・・チクショウ!チクショウ!クソッ!クソッ!ぐがぁぁぁぁあああ・・・・・・・」


「永倉さん!冷静になって下さい。」


伊東と斉藤が永倉を止めようと近寄った。


「永倉いい加減にしろよ」


斉藤が永倉の肩に手をかけてこちらに向かせようと力を込めた瞬間、永倉自信が振り返った。


「ながくら?・・・・・・何故?」


振り向いた永倉の目は白濁していた。紛れもなくゾンビ化した証拠であった。ゾンビと化した永倉は目にも留まらない速さで、斉藤の首筋に噛り付き一瞬で深々と首の肉を食い千切った。


『お前なぁ~。血液感染するかもしれないじゃねかよ!もっとスマートに出来ないのかよ!』


薄れ行く意識の中で、斉藤は永倉が大量のゾンビの血を浴びていたことを思い出したながら1回目の死を迎えた。


「ええっつつ?」


いきなり、永倉が斉藤を襲ったことに対処が出来ずに、伊東は棒立ちになっていた。そこへ、斉藤を襲い終えた永倉が詰め寄った、伊東が何とか反応し床を向いていたショットガンの銃口を僅かに引き上げたが、時既に遅く永倉に掴みかかられていた。


「ぎゃああああああ!」


ゾンビ永倉はゾンビ化した常人に数倍の力で、伊東の顔を掴み目の中に深々とその両親指をめり込ませていた。伊東の頭は厚みが半分ほどに圧縮され、頭中の所々の血管から血を噴出しながら絶命した。


一瞬の内に、斉藤と伊東が殺害され、残された者達は何が起こったのか分からずに反応が遅れていた。


通常のゾンビとは思えぬ、そして普通の人間にも真似できない速さで永倉ゾンビは原田と土方の目前に走りよった。


「駄目だ!殺られる!」


瞬間に勝てないと判断し原田は、自分を犠牲にして他のメンバーを助けようとする行動に出た。現れた永倉ゾンビに自ら飛びつくように突進したのである。


しかし、原田の突進を軽々と正面で受けた永倉ゾンビは片手で原田の首を掴み高々と持ち上げ、原田のわき腹を喰いちぎり、ボロ雑巾のように投げ捨てた。


原田が自分を犠牲にして稼いだ5秒程度は、金本と木村に行動を開始する時間を与えてくれた。

2人は、89式小銃の銃口を向けながら後ずさりし距離をとり始めた。


新井と土方、藤堂はその場で銃口を永倉に向け、一斉に襲撃を開始した。


永倉は、掴んでいた原田を新井に向かって投げつけあっという間に藤堂と土方の射線から姿を消した。


「何処に行った?」


目標を失った土方と藤堂は周りを必死に見回そうとした時


「いだぁぁぁああああああ。離せ!ぎゃぁぁあああああ」


新井の絶叫が響いた。投げつけられた原田に吹き飛ばされた新井は、あろうことか這いつくばるゾンビの群れの中に倒れ込んでしまったのである。新井は無数のゾンビの歯牙を身体中に受けていた。


「右だ!」


土方の鋭い怒声に、右に銃口を向けた藤堂の真正面に永倉が対峙していた。姿を認めた瞬間に藤堂のMINIMI軽機関銃が火を噴いた。数発の5.56ミリが永倉を捕らえたが、そのことに臆することなく永倉は目にもとまらぬ速さで左右にステップを踏み藤堂に迫っていた。


「クッ!アレがブリーフィングで学者が言ってた1~2%の例外ゾンビか?よりによって永倉が!・・・・」


土方は、藤堂に迫る永倉に対して側面から89式小銃を発砲したが、どうしても藤堂に当たることを躊躇して中途半端な狙いしか付けられなかった。


「ガッ!」


MINIMIを盾に善戦していた藤堂は、とうとう永倉の右斜め上空から繰り出されるブローに捕まってしまった。殴り飛ばされた藤堂は数メートル先の壁に叩きつけられた。殴られた顔の右半分は熊か何かに襲われた後のように、ざっくりと肉どころか骨の一部までもそぎ落とされていた。永倉は、拳でのブローではなく、平手の状態で指を鉤状にしていたのだ。


タン!タン!タン! タン!タン!タン! タン!タン!タン!


