第七歩 再会
相変わらずのバタバタな生活の中での執筆は厳しいですが、評価点が増えたり、感想を書き込んでいただいていることが、大きな活力になります。
今後ともご愛顧お願いします。
近藤は、車をコンビニに向けて走らせ始め、涙で目がにじむ中、助けることが出来なかった悲しみを振り払おうと袖口で涙を拭いながらハンドルをきり交差点を曲がった時、前方を走りすぎる何かを目の端に捉えた。
ゾンビか?いや、ゾンビにしては早すぎる。人か?
近藤の足は自然にアクセルを大きく踏み込んでいた。
「くるみちゃん!生存者がいるかもしれない!後を追うから!」
車の加速に少しバランスを崩しながら、近藤の言葉に反応して、くるみは、MPー5のコッキングレバーを軽く叩きに初弾をMPー5の薬室に送りこんだ。
「用意はOKです。かも知れないって?どういう意味ですか?」
「はっきりとは見えなかったんだ。ただ……もしあのスピードでゾンビが動けるとなると、明日は俺達の命日だろうな!走ってた!多分、生存者だろう。ともかく追いかけるぞ。」
矢先に、何かが走ってきた方向の路地裏からゾンビがぞろぞろと現れ始めた。
「路地からゾンビが出てきました!追われてたのかもしれませんね。」
「わかった!1匹でもいいから減らせそうか?」
近藤がサンルーフの開閉ボタンを操作した。
「車が揺れてるから気ぃつけてな!」
サンルーフから身を乗り出すくるみの姿をバックミラーの端に捉えながらハンドルをきり、狭い路地に車は突っ込んで積まれたゴミ箱や廃材を弾き飛ばしながら、数秒で路地を突き抜けて道路にでた。
いた!前方20メートルほど前方を小柄な人が懸命に走ってる。背丈からすると中学生くらいか?ショートカットだが女の子みたいだぞ!
「前方に発見した!前に出て『人』だったら車に乗せるんだ!くるみちゃん、確認任せてもいいか?右側だ!」
サンルーフから乗り出していた身を車中に滑るようにもどし、後部のスライドドアのロックを外し開閉ノブに手をかけながらくるみが叫んだ
「OKです!」
近藤は更に加速しながら、車のホーンを鋭く3度鳴らしこちらの存在を示し、走る人の数メートル前方を遮るように急停車させた。
車が止まると同時に、くるみが銃を構えながら車から飛び出した。近藤は運転席から周囲を警戒していた。
「あっ!」逃げていた人とくるみが同時に声を上げた。
そこには、中野巡査達と車でコンビニに先行した内の1人 八木沢 香がボロボロの服装で顔には黒い炭をつけ、汗まみれの姿で立ち尽くしていたのだ。
眼よ!眼を見るの!眼は大丈夫!噛まれたような後は?無い!・・・・よし!大丈夫だ!
素早く駆け寄ったくるみは香の手を掴み、引きずるように車に戻った。ドアのロックを閉めて
「さっき分かれた武道場にいた女の子です!カーテン閉めます。」
よっしゃぁ!!!近藤は車をスタートさせた。
くるみちゃんは、噛まれた後を確認しているんだな。カーテンを閉めたということは服の下まで確認か・・・・
もしかしたら、他の生き残りもいるかも知れないな。戻るか?まだ日が暮れるまでには小1時間は大丈夫そうだしな。
近藤は車をもう一度、先ほどの事故現場の方向に向けた。カーテンが開かれて、くるみから貰ったスポーツドリンクを貪るように飲んでいる香の姿をバックミラーが見え、その横で親指を立ててOKサインを出しながら、笑っているくるみの顔が見えた。
香がスポーツドリンクを飲み干すのを待ってから
「えっ~~、ごめんな。名前が思い出せないんで・・・・。もしかしたら、思い出したくはないかも知れないけど、他のみんなのことを教えてもらえる?」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえ
「私は、八木沢 香です。中学3年です。・・・・・・コンビニに向かっていたんですが、途中で変な人達が道を塞いでて、逃げたら車をぶつけてき始めたんです。
優香さん、いえ中野巡査が、何とかって言う暴走族だって言ってました。危ない人達みたいで、絶対に捕まったらだめだ、車をぶつけてもいいから逃げてと高橋巡査に言ってました。捕まったら、女性は全員犯されて嬲り物にされるって・・・・
で、高橋巡査が車をぶつけたりしてて、途中から中野巡査がサンルーフから拳銃を撃ち出したんです。しばらくして、急に車が傾いてあわてて掴んだところがドアを開けるノブっていうんですか?車がつんのめったかと思うとまた急に動き出して、その時に、ドアが開いて私と達也と中野巡査が外に放りだされたんです。
車は、そのまま暴走族の燃えてる車に突っ込んでいったみたいで、気がついたら燃えてました。放り出された時に、達也の足の骨が折れたみたいで片足が変な方向に向いてたんです。
そうしている内に、交差点の角からゾンビが現れて・・・・・中野巡査が囮になるから達也と逃げろって言ってくれたんですが、私じゃ達也を連れて逃げるのは無理だし、中野巡査は拳銃を持ってたし、達也の横には盾も残っていたんで・・・・・
私が囮になりますって、大声でわめきながらゾンビに向かって走り出して、途中で方向転換したりして走り回ったんです。でも、あっちこっちからゾンビがウジャウジャと出てくるんで、結局逃げ回るので精一杯で・・・・もう走れないというところがさっき助けてもらったところです。」
香が説明している間に、車は事故現場に戻ってきていた。
「そこです。そこの赤い車の横で、中野巡査と達也と別れたんです。」
「くるみちゃんは、香ちゃんとここで待ってて。ゾンビは別にしても、その暴走族が現れると厄介だな・・・・・くるみちゃん?暴走族撃てる?。」
えぇっっっ、撃たないと・・・捕まったらレイプされるんだよね?くるみさんも私も!初体験がレイプで、しかも暴走族に?もちろん輪姦だよね?・・・・・嫌!嫌!嫌!ぜっーーーたい嫌だ!(香)
ガクガクと震えながら、頭を左右にブンブンを振っている香の横でくるみが冷静に言い放った。
「大丈夫ですよ。夜叉丸の奴らだったら撃てます。ゾンビじゃないから、身体のどこかに当てれば取り合えずはOKですよね!その場合はどっちの銃の方が適切ですか?」
こともなげに「撃てる」と言い切るくるみは、いつものやさしい眼ではなく、どす黒い冷酷な眼をしていた。
また、眼の色や雰囲気が変わったぞ、夜叉丸とくるみちゃんは何かの因縁があるみたいだな。聞いても話してくれるとは思えないが・・・・しかし、今は2人を探すことが先決か。
「銃についてか・・・・距離がある場合はMP-7。50メートルを切る距離くらいならMP-5でもOKかな。あまり離れないようにするが、今回ばかりはMP-5では、襲われていることが音で判断がしにくいからMP-7をかな」
「わかりました。香ちゃん、手伝ってくれる?」
くるみは荷台に身を乗り出して。MP-7用の空マガジンと弾丸の包みを引っ張り出していた。
「近藤さん。装填済みのマガジンは3本あるんで大丈夫です。暗くなると危なくなるんでしょ?足りない分の装填は香ちゃんに手伝って貰いますから出発してもOKです。」
「分かった!20分で戻るから。周囲には十分に注意するんだぞ!ゾンビ相手の時は音に注意な!」
近藤は、G36を構えながら周囲を警戒しつつ、通りを進んで行き最初の路地を曲がりくるみ達の視界から見えなくなった。
くるみは香にマガジンへの弾丸の装填方法を説明し、香が1人で出来るようになったことを確認し、更に近藤用のG36の5.56ミリ弾やMP-5用の9ミリ弾などと空マガジンを後部座席の足元に置き装填の準備をした。
路地を慎重に進む近藤は、路地の中での店舗の裏口に注意しながら2人を探していた。路地の3分の2を探し終えたが、店舗の裏口はどれも鍵がかかっており内部を確認することは出来なかった。
路地を抜けて表通りに出たところで、200メートル程はなれたところのゾンビの群れを発見した。G36に備えつけてある照準器で覗いてみたが、生きた人間は見えず、ただ、20体程のゾンビが当ても無くうろついているだけであった。
「7分か!確認しながらなんで結構時間がかかってるな。少しペースをあげないと日がくれちますぞ。」
腕時計に目を走らせて経過時間を確認した後に、近藤は通りを一瞥しながら自分ならどうするかと考えた。
香ちゃんが交差点からゾンビに向かって走り出したんだから、逆方向に逃げるのがベストだよな?位置からすると燃え盛る車を迂回して向かい側に行くには時間がかかるし、前方は路肩に乗り出した車が道を塞いでいたから、この路地を抜けたはずなんだが・・・
どこかの店舗に逃げ込んで隠れているのか?この通りの全店舗を確認は出来ないし・・・・仕方が無いか。背に腹は帰られないな。
危険を承知の上で、近藤はG36を構え直して先ほど確認したゾンビの集団に対して、バースト射撃(3点射)で銃撃を開始し始めた。ゾンビの数を減らすことと、音を出して隠れている2人に救助に来ている者がいてることを知らせるためのも行動であった。反面として、1人で行動している近藤は後方の安全確認が出来ない危険な状態を作り出す可能性が高かった。