土方を襲おうとした永倉に対して、少し後方に下がっていた金本と木村が銃撃を開始し始めた。


「土方!こっちだ!」


金本が土方を呼び寄せる間にも、木村は89式小銃の狙いを永倉に合わしながら必死に引き金を引いていた。


「マジ~~?すっごく早いんですけど!」


ぼやきながらも、木村はギリギリのところで永倉の動きに銃口を合わせてバースト射撃(3点射)の内、常に1発は永倉の身体にヒットさせていた。彼女は元女子ソフトバールの日本代表選手であり、類まれない動体視力を持ち合わしていたのだ。


その木村の視線の端に土方の姿が映った。


何とか3人で弾幕を張れれば・・・・と木村は考えながらも、もう片方の眼で必死に永倉の動きを追い続けていた。


走り込んでいた土方が突然に立ち止まった。


「何やってんだよ!」


金本は永倉を追視することは出来なかったが、木村の銃口が向けられた方向に合わせて銃口を向けて、木村が撃つと同時に山勘で左右どちらに狙いを絞って銃弾を注ぎ込んでいた。

金本は土方へ視線を向けたために、本来狙っていない位置に銃弾をばら撒いてしまったが、そこに偶然、木村の射線を嫌って永倉が横っとびに飛び込んできた。3発の5.56ミリが永倉の首周りに着弾し、バランスを崩した永倉は激しい勢いで壁に叩きつけられていた。

そこに、すかさず木村が弾倉に残っていた残弾全て永倉の頭部に向かった撃ち込み、永倉は2度目の死を迎えた。


安堵の気持ちを押し殺して、訓練通りにマガジン交換をした木村は、土方の顔が大きく歪み、身体の奥から何かが飛び出そうとするかのように大きく隆起し鳩尾に気づいた。


メリメリッと音が聞こえそうに、その鳩尾から人間の手が生え出して来た。いや、正確には生え出したのではなく土方の背後にいた人物が土方の背中から腕を差し込んで鳩尾辺りを突き破ったのだ。


背後には、先ほど永倉に首を噛み千切られた斉藤が己が右腕に土方を突き刺しながら不敵な笑みを漏らし


「GYOΔGU∀DOS∧Ω」


何か訳の分からない咆哮を上げて土方の骸を高々と差し上げた。


「馬鹿にするんじゃないわよ!」


木村は、土方を持ち上げている斉藤と土方に向かって89式小銃の引き金を5回引いた。15発の5.56ミリは斉藤を土方の頭部を完全に破壊した。


「危ない!」


撃ち終えた木村に、金本が横から飛びつくようにぶつかってきた。後方に投げ出されるように通路を転がる2人が立っていた場所には、原田と近藤が立っていた。


「今度は、原田と藤堂かよ!てか、例外ゾンビに殺られると例外ゾンビになるのか?」


驚愕なのかボヤキなのか分からない言葉を発しながら立ち上がった金本は、89式小銃を腰だめにしてフルオートで迫り来る2人に向かって撃ちだした。


「ベース!ベース!応援を寄越してくれ!木村、今の内に逃げるんだ。早く逃げるんだ!」


金本の乱射は数発の銃弾を2人にヒットさせたが、2人は怯むことなく金本に向かって突進してきた。弾倉が空になった89式小銃を放り出した金本は、右手でP226自動拳銃を引き抜き迫る2人に発砲しながら、左手に2個のM26破片手榴弾を握り口を使い安全ピンを抜き更には安全レバーも外した。撃ち尽くしたP226を迫り来る2人に投げつけ、両手に握りなおしたM26破片手榴弾を握り締めて、原田、藤堂の2人に向かって走り出しランニングネックブリーカーの要領で2人の首に両手を巻きつけるような形で飛びついた。飛びついた瞬間にM26破片手榴弾が爆発し、金本、原田、藤堂の頭が吹き飛んだ。


「金本・・・・はんちょう・・・・・」


金本の捨て身の攻撃で高速型ゾンビは葬ることが出来た。


木村は流していた涙を袖口でグッと拭き去り、顔をつぶされた伊東、ゾンビに全身を食い尽くされた新井、そして、通路の這いつくばるゾンビに次々と5.56ミリを撃ち込んでいった。


数分後・・・・・・・


「何だ!何があったんだ?」


待機していたクーガー1号車の隊員の4名が応援に駆けつけた。


3階の通路の惨劇を眼にした、1号機の隊員の内の1名が思わず通路の隅で胃の中を空っぽにする作業を開始していた。


「例外が・・・例外ゾンビが現れました。早く4階の避難者を助け出して退散しましょう。」


気丈に4階を目指す木村に、応援に駆けつけた4名のうち3名がバックアップ体制で続いた。


30分後


無事に9名の避難者を保護した一行は、ホテル、旅館街に向かって進んでいた。


クーガー2号車の中で、織田と徳川、山本が建物内で起こったことの報告を受けていた。


「曹長。例外ゾンビについての能力をオープンチャンネルで連絡してくれませんか。木村3曹。大変な目にあわせて申し訳なかった。少しでも休憩を取ってくれ。」


木村の上官の山本曹長に目配せをしながら織田はこの先の長い道のりは一体どうなるんだろうと遠い目をしていた。


今回は、かなり厳しい状況で執筆しました。

実は今も新幹線で移動中の執筆の投稿です。


是非!是時!ご感想とご意見 ドシドシ お願いします。


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