1マガジン分の30発を撃ち尽くしたところで、前方のゾンビの4分の3が倒されていた。マガジンを交換しながら周囲を確認した近藤は左後方の書店と通路向かいのレストランからゾロゾロとゾンビが吐き出されてくるのを確認した。
マガジン交換の終わったG36をスリングで肩にかけなおし、脇のホルダーからP46を引き抜き、出てくるゾンビの数を目測し数の少ないレストランから出てくるゾンビに向かい走り出した。7~8メートルのところで立ち止まり、レストランから出てくるゾンビの頭にレーザードットを合わせては撃ち、合わせては撃ち、次には書店から出てくるゾンビに同じことを続けた。全部を倒すのに2本目のマガジンを費やした。再度周辺に注意を向けるとあちらこちらの店舗から、ゾンビが出てき始めていた。
「どれだけいてんだよ!てか、こんだけ、銃撃で音だしても生存者が出てこないって・・・」
愚痴りながらも、ゾンビとの距離を測りながら50メートルを切る位置に近寄るゾンビに向かってP46から切り替えたG36を向けて1体ず始末していった。
「まだかよ!この辺りにいてないのか?早く反応してくれ!もう2分が限界だぞ!」
周辺360度にゾンビが現れ始めて、近藤は焦り始めていた。
中野・達也
香が囮になってくれたおかげで、2人はその場を退散することが出来たが、足を骨折している達也を庇いながらの敗走は簡単に距離を稼ぐことが出来ず。路地を抜けたところでゾンビに見つかり手近な雑居ビルに逃げ込んだ。
事務所らしき部屋ばかりで、どこの部屋にも鍵がかかっていたが、2階に1室だけ鍵の閉まっていない部屋を見つけて飛び込んだはいいが、室内には2体のゾンビがいた。
「達也くん!下がって」
達也を庇うように、ライオット・シールドを使って両手を挙げて我先にと近づくゾンビに対峙した中野であったが相手が悪かった。2体の内の1体は少なく見積もっても中野巡査の3倍近いレスラーのようなゾンビであった。
運良く、最初に2人にたどり着いたゾンビは普通のサイズであり、狙い済ましていた中野巡査のライオット・シールドを利用したタックルがカウンター気味に入り、簡単に後方に突き飛ばし転がすことが出来たうえに、めくら撃ちした銃弾が頭に当たり1体は殺すことが出来た。直ぐに、もう1人の大柄なゾンビに向かってライオット・シールドを両足を踏ん張り構えて対峙したが、一撃でシールドごと吹き飛ばされてしまった。
「ガッ・・・・・!」
壁に吹き飛ばされ叩きつけられた衝撃で中野巡査の意識は無くなってしまった。
中野を吹き飛ばした勢いのまま達也に達したゾンビは、達也を抱え上げるようにし左腕に噛み付いた。
「ぐわあっっっっっ」
信じられない痛みに気を失いそうになる達也の目に、ピクリとも動かずに床横たわる中野巡査の姿が入ってきた。
「優香さ・・・・ん・・・」
男勝りで勝気な性格とアイドル並の容姿がアンマッチな中野巡査は、「ツンデレのゆうちゃん」と呼ばれて、柔道を習いに来ている男子の中では憧れの的であった。自分がここで死んでしまったら、優香も同じ用に喰われるのだ。今まで見てきた、臓物を引きずり歩くゾンビになるかもしれないのだ。
守りたい!守りたい!優香さんを守りたい!神様!力を!・・・・・心が張り裂けそうに願った瞬間に自分の中から信じられない力が湧きあがるのを感じた。
『お前らに柔道を教えるのは、喧嘩に勝つためじゃない。保護者向けに言う精神修行でもない。守る相手が出来たときに守るために、俺は教えているんだ。』
教官の言葉が蘇ってきた。やれる!やるんだ!もう俺は助からないんだ!優香だけは守るんだ!
達也は肉を喰いちぎられた左腕の痛みに耐え、何とか右腕をゾンビの首の回し、ゾンビにおんぶされる格好でくらいつき、肉をごっそり喰いちぎられた左腕で何とか胸ポケットのボールペンを握りしめた。
「うぉぉぉぉぉっ」
達也は感覚がなくなり始めている左腕を振り上げて、渾身の力でボールペンをゾンビの耳に突き刺した。耳からまっすぐに突き刺さったボールペンは脳の一部に届き、ゾンビの動きが中断した。その瞬間に達也は、自分に指を渾身の力でゾンビの耳に突き刺した、指の骨の折れる嫌な音とともに、ゾンビは崩れ落ちた。
「ま・守ったぞ・・・・・・・」
激しい銃撃の音で、中野は無理やりに意識を引き戻された。
何で、床に寝てんだろう?って、ここは何処?あの五月蝿い音は何?
モヤがかかる意識のままに、周囲に視線を向けたところでゾンビの死体を見て一気に意識が覚醒した。
そうだ!ゾンビに襲われたんだ!拳銃は?
辺りを見回すと頭のやや上の所に転がっていた。急いで拳銃を拾い上げ
「たつやくん?どこ?」
ゾンビを刺激しないように小声で達也の無事を確認しようと声を出した。
僅かなうなり声を聞いた中野は注意しながら、声の方向に近づいていった。
「!!!!!!!・・・・・たつやく・・・ん」
そこには、左腕の筋肉がなく骨がむき出しになり手の指がグチャグチャになった達也が壁を背にして虫の息でたたずんでいた。
「優香さん。無事で良かった。ゾンビはやっつけたからね・・・・・」
血の気のまったくない顔を上げて達也がぎこちない笑顔で中野を見つめた。
駆け寄ろうとする中野を鋭い声で制した達也は
「ごめんなさい。さっきから、意識が飛びはじめてるんです。すごい空腹感が・・・・そ・それ以上近づかないで下さい。多分、俺、ゾンビになっちゃうんだ。せっかく、助けられたのに・・・・・今度は俺が優香さんに危険を及ぼすことになっちゃうなんて・・・
外の音・・・・誰か助けに来ているんだと思います。逃げてください。
出来れば逃げる前に、人間らしく死にたいです・・・・撃ってもらえませんか?・・・・・」
言い切ると達也はガクリと首を落とした。
「そんな・・・・・うそでしょう?私が助けなきゃなんないのに・・・達也くん?達也くん?」
達也の肩が大きく揺れたと思うとゆっくりと顔が持ち上げられた、白濁した目、涎のたれた口元・・・・紛れもなくゾンビ化した達也であった。だだ、折れた足が邪魔をして立ち上がれず、中野に向かって這いずってきた。
中野は何も考えることが出来なくなり、大きく叫び声を上げて扉からビルに飛び出していった。
近藤はゾンビに包囲されながらも、30メートル程度の防衛範囲を死守し、2人がどこかのビルから飛び出してこないか注意してところにいきなり、後方のビルから中野が叫びながら飛び出してきた。
「中野巡査!こっちに!」
前方のゾンビに適当に銃弾をばら撒きながら、近藤は中野が出てきたビルに後ずさりを始めた。前方の脅威がある程度落ち着いたところで、中野に視線を向けたところ、一目散に路地に消えいく中野が見えた。
ったく!何やってんだよ!
近藤は、慌てて後を追いかけて路地に突入した。
「待てって!」
走り去る中野の後を呼び続けながら走る近藤の後を、千鳥足のゾンビ達がゾロゾロと縋るように追いかけていた。
「あ!」
路地から飛び出してきた中野巡査の姿を見つけて、香がいきなり車から飛び出していった。
その、香を追いかけてくるみも車外に飛び出した。香は一目散に中野に向かって走りよったが、中野に突き飛ばされていた。
混乱している中野には香の姿がゾンビに見えたのだろうか?
何してんの?あの人?
くるみは目の前を通りすぎる中野の足元に自分の足をひょいと突き出した。その足に引っかかった中野はもんどりうって、地面を転がっていった。
転がった中野を冷静に見つめている間に、香と近藤が到着した。
「無事か?何がどうなってんだ?」
「婦警さん、何かショックで混乱しているみたいですよ。顔見知りの香ちゃんすら突き飛ばしてましたから」
「ともかく、車に乗せよう!香ちゃん手伝って、くるみちゃんは周囲を頼む。」
無事に中野を車に乗せた一行は、薄暗くなる通りをコンビニに向かって走り去った。
車庫に車を入れて、エンジンを切ったところで近藤は助手席に座るくるみに向い
「長い1日だったな。ご苦労さん。」
「本当ですね。ゾンビが現れてからまだ2日しかたっていないんですよね。夢じゃないんだ、明日、目覚めても同じことの繰り返し・・・・・」
「グダグダ言っても始まんないさ。中野巡査が目覚める前に荷台の荷物の一部を部屋に運ぼうか、香ちゃんも手伝ってもらえるかな。ここは、取り合えずは安心だから、今晩はゆっくり眠れるよ。さぁ、やるぞ!」
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